剛とじゅんが峠を全部越え、市に着いたときは、すでに日はかなり上り、市は人々のざわめきに包まれていた。
ふたりは手頃な場所で荷を降ろし、持ってきたむしろに売り物を広げた。
しばらくすると、剛の店を見つけ、多少金のありそうな老人や田舎の商人が、ぼちぼちと薬草を品定めに来た。剛は、客たちが品定めをするのを黙って眺め、尋ねられると手慣れたようすで薬草の売値を言った。
うまく話がまとまって、はじめての客が金を出そうとする間に、剛は、どうしていいかわからずに後ろで黙っているじゅんの方にちらっと目をやった。
剛の顔を見て、じゅんは、自分が客に尋ねなければならない時が来たのに気がついた。だが、口を開いてみて、じゅんは、自分がなにをどう尋ねればいいのかわからないことに気がついた。
剛が、舌打ちしそうな顔をする。だがじゅんは、客に「オレの素性を知っているか」と尋ねることが、どうしてもできなかった。
じゅんがためらっている間に、しびれをきらした剛の方が、乱暴に客に尋ねた。
「お客さん。こいつの顔に見覚えねえかな」
言われて、客は驚いたようにじゅんの顔をじろじろと見る。
「こいつ、秋に山で崖から落ちて、それから自分の家さえわからなくなっちまってるんだ」
剛が言うと、客はさらに、珍しいものを見るようにじろじろとじゅんを見た。
「名前は? なんていうんだ?」
「それもわからねえ。ただひとつ、自分で”じゅん”って名前は思い出したんで、オレらはそう呼んでるけどな。それがほんとうにこいつの名前かどうかもわからねえ」
「じゅん、か」
客はちょっと考えたが、結局頭を横に振った。
「さあてな、見たこともねえし、そんな名前も聞いたことはない。山で行方知れずになった者の話を聞いたこともねえな」
「……そうかい。……じゃあ、ありがとよ」
客は最後にもう一度じゅんをまじまじと見て、立ち去った。じゅんは顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
客がいなくなると、剛はじゅんに嫌な声で怒鳴った。
「自分の素性が知りたいんだってあんなに言い張ったのは、どこのどいつだ。てめえのことはてめえで聞け。オレに手間をかけさせるな」
「……すまぬ」
じゅんは、うちしおれて剛に謝った。
そう言っている間にも、また客がやって来た。
とうとう、じゅんは黙って座り、剛がいつも、客にじゅんの素性を尋ねることになった。
剛はだんだん慣れてきて、話に尾鰭がついてきた。
「どうやらこいつ、神隠しにでもあって、山に置き去られたらしい。そうこうするうち崖から落ちて、それからはいい歳して親兄弟の顔さえも覚えちゃいないんだとよ。わかってるのは、”じゅん”って名前だけだ。……オレかい? オレはjこいつとなんの関係もねえけどよ。あんまりかわいそうなんでこうして人の集まるところに連れて来て身寄りを捜してやってるのさ。奇特だろう」
じゅんは思わず剛をにらんだが、剛はにやにやするだけである。だが、どうしても自分から、客に声をかけることの出来ないじゅんは、黙ってそれを我慢するしかなかった。
話を聞いた人間が、よその店でじゅんの話をしたらしく、行方不明の身寄りがいると言って、わざわざじゅんを見に来る人間が、何人かあったが、どれもじゅんは全く別人だった。じゅんはなんとなくほっとした。
市はなかなかのにぎわいだった。むしろ一枚の店がずらっと並び、それを見たりひやかしたりする客たちで通路がごった返している。
いつしか日は高く昇り、ふたりがかついできた薬草の束や、作りためたのを持ってきた箕は、順調に売れていった。だが、じゅんの身寄りはみつからなかった。
昼が過ぎてしばらくした頃、市に異変が起きた。
