■訴状■
訴 状
原 告 池 田 幸 司
右原告訴訟代理人
弁護士 佐 々 木 浩 史
(住 所)〒一〇〇−八九七七 東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
被 告 国
右代表者法務大臣 保 岡 興 治
地位確認等請求事件
請求の趣旨
一 (主位的請求)
原告と被告との間で、原告が被告に対して労働契約上の従業員たる地位を有することを確認する。
二 (予備的請求一)
原告と被告との間で、原告が被告の非常勤職員たる地位にあることを確認する。
三 (予備的請求二)
被告は原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一二年七月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに第三項につき仮執行の宣言を求める。
請求の原因
一 被告は郵政省及びその一機関として岡山中央郵便局を設置するものである。
二 原告の岡山中央郵便局での採用から雇止めまでの経過
1 採用時の状況
原告は、平成九年一〇月末ころ岡山中央郵便局総務課に赴き、アルバイトで働きたい旨申し出た。
同郵便局総務課の担当者(名前不明)は原告に対し、(ア)長期のアルバイトを希望するのか年末だけを希望するのか、(イ)内務がいいか外務がいいか、(ウ)(外務なら)勤務時間は午前八時から午後三時までとなるがそれでよいか、と尋ねた。原告は、右(ア)の問いに対しては長期のアルバイトを希望する旨、同(イ)の問いに対しては外務がよい旨、同(ウ)の問いに対してはそれでよい旨回答した。
原告は、右担当者から要求された所定の用紙に住所・氏名等を記入した上、同用紙を同人に提出した。
すると、右担当者は「今から面接をするから」と原告に告げ、原告を同郵便局第二集配課(現在は第二集配営業課に改称)に案内した。同課において原告は課長代理友野より面接を受けた。簡単な質問と説明を受けた後、採否の結果について後日連絡があるということで原告は同郵便局から帰った。
右の連絡がなかなかなかったことから、原告が同郵便局に電話で問い合わせると、同郵便局第二集配課長梶原正が担当の者が採用できる旨連絡をするのを忘れていた、一〇月二七日午前八時から出勤してくれ、と原告に対し告げた。
原告が右指示に従い、同日同郵便局に出勤すると、まず右梶原課長から勤務についての説明があり、その後担当する場所に連れて行かれ、同郵便局での勤務が始まった。但し、この時点で文書の類は何も原告に渡されていなかった。
2 勤務内容・条件
(一) 原告の仕事の内容は、郵便物の配達と集荷(取り集め)であった。前記面接の際はバイクで配達と言われていたが、実際は軽ワゴン車で大口(大きなビルや官庁等の郵便量の多いところ)を回る仕事であった。
(二) 原告の勤務時間は、当初午前八時から午後三時までの七時間(但し、午後〇時七分から午後一時三〇分まで昼休み)であったが、平成一二年に入ってからは、午前八時から午後二時四五分までの六時間四五分(但し、午後〇時二二分から午後一時三〇分まで昼休み)であった。
(三) 原告のその日の仕事が午後三時までに終了しなければ超過勤務(残業)を行った。
週に三回くらい一〇分か二〇分、多いときで一時間三〇分くらい超過勤務をしていた。但し、午前中の配達が時間内に終わらず、昼休みがつぶれたときは超過勤務扱いにはならなかった。
