君とメリークリスマス

第8回(最終回)

 テーブルの上の空っぽの皿が次々に下げられていく。
 客の数も減ってきている。
 准一、手に持った皿のフルーツをほおばりながらつぶやく。
 「そろそろパーティーも終わりやなあ」
 准一の視線の向こうに、剛と恵、健と紗弥加。
 「あいつら、なんだかんだ言って手が早いわ」
 ため息をつく。
 「これじゃあ、加奈子の機嫌が思いやられるで……」
 ところが、ふと振り向いて、准一は驚きのあまりフォークを取り落としそうになる。
 そこでは、坂本と加奈子が踊っている。
 「信じられん……」
 呆然とする准一。
 そこへちょうどフルーツを取りに来た健の腕をつかんで、准一、あせって尋ねる。
 「け、健くん、あの二人、どうなっとるんや……!」
 「ん……?」
 健、坂本の方を振り返って、
 「ああ、あのあと加奈子ちゃんが紗弥加ちゃんのところに謝りに来たんだ。それですっかり二人は仲直りしてさ。紗弥加ちゃんのお兄さんが踊ろうかって言ったら、加奈子ちゃん、素直にうなずいてたよ」
 「あの加奈子が謝るなんて……。おかしい。絶対なんかある! 健くん、気をつけた方がええで!」
 「なに言ってんだよ。おかしいのは岡田の方だよ。そう言えばさ、おまえ俺達の方にあんま来なかったけど、何してたの?」
 「なにって……」
 そこへ、
 「准一さん……」
 いつの間にか、山田花子が准一のとなりに立って、もじもじと彼を見上げている。
 「もうすぐラストダンスだそうよ」
 そんな二人を見て、健、納得したようにうなずいて、
 「あー。岡田も隅に置けないなあ」
 健は皿をもってみんなの方に戻っていく。
 「け、健くん、そりゃないで……」
 その時、剛の嬉しそうな声。
 「きゃっほう! 雪だ!」
 健も、恵も紗弥加も、准一も、その声に窓辺を見上げる。
 そう、窓の向こうには、可憐に舞い散る雪。夜空からのプレゼントのよう。
 「外に出てみようぜ!」
 言うより早く、テラスに飛び出す剛。
 「……ったく、子供ねえ!」
 そう言いながらも、恵もあとに続く。健も、紗弥加の手を取る。
 他の三人がテラスに出たときは、剛はとっくに手すりを飛び越えて、中庭の真ん中にいる。
 「ちっとも冷たくないよ! 恵、来いよ!」
 「なんで。やだ」
 渋る恵に剛は階段をかけ上って、
 「いいから! 健と紗弥加ちゃんもさ」
 健と剛に手を取られ、紗弥加も庭に出る。後ろに恵も。
 やっと山田を振りきってきた准一も、テラスから声をかける。
 「おーい、そんなとこでなにしてるんや!」
 剛、手を振る。
 「おまえも来いよ!」
 庭の真ん中に立って降る雪を眺めると、パーティーの中にいるのとは違った、なんだか不思議な気分。時間も何もない、ただ聖なる夜の真ん中にいるような……。
 「ほら!」
 剛の指さす方を見上げて、思わず恵が息をのむ。
 「きれい……」
 一際高い樅の木が、降り散る雪の中で、きらきらと輝いている。それはむしろ暖かく、人に希望を指し示すような、厳かな光。
 五人は声もなくそれを見上げる。しばしは誰もしゃべらずに。それぞれの胸に思いを秘めて……。

