夕方。博の長屋。
井戸端で手足を洗っている博とお蘭。わきではおかみさん達と豆腐屋が話し込んでいる。
「博さん」
声をかけられて顔を上げる博。真由が立っている。不安そうに博と真由の顔を見比べるお蘭。
真由「頼みたいことが……」
博「仕事ですか。伺いましょう。汚いところですが、どうぞ」
そう言って、自分の部屋へ入っていく。あとに続く真由。お蘭もその後から中に入る。興味深そうに見送る豆腐屋とおかみさん達。
博は畳の上に上がって座る。真由は上がりがまち。お蘭は後ろ手に障子を閉めて突っ立ったまま。真由はお蘭をちらっと見て博に目をやる。
博「お蘭、悪いけど……」
お蘭は最後まで言わせず、
「お茶でもいれようか」
と言うと、かまどの所に座り込み、火を起こし始める。じっとそれを見る真由。
博「大丈夫です。お蘭も仕事の上での秘密は守ります」
真由はしばらく迷っていたが、
真由「人のことを調べることもできますか」
博「人捜し、ですか」
真由「いえ。その人が信用できる人間かどうか、知りたいんです」
博「うーん。やったことはないけれど。どんな相手ですか」
真由「回船問屋なんです。なんだかだまされているような気がして」
博「なんでまた回船問屋に」
真由「それは……。それは言えないんです。でも、信じて下さい。博さんなら……」
振り向いて真由と博を見るお蘭。
博「信用できる人間かどうか調べればいいんですね」
真由「はい」
博「で、相手は」
真由「回船問屋、大竹屋の主人です」
通りを歩いている大竹と、それに付き従っている秋山。
大竹「なあ、あの奥方、べっぴんだと思わねえか」
秋山「思います」
大竹「遠くへ行かせちまうのはもったいねえよな」
秋山「……」
博の長屋。
博の部屋から出てくる真由。見送って出る博とお蘭。
博「確かにお引き受けいたしました。できるだけやってみます」
真由「お願いします」
頭を下げて去っていく真由。お蘭が後ろから、明るい声で、
「まいどありがとうございます」
と声をかける。
拍子抜けした様子の豆腐屋とおかみさん達。
翌日。
武威六流柔術道場。
汗びっしょりの秋山と快彦。
秋山「もう一本、お願いします」
快彦「おい、もう勘弁してくれ。こっちの身がもたねえよ」
回船問屋大竹屋の裏口。
博とお蘭が出てくる。
博「何かあったらお申し付けください」
お蘭「よろしくね」
裏口を出た二人は、振り向いた瞬間凍り付く。すぐ後ろに柄本が立っていた。
柄本「よう、手軽屋」
博「こ、これは、親分さん」
柄本「仕事かい」
博「何か細かい仕事でもいただけないかと思ってご用聞きに参りましたが、だめでした。で、親分さんは」
柄本「俺か。実はな」
と声を潜めながら、必要以上に博にくっつき、
「大きな声じゃ言えねえが、大きな山の噂があってな」
お蘭が博を引っ張りながら、
「このあたりは山なんかないよ」
柄本はお蘭をにらみ、
「馬鹿野郎。山ってえのはな、登る山じゃねえんだよ。実はな」
と、また博にくっつき、
「抜け荷の噂があるんだ」
博「抜け荷……。そりゃあ、大変だ」
柄本は、博の反応に満足そうに笑い、
「そうなんだよ。俺はな」
と言って、大竹屋の方へ一歩踏み出す。
「どうもここが怪しいとにらんでるんだ。みごと手柄を立てた暁には、おめえと一杯……」
と言いながら振り向くと、博とお蘭の姿は消えている。くやしそうにあたりをにらみ回す柄本。
夜。昌行の長屋。
向かい合って食事をしている昌行とお和歌。昌行は箸を止め、ぼんやりとお和歌の頭を見る。
お和歌「どうしたんだい、ぼんやりして」
昌行「異人の女の頭って、どうなってるんだろう」
お和歌「またそれかい。一体どうしちまったのさ」
