(by hongming)
ナレーション「光あるところに影がある。まこと栄光の影に数知れぬ忍者たちの姿があった。命をかけて宝を手に入れようとした若者たち。だが人よ、名を問うなかれ。敵を倒し、使命を果たす、それが武威連者のさだめなのだ」
網に覆われもがく井ノ原。
宙づりの森田、三宅、岡田。
嬉しそうにそれを見ているタイチ。
大袈裟「いやー、参った参った」
大袈裟が穴から這い出してくる。
タイチ「あれっ?」
井ノ原も、網を払いのけて立ち上がる。
井ノ原「よくもやってくれたな」
一歩下がるタイチ。
ぼきっ、と音がして、森田たちを包んだ網をつり下げた枝が折れる。地面に落ち、網から這い出す森田たち。
森田「いってえー」
驚いているタイチ。
三宅「ちゃんとした枝につけといてよ」
岡田「危ないやろ」
タイチを取り囲む武威連者。
タイチ「な、なんで……」
大袈裟「なんで、って、ただ穴が掘ってあるだけなんだもん」
井ノ原「網だって、ただ上から落ちてきただけだ」
岡田「あんさん、詰めが甘いんや」
森田「へー、あんたの爪って、甘いのか」
興味深そうにタイチの指先を見る森田。
三宅「(小声で)そういう意味じゃないよ」
タイチはびびるが、勇気を振り絞り、
「お前ら、トモヤに何をした!」
井ノ原「トモヤ?」
大袈裟「さっきのでかいやつだ」
タイチ「あいつ、俺が呼び止めても返事もしないでどんどん登っていってしまった」
岡田「単純なやつなんやなあ」
三宅「ちょっと気の毒みたい」
タイチ「トモヤに何をしたんだよ」
大袈裟「いや、別に何も。ただ、頂上まで競争しようかな、というようなことを言ったような気もしないではないな」
井ノ原「でも、あいつ、どうして落とし穴に落ちなかったんだろう」
タイチ「あいつの歩幅は普通の人間と違うから」
大袈裟「そんなことより」
一歩前に出る大袈裟。
大袈裟「いよいよ忍者らしい勝負のできる相手に出会ったようだな」
井ノ原「そうだな。さあ、勝負だ」
タイチを取り囲み、刀を抜いて構える五人。タイチの顔に恐怖の色が走る。そこへ、どこからともなく不気味な声。
「六つ、無理矢理ここまで来たぞ」
三宅「この声は」
岡田「またあいつや」
藪の中でガサリと足音。
「七つ、何度も繰り返すラブソング」
井ノ原「宣伝してやがる」
「八つ、やばいぞこの状況」
シゲばばあは、藪の中から出てくる様子はない。
森田「出て来いよ」
タイチ「助けに来てくれたんじゃないの」
シゲ「いや、ちょっと形勢が悪そうや」
岡田「なんちゅうやつや」
井ノ原「ええい、もう」
井ノ原が藪の中に入るが、シゲばばあの姿はない。
井ノ原「あの野郎、逃げやがった」
大袈裟たちも藪を見に来る。
大袈裟「逃げ足だけは早いな」
三宅「あれっ、さっきのやつもいない」
振り向くとタイチも消えている。
岡田「あいつも逃げよった」
大袈裟「ま、とにかく一件落着だ。行こう」
山道を登り始める五人。
山の麓。
小川の水で手を洗っているあい。
「気持ちいい! あっ、そうだ」
あいは、笹の葉をつみ、笹舟を作って流れに浮かべる。
「流れてく、流れてく」
山の頂上。
寝ている坂本とトモヤ。
そこに武威連者が姿を現す。
大袈裟「人がいる」
岡田「寝とるで」
井ノ原「一人はさっきのでかいやつだ」
三宅「もう一人は」
大袈裟「坂本くんだ」
井ノ原「何でくん付けなんだよ」
大袈裟「呼び捨てにはできないよ」
足音を忍ばせ、社(やしろ)に近づく五人。
大袈裟「(小声で)この中に宝があるはずだ」
そっと社の戸を開ける大袈裟。しかし、ギギーッと音がしてしまい、坂本が身を起こす。
坂本「あっ、お前ら」
井ノ原「動くな」
井ノ原は、刀を抜いて坂本に突きつける。トモヤは熟睡したまま。
大袈裟「悪いけど、宝は貰って行くよ」
大袈裟をにらみつける坂本。大袈裟は社から木の箱を取り出す。
森田「それが宝か」
