V遊記

第31回

 さて、一行がおサカ様の待つ寺に着いてみると、山門があり、その向こうに石段があった。それを登り切ったところで寺の全貌が現れた。
准「おおっ」
井「ほう」
剛空「こういう所だったのか」
井「あれっ。剛空は来たことがあるんじゃないの」
剛空「何で」
井「前に破門になってここに怒鳴り込んで来たんだろ」
剛空「怒鳴り込んだんじゃなくて挨拶に来ようとしたんだよ。それに、向こうが気づいてやってきたから、途中で会ったんだ」
 四人はそろって深呼吸をすると、寺に近づいていった。
 さすがにおサカ様の寺は大きく、光が反射してきらめいている。四人が感心していると、中から子供が出てきて、
「お待ちしておりました」
と言う。
健蔵「いよいよだね」
剛空「はい」
井「おサカ様がくれる、Vってなんだろ」
准「食えるもんだとええな」
井「食い物のわけねえだろ
 四人は、子供に案内されるままに中に入ったが、入ると、廊下のあちこちに自動車の模型がかざってある。
准「このオモチャはなんやねん」
 案内の子供が言うには、
「おサカ様がお作りになったものです。プラモデル作りがご趣味なのです」
井「よっぽど暇らしいな」
 いよいよおサカ様のいる広間に着いた。奥には、荘厳な祭壇を背にしておサカ様が座っている。その隣にはナガンノンが立っている。
「どうぞ、お進みください」
 そう言って子供は姿を消した。
 四人は、健蔵を先頭に、おサカ様の方へ歩み寄っていったが、おサカ様は一体何を授けてくれるのか、期待に胸は膨らんだ。
 健蔵たち四人はおサカ様の前に歩み寄ると、そこに膝をついた。それを見て、おサカ様は満足そうに頷く。
健蔵「おサカ様、お言葉にしたがい、美しい世界を作り出すためのものを頂きに参りました」
おサカ様「健蔵、よく頑張ったな。剛空、准八戒、井乃浄、お前たちもよく健蔵を助けた」
 健蔵たちは黙って頷いた。
おサカ様「では、約束のVを授けよう」
 そう言いながら、おサカ様は懐に手を入れ、巻物を取り出した。一同息を飲んでそれを見つめる。ナガンノンも初めて見るものらしく、身を乗り出している。
おサカ様「Vというのは」
と言いながら巻物を広げ、
「これだ」
と、一同に巻物に書かれたものを見せた。そこには「Veautiful」の文字。
健蔵「これは……、何という言葉でしょうか」
おサカ様「分からぬか。ビューティフル。美しい、ということだ。美しさは物ではない。心のあり方だ。健蔵、そなたには美を求める強い心があった。しかし、そなた一人が美しさを求めても得られるものは自分一人の美しさでしかない。しかし、美を求める心を広く人々に与えることができれば……」
「あのー、おサカ様」
 熱弁を振るうおサカ様の隣で、ナガンノンが遠慮がちに声をかけた。
おサカ様「何だ。まだ話の途中だ」
ナガンノン「ビューティフル、というのは、VではなくBで始まるのでは……」
 健蔵もそれを聞いて頷く。
おサカ様「え?」
ナガンノン「ビューティフルは、b・e・a・u・t・i・f・u・lです」
おサカ様「あれっ、そうだっけ」
と巻物の文字を見ながら、
「いやー、知らなかったな。こりゃまいった」
 健蔵たちはあきれて声も出ない。
おサカ様「ま、いいじゃないの。みんなの働きで悪い連中も減ったし。ほら、なんだっけ、あのキョンシー。あの連中もめぐり会えて天界デビューだっていう話だし。めでたし、めでたし、と」
井「なんか、あんまりめでたくないな」
准「納得でけんな」
剛空「このために俺はずっと岩の下敷きになってたのかよ」
 ナガンノンは困った顔で健蔵たちを見ている。ごまかせそうにないと思ったのか、おサカ様は急に真顔になり、
「実は、Vというのは口実でしかなかったのだ」
 これにはナガンノンも驚き、
「どういうことですか」
おサカ様「一番の目的は……」
 様子が変わったので、健蔵たちも身を乗り出した。
おサカ様「我々六人が揃うことだったのだ」
健蔵「私たちが揃うこと?」
おサカ様「そうだ。我々六人は一度は六人の力で何かをしなくてはならないという使命を持って生まれてきたのだ。その使命を果たすためにここに来て貰った」
准「なら、途中で山賊におうたりしたんは」
おサカ様「使命の一環だった」
健蔵「では、こうして揃ってしまったら」
おサカ様「基本的にはこれで終わりだ。あとは好きにしていい。因果は消えた」
ナガンノン「そういうことだったのですか」
井「俺には何だかよく分からねえな」
剛空「つまり、俺がお師匠様に出会うことは運命で決まっていたということか」
おサカ様「それはそうなのだが、タイミング良く会えないようだったので私が調節したのだ」
准「なら、俺が人間界でずっと待っとったのも」
おサカ様「私の計画だ」
准「あないにはよう落とさんでもよかったのに」
おサカ様「最初苦労した方がありがたみがあるじゃないか」
井「お師匠に出会えたということで良しとしろと」
おサカ様「ま、そういうこと」
ナガンノン「では、これからはどうなりますか」
おサカ様「みんなはどうしたい」
 逆に問いかけられて、一同は少し考えたが、健蔵が一番先に答えた。
「私は故郷へ戻り、みんなに、美しくなることを心がけるよう勧めます。さきほどのおサカ様のお話を聞いてそう決めました」
 すると剛空は、
「俺は一度、花果山に戻る。ずっと帰ってないから。そしてそれからお師匠様の手伝いをするよ」
 そこで准八戒、
「俺はいっぺん、おかんのとこに帰る。心配しとるやろし」
と言ってちょっと考え、
「うまくいった天界で働けるかもしれんけど、だめならそれでもええ。おかんの顔見て安心させたら、お師匠さんのとこに行くで」
健蔵「うん。二人を待ってるよ」
 井乃浄が張り切って、
「よし、俺もお師匠と一緒に行く」
と言うと、おサカ様が、
「お前はだめだ」
と言う。
井「何で」
おサカ様「お前にはここで私とナガンノンの仕事を手伝って貰う」
井「仕事ってなんだよ」
おサカ様「世の中がうまくいくための裏方だ」
井「裏方って、何をするんだ」
おサカ様「それはもう、あれやこれや、いろいろある」
井「俺って、お師匠たちのグループじゃなかったの?」
おサカ様「おいおい、見れば分かるだろう。お前は私とナガンノンのグループだ」
井「そうだったのか……。じゃあ、これからは三人一緒に仕事をすると」
おサカ様「いつも一緒というわけではない。これからは私は私の仕事、ナガンノンはナガンノンの仕事、井乃浄は井乃浄の仕事をすることになる。しかし、一緒にできるときは一緒にやろう」
 一同それぞれの道を確認したところで、ナガンノンが、
「では剛空、お前の禁錮帽を取ってやろう」
と声をかけると、剛空は、
「いや、帽子は取らなくていい。ただ、呪文は効かないようにしてくれ」
と言った。
 ナガンノンは、
「そうか。では記念にかぶっているがいい」
と言うと、帽子に手をふれ、口の中で何か唱えると、
「ぬいでごらん」
と言った。剛空が帽子に手をかけると簡単にぬげる。
剛空「うひゃー、ひさしぶりに頭に空気が当たるな」
と笑顔を見せたが、すぐにまたかぶってしまった。
 おサカ様は笑顔で一同の顔を見回すと、
「では、剛空は帰りがてら健蔵を送っていってやれ。一緒に筋斗雲に乗って行ってよいぞ。准八戒は家までナガンノンに送らせよう。井乃浄はここで私とこれらかについて打ち合わせだ。心配するな、少しぐらい離れていても、私たちは一つだ。気持ちは、いつも一緒にいるのと同じだ」
 それを聞いて皆は頷き、立ち上がった。
 こうして、おサカ様、ナガンノン、井乃浄、剛空、健蔵、准八戒の六人はそれぞれの道を歩むことになった。しかし、この後も、この六人は、時を越え空間を越え、転生しては離合集散を繰り返すこととなる。
 この六人が今どこで何をしているかは、読者の皆さんご存知の通り。

