第35話 美しい願い

(by hongming)

ナレーション「宇宙の絶対者モリさんにしかられて、ヒガシ・サンは去った。また、あいはやっぱり姫ではなかった。一方、六人の乗る宇宙戦艦みのさんは、操縦不能まま宇宙を漂い、最大の危機を迎えていた。これは、正義と友情に命をかけた若者たちの物語である」

 地球の周りを回っている宇宙戦艦みのさん。
 青い地球の、昼の部分から夜の部分へ回っていく。
森田「操縦ができないって、俺たちどうなるんだよ」
大袈裟「どうしようもない……。とりあえず、みのさんには連絡しておこう」

 おもいっきり御殿。
 応接間。テレビをみているみのさん。宇宙戦艦みのさんが空へ昇っていくところが映っている。みのさんはうれしそう。
 あいはソファーで寝ている。
 そこへ、無線機の呼び出し音が鳴る。
みの「はい」
大袈裟「みのさんですね。ヒガシ・サンは帰りました」
みの「やっつけたんだね」
大袈裟「やっつけた、というか……。とにかく、地球が侵略されることはなくなりました」
みの「よくやった。すぐ帰ってくるの?」
大袈裟「それが……。操縦できなくなってしまって……」
みの「どうなるのよ」
大袈裟「このままいけば、地球に突入します」
みの「突入?」
大袈裟「そして、空気との摩擦で燃え上がるはずです」
みの「どうにかならないの? ねえ」
大袈裟「操縦できない以上、どうにもなりません。みのさん、いままでいろいろとありがとうございました」
みの「そんな……」
大袈裟「空を見てください。僕たちが流れ星になって見えると思います」
みの「(泣きながら)ありがとう、ありがとう大袈裟くん。坂本くんも、井ノ原くんも、森田くんも、三宅くんも、岡田くんも。あたしは、あたしは立派に国会議員に当選してみせるからね」
大袈裟「……」
みの「おもいっきり商事も、もっと大きくしてみせるからね」
大袈裟「……。ピンクは?」
みの「あいちゃんは寝てるよ」
大袈裟「そうですか。後で説明してやってください。さようなら」
 通信が切れ、泣き出すみのさん。あいが目を覚ます。
あい「どうしたんですか、みのさん」

 宇宙戦艦みのさん操縦席。
 六人は地球を見下ろしている。
岡田「日本はどこやろ」
坂本「今は夜だから、よくわからないな」
三宅「地上から僕たちのこと見えるかな」
大袈裟「たぶん、流れ星のように見えるだろう」
 その時、モリさんの声がする。
「ごめんなさいね」
坂本「モリさん、ですか」
モリさん「そうよ……。ちょっとヒガシくんから目を離したらこんなことになっちゃって」
森田「俺たちのこと、助けてくれよ」
モリさん「それはできないの。直接あなた方の命にかかわることはできないのよ。でもね、あなた方のうち、だれか一人の願いをかなえてあげる。六人の中で、一番美しい願いをね」
三宅「美しい願い……」
モリさん「そう、美しい願い……」
 それぞれ何か思い浮かべる六人。

 おもいっきり御殿。
 涙を拭いているみのさん。それを不思議そうに見ているあい。
みの「……。外に出てみようか。みんなが戦っているのが見えるかもしれない」
 庭へ出るみのさん。あいもあとに続く。
 見上げると満天の星。
あい「みんなどうしてるかなあ」

 宇宙戦艦みのさん操縦席。
 モリさんの声が響く。
「わかりました。願いをかなえてあげましょう。では、さようなら」
坂本「ん? 誰の願いをかなえてくれるんだろう」
岡田「俺かも」
坂本「何を願った」
岡田「腹一杯うまいもん食いたい」
三宅「そんなの美しくないよ」
岡田「なら自分はどんな願いや」
三宅「ゴミのポイ捨てがなくなりますように」
森田「すごいな。俺なんか、サッカーやりたいってことしか思い浮かばなかった。博士は?」
大袈裟「ラーメン食べたい」
坂本「ほかに何かないのかよ」
大袈裟「なら、坂本くんは?」
坂本「若く見られたい」
森田「うひゃひゃひゃひゃ。それは無理だよ」
三宅「ブラックは? 何を願ったの」
 井ノ原はだまって地球を見ていたが、
井ノ原「俺か……。俺は、エミリが本当の人間になれますように、だ」
坂本「……」
井ノ原「俺たちは死ぬんだろう。死ぬのは怖い。でも、死ぬのが怖いのは、俺が本当に生きているからなんだ。エミリはただ消えちまった。死んだわけじゃない」
坂本「悪かった」
井ノ原「いや、あんたには感謝してる。俺はエミリにあえて、ほんとうに幸せだった。ただ、俺は、エミリに、本当に生きてるっていう気持ちを味わわせてやりたいんだ。もう会えないけど、俺の代わりにエミリが生きててくれればいい」
 井ノ原は携帯電話を取り出し、プリクラ・シールを見つめる。
 宇宙戦艦みのさんは、どんどん地球に近づいていく。

