第29話 パラレル編・企業戦士物語・6

(by さこさん)

 喜多川会長の気紛れにより、再度仕切り直しとなった人材派遣勝負。今回の仕事は調理師。近藤商事が送りし戦士は『流れ板の松』こと松岡。迎え撃つおもいっきり商事は井ノ原。料理に関しては定評のある二人。これは面白い勝負になりそうだ。
 これは、営利追求に命をかけた、企業戦士の物語である。

 都内某所にある小学校『生田大場三小学校』。
 給食室。
 ゴム長、割烹着、白いマスクに三角巾姿の井ノ原と松岡。

 何やら険悪なムードの近藤商事。

松 岡「おいっ! これのどこが料理人なんだよ!!」
坂 本「知るかよ。俺はただ調理師が欲しいって言われただけなんだから。それに今回の件はおまえ達が決めた事だからな、俺は一切関知しないぜ」
松 岡「分かってるよ。俺は料理で人に負けた事はねぇんだ。ぜってー勝ってみせる」
坂 本「随分な自信だなぁ。もし負けたらどうするつもりだ?」
松 岡「もし負けたらなぁ、鼻からパスタ食ってやるぜ!!」
坂 本「おう、その言葉忘れるなよ!」
松 岡「うるせー! とっとと帰れ!」

 松岡を残し帰る坂本。
 一方、何やらほのぼのムードのおもいっきり商事。

大袈裟「なんか嬉しそうだねぇ、井ノ原くん」
井ノ原「いやぁ〜、子供のころからの夢だったんですよね、給食室に入るのって。あげパンとかソフトめんとか俺、給食大好きだったんすよ」
大袈裟「そっか、じゃあ夢が適ったって訳だね」
井ノ原「はい。俺、頑張ります!」

 井ノ原を残し帰る大袈裟。
 暫くして、もうもうと湯気の立つ大鍋の向こうから、体格のいい女性(あき竹城)がやって来る。

竹 城「どうも。わだすがこつらの責任者で、竹城です。うんまぁ〜、いい男が二人もきつまってこりゃウハウハだね」
井ノ原「そうですか? アハハハハハハ」
竹 城「なんか、こつらのお兄さん、ほのぼのとすてていいお顔だねぇ〜。大仏様みてぇだ」
井ノ原「大仏ですか? ハニワみたいとはよく言われるんですけどね、アハハハハハ」
竹 城「それも似てるねぇ。あっ、でも、ほれ、なんつったっけ? 今流行りのさかなのゲーム。ピーマンとかなんとかって言う。あれにも似てるねぇ」
井ノ原「それってもしかして“シーマン”の事じゃないですか? 最近よく言われるんですよ、シーマン、シーマンって。アハハハハ」
竹 城「ああ、それ、それ、シーマン。うつの生徒達が良く物真似すてんのよ、『シーマン、何歳?』『天才』とかっつって」
井ノ原「アハハハハハ。でもって、シーマンの好物ってプリンなんすよね」
松 岡「ピーマンだろうがパーマンだろうが、何でもいいから早く仕事にかかろうぜ」
竹 城「あっ、んだねぇ」
松 岡「で、何を作ればいいんですか?」
竹 城「えっと、今日のメニューはスパゲッチーナポリタンとサラダだね」
井ノ原「あっ、俺ナポリタン大好きなんっすよ。特に喫茶店とかで銀のお皿にのっかって出てくる様なヤツ」
竹 城「あんたもそうけ〜? わだすもねぇ、あれ好きなんだ〜。あのちょっとベシャっとしたとこがね意外にうまいんだぁ〜」
松 岡「あんなもん食う奴の気が知れねぇな。歯ごたえも何もありゃしねぇ、ケチャップうどんじゃねぇか。麺はコシが命。シコシコしてねぇ麺は麺じゃねぇ」
井ノ原「でも、そこがいいんじゃない。あの安っぽさがたまんないんだよね」
竹 城「んだ、んだ」
井ノ原「なんか俺達、気があいますねぇ、アハハハハハ」
松 岡「やってらんねぇな。OK、それじゃ、先ず麺を茹でるとするか。で、パスタは?」
竹 城「はいよ」