 管野家の車寄せに、滑るように車が止まる。
 陽子が井ノ原を連れてその車に乗り込もうとしている。
 「もう、せっかく連れ出した意味がなかったじゃないの!」
 陽子はまだ文句を言っているが、井ノ原は聞いていない顔。
 「私はね、せっかくあんたを……」
 その時、息せき切って、美穂が玄関のドアから飛び出している。
 「おばさま、あの……」
 そして、陽子の隣の井ノ原に気づいて見つめる。
 「ああ、美穂ちゃん、いろいろありがとう。とっても楽しいパーティーだったわ」
 「……」
 「今度は、うちにもいらしてちょうだい」
 そう言って、陽子は車に乗り込む。井ノ原も続く。
 美穂、唖然としていたが、やっと我に返る。
 「ありがとう!!」
 突然美穂が大声を出したので、車の中の陽子もびっくりしたようにこちらを見る。
 「素敵なプレゼント、ありがとう!!」
 そう言って、美穂は、髪に挿した花を指さしてみせる。  
 「あたし、大丈夫だから! ……ありがとう……!」
 車は動き出して、中の井ノ原、振り返る。照れくさそうに笑って美穂に人差し指をたててみせると、その指には美穂の巻いた包帯。

 次々と帰っていく人々。
 中には、名残惜しそうに何度も准一の方を振り返る山田花子の姿もある。准一は健や剛の陰に隠れているが……。
 帰り際、美穂に何か言いたそうにして言えない多香美に、美穂はそっと微笑みかける。
 「多香美。……あたし達、友達だよね」
 「美穂」
 「いいの、他のことは関係ない。あたし達が友達なことには関係ないよね?」
 潤んだ目でこっくりと頷く多香美。少し後ろには、長野が。
 「美穂ちゃん」
 長野の声に、美穂、うつむいて、
 「博さん、多香美のこと、送ってってあげて」

 坂本と紗弥加も、皆に見送られて帰る。
 「来年も来てね、紗弥加ちゃん」
 「おばさま」
 みんなの優しい瞳の中で、紗弥加はむしろ泣きそうな顔で。
 「呼んでくださってありがとう。夢みたいに楽しかった……。ほんとに……」
 紗弥加、ちょっと心細そうな顔でつぶやく。
 「これ、夢じゃないのかな……」
 「紗弥加ちゃん」
 と、健。
 「また、会えるよね」
 紗弥加、恥ずかしそうに頷く。
 「紗弥加」
 車から降りてきた坂本が、紗弥加が車に乗る手助けをしようとする。
 「いいよ、お兄ちゃん。紗弥加、自分で出来る」
 「紗弥加……」
 紗弥加はぎこちなく車に乗ろうとして、最後によろめく。そこへ手をさしのべたのは、加奈子。
 「……加奈子ちゃん、ありがとう」
 そんな紗弥加に加奈子はわざと乱暴に言う。
 「こんな事でいちいちお礼なんて言わなくていいの!」
 坂本はそんな紗弥加と加奈子を見ている。加奈子は、続ける。
 「なんか、パーティーが始まった頃がずっと前みたいな気がしちゃう。前の加奈子と今の加奈子じゃ、全然違うよ」
 「どう違うの?」
 と、紗弥加。
 加奈子、車のドアを閉めてやりながら、
 「つまりぃ、そうなんでもかんでも欲しがる加奈子じゃなくなったってこと。……わかる!?」

 「じゃあなあ」
 と、気軽に恵に手を振る剛。
 「剛、ちょっと、あんた、歩きなの!? 雪降ってるよ!」
 「へーき、へーき。俺、雪、大好きだもん」
 「ちょっと、待っ……」
 呼び止めるより早く、剛は駆け出す。
 そして振り返ると、
 「うちについたらちゃんと電話するからさ!」
 「……もう!!」
 そんな恵の後ろに寄り添う好子。
 「めぐちゃん」
 「ママ」
 「パーティー楽しかった?」
 「うん……ママ……」

