布川藩下屋敷の庭。
幕が張り巡らしてあり、十六人の応募者が控えている。りょうのいる座敷と、その両側の座敷の障子は開け放してある。両側の座敷には見物らしい連中が十人ぐらいずついる。
りょうの側近らしい侍が応募者を前に説明している。
「さきほどのくじの順にしたがい、本日はそれぞれ一度だけ試合をしていただく。木刀あるいは素手にて試合し、相手が降参するまで戦うこと。なお、いかなる怪我をされても布川藩としては関知いたさぬ。おじけづいた方は、即刻立ち去られよ」
そう言って一同を見回すが、誰も立たない。
「では、第一試合の方以外は、ひとまず下がられい」
一同、左右に分かれ、幕の外に出る。くさなぎともう一人は残り、快彦は外に出る。
残った二人、向き合い、礼をする。身を乗り出すりょうたち。説明していた侍が声をかける。
「始め」
二人、すっと木刀を構える。くさなぎは全く動かず、相手は左右に足を運ぶ。相手がさっと振りかぶった瞬間、くさなぎはすっと前に進み、木刀を相手の首に触れさせる。真剣ならば簡単に頸動脈を切ることができるような動き。相手は身動きできなくなる。
くさなぎ「これまででよろしいか」
相手、言葉もなく頷き、一歩下がる。くさなぎも一歩退いて木刀を収める。
りょうや見物人は、「俺の勝ちだ」「つまらん試合だな」「あれではよう分からん」「次はもっと派手にねがいたい」などとささやき合う。
幕の外にいるくさなぎたち。中からは打ち合う音が聞こえる。中からうめき声がきこえ、審判の、
「それまで」
という声がする。ほどなく、片目を押さえた浪人が出てくる。その手の下から血が流れ出ている。その浪人はそのままよろよろと立ち去る。くさなぎ、その姿をじっと見ている。
くさなぎとは反対の方にいる快彦たち。幕の中から鈍い音がしたかと思うと、バタバタ走り回る足音が聞こえ、戸板にのせられた浪人が運び出される。その額は赤黒くなっており、木刀の直撃を受けたらしい。幕の外にいた浪人たち、それを見て顔をしかめる。
快彦は、
「次、井ノ原殿」
という声を聞いて中に入る。反対側から木刀を持った浪人が入ってくる。
向かい合って立ち、一礼すると、
「始め」
と声がかかり、相手はさっと刀を上段に構える。快彦は両手をだらんとさげている。
快彦がしかける気配を見せないので、相手は真っ向から木刀を切り下ろしてくるが、斜めに体を進ませた快彦、すっと相手の右手を抱え、そのまま体をあずけて押さえつけ、脇固めに入る。相手は苦痛に声をあげるが言葉は発しない。
快彦「参った、と言え。骨がはずれるぞ」
とささやくが、相手は首を振る。快彦、審判の侍に、
「これ以上は無駄でござろう」
と言うが、審判は、
「参ったと言わぬ以上終わっておらぬ」
その言葉にムッとした快彦、思わず腕に力が入り、ボキッと音がする。相手の浪人、肩に手を当ててうめき声をあげる。
快彦「しまった」
審判「勝負あった」
快彦、その言葉を聞くとさっと体を離し、相手の肩の様子をみてやろうとするが、相手はくやしそうに快彦をにらみつけ、肩に手を当てたまま幕をくぐって出ていく。快彦はりょうたちに一礼するが、見ていた連中が面白い見せ物を楽しんでいるような表情。快彦、思わずりょうをにらむ。りょう、一瞬ぎょっとする。
夜。快彦の長屋に集まっている三人。
快彦「どうも気に入らねえな、あいつら」
昌行「ただ見せ物にしてるのか」
快彦「そんな気がしてならねえ」
博「気をつけてくれよ。生き返る薬は作れねえぜ」
快彦「心配いらねえよ」
博「あのさ……」
快彦「何だよ」
博「今日、門の所で会った人のことなんだけど」
快彦「あの人がどうした」
博「勝ち残ってるかい」
快彦「ああ。何だか静かなやつだが、ああいうのが本当は強かったりする」
博「あの人が仕官できるようにできないかな」
快彦「何だ、知り合いなのか」
博「いや、名前も知らない」
快彦「たしか、くさなぎと言ったな」
昌行「え、くさなぎ? 何だよ、知り合いなのか」
