土蔵の中。ロウソクの灯りの中に四、五人の男が布団に寝ている。昌行たちが入ってきた音で目が覚めて体を起こすものもいる。
昌行「川合座の座長さんはいらっしゃいますか」
 隅から「おう」と声がして、男が立ち上がる(川合俊一)。川合、のそりと歩み寄ってくる。
 その背の高さに、三人は思わず一歩退く。
剛「大物って……」
准「でかいってことやったんか」
 昌行、しばらく川合の顔を見上げていたが、
「助けに来ました。行きましょう」
川合「ありがてえ。ここは天井が低くっていけねえ」
 他の男たちも体を起こして三人を見ている。その中には原もいるが智也はいない。
准「ほかの人たちも逃げてええで」
昌行「智也さんはいますか」
川合「智也? ああ、足柄山の。あいつはあんまり読み書きができねえんで、外で力仕事をしてるはずだ」

 宙に浮いている健の体。高山、その首をつかんだままにやりと笑う。健は必死のその手を離そうとしている。快彦は、高山の大きさにあっけにとられている。
 健、懐に手をやるとかんざしを取り出し、高山の手首に突き立てる。高山、ちょっとうめいて健を離す。ドサッと地面に落ちる健の体。
 そこではじめて快彦が高山に組み付くが、簡単に払いのけられる。

 土蔵から川合たちを連れだし、出口に向かう准。昌行と剛は智也を捜してさらに奥へ行く。

 快彦をにらみながら手首のかんざしを抜く高山。抜いたかんざしを投げ捨て、快彦の方へ一歩踏み出す。思わず一歩さがる快彦。健はまだ喉に手を当てて倒れている。

 健たちの異変に気づいた博、そちらへ行く。様子をうかがって筒を口に当てるが、狙いが定まらない。

 准に連れられ、屋敷の門からぞろぞろ出てくる川合たち。准を残し、それぞれ違う方向へ去っていく。それを物陰から見ていた茂、
「智也がおらん」

 奥へ歩いていく昌行。奥から人の声が聞こえたので立ち止まる。その隣に剛。

 にらみ合う快彦と高山。快彦、体当たりするようにして高山の腕をとるが簡単にはねのけられる。快彦がやっとはい起きると高山がにやりと笑って歩み寄る。その時、横から飛び出した影が高山の右足にしがみつく。
「智也を返せ!」
 しがみついたのは茂。

 建物の陰から奥の様子を見る昌行の後ろ姿。
奥からの声「うわはははは、やっぱり智也の肩車が一番じゃ。ほれ、高いぞ高いぞ」
もう一人の声「殿、もうおしまいになさいませ」
「まあ、そう言うな。よし、智也、今度はじいを肩車してやれ」
「あ、これ、何をする。やめ、やめんか。うわっ、高い、こわい」
「どうじゃ、面白かろう」
 昌行、剛に頷いてみせるとパッと飛び出し、すぐ前にいた大名らしき小柄な男の首に腕を巻きつけ、カミソリをその頬に当てる。
「騒ぐとこの男の命はねえぜ」
 それを見て驚いている智也と、智也に肩車されている白髪頭の侍(爆笑問題・太田)。
太田「何をする。殿を、殿をはなせ」
昌行「その大男と引き換えだ」
 ひきつっている大名の顔(爆笑問題・田中)。

 高山、足にしがみついている茂を引き離そうとするが、茂は必死にしがみついて離さず、思い切り腿にかみつく。高山が右足をあげて茂をつかんだ時、快彦が高山の左膝めがけて真横から低空ドロップキック。グキッと音がして膝をつく高山。快彦、すぐに後ろに回って首をしめあげる。高山は快彦には構わず茂の体をつかんで引き離し、放り投げる。茂の体が宙を飛び、建物の壁に当たって地面に落ちる。

