(by hongming)
ナレーション「山を飛び谷を越え、鉄腕山にやってきた、武威連者(ぶいれんじゃ)がやってきた。ついに最初の敵に遭遇した武威連者は、死闘の予感に襲われていた。これは、戦国の世に命を燃やした若者たちの戦いの記録である」
山道。緊張した面もちで身を寄せ合う武威連者。
森田「出てこい」
三宅「隠れてるなんてずるいぞ」
井ノ原「(小声で)忍者なんだから、ずるいも何もないだろう」
近くの藪でガサガサッとという音がする。さらに身を寄せあう五人。自分が人の後ろになろうとして位置を争う。
藪の中でガサリと足音がして、声が聞こえる。
「一つ、人より老け顔で」
またガサリと足音。
「二つ、ふざけた駄洒落三昧」
またガサリと足音。一歩さがる武威連者。
「三つ、見事な笑いの渦を」
また足音がして、藪から出てきた足元だけが映る。
「咲かしてみしょう、シゲばばあ」
現れたのは皺だらけの老婆。シゲばばあは、思いっきり見得を切る。力が抜ける武威連者。
森田「敵にも女がいるって言ったのは……」
大袈裟「これだ」
井ノ原「ちょっと期待してたのに……」
岡田「やってられんわ」
三宅「こんなのほっといて行こうよ」
森田「ああ、行こう行こう」
シゲばばあを無視して歩き出す五人。
シゲ「ちょっと待て」
井ノ原「俺たちは忙しいんだよ」
シゲ「お前ら、頂上の宝を狙っとんのやろ」
森田「そうだよ。じゃあな」
振り向きもせずに歩いていく武威連者。追いすがるシゲばばあ。
シゲ「なら、わしを倒して行かんかい」
三宅「お年寄り相手に戦っていられないよ」
早足に立ち去ろうとする武威連者。息を切らせながら後を追うシゲばばあ。
シゲ「ちょ、ちょっと待て。頼む、待ってくれ……」
岡田「だから何やねん」
シゲ「わ、わしを倒してから」
大袈裟「変わらないねえ、昔から」
シゲ「お、お前、長野やんけ。何やねんその格好は」
大袈裟「おいおい、勝手に本名ばらすなよ。急いでるんだから、行くよ」
さらに足を早める五人。シゲばばあは必死に追いすがる。
シゲ「わ、わしを倒して……倒してから……」
井ノ原はうんざりした顔で立ち止まり、振り返る。
井ノ原「わかった。倒す、倒しゃあいいんだろ」
シゲばばに歩み寄る井ノ原。シゲばばあが身構えると、井ノ原はその額を指で突く。簡単に倒され、山道を転がり落ちていくシゲばばあ。
井ノ原「よし、倒した。もういいだろう」
山道を急ぐ五人。
シゲばばあはしばらく転がり落ち、木に当たって止まる。ヨロヨロと立ち上がるシゲばばあ。
シゲ「あ、あいつら。許すさんぞ……」
怒りに身を震わせる。
空から照りつける太陽。
草原で花を摘んでいるあい。
あい「暑くなってきちゃった。こんなとこいたら日焼けしちゃうわ」
花を手に木陰に行くあい。
山道を登る武威連者。
パチパチという木が燃える音がする。立ち止まる五人。煙が流れてくる。
大袈裟「煙だ」
井ノ原「火攻めか」
三宅「やだよー。怖いよー」
しかし、炎は見えない。
大袈裟「とにかく進もう」
そろそろと歩いていくと、空き地があり、焚き火にあたっている男の背中が見える。
五人がその後ろに立つと、そこにいた男・マボがゆっくりと振り向く。
マボ「待ってたぜ」
森田「お前も一味か」
立ち上がるマボ。
マボ「お前らがここへ来たということは、こっちは、もう、一人やられちまったようだな」
井ノ原「いや、やったとかやられたとかそういう問題じゃなかった」
岡田「さっきのは一体何やねん」
三宅「お前もあいつと同じか」
マボ「同じと言えば同じだが……」
森田「じゃ、行こうぜ」
歩き出す五人。慌てるマボ。
マボ「ちょっと待て」
井ノ原「俺たち忙しいんだから」
マボ「俺が相手だ」
森田「わけわかんねえ奴の相手なんかしてらんねえんだよ」
