料亭「山徳」

「山徳」は八尾市本町四丁目で料理と旅館を営んでいる。

 創業は文久三年(一八六三年)で、徳川十四代将軍家茂の治世下であり、初代は久尾徳松。

 この「山徳」創始者である初代の久尾徳松という人は、奇人として新聞にとり上げられるくらい有名人だった。

 若い時から底抜の貧乏人であったが、坊んち風、旦那風が好きで木綿着物は着ない。何かあれば羽織袴を着ける。

 九面十面して絹物を着る。ただし晴れ着は質屋の倉にあずけて、いざという時取り出す。

 髭は生れてから剃ったことがない、碁を打つ、将棋をさす、謡曲、茶、花、なんでもやるが、他人に頭を下げるのが嫌いでなもで、だんだん借金がかさんで来る。

 そこで七名の債権者が天王寺の区裁判所へ訴えた。

 面自いのは原告、貸し方は木綿の服で、借用人は絹の羽織袴。裁判官に頭も下げず「一文なしの徳松です。然るべく願います」と、いったそうだ。

 ある日、当時の税所知事が管内を巡視した時。この徳松さんを呼んで「苦しうない、熱い茶を」と注文した。

 徳松さん大いに困ったが、遂に一策をこうじ茶碗を、火にかけて熱くなった処へ玉露の甘いのを煎れて出した。税所さん感して、それから贔屓にしたそうである。

 「山徳」は、近鉄八尾駅から十分ぐらい、ジャスコ御坊店から道をへだてた東側にあるが、純日本風の趣きと静かなただずまいをみせている。