第30話 パラレル編・企業戦士物語・7

(by さこさん)

 泣いても笑ってもあと1戦。これに勝てば夢の台湾が待っている。おもいっきり商事最後の挑戦者は紅一点のあい。対する近藤商事は最年少の長瀬。二人に与えられたラスト・ミッションは『ファッション・アドバイザー』。このつかみ所のない業務に果たして二人はどの様にいどむのか?
 これは営利追求に命をかけた、企業戦士の物語である。

 都内某所にあるアパレルメーカー『緋瑠音倶楽部』。
 応接室。
 ゲラッ、ゲラッ、ゲラッ、ゲラッ、バーニングハ〜♪ の中森明菜を彷彿とさせるおかっぱ頭に 夜霧のハウスマヌカ〜ン♪ の如き黒装束に身を固めた微妙な年齢の女性(?)。
 
佐 古「はじめまして、私、こちら販売促進課の課長で佐古と申します」
大袈裟「『会社へ行こう!』の大袈裟です」
坂 本「『敏腕奪取』の坂本です」
佐 古「本日はお忙しいところありがとうございました。生憎、社長の蛭根は株主会議で出ておりますので代わりに私が対応させて頂きます。まずは当社のスタッフをご紹介させて頂きますわね」

 佐古、隣に座っている女性二人(やーちゃん、ピンキー藤原)を紹介する。

佐 古「こちら当社のアジア地区担当者です」
やー 「はじめまして、やーちゃんと呼んで下さい」
長 瀬「えっ、やーさん?!」
やー 「違います! やーちゃんです。あなたが言ってるのは、やー(→)さん(→)、私はやー(↑)ちゃん(↓)です」
佐 古「で、こちらが新入社員の藤原です」
藤 原「ピンキーと言います。どうぞ宜しく」
坂 本「どうもキラーズです」
藤 原「?」
佐 古「ホホホホホ、そう言った化石ネタはうちの専務が喜ぶと思いますわ。あら、噂をすれば何とやら」

 大袈裟、坂本が振り向くと後方のドアから長身の女性(ミーナ)を従えた男性(hongming)が入ってくる。

佐 古「ご紹介いたしますわ。当社専務の奔明と秘書の三井名です。専務、こちら大袈裟さんと坂本さんです」
奔 明「これはどうも、私が緋瑠音倶楽部のなんもセンム、の奔明です」
あ い「さぶ…」
大袈裟「(小声で)あいちゃん!」
三井名「秘書の三井名と申します、どうぞ宜しく」
奔 明「いやぁ、この度は何やらファッション・アドバイザーだかサンバイザーだかを探していると言うことでわざわざおいで頂き、おそれ入りやの鬼子母神。宜しくお願い孟子、孔子は中国人ってなもんですな」
大・坂「はぁ…」
三井名「専務、そろそろMAXファクトリーさんとのお約束のお時間ですので」
奔 明「おお、そうだったね。まあ、今回の件に関しては佐古くんに一任しておりますので、あとはみしなに一品追加でよしなに、なんつって。ハッハッハッ。では!」

 あっけにとられる大袈裟、坂本を後に部屋を出て行く奔明。

大袈裟「…随分とユニークな専務さんでいらっしゃいますね」
佐 古「ええ、彼のお陰で我が社は冷房いらずですわ」
あ い「あ〜あ。アパレルメーカーって言うから、もっとお洒落なところ想像してたのに、変なおじさんがいてあい、ちょっとがっがり」
大袈裟「あ、あいちゃん!」
あ い「だってぇ〜、課長さんはホーンテット・マンションの人みたいだし、こっちの人は…」

 あい、やーちゃんを指差す。

あ い「もみあげ斜めになってるし」
やー 「もみあげじゃありません。これはテクノカットって言うんです」
あ い「あと、こっちの人は…」

 あい、ピンキーを指差す。

あ い「旧ドイツ軍のヘルメットみたいな頭してるし」
藤 原「ひど〜い。これは聖子ちゃんカットって言うんですぅ」
あ い「なんか、みんな、ダサって感じ」
大袈裟「あっ、あ〜ぃちゃん! 申し訳ありません!!」