三宅「いいよ、相手しなくて」
マボ「待てよ」
岡田「相手するのはさっきので充分や」
井ノ原「どうせお前もさっきのと同じなんだろ」
マボ「違う! 俺は違う!」
森田「何が違うんだよ」
岡田「仲間なんやろ」
言葉に詰まるマボ。
大袈裟「じゃ、そういうことで」
歩き出す五人。マボの形相が変わる。
マボ「待て! 俺を本気にさせたな」
声の調子が変わったので立ち止まる五人。
マボ「ようし、俺の得意技を見せてやろう」
マボは焚き火に歩み寄ると、火にかけていたやかんを手にする。
大袈裟「気を付けろ」
緊張して身構える武威連者。
マボは近くにあったドンブリにお湯をそそぐ。
井ノ原「何が出て来るんだ」
マボはニヤリと笑い、
「さあ、俺の秘技、羅王の術をくらえ」
マボはドンブリを持ったまま立っている。
森田「何も起こらないみたいだけど」
マボ「まあ、待て。三分だけ待て」
三宅「待ってられないよ」
岡田「行こ、行こ」
歩き出す五人。マボはドンブリを持ったままついてくる。
岡田「あいつ、ついてきよるで」
三宅「気味わりー」
五人は努めて無視して歩く。三分立つと、マボの表情の凄みが増し、懐から箸を出してドンブリの麺を食べ始める。その音に振り返る五人。
大袈裟「あ、あれは……」
井ノ原「なんか食ってるな」
大袈裟「なんてうまそうなんだ……」
フラフラとマボの方へ歩き出す大袈裟。
井ノ原「どうしたんだ」
大袈裟「その麺……。その麺食わせろ……」
ニヤリと笑うマボ。ますます大きな音を立てて麺をすする。
森田「何か腹減ってきた」
岡田「ほんまや。もうたまらん」
麺をすするマボ。
三宅「食べたいよー」
井ノ原「く、くそう。ものすごくうまそうだ」
皆、ふらふらとマボの方へ歩み寄る。大袈裟はすでに放心状態。マボの足元にひれ伏している。
大袈裟「その麺食わせろ……」
マボ「はっはっはっは。かかったな。どうだ。俺に逆らえまい」
麺をすするマボ。唾を呑む五人。
マボはニヤニヤしながら麺をすすり、麺が無くなると音を立てて汁を飲む。
大袈裟「あ、あ、あ、麺が……麺が……」
マボはドンブリを傾けて汁を飲み終わると、ドンブリを逆さまにして空になったことを示す。
マボ「あーうまかった」
とたんにしゃんとなる武威連者。
大袈裟「あれっ、どうしたんだろう」
井ノ原「俺たち、どうしてたんだ」
三宅「麺がなくなったら平気になった」
慌てるマボ。
マボ「しまった。よし、もう一杯だ」
マボは焚き火の所に駆け戻り、ドンブリに新しい麺を入れてお湯をそそぐ。
岡田「あれや、あの麺があると引きつけられるんや」
井ノ原「今のうちに遠くへ行こう」
走り出す武威連者。マボはそれを見て慌ててドンブリを取り落とし、足にお湯がかかる。
マボ「アチチッ」
跳び上がるマボ。走り去る武威連者。
山の麓。木陰のあい。
あい「お腹すいちゃった」
弁当を出して食べ始める。
山の中。空き地にへたり込む武威連者。
井ノ原「疲れた」
森田「腹減ったあ」
三宅「お弁当にしようよ」
五人はまるくなって坐り、懐から弁当を出す。
大袈裟「それにしても、さっきの麺、うまそうだったなあ」
井ノ原「あんた、麺に弱いみたいだね」
大袈裟「ああ。世の中に麺ほどうまいものはないと思うよ」
井ノ原「うひゃっ」
突然、井ノ原が立ち上がる。
大袈裟「どうした」
井ノ原「せ、背中が……」
森田「うひょ」
岡田「うわっ」
三宅「きゃあ」
次々に立ち上がる武威連者。
大袈裟「うわっ、やられた」
ナレーション「敵は次々に襲いかかってくる。一瞬たりとも気を抜くことはできない。がんばれ武威連者。せめて弁当だけでも守り抜け」
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