(四) 原告の毎日の仕事の手順は、@前記のとおり午前八時に出勤し、住友生命ビル用の郵便区分台で住友生命ビル宛の郵便を会社別に区分し、順番に束ね、ケースに入れる、A配達先の小包と速達を取ってきて区分し、他の職員が区分した配達先のビルの区分済みの普通郵便と一緒にビルごとにケースに入れ、台車に積み込む、B書留と料金徴収の郵便を受け取り、数と料金を確認し、配達先ごとにメモをとる、C台車で郵便物を配達車まで運び、ケースごとに車に積み込み郵便局を出発する、D配達先では、普通郵便はビルの集合郵便受け箱に各テナントごとに入れていき、速達・小包・書留・料金徴収郵便は直接各テナントまで持参し、受領印や料金をもらう、E配達が全部済むと郵便局に帰り、書留の受領証の数と料金徴収の料金が合っているかを確認した上で、受領証と料金を提出する、F昼休み後の午後も、@ないしEの手順と同じであるが、午後は集荷の指示があれば配達途中に郵便物を受け取り、郵便局の窓口に持ち帰る、G最後に事故郵便物(転居等の理由で配達できなかった郵便物)の処理(転居先への転送・差出人への返送)をする、というものであった。なお、いつも担当しているか所以外でも急にその日になって行ってきてくれ、と配達や集荷を指示されることもあった。
(五) 原告の給与は、当初毎月一八日限り、時給八六〇円で支払われていたが、その後昇給し、平成一二年七月当時、時給九七〇円となっていた。
原告は右給与の他にも賞与の時期には臨時手当名目で毎年六月ころ約二万五、〇〇〇円を、毎年一二月ころ約五万五、〇〇〇円の支払いを受けていた。
(六) 原告の休日は基本的に日曜日だけで、祝祭日については出勤日となったり休みとなったりしていた。有給休暇も一年に一〇日間くらい取得できた。
3 原告の非常勤職員の地位の更新時の状況
(一) およそ二か月おきぐらいに右郵便局第二集配課の事務員の女性が原告や他の非常勤職員のところに来て「これに判子を押して」と言って、名簿のような冊子(辞令簿か?)中の名前の横に押印を指示する。その指示に従い押印すると、同事務員が「はい、これ」と採用通知の書類をその場で渡して帰っていく。
(二) 右の手続は、まさに極めて形式的なものであり、@押印する趣旨や再雇用の意味等につき説明がなかったのはもちろんのこと、A実際の新予定雇用期間が始まっている後、手続がなされていたこともあった(例えば、新しい予定雇用期間が平成一二年五月二九日から二か月となっているのに、押印等の手続が同年六月二日以降だったりする)。
4 今回問題となった原告と岡山市職員のトラブルについて原告は平成一二年六月一日午前一一時ころ、いつものように岡山市役所に郵便物を配達するべく、同市役所地下駐車場に郵便車を停車し、同市役所総務課に郵便物を配達し、右地下駐車場に戻ってきた。
すると、原告の停車していた郵便車の後方に岡山市役所の公用車が郵便車を発車できないように妨害するべく停車してあった。
すぐに同市役所の守衛の人がやってきて、「君には言ってなかったが」と前置きをした上、今郵便車を停車している所はこの四月から停車してはならないようになっていた旨を告げた。(その時初めてそのようなことを知った)原告は「分かりました」と、今後はそこに停車しない旨を答えた。
右守衛が「じゃあこの車(右公用車)をどけてもらうからちょっと待ってて」と言い、その場を離れたため、原告は郵便車に乗車し、公用車の移動を待った。
するとそこに公用車の運転手がやってきて、原告に対し、「お前、わしに何か言うことがあろうが」「あやまらんか、車ここに停めとろうが」「あやまらんか」等と一方的に強く要求し、原告が「以前にここに停めていいと言われているんですが」等と弁解すると、右運転手は「もーええ、わしは車をどけん」等と原告に対し申し向け、公用車をそのままにして立ち去ろうとするに至った。
己むなく原告も「どけろ」と強く抵抗すると、原告と右運転手とが口論となった。そうしているうちに他の運転手の人や守衛の人等がやってきて間に入り、やっと右運転手は右公用車を動かし、原告は郵便車を動かすことができた。
しかし、右運転手は(理不尽な)怒りがおさまらない様子で、「お前の上司を呼んだる」等と原告に対しどなっていた。原告はそれを無視して次の配達に向かった。
5 右トラブル後の雇止めされるまでの経過
(一) 平成一二年六月一日午後一時ころ