 太田、智也の肩の上から降りて、
「分かった。この男はくれてやる。殿に傷を付けるようなことがあったら許さんぞ」
 そう言うと、太田は智也を昌行の方へおしやり、刀に手をかける。智也、わけが分からないという顔で昌行の方へ行く。昌行の後ろに来ていた剛がその手を引いて自分の後ろに行かせ、串を手にして構える。昌行はそれを確認して、田中を太田の方へ突き飛ばす。田中と太田は抱き合うようにして壁に突き当たり、そこに剛が続けざまに串を投げると、その串は二人の着物を貫いて壁に突き刺さる。壁に縫いつけられたようになり、抱き合ったまま動けない太田と田中。昌行と剛は智也の手を引き、後ろへ走り出す。
 後ろからは田中と太田の声が聞こえる。
田中「あーっ、智也がいなくなっちゃう」
太田「殿、もうおやめなさい。ただ大きい家臣をそろえればいいというものではございますまい」
田中「だって、じいだってやっていいって言ったじゃないか」
太田「その結果がこれでございますぞ」

 高山の首をしめあげる快彦。しかし、高山はなんとかして快彦を捕まえようと手を後ろへ回す。
 植え込みの陰の博が吹き矢を飛ばし、それが高山のはだけた胸に刺さるが、高山の動きは鈍くならない。高山はついに快彦の頭をつかみ、上へ持ち上げていく。博が続けて三発吹き矢を飛ばし、それでやっと薬が回ったらしく、高山が前のめりに倒れる。
 高山から離れた快彦、地面にへたりこんで肩で大きく息をする。
 健は体を起こしてその様子を見ている。
 壁際の茂は、何とかして起きあがろうともがいている。

 走ってくる昌行、剛、智也。博は智也が来るのを見て姿を隠す。三人は快彦たちに気がついてそちらへ歩み寄る。
 剛は健を助け起こし、着物についた土を払ってやる。
剛「大丈夫か」
健「うん」
 昌行は快彦を助け起こす。
昌行「大変だったようだな」
 快彦、くやしそうに、
「俺なんぞより、そこの男の方がよくやったよ」
と、壁の下に倒れている茂を指さす。茂がうめき声をあげたので、皆そちらを見る。智也もそちらを見て、
「あれっ」
と言うと茂の所へ行って顔をのぞき込み、
「何やってんだよ」
茂「智也、助けに来たぞ……」

 門から、茂を背負った智也が出てきて歩いていく。その後から昌行、快彦、剛、健、准が出てきてそれぞれの方向に去る。健は娘姿の衣装を包んだ風呂敷を手に持っている。最後に、外の様子をうかがいながら博が出てくる。

 並んで歩いている昌行、博、快彦。
昌行「大物なんて言うから緊張してたのに」
博「確かにありゃあ大物だ」
 快彦は黙っている。
昌行「どうした」
快彦「くやしいんだよ。いくら技があっても、体のでかいのには勝てねえんじゃ何にもならねえ」
博「でも、今日の相手は特別だろう」
快彦「しかし、あの智也の兄貴の方がよっぽど頑張ってた……」

 並んで早足で歩いている剛、健、准。少し前に川合の後ろ姿が見えてくる。
健「座長のおかみさんが待ってるはずだ」
剛「へえ、ちょっと見ていこうぜ」
 しばらくすると、川合が角を曲がる。三人は建物の陰からのぞく。
 芝居小屋の前に立っている女の影。
川合「おう、帰ったぜ」
「あんた!」
 駆け寄って抱きつく女房(大林素子)。
 陰で見ていた剛、
「ひゃーっ。亭主も亭主なら」
准「女房も女房やな」
健「似合いの夫婦だろ」
剛「全くだ」

 朝。荷物を持った茂と智也が博とお蘭に別れの挨拶をしている。
茂「ほんに、なんとお礼を言えばいいか。お陰様で智也も危ないところを助けていただいて」
智也「全然危なくなかったよ。だいたいは殿様と遊んでた。飯も腹一杯食えたし」
茂「お前は腹一杯飯が食えればそれでええんかい」
智也「うん」
 苦笑している博とお蘭。
博「お気をつけて。ひなのさんによろしく」
お蘭「絶対に一緒になるんだよ。おいらの兄貴はその人のお婿さんなんかにならないんだからね」

 昌行の長屋。
 朝食をとっている昌行とお和歌。
お和歌「あんた、夕べ遅く帰ってきたけどさ」
昌行「仕事の話だっていったじゃねえか」
お和歌「でも……」
昌行「でも、何だよ」
お和歌「まさかあの手軽屋と会ってたんじゃ」
昌行「勘弁してくれよ」
と言ってため息をつく。