昌行「何だか気になってならねえんだ。今度、博にでも聞いてみよう」
お和歌「またあの博って男かい。いい加減にしておくれ」
お和歌の剣幕に驚く昌行。
大竹屋の縁の下。音を立てずに這っていく博。上から声が聞こえて止まる。
博の上の座敷。大竹と秋山が座っている。
大竹「どうだ、段取りの方は。」
秋山「はい。明日の夜、ということで、三人分用意できました」
大竹「そうか。これでやっとお前も親父の国を見ることができるわけだ」
秋山「はい」
大竹「ま、その場になったら、船に乗るのは二人かもしれねえ。いや、多分そうだろう。そのつもりでいな」
秋山「二人、というのは」
大竹「あの奥方は俺が貰おうかと思ってな。こっちも命がけの仕事だ。それぐらいいいだろう。しばらく楽しませて貰ったら売り飛ばす」
秋山「そんな、あの人だって、命がけで」
大竹「それがどうした。この国を変えるために命をかけるだと、ふざけるな。それとも何か、お前、俺の言うことがきけねえとでもいうのか」
秋山「いえ、そんな……」
大竹「いいな、手配するのは二人分だけだ。余計なことをするんじゃねえぞ」
床下の博、じっと考え込む。
武威六流柔術道場。
井戸端で体を拭いている快彦達。服を着たところに秋山が来る。
快彦「先生に用事って、なんだったんだ。みんなもう帰っちまったぜ」
秋山「はい。いろいろお世話になりましたが、遠くへ行くことになりまして」
快彦「え、やめちまうのか」
秋山「はい。今までありがとうございました」
快彦「そうか、それで時間がないって言ってたのか」
秋山はちょっと迷うが、思い切って話しかける。
秋山「最初私を見た時、異人じゃないかと思ったと言っていましたね」
快彦「あ、ああ。そんなこと言ったっけな。悪かったな、変なこといって」
秋山「いいえ。私の父親はオランダ人なんです」
快彦「え……」
秋山「お世話になりました」
と、頭を下げて去っていく。
太一の家。がらんとした部屋に並んで座っている太一と真由。向かい合って博。
太一「今日はあのかわいい人は」
博「置いてきました」
博は真由をちらっと見て、また太一に視線をもどし、
「実は、奥様に頼まれて大竹屋のことを調べたのですが」
太一「真由に頼まれて?」
驚いて真由を見る太一。真由は下を向く。
博「単刀直入にうかがいます。密航するつもりですね」
ハッとして博を見つめる太一。次に真由に目を向け、
「真由、お前……」
博「そのことは奥様にうかがった訳ではありません。大竹屋を調べているうちに分かりました。しかし、大竹屋を信じてはいけません」
太一「……」
博「実は……」
居酒屋。
大竹が、やくざ者の頭らしい男に金を渡している。相手はニヤニヤしながら金を受け取る。秋山はその隣で苦渋に満ちた顔。
太一の家。
太一「そんな、真由を……」
博「はい。このままでは奥さんは無事には済みません」
真由は不安そうに太一にしがみつく。しかし、太一はその肩をつかんで、
「そうか。お前、この男と何かあるんだろう。どうも変だと思っていた」
真由「違います。そんな、あなた……」
博はあくまでも冷静に、
「奥様と私の間には誓って何もありません。もしかするとあなたも船には乗れないかもしれません。どうしますか」
太一「どうするって」
博「私は何でもやる手軽屋です。大竹屋の裏をかくこともできなくはありません」
真由「本当なの、博さん」
太一は真由をちらっと見る。
博「たぶんできます。しかし、仕事ですから、ただというわけにはいきません」
真由「おいくらなの」
博「三両いただきます」
太一「三両……。そんな金はない。もうすっかり大竹屋に取られてしまった」
