第13話 番外編・忍法五番勝負・3 「火の巻」

(by hongming)

ナレーション「しのびの世界には、何人も犯すことのできない掟がある。その掟を破るものにはただ死あるのみ。寒いギャグも、麺をすする音も、一瞬にして死の伴奏と変わるこの定め。これは、使命を果たすことに命をかけた若者たちの物語である」

 山の中の空き地。
 弁当を手にしたまま、互いに背中を見せあっている武威連者。
井ノ原「背中が冷たい」
森田「何か、背中にかけられたみたいだけど」
三宅「ちょっと濡れてる」
岡田「なんか、においがするで」
 五人は辺りを見回すが、人の気配はない。
大袈裟「何だったんだろう」
 五人はまた腰を下ろし、弁当を食べ始める。
 そこに、どこからともなく若い男の声がする。
「ちょっと待て」
 弁当を手にしたまま緊張する五人。
井ノ原「くそう、こんな時に」
 五人の前にタツヤが現れる。手には竹で作った水鉄砲。
タツヤ「かかったな」
森田「たしかに水がかかった」
三宅「(小声で)そういう意味じゃないよ」
 大袈裟は水鉄砲を指さし
「それで水をかけたのか」
 タツヤは水鉄砲を投げ捨てると、
「ああ。だが、ただの水じゃない」
井ノ原「お前の小便じゃねえだろうな」
三宅「やだよー、きたないよー」
タツヤ「そんなもんじゃねえ。俺様特製の犬万(いぬまん)だ」
大袈裟「犬万? しまった……」
 あたりを見回す大袈裟。
タツヤ「お前らは、じきに、犬に追いかけ回されることになるぞ」
三宅「犬なら平気だよ。大好きだもん」
大袈裟「いや、大変なことになる……」

ナレーション「説明しよう。犬万とは、犬を引きつける特殊なにおいを出す液体である。これをつけられた者は、においが消えるまであらゆる犬に追いかけ回され、犬が嫌いな人間は、死んだほうがまし、というような恐怖を味わうことになる」

 緊張して周りを見回す武威連者。
岡田「来いへんな」
森田「何が」
三宅「犬だよ。待ってるのに」
大袈裟「そもそも、こんな山の中に犬なんているのかなあ」
タツヤ「あ……」
井ノ原「何だよ、犬の用意もしねえで犬万使ってんのかよ」
タツヤ「そ、それは……」
 汗を拭くタツヤ。
井ノ原「ちっ、しょうがねえなあ」
 井ノ原は座り込んで弁当を食べ始める。他の四人もタツヤを無視して弁当を食べ始める。
タツヤ「ちょっと待て。俺が相手だ」
三宅「相手はいいんだけど」
岡田「俺ら弁当食うてるとこやねん」
大袈裟「悪いけど、ちょっと待ってくれ」
 むしゃむしゃ弁当を食る五人。
タツヤ「ちょっと待てよ」
井ノ原「俺たち、腹減ってんだから」
タツヤ「俺と戦え」
森田「食べ終わったら戦うよ」
タツヤ「俺だって腹は減ってる」
岡田「弁当は?」
タツヤ「ない」
岡田「そら気の毒やな」
 食べ続ける五人。
タツヤ「お前ら……。もう勘弁できねえ」
 刀を抜くタツヤ。
三宅「食事中の相手を斬るって、なんか卑怯だよね」
 タツヤの動きが止まる。
井ノ原「やっぱり、正々堂々と勝負する人間でいたいよな」
タツヤ「う……」
岡田「ほかのことに気を取られてる相手を倒しても、自慢にはならんやろ」
大袈裟「いくら忍者でも、やっていいことと悪いことがあるよね」
森田「人の食事の邪魔をするなんて、最低だよ」
 刀を構えたまま迷っているタツヤ。タツヤの腹がググーッと音を立てる。
井ノ原「よっぽど腹が減ってるんだな」
森田「弁当ぐらい自分で用意しておけよ。備えあればうれしいな、って言うだろ」
三宅「(小声で)うれいなし、だよ」
岡田「どうや、うまそうやろ」
 これみよがしに弁当を食べる五人。
タツヤ「てめえら、いい加減にしろ!」
 刀を構えて歩み寄るタツヤ。五人が慌てると、山道の下の方から声がする。
「待て待て待て」
 見ると、ドンブリを手にしたマボが登ってくる。
マボ「さあ、もう一度俺の羅王の術をくらえ」
 マボとタツヤに挟まれた五人。
大袈裟「しまった」
 刀を構えたタツヤが五人に斬りかかる。かろうじてかわすと、タツヤはそのまま五人の間をぬけ、マボの前に立つ。
マボ「タツヤ、どいてくれ」
 ドンブリを目にしたタツヤの顔色が変わる。
タツヤ「食わせろ」
マボ「何?」
タツヤ「その麺食わせろ」
 マボに襲いかかるタツヤ。
マボ「待て、ちょっと待て。これはあいつらを……」
マツヤ「うるさい。俺に食わせろ」
 慌てて逃げていくマボ。刀を振り回し、後を追うタツヤ。後に残された武威連者。
三宅「行っちゃったよ」
井ノ原「何なんだ、あいつら」
大袈裟「今のうちに進もう」
 五人は大急ぎで弁当を掻き込み、歩き出す。