 大袈裟、あわてるあまり声が裏返る。

佐 古「いいんですのよ。素直な意見と言うのもアドバイザーには必要ですからね。で、あなたはどう思われます?」

 佐古に問いかけられた長瀬に坂本が素早く耳打する。

坂 本「いいか、今の発言であっちは減点20ってとこだ。とにかく、なんでもいいから褒めちぎれ」
長 瀬「えっとぉ、こっちの人の…」

 長瀬、ピンキーを指差す。

長 瀬「ポロシャツに巻きスカート、ハイソックスにぺちゃんこ靴って組合せがナウイっすね」
藤 原「ありがとう。これ今年大ブレイク間違いなしのハマトラルックって言うんです」
長 瀬「『K』ってイニシャルの入ったバッグもいいっすね。カッコいいのKって感じで」
坂 本「(小声で)いいぞ、長瀬。その調子だ」
長 瀬「あっ、あとそっちの英語が書いてあるバッグ」

 長瀬、やーちゃんの横に置かれていたスポーツバッグを差す。

長 瀬「それもいいっすね。何って言うかこう、そうそう、アメリカンな感じでいいっすよ。マディソン、ス、スキュアレ…」
やー 「マジソン・スクエアーよ。いいでしょ? これもヒット間違いなしよ」
坂 本「(小声で)よし、長瀬。そのままガンガン行け!」

 長瀬、他になにか褒めるものはないかとあたりを見まわし、サイドボードの上に飾られた猫の写真に気がつく。

長 瀬「それからこれ! これ、チョーかわいいっすよ。学ラン着た猫。猫に学ラン着せるって発想が素晴らしいっすよ!」
佐 古「お誉め頂いて光栄だわ」
坂 本「(小声で)頑張れ、長瀬。もう一押しだ!」
長 瀬「あっ、あと、さっきの専務さんが着てたジャケット。背中にゴム入ってて半袖のやつ。あれなんか最高っすよ。是非俺もあんなの着てみたいっす!」
坂 本「っしゃーー! 長瀬、完璧だ!!」

 坂本が叫んだ瞬間ドアが開き、超ミニのスモックドレスを着た女性(hirune)が部屋へ入ってくる。

蛭 根「はい、そこまでで結構よ。佐古さん、お疲れ様」
佐 古「はい、社長」
大・佐「しゃ、社長〜?」
佐 古「ご紹介いたしますわ。こちらが人呼んでアパレル界のアマゾネス軍団、当緋瑠音倶楽部の社長・蛭根です」
蛭 根「はじめまして、みなさん。さて、さっそくですけど長瀬さん。あなた本当にハマトラルックや省エネスーツを素敵だとお思いなの?」
長 瀬「あ、いや、なんつうかその、坂本課長が何でもいいからとにかく褒めろって言うもんで」
坂 本「ばっ、ばか! 長瀬!!」
蛭 根「うちぐらい大手になりますとね、バイヤーでも何でも、なかなか否定的な意見を言ってくる人がいませんのよ。だからと言ってそれで安心していてはいつか駄目になってしまいますからね。ここらで一人、いいものはいい、ダメなものはダメとはっきり言える、若い感性の人を入れようと言うことになって、佐古さんと相談して一芝居打ってもらったんです」
大袈裟「じゃあ、みなさんが着てらっしゃる服やこのバッグとかは?」
佐 古「全部、専務のコレクション。ただの化石グッズです」
蛭 根「あいさん、合格よ。是非、アドバイザーとして忌憚のない意見を聞かせてちょうだい」
あ い「はぁ〜い」
佐 古「ですから申し上げましたでしょう、社長。そんな気骨のある男はいないって」
蛭 根「残念ながらその様ね」
佐 古「我が社は設立以来女性だけでやってきたんです。今更男の力を借りなくった立派にやってゆけます」
大袈裟「あれ? でも先程お会いした専務さんは男性ですよね?」
蛭 根「ああ、あれはね家のおとうちゃん」
佐 古「彼はいいんです。まっ、言ってみれば我が社の人夫みたいなものですから」
坂 本「それじゃ、最初から男性は採るつもりはなかったと?」
長 瀬「そんなの反則っすよ」
佐 古「いいのよ。なんたってうちの部は販売促進、略して販促(はんそく)って言うくらいですから」
あ い「超さぶ…」
大袈裟「あいちゃん!!」

 ついに最後の1勝を勝ち取り、喜多川コンツェルンのパートナーの座を手中に収めたVレンジャーたち。思い起こせば、長く険しい(?)道のりであった。今宵は存分に勝利の美酒に酔いしれるがいい。そして、明日への英気を養うのだ。行け、Vレンジャー。底抜けに正直者な戦士たち!

TO BE CONTINUED!


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