アンジェリーク
ゼフェル×ルヴァ様v
小説 帆立真由羽様
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あの時見せた、アイツの笑顔。それ見て、マジで分かったんだよ。
ホントに、ヤツが好きなんだ……って事。
心から思った。
ただ、その笑顔が見たいって。
俺の気持ちを殺しても、笑ってくれンだったら、なんでもやってやろうって。
だから、後悔なんか……しない。絶対に。
Without Saying Good-By
ソファの上に身体を投げ出して、そっと瞳を閉じた。
今日一日の事を一つ一つ思い出して、下唇を噛む。胸の痛みに、思わず眉をしかめた。
「ッ……クソ……あンの、バカ……!!」
幾つもの泣き顔と、笑い顔。幻影が瞼に焼き付いて、苦しくてたまらない。
いつかは来ると分かっていたが、こんなにもツラいだなんて、想像も付かなかった。
――俺、こんなに弱っちかったっけか……?――
いつもそばにいた『彼』が、もういない。それだけで、日常が足元から崩れて行く。
昨日の夜、後任の事を頼みに来た彼が座っていた所に頬を寄せた。ひんやりとした感触が哀しいけれど、そこに彼を探す様に、必死に顔を擦り付ける。
いい天気だった。
――あ、あの……!!――
――どうしました? ゼフェル――
――その、いろいろ……ゴメンな。後……あり、が、とう――
涙目で、それでも虚勢を張って睨み付ける様にした最後のあいさつ。
優しく、哀しい微笑みと共に抱き付いて来た身体はいつの間にか自分よりも小さくなっていて、ここで過ごした日々の長さを見せつけられた気がした。
「何で、行っちまうんだよ……あいつ、置いて、どうして……!!」
あんなに幸せそうだったのに。あんなに一緒にいたのに。
自分だったら、自分、だったら……
『あの二人』の様子を、自分は直視出来なかった。一つでも多く、彼の姿を目に焼き付けなければならないのに。
最後に見たのは、シャトルに乗り込む時の顔。いつもの優しい微笑みで全員を見て、そのまま……
一筋流れた涙を隠す様に、ドアの奥へと消えた。
「……ルヴァ、ルヴァぁ……ッ……」
名前を呼べば、胸の中に小さな炎が灯る。じんわりと暖かくて、痛い……
とうとう「さよなら」の言葉は言えなかった。
言ってしまったら、もう二度と会えなくなる。最後の望みが断たれてしまう。そんな気がしたから。
その確率は低いなんて事は、先刻承知だ。だけど僅かでも、望みがほしい。縋るための藁がほしい……そうでないと、自分が潰れてしまいそうだから。
「ッ……ルヴァのバカ……ロザリアのバカ……」
当てつける様に彼らを罵れば、反対に愛しさが増して行く。堪えようと足掻いても、瞳から溢れ出す雫は止まらない……
「クソッ……なんで、こんな……!!」
大きすぎた存在の消失の先にあるのは、戸惑いと恐怖。もう元の自分には戻れない。
だとしたら、泣き声の中に、ずっとしまって来た言葉を交えてしまおう。あの夜、諦めたはずの想いを……
「……好きだ……」
何かに心臓を優しく鷲掴みにされて、そこからじわじわと心地良い痺れが広がって行く。
ソファにぐしょぐしょな顔を押しつけて、大きく溜め息。それに重なったのは、静かなノックの音。
「やっほー、ゼフェル。ねぇねぇ、これからオスカーんトコ行かない? マルセルから特別提供品があってね。一晩中パーッと飲み明かそーよ」
「……ワリぃ。俺、行かねー」
おどけた口調とは裏腹の心遣いは、あまりにも優しかった。
濡れた顔を隠しながらのくぐもった声の向こうに、懐かしい言葉が聞こえる。
――あー!! ダメですよ、お酒はっ――
あの頃は反発したけれど、今は説教でも聞きたくなるから不思議だ。
後頭部を軽く叩かれながら、苦笑混じりの声が降って来る。
「ま、早いトコ立ち直んな、少年」
「……ガキ扱いすんな」
本当に立ち直れるのか。元の自分に上辺だけでも戻れるのか……
後悔しないと誓った時から探し続けていても、まだ答えは見つからない。
自分はこれからきっと、彼に追いつくために走り出すのだろう。その途中で、答えが見つかるかもしれないし、また新しい恋をするかもしれない。
それでも、自分は追い続ける。あのいつも本を抱えてよたよたと聖地を歩いていた、のほほんとした地の守護聖の後ろ姿を……
万に一つ、また会うなんて事があっても、あんたに言いたかった事は心の中。
だったらその時は……
代わりに、聞かせてくれよ。
「なあ、俺って少しは……成長したか? ルヴァに追いつけてるか?」
END.
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うああん//切ないお話をありがとうございました//
真由羽さんのコメントになります//↓
『コミックス版のゼフェルヴァ続編ですが…ゼフェル、ゴメンよ…
本当はもっと長かったはずで、もっとルヴァ様とロザリンの話も入れていたのです
が、暴走しかけてカットしました。』
大好きな人と一緒に居たいっていう思いって気持ちも身体も灼きつくしますよ(涙)
うう…苦しい。でもそのくらい好きっていう思いがルヴァ様に向けられているのが
また心地良くて…。切ないです。切ないです。ルヴァ様に会いたいです。
あの笑顔を独り占めできたら良いのに。
独り占めじゃなくても良いから、いつもいつも傍にあったら良いのに…