第11話 番外編・忍法五番勝負・1 「地の巻」

(by hongming)

(ナレーション)「次々に新展開を見せる「Vレンジャー」。「R」がついた今でもその体質は変わらない。何と、今回は、時を超え空間を越え、戦国の世を舞台として過去の因縁が語られることとなった。これは、正義と友情に命をかけた若者たちの物語である、はずだったんだが……」

 丘の上に立つ城郭。
字幕「思井霧城(おもいきりじょう)」

 城の中。広間。ふんぞり返っている城主。
字幕「城主・美濃守(みののかみ)」

「参上つかまつりました」
 どこからともなく声がして、キョロキョロする美濃守ら。
美濃守「どこだ」
「こちらです」
 見上げると、天井から大袈裟が顔を見せている。下向きになっているので、髪が逆立った格好。驚く美濃守や家来たち。
美濃守「いつの間に……。さすがだな。降りてこい」
大袈裟「では、梯子をご用意願います」
美濃守「飛び降りればよいではないか」
大袈裟「こんな高いところから飛び降りたら、ケガしちゃいますよ」
 苦い顔の美濃守。近くの家来に顎をしゃくり、梯子を用意させる。こわごわ梯子を降りてくる大袈裟。頭は大袈裟だが、体は忍者の格好。
 大袈裟は美濃守の前に膝をつき、
「お呼びでございますか」
美濃守「呼んだから来たんじゃないの」
大袈裟「それはそうですが……」
美濃守「実はね、頼みがあるのよ」
大袈裟「何なりとお申し付けください」
美濃守「指南車って知ってる?」
大袈裟「指南車? あの、常に南を示すという……」
美濃守「そう、それ」

 映像。車の台に、片手を前に伸ばした格好の人形が乗せてある。。
ナレーション「説明しよう。指南車とは、磁石を使うことなく、歯車を組み合わせて、車が向きを変えても人形は常に南を指さすように工夫したものである。これを用いれば、たとえ霧にまかれようと道に迷うことがないというお役立ちグッズである」

美濃守「で、ね、それよりすごいのがあるんだって」
大袈裟「どのように」
美濃守「指南車だったら、今は磁石で簡単にできるのよ。ところがね、方角に関係なく水の上で道を教えてくれるのがあるっていうのよ」
大袈裟「水の上で?」
美濃守「そう。いつも南を示すっていうんならあたしも驚かない。でもね、方角は関係ないっていうんだからすごいじゃない」
大袈裟「はあ」
美濃守「そこで、だ。それを手に入れて欲しいのよ」
大袈裟「なるほど。で、それはいずこに」
美濃守「何でもね、鉄腕山の頂上にあるんだって」
大袈裟「鉄腕山……」
美濃守「そう。あそこ。敵の本拠地なのよ。だからこそ欲しいのよ。いろいろあるだろうけど、やってくれるかな」
大袈裟「もしお断り申し上げれば……」
美濃守「ま、縁もこれまでってことだよね」
大袈裟「分かりました。その仕事、お引き受け申す。我ら武威連者(ぶいれんじゃ)にお任せください」
美濃守「おつ、頼もしいね。そうこうなくっちゃ。頼んだよ」
 平伏する大袈裟。

 鉄腕山の遠景。カメラが引くと、離れたところに城があるのが映る。カメラはその城に寄っていく。
字幕「真土城(まつちじょう)」

 城の中。広間。城主の近藤と、その前に控える坂本。
近藤「例の物の噂が広まっておるようじゃ。警護にぬかりはあるまいな」
坂本「はっ。あの五人が山を固めております」
近藤「あの五人、何と言ったかな。脱線組とか……」
坂本「奪首党でございます」
近藤「そうそう、そうだったな。ともあれ、世に二つとない宝じゃ。何としても子々孫々に伝えねばならぬ」
坂本「一体どのような物なのでしょうか」
近藤「それは誰にも言えぬ。そなたも、あの宝に関することは一切口外無用じゃ。分かっておるな」
坂本「はっ」