 山の麓。
 あいは木陰で昼寝している。

 山の頂上。
 社(やしろ)のそばに坂本が坐っている。手には大きなヒョウタンと茶碗。茶碗にヒョウタンの酒をつぎ、ぐいっとあおる。
坂本「ぷはーっ。うめえ。あいつら、ここまで来るかなあ」
 また酒をついであおる。

 山道。汗をかいて登る武威連者。前でガサガサッと音がする。
大袈裟「来たぞ」
 立ち止まる五人。藪の向こうから声が聞こえる。
「四つ、ようやくここまで来たが」
三宅「あれっ、この声」
「五つ。今からでも逃げた方がええで」
森田「またあいつだよ」
井ノ原「その先は俺が言ってやる。六つ、無視して先に行こう、だ」
 歩き出す五人。しかしその前にシゲばばあが現れて道を塞ぐ。
井ノ原「何だよ。やる気かよ」
シゲ「もちろんやる気よ、気になる木よ」
井ノ原「何言ってんだ」
シゲ「おっと、短気は損気や、わしゃ呑気」
井ノ原「いいかげんにしろ」
シゲ「今度こそ、わしの術を見せたるわい」
井ノ原「うるせえ、そこをどけ」
大袈裟「やめろ、相手になるな」
シゲ「フッフッフッフ。怖いか」
大袈裟「怖いんじゃなくて、困ってるんだよ」
岡田「年寄り相手に本気になってられるかいな」
シゲ「何が年寄りじゃ。バカにするな。こう見えてもまだ三十前やぞ」
 驚く五人。
森田「うっそー」
三宅「何でそんなに老けてんだよ」
シゲ「これはな、厳しい修行を積んだからじゃ。あまりにも修行が厳しすぎて、見た目が老けてしまったのよ」
岡田「普通の修行に耐えられなかっただけやないんか」
シゲ「うるさいわい。よし、わしの術を見せたる。修行の成果をとくと見ろ」
森田「トクって誰だ。誰と一緒に見ろって言ってるんだ」
三宅「(小声で)人の名前じゃないよ。しっかり見ろって言ってるんだよ」
シゲ「まずは分身の術!」
大袈裟「まさか」
井ノ原「あんな年寄りが」
岡田「できるわけないやろ」
 シゲばばあは、ジロッと岡田をにらむと、印を結ぶ。五人は身構える。
シゲ「えいっ!」
 声とともに手から光るものが飛び、岡田の額に命中してカキーンと音を立てる。
岡田「いったあー」
 額を押さえる岡田。
井ノ原「お前のおでこは金物でできてるのか」
シゲ「どうや」
森田「分身してねえじゃねえか」
シゲ「よくそれを見い」
 地面に落ちたものを見ると、細くて四角い金属棒。
シゲ「文鎮の術や」
 力が抜ける五人。
三宅「もっとましな術ないの?」
シゲ「ようし。次は姿を消して見せるで」
森田「逃げんのかよ」
シゲ「逃げるわけないやろ。わしの術を見せるだけや」
大袈裟「今度は何?」
シゲ「火遁(かとん)の術や」
 そう言いながら、シゲばばあは藪の中に手を伸ばし、何か出そうとする。
井ノ原「きっとフトンが出てくるんだぜ」
 シゲばばあの動きが止まる。
三宅「どうしたの、早くやってよ」
 シゲばばあはちょっと困るが、
「やったるわい。今、火を起こすよって、ちょっと待っとれ」
 シゲばばあは懐から火打ち石を出し、打ち合わせて火を起こそうとする。五人はしばらく見ていたが、一向に火が起きる様子はない。
井ノ原「行こうぜ」
森田「ああ、行こう行こう」
 歩き始める五人。
シゲ「ちょ、ちょっと待て」
岡田「俺ら、忙しいねん」
シゲ「頼む、頼むから、待ってくれ」
 無視して遠ざかる五人。茫然と見送るシゲばばあ。

ナレーション「ちっとも忍者らしくない敵に困惑する武威連者。しかし、頂上まではまだまだ遠い。行け、武威連者、かっこいいところを見せる機会があるかもしれないぞ」

TO BE CONTINUED!


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