アンジェリーク
ゼフェル×ルヴァ様v
小説 帆立真由羽様
びっくり箱
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コン、コン……
ノックしたドアの向こうからは、何も反応がない。
「ビンゴ〜ォ」
小さく呟き、そっと開くと、相変わらずの本の匂いが、ゼフェルをふわりと包みこむ。
この時間帯に、ルヴァがいつも図書館に行くのは先刻承知。とうに下調べは済んでいた。
今日会う事は決まっていても、もう少しひねりの効いた渡し方をしたい。だからわざわざ執務中に、ジュリアスの目を掻い潜って抜け出して来たのだ。
小脇に抱えた箱をそっと机の上に置き、小走りで本棚の陰に隠れる。
ポケットに突っ込んでいた小さなコントローラーの電源を入れ、ルヴァが帰って来るのをひたすらに待った。
キィ……という音がした気がして、自然と身体が身構える。
「……おや……?」
怪訝そうな声を聞き、本棚の間から顔を覗かせた。
そっと箱を手に取るルヴァが、赤いリボンにつけたカードをひっくり返している所。
「ゼフェル……」
微かに聞こえた呟きは、嬉しさと戸惑いが入り交じった様に響く。
しゅるり、とリボンを解く音がして、コントローラーを握るゼフェルの指に力がこもった。
箱のフタが開かれるのと、ゼフェルがコントローラーのレバーを引くのは、ほぼ同
時。
「……!!ひゃっ!?」
ぶぃーん、とi
う音と共に、箱の中からゆっくりと出て来る何かの影。
ゼフェルお手製のプロペラに支えられながらふらふらと浮かぶそれを見て、ゼフェルの瞳が僅かに歪み、コントローラーのボタンを押した。
――バランスがワリいな、もうちょっと改良しなきゃダメだ……よし、行け!!――
「...Happy birthday to you!!
Happy birthday to you!!
Happy birthday dear Luva...
Happy birthday to you!!」
少し調子外れな歌が執務室に響き渡り、影がゆらりと傾ぎながら落下する。
目を丸くしたルヴァの前に、頭をかきながら憮然としたゼフェルが姿を現した。
「こんにゃろ、電池切かよー!!」
「え……ゼフェル?」
「えーと、つーかさ……びっくりしたか?」
「は、はい……」
「へへっ、じょーでき」
照れ臭さを隠す様に笑って、床に寝そべる人形を拾い上げた。
ラジコン機能が搭載された人形には、白銀の髪の毛と、幅広のヘッドバンド。黒いスーツに、白い上着……
「あなたそっくりですねー。可愛い……」
人形の頬を突っ突くルヴァの肩に手を掛け、小さく背伸び、そしてキス。
「ルヴァ、誕生日……オメデトな」
「ゼフェ……ん……」
深い口付け。
力が抜けていく身体を机に押し倒し、その上に覆いかぶさる。
さらさらな前髪を指で梳くと、気持ち良さそうに目を細めたルヴァの腕が、背中に回された。
唇を離し、ただ静かに見詰め合う。
ルヴァの腕がゼフェルの身体を抱き寄せ、耳元を綺麗な声がくすぐった。
「ありがとうございます、ゼフェル……」
「どーいたしまして」
軽く身体を起こし、頬に指を滑らせる。
そのまま項まで指を下ろすと、ふいにルヴァが微笑んだ。うっすら濡れた瞳で、誘う様に。
桜色に染まった目尻を見て、ゼフェルの喉がゴクリと音をたてる。
「なぁ……夜まで待たなくて、いいか?」
「さあ……どうでしょうねー?」
「あ!!なんだよソレ。そっちから誘ったくせによー」
「さ……誘ってませんっ」
「うそつけ。ンな事言ってると、こーだぞ!!」
「や、ちょっと……くすぐったい!!」
耳朶に息を吹き掛け甘噛みすると、笑いながら身を捩ったルヴァの唇が真綿の様にゼフェルの額に触れた。
ターバンが外され露になる青色に指を絡めながら、ゼフェルの片手が下に伸びる。
そして、長い執務服の裾をたくし上げようとした、丁度その時……
小さく扉がノックされ、僅かに開いた隙間から覗く赤い髪。
「お楽しみの所、すまないが……ゼフェル、逃げろ。ジュリアス様に気付かれる。今はクラヴィス様とセイランに遊ば……引き止められているが、そろそろ限界らしいぜ」
「……マジかよ……」
慌てたルヴァの腕がゼフェルの胸をとん、と押しのける。
ゼフェルの舌打ちする音が小さく執務室に響き、顔を見せようとしないオスカーが、口早に小声でまくし立てた。
「それと、お前ら……せめて鍵くらいかけろ、鍵くらい。じゃあな」
馬に蹴られるのは趣味ではない。そう言いたげに扉が閉じられた後には、ターバンを巻き直す、衣擦れの音だけが響く。
「なぁルヴァ、その……怒ってる?」
「お、怒ってなんか……あなた二人に一体何頼んでるんですかー」
「だって超適任じゃね?すっげー面白そーに引き受けてくれたぜ」
「適任ですけど、その後が恐いじゃないですか。早くお行きなさい!!」
あのコンビに遊ばれていると言う事は、ジュリアスの機嫌は現在大幅に下降中。
そう睨んだルヴァが、ぐいぐいとゼフェルの背中を押した。
「しゃーねーな。終わったらそっち行くぜ」
「はい。じゃあジュリアスに見つからない様に帰って下さいね。お説教が長引いて、仕事が終わるの遅くなったらどうするんですか」
「へーへー」
最後に小さく触れるだけのキスをして、するりと扉の隙間から抜け出していくゼフェルの後ろ姿を、赤く染まる頬でルヴァが見送る。
やりかけの書類に向き合おうと椅子に腰掛けふと脇に目をやると、電池切れでグッタリとした人形が、じっとルヴァを見詰めていた。
そっと手に取り毛糸の髪の毛を撫で、腕や脚を動かしたりして遊んでいるうちに、右手に縫い付けられた小さな包みに指が触れる。
「おや……?」
クリーム色の箱にかけられた赤い毛糸を解き、そろそろと開かれたフタの下には、小さなブローチが一つ。
赤く輝く宝石はルビーだろうか、その周りを複雑な幾何学模様がぐるりと囲んでいる。
おそらく、この宝石もオリヴィエの見立てだろう。けれどこのデザインは……
「ゼフェル……ですか?」
器用な彼の事だ、自分で金属を加工したのだろう。メルのお手製アクセサリーとはまた違った味がするブローチの表面を指でそっと撫でながら、そんな事を考える。
「ありがとう……ゼフェル」
今はこの場にいない少年の代わり、という様に人形の頬に口付け、書類にサインをしようとペンを持ち直した。
その夜……
ルヴァの私服用ターバンを止めるブローチに、ゼフェルの瞳の様に輝く宝石がついていたのは言うまでもない。
そして、それがすぐに外された事も。
fin.
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ルヴァ様お誕生日おめでとうございます〜(*^∇^*)
ゼフェルからの素敵なプレゼントでラブラブ〜vvv
ジュリアスが遊ばれていたり、オスカーが良い人だったり(笑)
可憐な反応のルヴァ様が堪能できて嬉しいですv
真由羽さんvお忙しい所ステキなアニバーサリーをありがとうございます!!
また宜しくお願いいたしますv
アンジェはアニメもスタートしましたし!!皆でルヴァ様をたくさん愛でましょうvvv