 山の頂上。小さな社(やしろ)がある。
 そばには泉がこんこんと湧いていて、小さな流れを作っている。

 山の麓。草むらに潜む六人の人影。大袈裟を中心に、井ノ原、森田、三宅、岡田、あいが円くなっている。それぞれ忍者の格好。あいはミニのワンピースのような衣裳に編みタイツ。
大袈裟「この山だ。頂上に宝がある」
井ノ原「どうってことねえ山じゃねえか」
大袈裟「しかし、手強いのが宝を守っているんだ」
森田「知ってるやつなのか」
大袈裟「ああ……。向こうの頭領はよく知っている。その配下も一緒に仕事をしたこともある」
あい「じゃあ、友達じゃないの」
大袈裟「友だろうが親だろうが、敵味方に分かれれば容赦はしない。それが忍びだ。我ら武威連者も非情の世界に生きているんだから」
井ノ原「おっ、非情、いいね。かっこいいよな」
森田「強いやつとやるのは楽しみだな」
三宅「なんか怖いよー」
岡田「こっちは女もおるけど、大丈夫やろか」
あい「何よ、あたしをバカにしてるの?」
岡田「そ、そうやない。ただ、あいちゃんが危ない目にあわんようにと思って」
あい「あら、ありがとう。あたしのことみんなで守ってね」
 顔を見合わせるほかの五人。
井ノ原「向こうは男ばかりか」
大袈裟「いや、一人女がいる」
森田「おっ、こっちと同じだ」
井ノ原「その女って、見た感じどうよ。かわいい? いくつぐらい?」
大袈裟「それは……。戦ってみれば分かるよ。とにかく、狙いは頂上の宝一つ。必ず誰か一人は生き残り、それを持って帰るんだ」
 無言で頷く五人。
 そして、あたりの様子をうかがい、草むらから出ようとした時、
「きゃあっ」
と、あいが悲鳴を上げる。緊張するほかの五人。
大袈裟「どうしたっ」
あい「虫、ムシーッ」
 あいが指さしたところに、大きな芋虫。
井ノ原「だから何なんだよ」
あい「だって、こんなに大きいんだもん」
森田「これから山に入るんだからさ、虫ぐらいで騒ぐなよ」
岡田「山に入れば、虫どろこか蛇だっておるで」
あい「そんなのやだあ」
三宅「やだって、仕事なんだから」
あい「いやっ! 絶対いやっ! あたし帰る」
 顔を見合わせるほかの五人。大袈裟はため息をつき、
「分かった。無理に連れて行って足手まといになられても困る。ここで待ってろ。もし、いくら待っても我々が降りてこなかったら、みんな死んだと殿様に伝えてくれ」
 頷くあい。
井ノ原「なんか、俺たちかっこいいな」
 悲壮感に酔う五人。
あい「がんばってね。応援してるから」
 あいに見送られ、山へ向かう五人。

 山の中腹。木の間から麓を見下ろしている坂本。
 気を配りながら山の登り口に向かう武威連者の姿が、上からは丸見え。
坂本「ふっふっふっふ。来たな。飛んで火にいる夏の虫とはお前らのことだ」

 山の中に入った五人。固まってあたりの様子をうかがう。
井ノ原「どうする。散るか」
大袈裟「いや、敵は一人ずつでてくるはずだ。一緒にいた方が有利だ」
森田「何で一人ずつ来るって分かるんだよ」
大袈裟「その方が、一人一人が目立てるからだ」
三宅「目立つのが目的なの?」
大袈裟「彼らは、組んでも強いが、バラ売りで顔を売って今のところまで登り詰めたんだ」
岡田「なるほど。俺らも見習わなあかんな」
三宅「いつも一緒じゃ、息が詰まることもあるよね」
森田「そうそう。ほっといてくれよって言いたくなる相手もいるし」
井ノ原「何だよ、誰のことだよ」
大袈裟「とにかく行こう。頂上を目指すんだ」
 山道を登り始める五人。

 山の麓。楽しそうに花を摘んでいるあい。

 山の中。
大袈裟「そろそろ出てきそうだな」
井ノ原「なぜわかる」
大袈裟「出てこないと話にならない」
岡田「そらそうやな」
 そのとたん、どこからともなく不気味な笑い声が聞こえる。
「フッフッフッフッフ……」
 五人の顔に緊張が走り、身を寄せ合う。

ナレーション「ついに最初の敵が現れた。その敵は奪首党か、あるいはいきなり坂本か。忍びと忍びの秘術を尽くした戦いの火蓋が、今や切って落とされようとしていた。行け、武威連者。風雲急を告げる時代に生きる戦士たち」

TO BE CONTINUED!


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