  色即是空
  空即是色
  生生流転
  有為転変

(完)


 と言うわけで、ダラダラと書き続けて参りました「V遊記」も、31回という大変中途半端な回数で、ここに大団円を迎えることとなりました。
 思えば、第1回をアップしたのが去年の5月8日ですから、一年近くにわたっての連載となりました。
 これは、もとはといえば、hiruneにV6のホームページを作りたいと言われた時に、「V6で『西遊記』をやったらどうなるだろう」という軽い思いつきでちょっと書いてみたのが最初で、単なる語呂合わせでキャラクターの名前もすぐできて、「ひるねくらぶ」が始まったときには第4回まで書いてあったのです。
 その後の展開として、キョンシーの話までは頭にあったのですが、どうせおちゃらけだし、わざわざ載せることもないか、と思ってお蔵入りの予定でした。
 ところが、hiruneが、「ぶいろく党伝」の次の作品を書いていたら、パソコンのハードディスクのクラッシュという災難に見舞われ、当分新作を載せられそうにない、という事態になり、ワンポイント・リリーフのような気持ちでアップしてみました。
 どうせいい加減なものだし、全員そろったらすぐおしまいにしようと思っていたら、意外にこれが好評で、感想が来る来る。
 それならば、と少し本腰を入れて書いてみました。いい加減に書き始めていたものだからつじつま合わせが大変でしたが、反応があると、何としてでも続けねば、という気になるから不思議です。
 こうして健蔵一行の旅は終わりましたが、ここまでおつきあいくださった読者の皆さん、感想を寄せてくださった皆さんに、心からお礼を申し上げます。

(1999.4.17)