荒くれた男たちの一団が、どこからか市に現れたのである。男たちは傍若無人に大声を上げ、金も払わずに気に入ったものを店から取り上げた。抗議する者には、開き直って刀を抜く。男たちに売り物を取られた者は、しょうがないという顔であきらめるしかなかった。
幸いなことに、男たちは薬草などには興味を示さず、剛とじゅんの店は無事だったが、そこここで小さな店があわてて店じまいをし、市に買い物に来ていた女たちは姿を隠した。市場はあっという間に閑散としてしまった。男たちはしばらくつまらなそうに悪態をついていたが、もうおもしろいことはないと思ったのか、そのうちに連れだって歩き去っていった。
「……なんだ、あれは」
男たちを見送って剛とじゅんがあきれていると、隠れていた隣の店の親父がこそこそと戻ってきて再び売り物を広げながら、ふたりに、
「兄さんたち、知らねえのかい」
と声をかけた。
「なにをだ」
「ありゃきっと、岡田さまのとこの雇われ者だ。岡田さまのところには、この頃ああいうのが集まってるからな」
「……岡田さま……?」
じゅんが、よく聞こえなかったと言うように聞き返した。
「ああ、岡田さまだ。兄さん、まさか岡田さまを知らねえってことはないだろう。小国とは言え、この国一国を治めるお館さまだ。去年の秋、先のお館さまがお亡くなりになられて、今は孫息子の敦啓さまが跡を継いでいる」
「……知らぬ……」
そうつぶやいたじゅんの顔を、剛がちらっと見上げて、口を出した。
「親父。こいつはなにも知らねえんだよ。隣の店だから聞こえたろう。こいつは山で崖から落ちてから、前のことをなにも覚えちゃいねえんだよ」
「ああ、そう言えばそうだったな」
親父がうなずく。
「そんじゃあ、お館さまの名前も知らねえか」
「ああ、知らぬ。……だが、気になる。お館さまとやらが代替わりして、館にあんな荒くれ男どもを集めるようになったと言うのか」
「そうだ」
親父は、がっかりしたようにうなずいた。たまに里に出るだけの剛も詳しい事情を知ってはいなかった。剛とじゅんが顔を見合わせると、親父が話し出した。
「……先のお館さまは有徳で知られた文人でな。近隣の国々の領主たちからも慕われ、ここしばらくはこの小さな国はどことも争いを持たなかった。わしらもなんの心配もなく暮らしていたが、新しいお館さまは、先代さまとは全く気性の違う方でな。なにによらず、争いごとを好まれるのじゃ」
「争いごとを好む」
「ああ。戦が始まるというもっぱらの噂だ」
「……」
「お館では、あんな荒くれ者どもまでを集め、兵として雇っているのじゃ。この頃は有無を言わさず若い百姓を兵に取っていくとも聞いている。戦が始まれば商売どころじゃない」
ため息まじりの親父の言葉を聞いて、じゅんは、もう一度口の中でつぶやいた。
「……おかだ……」
ぼちぼちと戻って店を開く者もいたが、結局そのまま戻ってこない店も多く、午後の市場は閑散とさびしくなった。
剛が、客の減った市を見て、つぶやいた。
「これじゃもう、おまえの身寄りなんか、みつからねえな」
「……」
「だいたい、オレがあんなに客に聞いてやったのに、おまえときたら、自分ではなにも言わねえんだからな。おまえほんとに身寄りを探す気があるのか」
剛がいやみに言う。
「……すまぬ」
じゅんは再び謝った。だが剛は、じゅんがうなだれているのを見ると、案外にあっさりと、
「まあ、しょうがねえ」
と言った。
「前から思っていたが、おまえは育ちがいいんだろう。そこらの町人と気安く話すようにはできてねえらしいな」
「……」
意外な言葉に、じゅんは剛をまじまじと見た。剛が自分のことをそんなふうに考えていたことを、じゅんははじめて知ったのである。
市場全体ががらんとしだしたので、残った店どうしは、なんとなく寄り添うように市の真ん中に集まりだした。
