リトル・アイドル |
〜望羽の冒険〜
![]() そう、GOGO6とは、略して「ゴーロク」と呼ばれている、日本で、いや、今やアジア各地で大人気の、スーパーアイドル6人組です。 これは、その「GOGO6」のメンバーのひとりに起こった、不思議なできごとのお話です。 |
「リトル・アイドル」第1回 |
ドンドンとうるさく、ホテルのドアが叩かれた。 それは、GOGO6メンバーのひとり、モーくん、こと狐狸田望羽(こりた・もう)の泊まる部屋のドアだった。 「モーくん、モーくん!」 「……んだよ、マネージャーか。いつもうるせえなあ」 半裸のままベットで寝ていた望羽は面倒そうに寝返りを打つと、頭から毛布をかぶった。 「モーくん、早く起きて! 今日はGOGO67周年記念のファン感謝デーじゃないか。写真撮影会が始まっちゃうよ! ファンの皆さんはもう部屋に集まってるんだよ。早くしないと遅刻だよ!」 しかし、望羽はベッドの中で目をつぶったまま、寝言みたいにぶつぶつとつぶやいた。 「……こっちは眠いんだよ。さっき寝たばっかなんだよ。もうちょっと寝かせろよ……」 望羽はもともと寝起きが悪い。 そのうえここしばらく、バラエティのロケだの取材だのアジアでのコンサートだの、あげくにはサーカスの曲芸まで、毎日毎日朝から晩まで仕事ばかりが続いていた。 「望羽くん! 起きてくれ! みんな君を待ってるんだよ! きみはみんなのアイドルじゃないか!」 「……ほんとにうるせえなあ。ああ、オレ、アイドルなんてどうでもいい。どうでもいいから、あと5分だけは絶対寝るぞ……」 そしてまた、望羽は深い眠りの世界に入っていったのだった。 しばらくして、望羽はハッと目を覚ました。 窓の外から鳥の声が聞こえた。いつもなら、チチチ、とかピピピとかいうかわいい声なのだが、なんだか今日は、ギャアギャアとずいぶん凶暴そうな声で鳴いている。 「あ、オレ、寝てたのか」 怖い夢を見ていたらしい。額に汗をかいている。 「あれ?」 望羽はベッドから身を起こした。 「ここ、どこだ?」 望羽はキョロキョロとあたりを見回した。気がつくと、やけに白い、広い部屋に寝ていたのだ。 「なんだあ、ここ」 望羽は立ち上がった。部屋中に、見渡す限り白い布が敷き詰められている。まるで海のように。しかし、ぐるりとあたりを見回すと、なんだか見たことのある場所なような気もするのだった。 そのとき、ガチャっとドアを開く音がした。 そして、どしんどしんという音と共に、マネージャーの声がした。 「望羽くんがいつまでも起きてこないから、悪いけどマスターキーで開けさせてもらったよ。もう時間ぎりぎりなんだ。どうしても起きてもらわないと」 どういうわけか、いつも気弱なマネージャーの声が、今は、望羽の頭にがんがん響くような大声だった。望羽はびっくりして、おもわず白い布をつかみ、その下に身を隠した。 「望羽くん、起きてよお!!」 割れるような大声と共に、すごい勢いで望羽の上の白い大きな布がめくられた。望羽はそのとき起こった風で空中に吹き飛ばされそうになったが、どうにか白い布の端をつかんでぶらさがった。 なにが起こったかわからずに上を見上げた望羽は、びっくりして声を失った。 そこにあったのは大男の顔。よく見れば、おそろしく巨大なマネージャーの顔だった。 巨大なマネージャーは、布のはしにいる望羽には気づかず、首を傾げた。 「あれ、望羽くんがいない。どうしちゃったんだろうなあ……」 マネージャーはそう言い、後ろを向いて、向こうに歩いていった。 マネージャーは窓を開けてみた。 「まさか、ここから逃げた、ってことはないよなあ。……あっ」 マネージャーが驚いた声をあげた。窓から、鳥が一羽、サーッと部屋に飛び込んできたのだ。 鳥は、シーツをつかんでぶらさがっている望羽を見つけると、ひょいっとくわえた。 「こ、こらっ。出てけ」 マネージャーが追い払うと、鳥は望羽をくわえたまま、窓から外に飛び出してしまった。 鳥が飛び去るのを見て、マネージャーは不思議そうに言った。 「今の鳥、なにかくわえてたみたいだったけど、部屋に虫でもいたのかな?」 しかし、マネージャーはすぐに、もっと重要なことを思い出して、叫んだ。 「たいへんだ! 望羽くんがいなくなった!」 鳥は、望羽をくわえたまま空中を飛んでいた。 「これって夢か……!?」 望羽は思わず自分のほっぺたをつねった。 「痛い! でも、嘘だろ。こんなことありえないよ……!」 そうは言ってもこれは現実に起こっているのだ。小鳥がくわえているパンツが脱げそうになって、望羽は必死でパンツを押さえた。 ホテルの庭の植え込みの影で、鳥は望羽を地面におろした。 「ふえ〜、助かった!」 望羽がへたりこみながらふと上を見ると、自分を見ている鳥と目と目が合った。 「……!」 こ、こわい! 望羽は切実にそう思った。……こいつ、オレを食おうとしてる! 「く、くんな! あっち行け!」 望羽は座ったままあとずさりしながら、手に触った砂粒を鳥に投げつけた。餌の虫にこんなことをされるのははじめてらしく、鳥はちょっと不思議そうに小首を傾けて望羽を見た。 そのとき、どこからか、声が聞こえた。 「ほんまに望羽くん、仕事が面倒で逃げだしたんかなあ?」 