昌行が髪結いの店の格子窓のところで外を見ていると、お役者の健が通りかかる。健、昌行がそこにいることを知ってわざと通ったらしく、昌行の前で立ち止まり、昌行に背中を向けたまま話しかける。
「……手を貸してもらいたい」
昌行「仕事か」
健「普通の仕事じゃないんだ」
昌行「店を閉める時に来い」
健「わかった」
武威六流柔術道場。
稽古を終え、井戸端で体を拭いている快彦ら門弟たち。
A「何でも、体のでかいのを探してる大名がいるそうだ」
快彦「でかけりゃいいのか」
B「ああ、腕はどうでもいいらしい」
快彦「でかいって、条件はそれだけか」
C「何でも六尺(180cm)以上でなくちゃだめだそうだ」
D「そんなやついるのかよ」
A「新入り、お前なら六尺以上あるんじゃないか」
声をかけられたのは、少し離れた場所で場所が空くのを待っていた若者(Jr.原知宏)。
原「はい、六尺あります」
B「原っていったな。お前ほんとにでかいなあ」
博の長屋の井戸端。博とお蘭が道具を片づけている。
博「明日は古道具屋の棚卸しの手伝いだ。ほこりだらけになるからな、覚悟しておけ」
お蘭「ほこりぐらい何でもないって」
博「いやいや、ほこりがいやで奉公人がいなくなるっていうくらいの店だ。すごいぞ。手軽屋がいやになるかもしれない」
お蘭「なんでそうやっておいらをやめさせようとするんだよ」
そこへ、よろよろと近づいていく男の後ろ姿。男、博に声をかける。
「手軽屋の博さんのお住まいはこちらでしょうか」
博、立ち上がり、いぶかしげに相手の顔を見ながら、
「わたしが博です。どんなご用で」
男、それを聞いてほっとしたのか、その場に崩れ落ちる。驚いて助け起こす博。抱き起こすと相手の顔が映る(城島茂)。顔は青あざや擦り傷だらけ。
茂「お願いです……弟を……」
顔を見合わせる博とお蘭。
夕暮れの江戸の町。並んで歩く昌行と健。
昌行「お互い、元締めがいるわけだし、勝手なことはできねえぜ」
健「元締めには話してある。うちの元締めからもそっちに話を通してくれることになってる」
昌行「よっぽどの仕事らしいな」
健「人を助ける仕事なんだ」
昌行「人助けか、珍しい仕事だな」
健「人助けと言うか……助け出すんだ」
昌行「どっかに捕まってるのか」
健「ああ」
昌行「牢破りじゃねえだろうな」
健「そんなんじゃない。ただ助け出すだけだ」
昌行「どんな相手を助け出すんだ」
健「どんなって……かなりの大物だ」
昌行「大物?」
博の長屋。布団に寝かせられている茂。博が顔を冷やしてやっているとお蘭が入ってくる。
お蘭「薬買って来たよ」
博「おう、ご苦労だったな」
博、薬を受け取ると、茂の顔や胸に塗ってやる。
茂「ありがとうございます。だいぶ楽になりました」
博「見たところ、骨が折れてる様子はありません。何日かすれば治るでしょう」
お蘭、上がりこんで、
「ね、何があったの」
茂、博に向かって、
「そちらの方は?」
博が答える前に、お蘭、
「おいら、兄貴の弟子なのさ」
茂「弟子? おかみさんじゃないんですね」
お蘭「おかみさん? やだなあ、おかみさんだなんて。そんなあ、おかみさんだなんて……」
一人で照れているお蘭をよそに、
博「話を聞かせてもらえませんか。まず、どうしてわたしの所へ」
茂「博さんのことは、ひなのさんに聞きました」
博「ひなの……」
お蘭、とたんに二人のそばによって、
「誰だよ、ひなのって」
博「あ、足柄山の……」
茂「はい。あっしは足柄山の時尾村から参りました」
博「ひなのちゃんがどうかしたんですか」
お蘭「だから、そのひなのって誰だよ」
博「前にちょっと助けてやったことがあるんだよ」
茂、しばらくお蘭と博を見ていたが、
「そのひなのさんが言うには、博さんは自分のお婿さんになる人だって……」
お蘭「何だって! いつそんなこと決めたんだよ。おいらに断りなしに」
博「決めてないよ。勝手にそう言ってるんだよ」
お蘭「だって」
博「とにかくお前は黙ってろよ。うるさくするとつまみ出すぞ」
お蘭、膨れて黙る。
茂「実は、そのひなのさんとうちの弟の縁談がまとまりまして」
