井乃田川

イノッチファンの方へ……あなたが「サチ子」を演じていると思って読んで下さい。

（もの悲しいバイオリンの調べ） あの頃……
あなたはどこで何をしていましたか？

　渋谷のハチ公前。人を待つサチ子（２０歳ぐらい）。
　「ごめん、待った？」
　声をかける井ノ原。パンタロンのＧパンにＴシャツ。
「ううん」
　サチ子、首を振る。二人、歩き出す。

「青春」という言葉が生きていた時代

　デモ隊と機動隊の衝突。

　若者は悩み……

　夜の町を、酔ってふらふら歩く井ノ原。

　そして傷ついていた

　窓に腰を掛けて外を見ている井ノ原を外から撮った画面。
　カメラ、下へ向いていき、コンクリートで両側を固められた川がスクリーンに映る。

　あの名曲とともにあの頃がよみがえる

井乃田川

　大学の汚い部室。議論している大学生。
岡田「そういうのをセクト主義ちゅうんやないのか」
長野「そうじゃなくて、俺が言いたいのは……」
　黙って聞いている井ノ原。

社会って何だろう？

　一つの布団にくるまっている井ノ原とサチ子。
井ノ原「せめて布団くらいもう一つ欲しいよな」
サチ子「ううん、こうしていられればいいの」
　目を閉じ、井ノ原の腕に頭をのせるサチ子。
　井ノ原、天井からぶらさがる電球を見つめる。

愛ってなんだろう？

　土手沿いの道を歩く坂本と井ノ原。
坂本「俺、県警に就職することになった」
井ノ原「県警って、お前……」
坂本「俺にはほかの道は許されないんだよ！」

仕事って何だろう？

　ビルの屋上。フェンスの外に立つ三宅。井ノ原、近づこうとする。
三宅「来るなーっ！　みんな嘘つきだ！」

命って何だろう？

　レストランの調理場。食器を洗う井ノ原と森田。
井ノ原「さっき客席をのぞいたらさ、結構若いのが来てるんだよ。いいとこのボンボンなんだろうな」
森田「俺には、大学行ってるっていうだけでボンボンに見えるよ」
　井ノ原、手が止まる。

学歴って何だろう？

　河原の土手。おにぎりを食べる井ノ原とサチ子。
井ノ原「温泉ぐらい行ってみたいよな」
「今はこれで十分。快彦が就職したら行こうね。わたしも、子供ができるまでは働くから」
　黙っておにぎりを見つめる井ノ原。
「どうしたの……」

未来って何だろう？

　デモ隊と機動隊の衝突に巻き込まれる井ノ原とサチ子。
　引き離される二人。
　互いに手を伸ばすが、距離が開いていく。

　映像、白黒になっていく。

あなたの青春がここにある

　家具を全部運び出した後のアパート。窓に腰掛けて外を見ている井ノ原を部屋の中から見ている。逆光で表情は見えない。

井乃田川

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