剛とじゅんも、店の場所を変えた。だが、場所を変えた近くに、売り物とも言えないようなしおれた薬草を売る店を見つけ、剛は顔をしかめた。その店先に背を丸めて座っていた貧相な男のほうも、剛に気がつくとはっとしたようにおびえた顔になった。
すでに、剛の売る、濁り目に効く薬草、熱冷ましの薬草など手頃な値の薬草は、最後のひとつまで売れてしまっていた。あとには高価な痛み止めと、心の臓に効く薬草が残っているだけだった。剛は、辺りを見回すと、
「客も来ねえし、暇だな。ちっと、さっきの親父の言ってた話でも詳しく聞いてくる」
そうじゅんに言い残して、店を離れた。
ひとりになったじゅんは、ぼんやりと市場を眺めた。
少なくなったとはいえ、まだいくらかの客たちが、店先を通り過ぎてゆく。
だが、むろん、その中で誰ひとり、じゅんに目を留めて話しかける者はいない。どんな人間も、自分を知らないのだ。じゅんは、身動きもせず人々を眺めた。今ここでどんな大声で自分の素性を尋ねようが、きっと誰もがじゅんを不思議そうに見るだけだろう。また、それは自分も同じだ。どんな人間をも、自分は知らないのだ……。
ふと気がつくと、目の前に、痩せた子どもが立っていた。立って、じっとじゅんを見ている。
「……どうした」
じゅんは子どもに尋ねた。なんだか、声がかすれている。
「なにか買いに来たのか……?」
だが、おそらくそうではなかった。破れて垢じみた着物を着た、痩せこけた子どもである。とても薬草など買う金を持っているようではない。物乞いだろうか。
子どもが、か細い声でじゅんに尋ねた。
「……お兄ちゃん、腹減ってるのかい」
じゅんは、驚いて問い返した。
「……どうして?」
「お兄ちゃん、泣いてるから」
じゅんは、はっとして目をぬぐった。子どもは言葉を続けた。
「それとも、銭こがないのかい?」
「……」
「銭こが欲しいならやりたいけど、おいらも銭こをもらいに歩いてるんだ。それに、誰かに銭こを貰ったら、父ちゃんに渡さなきゃいけないんだよ」
「……」
「だから、お兄ちゃんにはあげられない。ごめんね」
子どもの声は残念そうだ。じゅんは、まじまじと子どもを見返した。
子どもも、じっとじゅんをみつめる。痩せこけた顔にそこだけ生き生きと光る、子どもの瞳の深い色。じゅんの目を見て、子どもは首をかしげた。
「……なに?」
「なんでもない」
じゅんは急いで笑顔を作った。
「……おまえ、腹が減っているのか?」
問うと、子どもは、じゅんを見たまま、素直にこくんとうなずいた。
じゅんは、ちょっと考えてから、急いで懐から何枚かの銭を取り出し、子どもの手に握らせた。それは剛と健の大事な金だったが、ちょっとくらいなら、子どもに与えてもいいだろうと思われた。
「ほら」
じゅんは、こっそりと言った。
「お兄ちゃんは腹も減ってないし、銭こもいっぱい持ってるんだよ。だから大丈夫。……この銭このことはお父ちゃんには内緒だ。向こうでなにか買ってお食べ」
子どもは驚いたように銭を見、それから確かめるようにじゅんの顔を見た。
「……いいのかい?」
子どもが疑い深そうに尋ねる。
「……ああ。いいんだ」
そう言ってじゅんが微笑んだのを見ると、子どもは、やっと顔を崩して笑った。
「あんがとね、お兄ちゃん!」
そう言い残し、子どもは走り出した。だが、誰かが子どもの前に立ちふさがり、子どもはすぐに立ち止まった。
「……あ」
子どもの前に立っていたのは、この近くでしおれた薬草を売っていた、あの貧相な男である。子どもはうれしそうに手を広げて男に見せた。
「父ちゃん、これ見て。こんなに銭こを……」
「馬鹿っ」
男が勢いよく子どもを殴った。
「……!」
殴られた子どもは地べたに倒れた。倒れて、泣き出す。
「おめえ、その銭を誰に貰った!」
男が怒鳴る。わーんわーんと子どもの泣く声があたりに響いた。だが、悪ガキが親に殴られることなど、市では日常茶飯事である。周りの人々は気にも止めずに行きすぎる。じゅんは驚いて子どもに駆け寄ろうとした。が、それを止めたのは、男がじゅんを見た、そのまなざしであった。