 通りを歩いている智也と茂。貸本を担いだ准がすれ違うが、准は全く素知らぬ顔。

 武威六流柔術道場。
 必死の顔で稽古している快彦。しかし、どことなく稽古に集中できない様子。
 座って見ている門弟の中に原もいる。

 夜。剛の料理屋。
 川合と素子が並んで座り、その前に健が座っている。救出の礼に健をもてなしている様子。
健「へえ、土蔵の中にいたんですか」
川合「その土蔵がせまくって。いつも体をかがめていましたよ」
健「何かひどい目にあったんですか」
川合「いや、何も。ただ、殿様が、体の大きい家来が欲しいっていうだけのことで人を集めてたみたいで。侍の修行をしろって言われて、作法なんぞを習ってました」
素子「ほんとにそれだけなのかい」
川合「ああ、それだけだ。こっそり背の高い家来を集めて、後で他人に自慢したかったらしいな」
 そこへ剛が料理を運んでくる。
川合「あれ、どこかで……」
剛「あっしですか? 以前にもここをご利用いただいたことがあるんでしょう」
川合「そうだったかな……」
剛「お客さん、立派な体をお持ちですね」
川合「よく言われるけど、不便なこともあるんだよ」
剛「どうしたらそんな体になれるんですかね」
川合「そうだなあ。まあ、何でも食うしな。子供の頃から魚の骨をあぶって食べるのが好きでね、そのせいかもしれない」
素子「あら、あたしもそうだったのよ」
剛「魚の骨ねえ……」

 旅の支度をしている快彦。

 再び料理屋。
川合「まあ、今度のことで少しは金が入ったんだが、なかなかいい役者がいなくてなあ」
健「役者ですか」
素子「そうなのよ。うちでやってくような人はそうはいないくてね」
健「そうですよね。なかなか釣り合いがとれないし」
川合「もう潮時なのかもな」
素子「もう少し頑張ってみようよ」
健「あ、いいのがいますよ」
川合「え」
健「前に一度、役者になりたいってうちに来たのがいるんですけど、うちではちょっと使えないってんで断ったのがいるんですよ。喉もいいし、顔もなかなかですよ。明日連れていきます」

 翌日。川合座の楽屋。(「Can do! Can go!」のイントロの最初のピアノのところが聞こえ始める)
 川合と素子がいるところへ健が入ってくる。
健「昨日話した人を連れてきましたよ」
と言って後ろを振り向き、
「さ、入って挨拶しな」
 身をかがめて入ってくる娘姿。
 川合と素子のアップ。
川合「おお、うちにぴったりだ」
素子「きれいな人ねえ」
「よろしくお願いします」
と言って頭を起こしたのを見れば、娘姿はSHAZNAのIZAM。
 IZAMのアップになり、カメラに向かってウィンク。
 
(ここから「Can do! Can go!」のイントロのアップテンポのところになる。以下はエンドロールバック)

 街道筋の茶店の前。客が食べている団子を見て立ち止まる智也。茂がいくら手を引いても動かない。茂、しぶしぶ銭入れを取り出す。

 山の中で修行している快彦。木に巻きつけたわらを蹴ったり突いたりしている。

 舞台で踊るIZAM。舞台の袖で川合、素子、健が笑顔で見ている。
 客席の一番前にはお和歌がいて、真上を見上げるようにして見ている。

 困ったような顔でお茶を飲んでいる博のアップ。カメラが引くとそこは茶店の店先で、博の両側にお蘭と柄本が座ってにらみ合っている。

 道ばたの地蔵堂の賽銭箱の前。准が賽銭箱の横に落ちていた銭を見つけ、にっこりして拾い上げる。顔を上げるとすぐそばに坊さんが立っていてじっと見ている。准、照れ笑いしてみせ、賽銭箱にその銭を入れるが、銭が消えていくのを未練たらしく見ている。

 昌行の長屋。布団の上に腹這いになったお和歌が、昌行に向かって首を揉めというしぐさ。昌行、ため息をついて首を揉み始める。

 七輪で魚の骨をあぶっている剛。少しかじってみるが、熱くて取り落としたところでストップモーション。 

(終わり)


 というわけで、「必殺! 苦労人&料理人」スペシャルでしたが、いかがでしたでしょうか。
 次回はいつになるか分かりませんが、SMAPのメンバーをゲストに迎える予定です。

hongming(1998.9.19)