 客のすべていなくなったホール。
 厨房の方の方を見てきた好子、一度ホールに出て、まだ残っていた准一に気がつく。
 「……あら、准くん、まだいたの」
 窓の外を見ていた准一、振り向く。
 好子、優しく、
 「今日は大成功だったわね。全部准くんのおかげよ。……いろいろ気を使ってくれて、ありがとう」
 「いえ、俺、なにもしてません……」
 好子、首を横に振って、
 「そんなことないわ。准くんのおかげで、みんながパーティーを楽しめたわ。森田くんや三宅くんを誘ってきてくれたし、加奈子がお部屋にこもったときもどうにかしようとしてくれたし、山田さんのお嬢さんも、あなたのこと、とっても頼りにしてたしね」
 最後の件に関してだけは、准一、思わずがくっとなってしまう。
 「みんなもうお部屋に下がってるわ。准くんも今夜はゆっくり休んでね」
 そう言って好子も去る。准一、ホールにひとり。
 「あーあ」
 がらんと寂しいホールを見て、准一はため息をつく。
 「なんか、妙なパーティーやったな。……楽しかったような気もするけど、人に振り回されてただけ、みたいな気もするな」
 そして窓越しに舞い散る雪を見上げ、
 「ま、それはそれでええのやけど……」
 准一、順にホールの明かりを消していく。にぎやかだったパーティーの名残も次々に闇の中に沈んでいく。
 最後の明かりを消そうとしたとき、床になにか光るものが。
 「……なんやろ」
 准一、かがんで、それを拾う。それは、凝った細工の金の台に小さなパールのついたイヤリング。
 そのとき、表に車の止まる音。そして玄関が開き、ぱたぱたとかわいらしい足音。
 准一、顔を上げる。
 ホールの扉が開く。薄闇の中に立っているのは、ふわふわの毛皮に包まれた女の子(松本恵)。
 女の子、准一を見て尋ねる。
 「あの、あたし、大事なイヤリング落としちゃって……」
 准一、呆然と女の子を見て立ちつくす。
 その子がまるでクリスマスの妖精のようにかわいらしかったから……。
 「……?」
 女の子、自分を見つめる准一の視線を、やや怪訝そうに受け止める。
 でもまだ子供っぽく、真剣な准一の視線が少しおかしくて微笑んで。
 じっと見つめる准一、とまどうような微笑の女の子、それぞれのアップになったところで画面、ストップ。

音楽流れる。(カミングセンチュリー、「ハッピーニューイヤーズトレイン」・ただし冒頭部分は抜かし、チャカチャカン……というところから)

エンドロール・出演者名
  スタッフ名
協力企業名など

そのバックに流れる映像は、ドラマのメイキングシーン・NGシーン

 * 剛、健、岡田、三人が並んで学校から帰るシーン。健のせりふのあと、剛のせりふなのに、剛、言うのを忘れる。しばらく、黙ったまま歩く三人。剛が最初におかしくなって吹き出す。健と岡田、そんな剛の頭を両側からこづく。
 * ダンスのシーン、真剣に踊る健や長野の顔、そしてカットのあとの、ほっとした表情。
 * スタジオで。井ノ原が指示を受けながら演技を入れている。後ろの方に小林稔侍がいるのが見える。
 * 坂本が榎本加奈子をぶつシーン。坂本、緊張して固い。当然NG。榎本、苦笑。後ろで見ている剛、健、岡田も爆笑。
 * 井ノ原が長野を殴るシーン。一発OKだが、カットになるとすぐ、痛そうに頬を押さえる長野。謝り倒す井ノ原。
 * 空き時間にカメラをのぞく健。
 * スタジオの隅で眠りこける剛。
 * 真剣に他の俳優さん達の演技を見る岡田。
 * カメラが自分を狙っているのに気がつき、カメラに目線を向ける坂本。
 * 剛とふざける井ノ原。
 * 笑顔でスタッフと話す長野。などなど素顔のメンバー……
 
最後に文字、「Merry Christmas with You!! 」
六人の笑顔が大きく映る。そこにエンドマーク。

(「君とメリークリスマス」終わり)

 HP始めて、まだひと月とちょっとなんですね……。とりあえずこれが終わりまして、少しほっとしてるのと、あと、次作はどーするんだよーという不安を抱えています。今必死で考えているんだけど、ずっと男っぽい(?)話になりそうです。では、読んでくださったみなさんありがとう、お疲れさまでした。よければ感想を聞かせてね!(98.1.17)


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