GOGO6のメンバーのひとり、岡市准太の声だった。 「ファンの子達に見つからないようにいそいで望羽を探せって言われたってさあ」 そう言うのは、これもGOGO6のメンバー、毛宅(けやけ)ミンだった。ミンの声はすごくよく通って、はっきり聞こえた。望羽は、准太とミンといっしょに、「GOGO6」の中で「チャーミー3」というユニットを作っていた。 「望羽くん、みんなを困らせんと出てきて! 今なら間に合うで!」 望羽のいる方に向かって、准太が叫んだ。 「ジュンタ! ミン!」 望羽は必死で叫んだ。 「オレはここだ! 早く助けろ! 鳥に食われる!」 「ん?」 准太は足を止めた。 「ミンくん、今、望羽くんの声が聞こえへんかった?」 准太にそう言われて、ミンは足を止め、耳を澄ませた。 「……なにも聞こえないよ」 「そうかあ」 「望羽ってチビだからなー。隠れようと思ったらどこにでも隠れられるからな」 ミンのヤツ、そういうこと言うか! おまえだってオレとどっこいどっこいのチビの癖に! と思ってから、望羽ははっと我に返った。今の自分はチビもチビ。ミンどころか、幼稚園生にチビと言われてもなにも言い返せないチビなのだ。 そのとき、また、新たな声が三つ聞こえた。 「おーい、准太、ミン」 「どうだった?」 「望羽のヤツ、見つかったか?」 それは、GOGO6の残りの3人、昌本坂行、博野長史、よし原井ノ彦の声だった。 チャーミー3の3人はみんな22,3才だが、こっちの3人はみな30歳前後で、少年ぽさが売り物のチャーミー3に対して、「セクシー3」というユニットを作り、大人の雰囲気で売っていた。そして、ここだけの話だが、来月「チャーミー3」がCDアルバムを出すのに対抗して、「セクシー3」のほうは、セミヌード写真集を作る計画が持ち上がっていた。 「全然みつかんないよ」 「そうか……。こんなにあちこち探してもいないなんておかしいな」 「望羽くん、いったいどこに行ったんやろ」 准太の声が心配そうになる。 しかし、リーダーである昌本は、みなの不安をうち切るように、 「よし、とにかく一度戻って、ファンには望羽は急病だと説明しよう」 「それしかないね」 博野がうなずいた。 「とりあえず写真撮影会は5人でなんとか切り抜けよう。そのあとは、昼のテレビ中継までちょっと時間がある。その間にまた探そう。まあ、いくら望羽でも、テレビに出るまでには自分で戻ってくると思うが」 「あいつはちょっと甘えすぎだよ。帰ってきたらこっぴどくしぼってやるぞ」 そう言ったのはよし原だった。 「そんなこと言うなよ。望羽は特別忙しかったから疲れてるんだよ」 そう言ったのはミンだった。 「とにかく戻るぞ」 「うん」 「わかった」 ミン、准太、昌本、博野、よし原の5人は、うなずきあうと、連れだって去って行った。 しかし、5人に向かって「オレはここだ」と叫ぶ余裕は、望羽にはなくなっていた。鳥は、望羽をおもしろいオモチャだと思ったのか、さっきから、しきりにくちばしで望羽をつつこうとしていた。 「や、やめろ〜」 望羽は必死に動いてくちばしを避けた。しかし、鳥は余計おもしろがってしまった。鳥は望羽を追いつめて、何度も望羽をつついた。 「痛てー……」 倒れた望羽が振り向くと、大きく開いた鳥の口が目の前に迫っていた。鳥はこの遊びにも飽きて、とうとう望羽を食べることにしたらしい。 「……もうだめだ……」 望羽が覚悟した、そのとき。 「わー、広い庭!」 近くから人の声が聞こえた。それと共に、鳥は翼を広げて、バサバサっと空に舞い上がっていった。あっという間だった。 誰かが走ってくる。見ると、小学生になったばかりくらいの男の子だった。 ほっとした望羽は、ぼうっとして動く気力も湧かなかった。子どもはまっすぐこっちに走ってくる。 そして、望羽の目の前で、太い2本の木みたいな子どもの足が止まった。望羽はぼんやりとそれを見た。 上の方から手が伸びてきて、望羽を柔らかくつかんだ。つまみあげた望羽を、男の子はマジマジと眺めた。望羽の方も男の子を見返した。すごく大きいけれど、やさしそうな男の子だった。 「まるで人間みたい……」 望羽を見て、男の子がつぶやいた。 そのとき、うしろから、怒った女の人の声が聞こえた。 「マサル!」 男の子はビクッとして、あわてて望羽を自分のポケットに入れた。 「マサル、ひとりで勝手にこんなところに来ちゃだめじゃない。ミチコ叔母ちゃんの結婚式は向こうよ」 「ママ、今、僕、みつけたんだ。とっても小さい……」 「なあにい?」 マサルのお母さんはものすごく嫌な顔をした。 「まさか、虫じゃないでしょうね。虫なんかつかまえたりしちゃ絶対にいやよ。お母さんは虫が大嫌いなんだから!!」 「……う、うん……」 「さ、結婚式がはじまっちゃうわ。ユカリちゃん達はもう席に着いてるわ。早く行かないと!」 マサルの母親は、乱暴にマサルの腕をつかむと、ホテルの庭をずんずんと歩き出した。 |
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(2002.11.27 hirune) |
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