博「では、代わりのものをいただきたい」
太一「ああ、代わりになるものがあるなら、なんでも差し上げよう。何が欲しい」
博「奥様をいただきたい」
思わず腰を浮かす真由。
「そんな、博さん」
太一は博と真由を交互に見る。
博「どうしますか」
汚い長屋。
たむろしているやくざ者達。
大竹に金を貰った男が、みんなに金を分けている。何か指図している様子。
太一の家。
博「正直なことを申し上げます」
博をじっと見る太一と真由。
博「私は以前、奥様の父上の教えを受けていました」
太一「えっ。神山先生のところで」
博「はい。しかし、一方的に、お嬢さん、つまり、奥様に恋慕して、それがもとで破門になりました」
真由「博さん……」
太一「そうだったのか」
博「これも何かの巡り合わせです。奥様をいただけませんか」
太一「そ、それは……」
真由をみつめる太一。真由も太一をみつる。
快彦の長屋。
傘張りをしている快彦。
「ごめんよ」
障子を開けてお蘭が入ってくる。
快彦「おう、どうした」
お蘭「兄貴がちょっと来てくれって」
快彦「分かった、これを仕上げたらすぐ行く」
昌行の長屋。
井戸端で剃刀を研いでいる昌行。わきにはおかみさん連中と豆腐屋。
博が近づく。それに気がついて顔を上げる昌行。博が頷いてみせると、昌行も黙って頷き、立ち上がると、
「お和歌、ちょっとでかけてくるぜ」
と部屋に声をかけて博と連れだって歩き出す。
それを見て意味ありげに頷き合うおかみさん連中と豆腐屋。
博の長屋。
博と昌行が歩いてくると、ちょうど快彦も来たところ。
快彦「よう」
博はだまって頷き、部屋に入る。部屋にはお蘭と真由がいる。
博「真由さんはお蘭の部屋に行っていてください。お蘭、悪いが、ちょっと頼む」
不満そうに頷くお蘭。
お蘭と真由が出ると、障子が閉められる。お蘭は、
「こっちだよ」
と言って真由を連れていく。
お蘭の部屋に入ったお蘭と真由。真由は上がりがまち。お蘭は畳の上に膝を抱いて座る。
お蘭「あ、あのさ」
真由「え?」
お蘭「あんた、兄貴とどういう関係なんだよ」
真由「どうして兄貴っていうの」
お蘭「おいらのことはどうだっていいんだよ。あんたが兄貴とどういう仲なのか教えてくれっていってるんだよ」
真由は遠くを見るような目になり、
「そうねえ……。博さんはね、私の父親の弟子だったの……」
(映像)神山繁の前に、博を含めた数人の若者が座り、本を見ながら話を聞いている。
「とっても優秀で、何でもできたわ」
(映像)神山の手伝いをして怪我人の腕に包帯を巻く博。
「たくさんお弟子さんがいたけど、博さんが一番だった。あの人ったらね、どこに行くのにも大きな風呂敷包みを持っていて、よくからかわれてた」
(映像)花見にいく様子の神山や弟子たち。真由もいる。大きな風呂敷包みを背負って笑われている博。
「それで……それでね。わたし、博さんと一緒になりたいと思ってたの。博さんも私のこと好いてくれて」
(映像)家の裏で見つめ合う博と真由。
「でも、父が許してくれなかった。博さんのお父さんが大八車を作る職人なのが気に入らないって。そういうところは頭の固い人だったの」
お蘭「それで諦めたの?」
真由「ううん。諦めなかった。駆け落ちしようとしたの」
お蘭「駆け落ち?」
真由「ええ」
(映像)真由とすれ違いながらさっと書き付けを渡す博。物陰へ行ってそれを読む真由。
真由「暮れ六つに地蔵堂でって……。うれしかった……。でもね」
(回想)
風呂敷に荷物を包んでいる真由。遠くからバタバタという足音が聞こえ、
「真由、真由。手伝ってくれ」
という神山の声。出ていくと、血に染まって息も絶え絶えの太一が戸板にのせられ、運び込まれたところ。