博「そういうわけじゃないけど。立派な人なんだよ」
布川藩の庭。先日の試合で勝ち残った八人を前にして、審判の侍が説明している。
「本日は最後の一人になるまで試合をしていただく。勝ち負けの判定は先日に同じ。なお先日は不幸なことに一人死者が出ておるし、目をつぶされた者もおる。臆された方はただちに立ち去られよ」
しかし、立ち上がる者はいない。廊下の向こうには、前と同じようにりょうのいる部屋の両側ににやにや笑っている旗本連中がいる。手には、試合の組み合わせを書いた紙を持っている。酒を飲んでいる者もいる。
審判「では、先程お知らせ申した順番の通りに試合をしていただく。第一試合の方以外は幕の外へ出られい」
二人を残して一同が出ようとすると、バタバタと廊下を走ってきた侍がいる。何事かと一同が目を向けると、その侍、りょうの耳元で何か囁く。
りょう「何、兄上が……」
りょうが立ち上がると、布川敏和が側近を連れてずんずん廊下を歩いてくる。りょうの家来がそれを止めようとするが、側近がそれを振り払い、敏和はりょうの前に立つ。
布川「りょう、これはどういうことだ」
りょう、一瞬青ざめるが、
「治にいて乱を忘れず、と申します。率爾ながら、私も藩のために何かと思いまして、腕の立つ者を集めております。兄上もどうぞご覧ください」
と言って上座の席を空ける。布川敏和、立ったまま左右を見て、
「この方々は」
と尋ねる。
りょう「私の友人にございます。私一人で選んだのでは、実力を見誤ることもなきにしもあらず。一人でも多くの方の目で真の実力者を選ぶため、このように皆に足を運んで貰った次第」
敏和、じっとふかわりょうの目を見ていたが、
「よし分かった。見せて貰おう」
と言うと、席に座る。りょう、審判に目配せして始めさせる。
庭で、何事かと見ていた一同、審判と二人を残して幕の外に出る。
脇腹を押さえてうずくまる浪人。ほっとした表情でそれを見下ろす相手の浪人。
声を立てずに笑いながら、手元の組み合わせ表に印を付けている旗本。
木刀を振り下ろす浪人。しかし、すでにくさなぎの木刀が脇腹に押し当てられており、くやしそうに顔をゆがめる。
敏和に聞こえぬよう、あれこれ評定しあっている旗本たち。
手首を押さえてのたうち回る浪人。
顔をしかめる敏和。その敏和の表情をうかがうりょう。
審判「次っ」
その声に入って来たのは快彦。相手は中年の浪人者。
審判「始めっ」
浪人者、その声と同時に切り込んでくる。紙一重の差でそれをかわした快彦、さっと相手の右手をねじりあげ、木刀を奪い取って逆にその木刀を相手の首筋に突きつける。
浪人、やむなく、
「参った」
と言って一歩引く。快彦、木刀を相手に渡し、にらむようにりょうに一礼して出ていく。
審判、敏和たちに向かって、
「ただ今よりは、残りました四人による試合となります」
りょう「いかがでしょう、兄上」
敏和「あまり気持ちのいいものではないな」
りょう「しかし、これが一番確実でございましょう」
敏和「しかし、新たに召し抱えるなどということ、誰が決めた」
りょうが言葉に詰まると、側近の侍が、
「わたくしめにございます。腕の立つ者を選ばれたのち、殿に推挙されては、と申し上げ、若様がお聞き入れ遊ばされたのでございます」
敏和、それを聞いて不快そうに、
「藩を思うてくれるのは分かるが、勝手な振る舞いは許されんぞ」
侍「恐れ入りましてございます」
幕の中。向き合って立つくさなぎと浪人。浪人が体当たりするように突きを入れてくると、くさなぎ、さっとかわして後ろに回り、相手の背中に木刀を当てる。相手は慌てて振り向くが、自分の敗北を認め、何も言わず、一礼して出ていく。くさなぎ、りょうたちに一礼して幕の外に出る。
旗本の一人、
「こういう試合は面白くないな」
とつぶやく。ほかの旗本が「しっ」と注意するが、すでに敏和の耳に聞こえている。
審判「次っ」
幕の中に入る快彦と浪人。
審判「始めっ」