 坂本が作った地下工場。
 突然照明がつき、ぼんやりと、人間の姿が現れる。

 おもいっきり御殿の庭。
 星空を見上げているみのさんとあい。みのさんは泣いている。
あい「どうしたんですか」
みの「……」
 星空を、まばゆく輝く流れ星が横切る。あいはすぐに手を合わせ、
「みんなが無事に帰ってきますように」
と、祈る。
みの「あれは、あの流れ星はね……」
 説明しようとするが、涙で言葉にならない。

 地下工場。
 壁のスイッチの前に、ぼんやりと立っているエミリ。
 突然、そこに、坂本、大袈裟、井ノ原、森田、三宅、岡田が現れる。
井ノ原「エミリ!」
 駆け寄り、抱き合う井ノ原とエミリ。
大袈裟「どうなってるんだろう」
森田「ここがあの世か」
坂本「違う。俺が作った工場だ」
 井ノ原は、エミリの肩をつかんで顔をのぞき込み、
「人間になれたのか」
エミリ「わたし……。なんだかよくわかんない。気がついたらここにいて……」
井ノ原「俺の願いがかなったんだ」
エミリ「そしたら、女の人の声がしたの」
大袈裟「女の人?」
エミリ「そのスイッチを押しなさい、って」
 エミリがスイッチを指差す。
坂本「瞬間移動装置!」
大袈裟「そうか、改造して強力にしたって、言ってたね」
エミリ「それで、押したらみんなが来たの」
三宅「モリさんだ、きっとモリさんが助けてくれたんだ」
岡田「直接は関わらなかった、っちゅうことか」

 おもいっきり御殿。
 通信機の前のみのさん。ソファーで泣いているあい。
みの「ええっ? 帰ってきたの? どこにいるのよ。……わかった、すぐ行くからね」
 みのさんはあいを引き起こし、
みの「帰ってきたんだよ。無事だったんだよ。一緒に行こう」

 おもいっきり御殿の門。
 門が開いて、みのさんとあいの乗った車が出てくる。そこへ女性記者が走り寄る。女性記者は後ろ姿しか映らない。
「どこへ行くんですか」
みの「あの六人が帰ってきたのよ」
「どういうことなんですか」
みの「急いでんのよ。あたしら」
「私も連れてってください」
みの「乗って乗って。早く」
 女性記者を乗せ、車が走り出す。

 地下工場のそばの岡。
 坂本、大袈裟、肩を寄せ合う井ノ原とエミリ、森田、三宅、岡田が並んで立ち、東の空を見ている。
 朝焼けが静かに大地を包んでいく。
 離れたところから、「おーい」という声が聞こえる。
 見ると、みのさんが、薄明かりの中を、手を振りながら走ってくる。
六人「おーい。みのさーん」
 みのさんの後ろから、あいと女性記者が走ってくる。近くまで来て、女性記者の顔がはっきり見える。
 その記者を見た坂本と大袈裟の顔色が変わる。
「毎朝新聞です。お話を聞かせてください」
 走ってきた記者は山口紗弥加。
坂本「紗弥加……」
大袈裟「紗弥加ちゃん……」
紗也加「あれっ、どこかでお目にかかりましたっけ。もしかして、将棋関係の方ですか。あたし、こないだまで将棋欄の担当だったんです」
 顔を見合わせる坂本と大袈裟。
 その時、朝日の光りが、丘の上をさっと照らす。
森田「朝だーっ」
三宅「生きてるぞーっ」
岡田「俺たち、生きとるぞーっ」
 三人は子犬のようにじゃれあう。
 笑ってそれを見ているみのさんとあい。
 抱き合って朝日を見つめる井ノ原とエミリ。
 訳がわからずにいる紗弥加を間に挟んで、牽制しあう坂本と大袈裟。

ナレーション「こうして敵は去り、美しい願いはかなえられた。地球の平和は守られたが、若者たちの人生には、これから何度も危機が訪れることだろう。しかし、何があっても彼らは乗り越えることができるはずだ。ありがとう、さようなら、Vレンジャー、サイコーにミラクルな戦士たち」

THE END


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