博、ほっとして、
「そりゃあよかった。めでたい」
お蘭は黙ったままニカッと笑ってVサイン。
茂「ところが、ひなのさんが、博さんがお婿さんになってくれることになってるから、祝言の前に博さんに断らなくちゃならないって言うんで……」
博「はあ」
茂「それでまあ、一言挨拶をと思いまして、弟と江戸に出てきたんですが……」
(茂の回想)
飯屋で食事をしている茂と弟(長瀬智也)。
智也「おかわり!」
茂「お前な、江戸は何でも銭がかかるで、あんまり食うな」
智也「そんなこと言われても、腹が減ってんだから」
そこへ、店の前を通りかかった侍が入ってきて二人に声をかける。
「ちょっといいかな」
茂「へ、へえ」
侍、智也に向かって、
「その方、背丈はどれだけある」
智也がキョトンとしているので、茂が代わって、
「六尺はゆうにあります。村一番の大男でして」
侍「そうか、実にいい体をしておる。どうだ、その体を使って金を稼いでみんか」
智也、全くわけが分からず、ただ、女中が運んできた飯を口に運ぶ。
茂「あのー、体で金を稼ぐと申しますと」
侍「お前はこの男の縁者か」
茂「兄でございます」
侍「そうか、稼げるのはこの弟だけだ」
茂「その、体で稼ぐ、というのは」
侍、まわりを見回し、声をひそめて、
「ここでは言えん。十両になるぞ」
茂「十両!」
侍「しっ、声が高い」
武家屋敷の前。
茂と智也を連れてきた侍、
「ここで待っておれ」
と言うと一人だけ中に入る。
茂「十両になる仕事ってなんだろうな」
智也「何だろうな。体がでかくてよかったよ」
茂「でもな、うまい話には気をつけんとな。危ない話なら絶対に断って帰ろうな」
智也「でも十両だよ」
茂「十両でも命には代えられん」
そこへ侍が出てきて、茂に紙に包んだ金を渡す。
「十両だ。数えてみろ」
茂、急いで数えてみると、確かに十枚ある。
茂「確かに十両ですが、仕事というのは一体……」
茂の話を聞かず、侍、智也の手を引いて、
「さあ、中へ入れ。腹一杯飯が食えるぞ」
智也、その言葉に、おとなしくあとについて中に入る。茂も慌ててそのあとから門をくぐる。(映像は門の外で固定されている)茂が入るとすぐに、中からさっきの侍の声で、
「こいつはつまみ出せ」
という声と、茂の
「待ってくれ」
という声が聞こえ、人を殴る音が聞こえる。間もなく、門から茂るだけが放り出され、ピシャッと扉が閉ざされる。
(回想終わり)
茂「そういうわけで離ればなれになってしまいまして」
博「それでその屋敷の場所は?」
茂「それが、江戸の町は不案内なもので、今となっては一体どこだったのかも分からず……」
と言うと、手拭いを顔に当て、泣き出す。
博、お蘭をうながして外に出る。井戸端ではおかみさんたちが豆腐屋と話をしている。
博「何だかよくわからねえ話だな」
お蘭「どうする、あの人」
博「とりあえず俺の所に泊める。江戸には知り合いはいないようだし」
お蘭「看病するのに人手がいるだろ。おいらも泊まろうか」
博「だめだ」
お蘭「何だよ、今日は部屋にいれてくれたのに」
博「今日は特別だ。ま、部屋に入るぐらいはいいが、俺の部屋は男しか泊めないことにしてるんだ」
それを聞いたおかみさんたちと豆腐屋、意味ありげに頷き合う。
お蘭「ちぇっ」
と、膨れて去っていく。
剛の働いている料理屋。調理場に一番近い席に健と准が座って食事をしている。准はがつがつ食べているが、健はあまり料理に箸をつけていない。
そこへ剛が急須を持ってきて、お茶を入れながら、
「どうだった」
健「手を貸してもらえそうだ」
剛「うまくいくといいな」
健「うん」
剛「ただやっちまうのなら簡単だが、助けるのは難しい」
健の前の料理に目を向けた准、
「それ食わんのなら俺にくれ」
健「いいよ」
准「うまいのになあ、これ」
と言って皿を引き寄せ、剛に向かって、
「あんた、いい腕しとるで」
剛「ありがとよ。しっかり食って仕事にそなえてくれ」
准「仕事? 何の話や」
剛「お前なあ……」
翌日。古道具屋の主人に連れられて土蔵の方へ歩いていく博とお蘭。勝手口にいた豆腐屋が、それを見て、古道具屋の女房に小声で何か話す。女房、驚いたような顔をして聞いている。