浪人、下段に構える。快彦、自分からはしかけない。相手が木刀を振り上げようとした時、ぱっと飛んでその手首に足をかけ、相手が木刀を振り上げる勢いを借りて相手を飛び越え、背後に回って裸締め。相手はしばらく手を振り回していたが、じきにぐったりする。
快彦「これでよかろう」
と言うと、審判、やむを得ず頷く。快彦、相手に活を入れ、意識を取り戻させると、旗本たちをにらみつける。
審判「それではこれから最後の試合を行います。くさなぎ殿、入られよ」
幕をかかげて入ってくるくさなぎ。快彦とくさなぎ、向かい合って立つ。
審判「始めっ」
息を呑む見物の一同。敏和も思わず身を乗り出す。
くさなぎ、青眼に構えて立つ。快彦は両手をだらんとさげたまま。快彦はじっとくさなぎの目を見るが、それまで戦った相手とは違って、目にギラギラしたものがない。快彦、思わず腕を組んで思案する。
審判「いかがなされた」
快彦、それには答えず、じっとくさなぎを見つめる。くさなぎは青眼に構えたまま動かない。しかし表情はおだやかで、ほほえんでいるようにさえ見える。
その時、旗本の一人が、
「ちっ、はやくやれよ」
と声を立てる。それを聞いた快彦、その旗本の方を向き、
「気に入らねえな」
とにらみつける。それと同時にくさなぎも木刀を収め、りょうたちの方を向く。
快彦「俺たちは見せ物かよ」
りょう「何ということを。なぜ試合をするのかは説明したではないか」
快彦「その説明が信用できねえのさ」
りょう「臆したか」
快彦が何か言いかけたとき、くさなぎが口を開く。
「私もこのかたと同じ考えです。私も見せ物にされているような気がしました」
りょう「見せ物ではない。藩に役立つ者を選ぶための試合だ」
くさなぎ「確かに、武士たる者、武芸を磨き、主君のために命を投げ出して勤めるのが本分。なれど、おのれの手の内を明かしてしまっては敵に勝つことはかないません。なぜこのように大勢の人がいるところで試合をせねばならぬのでしょうか。立ち会い一人で充分のはず」
りょう「えい、何ということを。よしわかった、今回は召し抱えはやめじゃ。とっとと立ち去れ」
酒を飲んでいた旗本の一人、それを聞いて、
「それは困るな。決着をつけてくれ。賭けはどうするんだ」
と声をあげる。それを聞いたりょう、しまった、という表情をするが、敏和は黙ってくさなぎを見ている。
快彦、その様子を見て、くさなぎの袖を引き、
「出よう。こんなところには用はない。支度金の一両で勘弁してやろうぜ」
と言って、一緒に出ていこうとする。しかし、くさなぎはその手を振り払い、りょうの方へ近づいていく。後ずさりするりょう。家臣がりょうの前に立って守ろうとするが、くさなぎは刀を抜くわけではなく、懐から一両小判を出すと、
「これはお返し申す」
と言って廊下に置き、くるりと後ろを向いて歩き出す。それを見た快彦、慌てて自分も懐を探って掌を見るが、手に乗っているのは小銭ばかり。仕方なく、くさなぎのあとについて出ていく。
二人が出ていくのを見届けてから、敏和がりょうに声をかける。
「りょう、後で話がある」
りょう、とりあえず頭を下げる。
博の長屋。井戸端でおかみさんたちに混じって、博とお蘭が手足を洗っている。
そこへ昌行が来て声をかける。
「博、ちょっといいか」
博「おう」
博、手拭いで足を拭いて、昌行の方へ行く。
お蘭「仕事なら手伝うよ」
昌行、ちょっと困って、
「いや、いい。男同士の話なんだ」
お蘭、口をとがらせる。それを聞いたおかみさんたち、目配せし合う。
博の長屋に入る昌行と博。それを興味深そうに見ているおかみさんたち。
中に入った昌行、小声で、
「仕事だ。例の藩主の弟だ」
博「藩主の弟ともなると、難しいな」
昌行「それが、藩主が手引きするそうだ」
博「信用できるのか。やった後で俺たちまで……」
昌行「可能性はある。しかし、快彦は乗り気だ」
博「そうか。やるしかないか」
閉じられた博の部屋の戸を不満そうににらんでいるお蘭。おかしくてたまらない、という様子のおかみさんたち。