神山「博のやつがおらん。真由、お前も手伝ってくれ」
真由「ちょうど太一さんが運び込まれて」
お蘭「会いに行けなかったんだ」
(映像)夕闇の迫る地蔵堂。腰をおろしている博。かたわらには大きな風呂敷包み。博は人を待っている様子。霧が出てくる。
お蘭「それであの太一さんと?」
真由は頷き、
「去年父が亡くなった後……。太一さんはね、この国を変えるために働いている人なの。日本はこのままじゃだめになる、なんとかしなくちゃいけないって。そのせいで命をねらわれたりしたの。それでね、いっそのこと、異国に行ってよその国がどうなってるのか見て来たいって言いだして」
お蘭「異国なんて、行けるわけないじゃない」
真由「そうね。でも、あの人は行くわ」
お蘭「あんたは」
真由「私は……」
そこへ障子を開けて博が入ってくる。
博「段取りがつきました。日が暮れたらご主人を迎えに行きましょう」
黙って頷く真由。不安そうに二人を見るお蘭。
薄暗い船着き場。少しもやがかかっている。「大竹屋」と書かれた提灯が杭に巻いた綱に差してある。その灯りの中に秋山と大竹。小舟が近づいてくる。
大竹はその小舟の船頭に、
大竹「もう一つ下で待っていてくれ。後で行く。目印はこの提灯だ」
と言いながら提灯を指さす。
船頭「人数は」
大竹「予定通り二人だ」
船頭は頷くと、竿をついて小舟を出す。
離れたところにある番小屋の陰から提灯の灯りを見ている博。博の後ろに太一、真由、お蘭。
博「お蘭と真由さんは小屋の中で待っていてくれ」
と言うと、太一に向かって、
「行きましょう」
と声をかける。太一は真由を見る。
真由「ご無事で」
黙って頷く太一。
博「お蘭、俺が来るまで絶対に出るなよ。外も見るな。真由さんが見つかったら大変なことになる。さあ」
お蘭は頷いて、真由と一緒に小屋に入る。博はそれを見届け、太一と歩き出す。
小屋の中では、お蘭が真由に話しかける。
お蘭「あんたは行かないの?」
真由「ええ。太一さんを無事に行かせる代わりに私は残るの」
お蘭「そうなんだ。兄貴は今でも……。だからおいらのことなんか……」
涙をぬぐうお蘭。
真由「……」
大竹と秋山の方へ歩いていく博と太一。大竹の姿がはっきり分かるところまで来ると、
博「ここからは一人で行ってください」
太一「分かった」
歩き出す太一。太一が大竹の近くまで行くと、
大竹「おや、奥様は?」
太一「私一人だ。真由は残ることになった」
大竹「それは困るな。この稼業を知ってる人に残られちゃあっしの命に関わる」
太一「真由は秘密を守る。真由の命にも関わることだ」
大竹「そういうわけにはいかねえんで」
そう言いながら、大竹は脇差しに手をかける。それを見た太一、
「なるほど。やはり真由をねらっていたのか」
大竹、それには答えず、
「こうなったら、痛めつけて女の居場所を聞き出すしかねえようだな。野郎ども」
と声をかけると、闇の中からやくざ者が五、六人現れ、太一を取り囲む。秋山は少し離れ、様子を見る。
様子をうかがっていた博、筒を口に当てるとフッと吹く。やくざの一人が首に手を当てて倒れる。それを見た大竹、
「て、てめえ。はかりやがったな」
と言いながら脇差しを振りかざす。秋山がそれに後ろから抱きつき、
「やめて下さい。行かせてあげましょう」
大竹、振り向くと、
「どういうつもりだ」
と脇差しを突き出す。かわしきれず、秋山の腹に脇差しが突き刺さる。
その間に、やくざの後ろに忍び寄った昌行と快彦が一人ずつ絞め落とす。驚いて棒立ちの太一。
大竹は脇差しを持って快彦に斬りつけるが、簡単に奪い取られ、蹴られて秋山の隣に尻餅をつく。秋山を見て驚く快彦。その快彦に斬りかかろうとしたやくざを、昌行が捕まえて倒す。