午前中の配達から帰局した原告に対し、第二集配課の若林始上席課長代理が「今日市役所で何かあったのか」と問い、原告が岡山市役所地下駐車場での前記トラブルを若林に対し説明した。
(二) 同日の午後四時ころ
その日の配達を終えた原告は、郵便局六階衛生室に呼び出され、小林総務課長及び若林始上席課長代理及び赤追賢吾総務課長代理から同日の岡山市役所地下駐車場でのトラブルにつき叱責を受ける。
総務課長は原告に対し、以前にも原告に市役所で態度の良くないことがあった旨を言うとともに「どんな理由でも怒鳴ってはいけない、相手が怒鳴っても怒鳴り返したらダメだ、お客様あってのサービス業なんだから」等と叱責した。
その上で同総務課長は「反省しないなら七月二九日以降は雇わないよ」「六月二九日までに君に言い渡す。でももし六月二九日までに市役所側が君の態度が良くなったと言ったならば、七月二九日以降のことも考える」「六月二九日までに一度でもまた苦情が来たりしたら、もうその時点でやめてもらう」旨原告に対し申し向けた。
そして、総務課長は原告に対し「誓約書を書いてもらう」と「誓約書」なるものを内容を細かく示して書かせるに及んだ。総務課長が「清書して」と原告に対し申し向けた。しかし、その後すぐに原告の同僚の東節雄、山元剛が入室してきて「こんなもの書かせて、こんなことしていいと思っているのか」等と抗議し、右誓約書を取り合いもみ合いになったが、最後は同書類が原告のもとに返ってきて、その場は一応おさまった。
(三) 同月二日午後三時一五分ころ
同日の仕事を終えた原告は、郵便局第二集配課長席横のソファーに座らされ、安達課長から「昨日あったことをもう一度説明してくれ」と言われた。原告は、昨日長時間叱責を受け苦しかったので、(説明する際)「今度は誰かについてもらっていいですか」と要望を告げた。ところが同課長は、「今は僕が君に指導するんだ。一対一じゃないか」等原告に対し申し向け、原告からの申し出を拒否し、その上で、「退職通知」なる文書を原告に対し差し出した。原告はその受領を拒否し、受け取らなかった。
(四) 同月五日午前八時一〇分ころ
出勤してきた原告に郵便局第二集配課長がちょっと来てくれと声をかけ、それに従い原告は同郵便局六階総務課に入室した。同室で総務課長が「七月二九日でもう雇わないと言っただろ。約束したよね」と原告に対し申し向けた。原告がそれに対し、「この前の話では、六月二九日までに僕が態度を改めたということが市役所に伝われば、その後(七月二九日以降)も雇うということになっていたと思うんですが」と反論した。その後、原告と総務課長の間でその旨言った、言わなかったの口論となった。
原告が不審に思いメモを取っていると、総務課長らは「何だ君は、メモを取るな」と何度か申し向けた上に、「もうとにかく君は態度が改まってないじゃないか。七月五日でやめてもらうよ」と通告し、七月五日付で退職させる旨の通知書を原告に対し手交した。
原告がそれに対し弁明をしようとしたが、総務課長は「はい終わり。以上」と言って席を立って退出してしまった。
(五) 同月八日午後三時三〇分ころ
同日の仕事を終えた原告は、同僚の東と第二集配課長のところへ行き、同課長に対し、六月五日手交された七月五日付で退職される旨の「退職予告通知」、そして原告が作成した郵便局長宛の「退職する意志はありません」「退職にする理由を教えて下さい」旨記した書面を渡した。同課長は同書面二通を総務課長に渡す旨約束した。
(六) 同月一三日午前八時ころ
出勤してきた原告に第二集配課長より総務課に行くように指示があり、原告は郵便局六階小会議室に赴いた。
すると、同所で総務課長は新しい七月二九日付で退職にする旨の退職予告通知を原告に対し手交した。
原告は、七月五日で退職と言ったり、七月二九日で退職と言ったり、ころころ変えることに対し非難する旨を述べた。
総務課長は、七月五日付のものは取り消すことや(七月五日から七月二九日まで)延びたんだからいいんじゃないか、等と原告に対し申し向けるに及んだ。