月のない夜。墓地の大きな墓の前に立っているりょう。そのそばに側近や旗本が五人。彼らが手にした提灯のあかりで、墓石の「布川家代々之墓」という文字が見える。
りょう「兄上は、こんな時刻に呼び出して何のまねだろう」
側近A「若様、どうせならここで殿を亡き者に……」
側近B「いくら何でも、ここは亡き殿の墓所にござる」
りょう「いや、亡き父上もご覧のところで決着をつけた方がいいかもしれないぞ」
側近C「御意。これも天の配分にございましょう」
そこへ足音がして一同口を閉じる。やってきたのは敏和の側近。手には大きな燭台を持っている。それを墓の前に置き、手を合わせてから、
「殿は間もなくお運びになられます。あの灯りが殿でござる」
と墓地の入り口を指さす。一同が目を向けると、提灯らしいあかりが揺れている。敏和の側近、続けて、
「この燭台は目印でござる。こう暗くては目印でもなくては危のうござるゆえ」
側近A「いかにも。よい考えでござる」
敏和の側近、入り口のあかりの方を見て、
「拙者、案内に戻ることにいたします」
と言うと、すたすたと立ち去る。残った一同、入り口で揺れているあかりを見ている。側近のうち何人かは、いつでも刀を抜けるように準備している。
りょう「どうも怪しいな」
側近C「お気をつけ召されよ」
側近B「この燭台、大きすぎはせぬか」
側近D「もしや、目印というのは……」
側近Aが燭台の火を消そうとした瞬間、フッという音がして、側近Aは首筋を押さえ、うずくまる。
側近B「どうした」
その声が終わらぬうちにまたフッと音がして、側近Dがうずくまる。側近Bと側近Cがりょうを守るように両側に立った時、暗闇から、
「こっちだ。腰抜け侍」
と声がする。旗本が刀を抜いてそちらへ行く。その姿が闇に消えた瞬間、
「ウッ」
と声がする。他の侍が灯りを持ってそこへ行ってみると、旗本は首から血を流してすでに死んでいる。それを見た側近が、
「若、お逃げください」
と叫んだ瞬間、後ろから昌行がその口を押さえ、喉にカミソリを当ててスッと掻き切る。
りょうと一人だけ残った側近、慌てて墓の入り口の方へ向かって逃げようとするが、そこに快彦が現れる。
りょう「あ、お前は!」
快彦、それには答えず、りょうを蹴り倒すと側近を捕まえ、首を絞めあげる。りょうは快彦が側近の首を絞めている間に這って逃げようとするが、博が前に立ちはだかる。慌てて反対の方へ逃げようとすると、昌行が現れて立ちはだかる。
りょうは何とか刀を抜いて構えるが、快彦は息絶えた側近を放り出し、りょうの右手に回し蹴り。りょうが刀を取り落とし、慌てたところを、快彦が簡単に蹴り倒す。
快彦「仕官したがってる浪人を見せ物にするのは面白いか」
りょう「あ、あれはわたしの考えではない。許してくれ。な、必ずお前を召し抱えよう」
快彦「ふざけるな。俺たち浪人はお前らの遊びの道具じゃねえんだ。絶対に許せねえ」
そういうと、快彦、さっとりょうの右手を脇固めにとり、ぐっと力を入れて肩の関節をはずす。りょう、右肩を押さえてのたうち回る。
快彦「手首をやられたやつもいたよな」
快彦、りょうの左手をつかんで手首をぐっとねじる。ボキッと音がして手首が不自然な形に曲がる。
りょう「うわあっ」
快彦、
「脇腹をやられたやつもいた」
と言うと、倒れたりょうの肋骨を踏みつける。息が詰まってのたうちまわるりょう。
快彦が、
「死んだやつもいるんだぞ」
と言ってさらに蹴りつけようとした時、昌行がその袖を引く。快彦が顔を向けると、昌行は唇に指を当て、快彦を暗闇の方へ引いていく。博もさっと闇に姿を消す。三人が消え、燭台の灯りの中でのたうちまわるりょう。そこに敏和が側近を一人連れて現れる。それを見たりょう、
「兄上、お助けください」
敏和、冷たい目でりょうを見下ろし、
「今楽にしてやろう」
と言うと、りょうが落とした刀を拾い上げ、刃先をりょうに向ける。
りょう「兄上……」
敏和「りょう。母が違うことでお前に遠慮していた私が間違っていた。許せ。せめて、己の非を悔いて、父上の前で切腹したことにしてやろう」