三宅「開けてみようよ」
坂本「やめろ。もとに戻せ」
岡田「あんさん、中が何か知っとんのかいな」
坂本「いや、見たことはない」
岡田「なら、見たいやろ」
坂本「……見たい」
大袈裟「よし、じゃあ、開けるよ」
蓋を取る大袈裟。みんなが中をのぞき込む。
井ノ原「何だよ、これ」
井ノ原は、中に入っていた物を手に取る。それは、手のひらに載るような、オレンジ色のアヒル。
森田「何か他にねえのかよ」
皆で社をのぞき込むが、何もない。
坂本「これが宝?」
岡田「あんさんら、こんなもん守っとったんかいな」
坂本「……でも、お前らだってこれが欲しくて来たんだろう」
三宅「それはそうだけど」
大袈裟はアヒルをひっくり返しいろいろ調べているが、全く何の仕掛けもない。井ノ原がそれを取り、
井ノ原「何だ、こんなもの」
と、泉に投げつける。アヒルは水に浮かび、流れていく。
三宅「あっ、流れて行っちゃうよ」
井ノ原「あんなもの、いらねえだろう」
岡田「これからどうすんねん」
大袈裟「もう、美濃守のところに戻る気はしないな。坂本くんはどうするの」
坂本「俺は……。宝を守れなかった以上、真土城にはもどれない」
岡田「なら、俺らと一緒に行こうや」
森田「何でこいつと一緒になるんだよ」
岡田「何か、気が合いそうな気がするんや」
ちょっと気味が悪そうな顔をする坂本。
大袈裟「どうする。一緒に行くかい」
坂本「よし、一緒に行こう」
三宅「これからは俺たち六人組だね」
井ノ原「あいちゃんはどうする」
大袈裟「うーん。このまま戻らなければ、お城に、死んだと報告してくれるはずだ」
三宅「そっか。そのほうが都合がいいね」
森田「とっとと行こうぜ」
熟睡しているトモヤを置いて立ち去る六人。
山の麓。
小川で遊んでいるあい。そこにアヒルが流れてくる。
あい「あらっ、何かしら」
アヒルを手に取るあい。
あい「きゃあ、かわいー」
山の頂上。
熟睡しているトモヤ。シゲばばあの声が聞こえる。
「九つ、ここまで来てみたが」
姿を現すシゲばばあ。
「十でトモヤが寝てるだけ。これ、起きんかい」
シゲばばあはトモヤを揺り動かすが、起きる気配はない。
荒野を行く六人。笑顔でふざけあっている。
そこへ遠くから犬が一匹駆けてくる。
三宅「あ、犬だ」
笑顔で犬を迎え入れる三宅。
思井霧城。
美濃守と、その前に座っているあい。
美濃守「そうなの、みんな死んじゃったの。そりゃあ、気の毒なことをしたね」
あい「はい……」
あいの懐からアヒルがのぞく。
美濃守「あれっ、それ見せて」
アヒルを出してみせるあい。
美濃守「これだよ、これ。話に聞いた通りだ。いやー、手にはいるとは思わなかったな。ついにアヒル隊長はあたしのもんだ」
小躍りする美濃守。驚くあい。
美濃守「これが欲しかったのよ。みんなが死んだのは気の毒だったけど、これを持ってきてくれたから、何でもご褒美にあげるよ」
あい「えっ、そうなんですか。ありがとうございます! やったー!」
大喜びのあい。
犬の大群に追われている六人。
岡田「何でこうなるねん」
大袈裟「犬万だ」
井ノ原「あんたの仲間のせいだぞ」
坂本「お前らが間抜けだから犬万なんかにかかるんだ」
六人は草原の真ん中に立っている木によじ登る。根元から犬が上を向いて吠えかかる。
森田「お前、犬が好きなんだろ、何とかしろよ」
三宅「やだよー、こわいよー」
木を囲む犬の数は増え続け、草原を埋め尽くす。
六人「助けてくれー」
ナレーション「今日もまた、太陽は昇り川は流れる。こうして、一陣の風となって戦国の世を駆け抜けた武威連者の物語は終わりを告げた。次回からは現代に舞台を戻すはずのVレンジャーR。行け、Vレンジャー。これからどうなるかわからない戦士たち」
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