そして、六月一日の衛生室での会話の内容等を記した「聴取書」なるものを原告は見せられる。内容的には原告の記憶と違うことも記されており、原告がクレームを言うと総務課長は「そんなこと言っていないよ。なんなら事情聴取をもう一回やり直して聴取書を作り直すこともできるんだぞ」とまで言われ、同書面の指示された箇所に原告は署名・押印した。
その後原告は衛生室に移され、「始末書」を書くように言われ、書式や文章の表現につき指示を受け、それに従い作成し提出した。その代わりに六月八日に提出した二通の書類を返却してもらった。
午後〇時ころそれが終わり、原告は部屋を退出できた。
(七) 同月一九日午後五時三〇分ころ
原告は総務課長に対し、退職の勝手な変更は認めないし、もう一度七月五日付での退職の理由を求める旨の書面を提出すると共に七月二九日付で退職する旨の退職予告通知を返却する。
(七) 原告は同年七月一三日付で郵便局長に対し、原告に退職の意思がないこと、同月一七日までに雇止めの理由、退職予定日が変更された理由を書面で回答して欲しい旨通知した。しかし、回答は無かった。
(八) 原告は同年七月一九日岡山一般労働組合ワーカーズユニオン(以下、単に「ユニオン」という。)に加入した。
(九) ユニオンは岡山中央郵便局長に対し、団体交渉の申し入れをし、平成一二年七月二六日第一回目の団体交渉が行われた。しかし、交渉は物別れに終わった。
(一〇) 同年七月二九日午後二時すぎころ
原告に対し、第二集配課長が同日までの給料を持ってきて受け取るよう執拗に迫り、原告が交渉中だから受け取らない旨答えると、同課長は「胸章と組合員証(保険証)を返しなさい」と原告に迫った。原告はそれも交渉中であることを理由に拒否した。同課長は「もう仕事終わりましたんで帰って下さい」とまだ原告の仕事が完全に終わっていないのに、時間がきたと帰らせるに及んだ。
(一一) 同日三一日午前七時五五分ころ
原告は、ユニオンの前原氏と共に郵便局に就労の意思を表示するべく赴くが、就労を拒否される。その後も原告は八月一日、八月二日、八月三日、八月四日と同様に就労すべく赴くも拒否が続いた。
(一二) ユニオンと岡山中央郵便局は同月三一日第二回目、八月一〇日第三回目の団体交渉を行った。しかし、やはり交渉は平行線のまま物別れに終わった。
三 原告についての本件採用の法的意義について
1 本件採用は、私法上の雇用契約と解すべきである。
(一) 国家公務員法(以下「法」という。)上、国家公務員の任用は期間の定めのないものとするのが原則であり、条件付任用(同法五九条)や臨時的任用(同法六〇条)はあくまでも例外である。そして、法附則一三条は、一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基づいて、人事院規制をもってその特例を定めることができるとしているが、それは、任期の定めを必要とする特段の事情、例えば、年末繁忙期の業務の一時的、臨時的増大があった等緊急・臨時的な必要性がある場合に限られるというべきある。
また、職員の身分保障の点からは、長期の任用を予定する場合には、常勤職員を任用すべきであり、恒常的業務についての長期の任用を予定しながら、任期を一日等と定めることは許されないと解すべきであり、従って、本件採用は国公法上に根拠を持たないものである。
(二) 原告のような非常勤職員は、常勤職員とほぼ同じ職務(恒常的職務)を分担し、その責任も別段軽減されていないのみならず、公務員と解することによって職務専念義務、秘密保持義務を負い、政治的行為が制限され、争議行為も禁止されることになる。
他方、非常勤職員の労働条件は、常勤職員と比較して劣悪である。常勤職員は、身分が保障されているのはもちろんのこと、国家公務員共済組合に加入し、健康保険や年金などについても行き届いた保護がある。