と言うと、手にした刀をりょうの腹に突き立てる。りょう、敏和に手を伸ばす。
苦渋に満ちた敏和の顔。
りょう、一瞬硬直したのち息絶える。
敏和、刀はそのままにして墓に向かい、手を合わせ、そのまま誰に言うともなく話し始める。
「武士というのは因果なものだ。こうなっては私も切腹して詫びるのが筋だろうが、家臣のことを思えばそれもかなわぬ」
昌行たち三人に向けた言葉だが、誰も返事はしない。側近が、
「殿、おやめください」
と言うが、敏和、それには構わず、
「このことでお前たちに罪をかぶせたり、口を封じようとしたりすることはない。手を貸してくれたことに礼を言うぞ」
やはり、返事はない。
側近「殿!」
敏和、側近に顔を向けると、
「私の気持ちを聞いて貰いたいのだ」
側近「しかし」
敏和、再び墓に手を合わせ、
「事情は知っておろう。勝ち残った二人は召し抱える。せめてそれぐらいの責任はとる」
そこへ初めて闇から声がする。
「召し抱えるのは一人でいい」
それは快彦の声。
敏和、声のした方を向くが、ただ闇がひろがっているばかり。耳を澄ますと、遠ざかっていくかすかな足音がする。
翌日の夕方。昌行の長屋。井戸端でお和歌らおかみさん連中が夕食のあとの洗い物をしていると、くさなぎの部屋から侍が一人出てくる。それを見送ってでるくさなぎとともえ。侍はどうも納得できないという表情。くさなぎの表情は穏やかながら、意志の強さを感じさせる。
その様子を見ているお和歌たち。
昌行の部屋。お和歌、洗った食器をしまいながら、
「くさなぎさん、仕官を断ったんだって」
と言うと、
昌行「え。自分からことわっちまったのか」
並んで歩いている旅姿のくさなぎとともえ。反対側からきた博とお蘭、二人に気づいて声をかける。
博「仕官なさらなかったそうですね」
くさなぎ「はい、断りました」
博、何か言いたそうにしているが言葉が出ない。すると、ともえが手にした髪飾りをお蘭に差し出し、
「これ、よかったら差し上げます」
お蘭「え、いいの? わー、かわいー」
くさなぎ、博に軽く会釈すると歩き出す。ともえもその後に続く。博とお蘭、並んで見送る。
お蘭、目を落とし、手にした髪飾りを見つめる。
昌行の長屋。
布団に横になっている昌行。お和歌、ともえにもらった髪飾りをはずしながら、
「くさなぎさんたち、よそで仕官の口がみつかるといいね」
昌行「二人とも召し抱えてくれるって言ってたのにな」
お和歌「二人ともって、なんだいそれ。誰に聞いたんだい」
昌行「え? あ、そうだなー。えーと。ほら、手軽屋の博、あいつに聞いたんだよ。手軽屋はあちこち顔を出してるからな、いろんな話が耳に入るらしいぜ」
お和歌、昌行ににじり寄り、
「なんでいつもそうやってあの手軽屋と会ってるのさ」
昌行、「たまたま会ったんだよ。くさなぎさん、せっかくの話だったのにな。仕官して主君のために力を尽くす、これこそ武士の本懐だろうに」
お和歌「本懐なんかどうでもいいよ。あんた、あの手軽屋とどういう仲なんだい」
昌行「どういうもこういうも……」
お和歌、昌行に馬乗りになると、襟をつかんで締めあげ、
「あんた、正直に言いな。隠すとためにならないよ!」
お和歌の手をはずそうとしながら悶絶する昌行。
(終わり)
というわけで、くさなぎくんとシノラーの夫婦はまた旅に出てしまったのでした。
なぜこの二人かというと、ドラマで共演していた、というのもありますが、私はそのドラマは見ていませんでした。「LOVELOVEあいしてる」にくさなぎくんが出た時に、控え室で篠原ともえにキスしたのと、トークの時に、Kinkiの二人に対しても「ですます調」で話していたのが印象に残り、こういう夫婦にしてみようと思ったのです。いかがだったでしょうか。
さて、次回は9月の番組改変期ということで、カミセンも出演するスペシャル番組「必殺! 苦労人&料理人」をお送りいたします。
(hongming 1998.8.29)