恐れるように、憎むように、男はじゅんを見た。じゅんは、子どもに駆け寄ろうとした足を止めた。
「泣くな、起きろ」
男は子どもに言った。子どもはべそをかきながら立ち上がる。
「今貰った銭をあいつに返すんだ。 ……早くしろ!」
「父ちゃん、おいら、この銭こもちゃんと父ちゃんに渡すつもり……」
「いいから! そいつに返せ!」
子どもは、怖い顔を作った父親を見る。そして、おずおずと、じゅんに近づき、銭を差し出した。
じゅんは黙って子どもを見た。
「早く!」
父親が怒鳴る。子どもは顔をゆがめ、じゅんに銭を投げつけて、父親の元に駆け戻った。父親は、子どもをかばうように抱いて、じゅんに怒鳴った。
「……返したぞ!」
「……なに……」
「……返したぞ! 銭は返したぞ!」
「……」
「鬼っ子の仲間め、なにを考えてるか、こっちはお見通しだ」
「……」
「貧しい村だ、金さえ持ってくりゃ、鬼っ子どもにだって物は売ってやる。だがな、おめえらからただで銭なんか貰えねえ。……お見通しだ、お見通しだ!」
男が、口に泡してじゅんに怒鳴る。子どもはまた泣き出す。男は子どもを抱きしめた。
「怖かったか、そうかそうか。……もういい、……もう村に帰るだ……」
人が、貧しい親子を振り返った。じゅんが見ている間に、男は、背を丸めて少しばかりの荷をまとめると、子どもの手を引いて黒い影のように歩き出した。子どもがなにか言いたそうにじゅんを振り返る。だが、手を引っぱられ、子どもは父親と歩き出した。
じゅんが言葉もなく立ちつくしていると、突然うしろから悪態をつく声が聞こえてきた。
「……たく、人がいねえとなにするか!」
「……剛!?」
振り返ると、剛が、腕を組んで不機嫌そうにじゅんを睨んでいた。
「じゅん、なんであんなガキに銭を渡した。その銭はおまえのものか」
「……見ていたのか」
「ああ、ずっと見てたよ」
そう言って、剛はむしろに座った。
「……むろんオレの金ではない。剛と健の大事な金だ。それははわかっていた。だが、小さな子どもが腹を空かせていたのだ、しかたがなかろう……」
じゅんは弱々しく言い訳した。それには答えず、剛は、男と子どもが去ったほうを眺めながら言った。
「ありゃ、山の麓の里の小作人だ。まさかあの村の人間とこんな離れた市で会うとは思わなかったぜ。あの男もこっそり金を作りたくてわざわざこの市まで来たんだろう。……子どもに物乞いさせてるのを知ってるヤツに見られたくねえだろうからな」
「あれは山の……、麓の里の男だったか」
「そうだ。村でも最低の貧乏人さ」
剛は面倒そうに答え、それから吐き捨てるように言った。
「……それにしても、おまえ、馬鹿だな」
「なにがだ」
「……子どもに金を恵んでおいてあんな仕打ちされるなんてよ……」
その言葉には、じゅんを責めるというより、自嘲の響きがあった。じゅんはやっと、男の行為の意味を考える余裕を取り戻した。
「あいつ、さっきおまえがオレと一緒にいるのを見たから、おまえのことまでオレと同類だと思いこんだんだな」
剛がそうつぶやき、それきり口をつぐんだ。
「……あの男」
じゅんは、下を向いた剛を見ながら言った。
「鬼っ子の仲間め、と言ったな」
「……」
「なにかを恐れているようすだった。お見通しだ、とはどういう意味だ」
「……」
じゅんは、答えを待ってじっと剛を見つめる。剛は顔をゆがめ、つまらなそうに口をとがらせていたが、やがて言った。
「オレと健は、鬼さ」
「……」
「前に言ったろう。雪の山に行ったときだったか。ありゃ、ほんとさ」
「……」
「オレと健は鬼になるんだ。いつか角が生えるんだとよ」
「……」