これに対し、非常勤職員は、加入の要件を満たしてはじめて、社会保険や厚生年金に加入できるだけであって、共済組合には加入できない。何ら身分も保障されない。
また、賃金についても人件費からは支給されないのが一般の扱いである。
すなわち、公務員なるがゆえの権利の制限はあるが、公務員なるがゆえの保護にはほとんどあずかれないのであって、このような取り扱いはあまりに法的均衡を失していると言わざるを得ない。
非常勤職員を「国家公務員」であるとする解釈は、国公法上に明文の根拠を持たないばかりでなく、現実の効果として非常な不利益を非常勤職員に強いる結果となる。
(三) 原告としても、自分が公務員試験に合格して始めて採用される国家公務員であると考えたことなど全くない。
このような立場にある原告を、常勤職員と同じ「国家公務員」という枠にはめようとするのは、困難である。
(四) 以上の実態からすれば、原告と被告との間の法律関係は、私法上の雇用関係と解さ
ざるを得ない。
2 仮に、本件採用が公法上の任用であるとすれば、
右1(一)同様に原告の採用に任期の定めがあったにしても、それは任用に付された附款であって、この附款は法一条、法附則一三条による期限付で任用するための要件を充たさず、それは職員の身分保障に反する重大かつ明白な瑕疵にあたり、無効である。
そして一般に、附款が無効の行政行為の効力については、その附款が行政行為の重大な要素である場合には、附款が無効のときは、行政行為全体の無効を来すのに反し、その附款が行政行為の重要な要素でない場合には、附款が無効となるだけで、附款のつかない行政行為としての効力を生ずるものと解されるところ、本件採用につき、任期を一日とする旨の定めは採用行為の重要な要素とはいえないので、附款のない行政行為として効力を生ずるといわなければならない。
従って、原告の本件採用は、期限の定めのない任用となる(但し、原告の地位は、あくまでも非常勤職員としての地位であり、採用につき試験によることを必要とする常勤職員としての地位ではない)。
四 本件雇止めは無効である。
1 本件採用が三1で述べたとおり法的性格として私法上の雇用契約と解される以上、本件雇止めは実質的には原告を解雇したということとなるが、二で前述した経過に鑑みれば、右解雇には合理的な理由が全く存在しない。
従って、本件雇止め=解雇は無効である(解雇権濫用法理の類推適用による)。
2 仮に本件採用が三2で述べたとおり期限の定めのない公法上の任用であるとすれば、本件雇止めは原告に対する免職処分というべきであり、三1(二)で前述の実態に照らせば、私法上の雇用契約において解除ないし雇止めが許される場合と同等の社会通念上の相当性を要すると解されるが(衡平の見地からここにおいても解雇制限の法理が類推されるのである。)、二で前述した経過に鑑みれば、その要件が充たされていないことは明らかである。
従って、本件雇止め=免職処分は違法であり、その瑕疵は重大かつ明白であるから無効である。
五 原告の「期待権」の侵害について
1 本件採用が、仮に、期限の定めのない雇用ないし任用といえないとしても、任命権者が非常勤職員に対して、任用予定期間満了後も任用を続けることを確約ないし保証するなど、右期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬ認められる行為をしたというような特別な事情がある場合には、職員がそのような誤った期待を抱いたことによる損害につき、賠償を認める余地があると解されるところ、岡山中央郵便局は、以下述べるとおり、予定雇用期間満了後も原告を雇用することを確約ないし保証するなどの期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものと認められる行為をしており、原告に対する賠償責任を免れない。
2(一) 二1で前述したとおり、原告の採用時、原告が長期のアルバイトを希望する旨回答していたが、それに対し、第二集配課長らから否定的な言動は無かった。