 松岡、手渡されたパスタの袋を見て叫ぶ。

松 岡「なんだよ、『パパースパゲティ』じゃねぇか。『プイトーニ』はねぇのかよ?」
竹 城「なんだ、その『プイトー煮』つぅのは?」
松 岡「かぁ〜、そんな事も知らねぇのかよ。パスタと言ったらイタリアの『プイトーニ』に決まってんだろ。仕方ねぇなぁ、次、ケチャップ」
竹 城「はいよ」
 
 松岡、手渡された業務用特大ケチャップを見て再び叫ぶ。

松 岡「はぁ〜? 『カモメケチャップ』? 『パインツ』はねぇのかよ、『パインツ』は?」
竹 城「ぱいんつってのは知らねぇけど、りんご酢ならあるぞ」
松 岡「酢入れてどうすんだよ、酢入れて! んとにしょうがねぇなぁ。で、具はなんなんだ、具は?」
竹 城「はいよ」

 松岡、手渡された魚肉ソーセージを見てまたまた叫ぶ。

松 岡「『サルちゃんソーセージ』だぁ〜? こんなもん入れられっかよ! 俺のナポリタンはなぁ、最低でも『チャウエッセン』を使うんだよ!」
竹 城「んな事言われても、ねぇものはねぇし。それにピンクいソーセージの方が茶色いウインナーよりかわいいべ」
松 岡「これだから素人さんは困るんだよ。もういいよ、じゃ炒めるから油かして」
竹 城「はいよ」

 松岡、手渡された一升瓶入りの菜種油を見てもう一度叫ぶ。

松 岡「なっ、なたねあぶら〜? パスタに菜種油? んなもん使えっかよ。オリーブオイルじゃなきゃ俺ぁやだぜ」
竹 城「やだぜってあんた、あんたが嫌でもやってもらわにゃ子供ら腹すかせてんだから、困っぺ」
松 岡「絶対、やだ! 他は譲ってもこれだけはぜってー譲れねぇ。オリーブオイルを使わねぇパスタなんてパスタじゃねぇ、てやんでぃべらぼうめ!!」
竹 城「てやんでぃべらぼうめ、ってお兄ちゃん、もう一人のお兄ちゃん見てご覧よ。ちゃんとあるものでやってるでねぇか」

 見れば井ノ原、花歌まじりで楽しそうにスパゲティを製作中。

井ノ原「麺はこのくらいかな?」
 
 井ノ原、フライパンに麺を入れるがどう見ても入れ過ぎ。

井ノ原「ちょっと多かったかなぁ? まっ、いっか」

 続いて味付けにかかる井ノ原。

井ノ原「ケチャップをドバっと入れて、っと。アレ? ちょっと足りないなぁ…」

 井ノ原、目の前にあった『ダックスフンドソース』に手を伸ばす。

井ノ原「これでもいっか」

 井ノ原、ドバドバとソースを投入。

井ノ原「あ〜らよっと〜。ヘイ、お待ち! 一丁あがり〜!」

 井ノ原、器に茶色いスパゲティとも太麺焼きソバとも言えない物体をドッカと盛り付ける。
 松岡、それを見て絶叫する。。

松 岡「んなもん料理じゃねーーーー!」
井ノ原「でも、結構うまいよ」

 味見で口のまわりをテラテラに光らせた井ノ原が言う。

松 岡「もうこんな事やってられっか! 俺ぁ、降りたぜ。この勝負、おまえにやる!」

 言うなり、三角巾をかなぐり捨てて出て行く松岡。

竹 城「あんれまぁ。あんな髪の毛ツンツンにおっ立つ程怒るなんて、一体、何が気に入らなかったんだべ?」
井ノ原「さぁ〜?」

 果たしてこれは井ノ原の実力の勝利と言えるのか? 松岡の試合放棄により取り敢えず新たなる1勝をあげたVレンジャー。残るはあと1戦。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか? 行け、Vレンジャー。底抜けにアバウトな戦士たち!
(ところで松岡よ、坂本との約束を果たす為、練習用にパスタを持って帰った方が良かったんじゃないか?)

TO BE CONTINUED!


VレンジャーR・トップへ

メインのぺージへ