「ほんとかどうかなんて、知らねえ。けどよ、オレも健も、じいちゃんにそう言われて育ったし、子どもの頃は、里に物を買いに行けば、必ず鬼の子と言われて石を投げられた。オレらが大きくなるにつれて、今度はオレらが村に行くと、怖がって女子どもは隠れるようになったけどな。オレたちがなにをしたわけでもねえのによ。あいつらにとったら、山の館に住んでたら、それだけでもう鬼なのかも知れねえな」
「……」
「山の裾野にへばりついた貧しい村だ。オレたちが金を持って物を買いに行けば、村の連中は、金欲しさに物は売る。その一方で、心の中じゃオレたちを犬猫以下だと思ってやがる。鬼の仲間だと思われれば、あんな貧乏人にまで、やった金を投げつけられるんだからな。……世話はねえや」
「……」
「じゅん、教えてやろうか。お見通しだ、って言うのはなあ。おまえは金をよこした代わりに子どもを取って食うつもりだろう、という意味だ」
「……」
「鬼の子に、物は売れてもただで銭はもらえねえ。鬼からただで銭なんかもらったら、食われちまうかも知れねえもんなあ。……ふん、肝の小せえ貧乏人め、勝手に飢えてろ!」
口汚く剛が罵った。じゅんは、そんな剛の横顔を見る。ふたりは黙った。
じゅんは、雪の吹きつける雪原で、おびえた自分を見て笑った剛を思い出した。あのとき、自分は一瞬、剛をほんとうに鬼かと思っておびえた。だが今はやはり、剛はただの人間なのだと思う。人からさげすまれて惨めと感じ、悔しいと感じるその心は、鬼ではなく、人間のものだ。そしてその心というものは、冷たくされれば冷たくなり、暖かく触れあえば暖かくなる……。
「剛」
しばらくして、思い切ってじゅんは声を出した。
「……なんだ」
剛が、さびしくなった市場を眺めながら生返事をする。
「剛と健は、もっと、人に心を開いて暮らした方がいいのではないか」
「……ああ?」
突然なにを言い出したのかと、あきれたように剛がじゅんの顔を見た。
「なに言ってんだ、おまえ」
「剛と健は、鬼の子などではない」
「……」
「それは、オレがいちばんよく知っている」
きっぱりとじゅんが言う。剛はそんなじゅんを見て、それからじゅんから目をそらした。じゅんは続ける。
「ふたりに嫌な思いをさせる村人もあるのだろう。だが、そんなことを気にするな。憎んだり、恐れたり、そんな気持ちを抱きあうのは、お互いに不幸なことだ」
剛はすでに、ばかばかしい、という顔で、じゅんの話をまともに聞いていない。
「剛はまだいい、剛は強い心の持ち主だから」
「……」
「だが、健はそうではない。健は、剛とふたりきりの暮らしが淋しいのだ。それで、オレと別れることをあんなに嫌がったのだ」
「……」
「剛と健はもっと村に出て、村人とも触れあうといい。そうすれば、ふたりが鬼だなどと言う、根も葉もない風評は次第に薄れるだろう。触れあわないでいれば、それだけお互いがわからなくなるのだ。ふたりの薬草の知識は村人にも珍重されるだろう。それに村には、嫌な人間ばかりではないだろう。たとえば、まだそんな噂など知らないおさなごだっているはずだ」
そう言いながら、じゅんは、今さっき見た、黒々とした子どもの純粋な目を思い出した。あの目に自分は救われた。
いや、あの子どもだけではない。たとえ昔の素性を知っている人間がひとりもいなくても、オレには、オレを”じゅん”と呼ぶ人間がちゃんといる。それでなにが寂しいだろう。
「ふん」
剛が鼻を鳴らした。
「おまえになにがわかるんだ」
なんかあれこれ説明くさいっすね(泣) ほんと勘弁してください(泣)
今回、光GENJIの佐藤敦啓くんの名前をお借りしました。年格好がちょうどいいかなあ、と思いまして……。
(2000.4.17 hirune)
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