武威六流柔術道場。
稽古着の快彦、中央で組み手の稽古をしている。
並んでそれを見ている門弟たち。原が、ほかの門弟と小声で話している。
原「昨日の大名の話ですが」
門弟「ん? 何の大名だ」
原「体の大きいのを探しているという大名です」
門弟「興味があるのか」
原「はい……」
息を切らせた快彦が戻ってきて隣に座り、入れ違いに門弟が立ち上がったので原は黙る。
古道具屋の裏庭。土蔵の前で、頭と顔を手ぬぐいで覆い、目だけ出した蘭が古道具のほこりを払っている。はたきでたたくたびにほこりが舞い上がる。土蔵の中から主人が出てきて、お蘭に声をかける。
「今、茶の用意をさせるからな」
お蘭は口を開きたくないので、黙って頷く。
主人、台所の方へ行くと、物陰から女房がこちらの様子をうかがっていたので、
「何だ、そんなところで」
と声をかける。
女房「お前さん、あの手軽屋と二人だけで蔵の中にいたのかい」
主人「そうだ。それがどうした」
女房「あの手軽屋に変なことされなかったかい」
主人「変なこと?」
昌行の店。
昌行、客の頭を結っている。
客、小声で、
「詳しいことは連中に聞いてくれ」
昌行「はい」
昌行の背中越しに鏡に映った客の顔が見える(中条きよし)。
古道具屋。
縁側で主人と博がお茶を飲んでいる。お蘭は少し離れたところに立って、自分の着物のほこりを払っている。いくら払ってもほこりが出るのでうんざりした様子。
主人「いや、助かった。一人ではどうにもならんからな」
博「これくらいのほうがやりがいがあります」
主人「そう皮肉を言うな。実はな、土蔵一つ分の古道具を売りたいという話があってな。それでうちの土蔵を片づけて物を置く場所を作ろうと思ったわけだ」
博「ほう、土蔵一つ分ですか。ずいぶんまとまった量があるでしょう。よほどの大店なんでしょうね」
主人「それがな、さる大名……いや、これは聞かなかったことにしてくれ」
夕方。快彦の長屋。昌行と博もいる。
昌行「詳しいことはまだ聞いていない。人を助け出す仕事だ。かなりの大物を助け出すという話だ」
快彦「大物? そんな話がなんで俺たちのところに」
昌行「わからねえ」
博「助け出すって言えば、こっちにも人を取り戻してほしいっていう話がきてるんだ」
昌行「誰かどこかに無理に連れて行かれたのか」
博「無理にっていうわけじゃないらしいんだ」
快彦「女か」
博「いや、男だ。それがな、あのひなのちゃんの婿になる男なんだ」
昌行「ひなのって、あの足柄山の……」
快彦「ひなのちゃんがまた江戸に出て来たのか」
博「出て来たのは婿になる男とその兄貴だ。どうもよく分からないことが多い話でね」
昌行「だいたい、ひなのって娘自体がよく分からねえもんな」
快彦「なんか今日はよく分からねえ話ばっかりだなあ」
翌日。
大八車を引いている博。お蘭と茂が後ろを押している。
武威六流柔術道場。
道場を見回す快彦、
「あれ、今日は原は休みか」
門弟「例の大名の所にいったんじゃないか。金がほしいって言ってたから」
茶店で休んでいる博、茂、お蘭。
博「手伝って貰って助かります」
茂「とんでもない。ただお世話になるわけにはいきません。こうして歩いていれば、あの屋敷が見つかるかもしれんし」
お蘭「早くその屋敷が見つかるといいね」
茂「はい……。しかし、あの屋敷には化け物のような男がおりまして」
博「化け物? どんな奴でした」
茂「うちの弟も大きいんですが、それよりもっと大きいし、顔も恐ろしうて……。殺されるかと思いました。もしかして、智也があいつにひどい目に遭わされているんじゃないかと思うと……」
茂、手拭いを顔に当てて泣き出す。
(続く)
というわけで、今回はカミセンも登場でございます。
タイトルに恥じないよう、ゲストも結構大物揃い。ジャニーズ関係だけじゃないんだな、これが。ま、それはこれからのお楽しみということで。
hongming(1998.9.5)
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