快彦「秋山……」
快彦は秋山の腹から血が流れ出ているのを見て、
「このやろう」
と大竹の後ろに回って顎に腕を回し、ひねりあげる。ボキッと音がして大竹の体が力を失う。
昌行は別のやくざの後ろに回り、首を締め上げる。すぐ近くまで来た博も吹き矢で一人倒す。
秋山を抱き起こす快彦。
「秋山、どうしたんだ」
秋山「井ノ原さん……。なぜここに」
「俺の方が聞きたいよ」
「オランダへ行こうとしていたんです」
「オランダ?」
「私は……大竹屋に拾われて……。一度、父親の国を見てみたくて」
そこに博が駆け寄る。
博「舟は?」
秋山「もう一つ下の船着き場……。あの提灯が目印……。」
そう言いながら提灯を指さすが、その腕はすぐにだらりと垂れる。
快彦「秋山。しっかりしろ」
博はすぐ立ち上がり、提灯を手にすると、昌行に、
「後は頼む」
と声をかけ、今度は太一に向かって、
「急いで。一緒に」
と言って走り出す。慌てて後を追う太一。
だんだん霧が出てくる。
太一が走っていったのは、お蘭と真由の所。
博「真由さん、急ぐんだ」
と言うと、手を引いて川下へ走り出す。太一も走る。
訳が分からず後を追うお蘭。
一つ下の船着き場。小舟がとまっている。提灯を手にして近づく博。
博「大竹屋の者だ」
船頭「急いでくれ。二人だけのはずだ」
博「そうだ」
と言うと、太一をうながして舟に乗り移らせる。続いて真由の手を引き、
「真由さんも、さあ」
と舟の方に押し出す。驚いて博を見つめる真由。舟の太一も博をみつめる。
博「一緒に行くんだ」
博に駆け寄るお蘭。
「そんな、行っちゃったら、もう」
博「行くんだ。一緒に」
博はお蘭を相手にせず、強い調子で真由に言う。
船頭「早くしてくれ、オランダ船が行っちまう」
真由は博に頭を下げると、太一に助けられて舟に乗る。船頭はすぐに岸を竿でついて舟を出す。並んで見送る博とお蘭。真由は舟から手を振り、
「お蘭ちゃん、博さんのそばにいてあげてね」
手を振りながら頷くお蘭。その目には涙が光っている。舟は川面を滑るように遠ざかり、夜霧に飲み込まれていく。
舟が全く見えなくなり、博とお蘭は無言のまま並んで歩き出すが、霧の中から、
「おい」
と声をかけられ、ギクリとして立ち止まる。提灯の灯りの中にヌッと出てきたのは柄本。
「おっ、手軽屋じゃねえか。なんでこんなところにいる」
博「え、いやあ、めずらしく霧なんでちょっと見物に。親分は」
「例の山を調べてるんだ。この辺で人の声がしたようだが」
と言いながら船着き場に立ち、霧の立ちこめた川面を見る。
「竿でついたばかりの跡がある。舟が出たばかりのようだな」
博、お蘭と顔を見合わせ、
「それがね、親分さん。どうやら駆け落ちらしい二人連れがいましてね」
柄本は振り向いて、
「駆け落ち?」
「はい」
「本当だろうな。もし、抜け荷の手引きなんぞしやがったら、いくらおめえでも見逃してやるわけにはいかねえぜ」
「滅相もない」
柄本は再び川の様子をうかがいながら、
「そうかい、信じてやるよ。信じ合わなくちゃな。ま、俺とお前の新しい関係の始まりってやつだ」
そう言って振り向くと、そこには提灯が地面に置いてあるだけで誰もいない。
「おーい、手軽屋ぁ」
周りを見回しながら呼ぶ柄本の姿も霧に飲み込まれていく。
(「夜霧」終)
というわけで、「カサブランカ」というか「夜霧よ今夜も有難う」というか、ま、そういうお話でした。
(1999.5.1)
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