(二) 原告の採用時において、発令簿及び採用通知書を原告は受領していない。後日、平成九年一〇月二七日付採用通知書が渡されていたにすぎない。
(三) 二3で前述したとおり、原告の非常勤職員の地位の更新の際、説明もなく形式的に辞令簿(?)に押印させている程度であり、このような杜撰なやり方(又、新雇用期間が始まった後の手続については違法ともいえよう。)では、非常勤職員らは自分が任期の定めのある雇用であることを認識しえない。
実際、原告は右押印や採用通知の交付がどういう意味をもつかを理解していなかった。
(四) 二5(二)で前述したとおり、小林総務課長は原告に対し、二4で前述したトラブルを本件雇止めの原因であるかのように前置きした上で、「でももし六月二九日までに市役所側が君の態度が良くなったと言ったならば、七月二九日以降のことも考える」旨伝えていた。原告はその言に従い、以後努力を続けてきた。
(五) 原告の岡山中央郵便局における職務内容は、二2で前述したとおりであるが、これは常勤職員と同じものであり、かつ、郵便局の運営にとって重要なもので、しかも臨時的なものでなく恒常的なものである。そのような内容の業務を何年間も担当させていたこと自体が、長期の雇用であることを保証し、かつ、期待させる行為と評さるべきである。
さらに強調したいのは、岡山中央郵便局の場合は、常勤職員が約四九六名、非常勤職員が約四七七名でほぼ同数になっており、非常勤職員の多くが恒常的な業務を担当し、又、非常勤職員の存在に依存し業務を回していたということである。実際に非常勤職員の中には、勤続六、七年に及ぶ者さえいる。それらの事実が客観的に存し、また、主観的に原告に理解させていること自体が、形式的な期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為といわざるを得ない。
3 以上のとおり、原告は、解雇の事由が発生したり、自ら退職の申し出をしたりしない限り、勤め続けられると期待していたにもかかわらず、岡山中央郵便局長により一方的に本件通知を受けた。原告に対し前述のことには故意又は少なくとも過失がある。
4 原告が本件雇止めによりその保護さるべき期待権を侵害され、被った精神的苦痛を慰謝する慰謝料は金一〇〇万円を下るものではない。
六 (仮に本件雇止めが有効でかつ前項の期待権侵害も認められないとしても)
二5で前述したように、原告は岡山中央郵便局総務課長らから不当に長時間に亘り(例えば六月一三日は約四時間にも及んだ。)事情聴取なるものを受け、「誓約書」や「始末書」なる書面の作成を強要され、さらには退職の予定日を一方的に数回に亘って変更し、その理由を問うもきちんとした回答さえしてもらえなかった。
右一連の行為は、労働者である原告に対する不誠実かつ違法な行為であり、右行為により原告の被った精神的苦痛を慰謝する慰謝料は金三〇万円を下るものではない。
従って、右の慰謝料を予備的に請求する。
七 本件の意義
本件被告が原告を「雇止め」する主な理由は、平成一二年六月一日の岡山市役所での市役所職員(運転手)とのトラブルである事は被告側もユニオンとの団体交渉の中で随所で認めている。
このときの原告の行為は二4で前述したとおりであるが、原告が再三当該運転手に対し「どけろ」と言ったのは、結局、業務妨害状態を排除し、自らの業務を遂行しようとしたに過ぎない。被告が「雇止め」する主たる動機は、このとき原告が「声を荒らした」との岡山市役所からの苦情によるようであるが、原告が再三妨害車両を移動させるよう運転手に要求し、「謝れ」の一点張りで一向に要求に応じようとしない理不尽な行為に対し強い口調となるのも人間同士の接触の中でよくある事で、「雇止め」=解雇に結びつくほど社会的非難を受ける行為ではない。現に岡山市役所側も郵便局に対し、再三「クビにしなくてもよい。」と言っている。しかるに被告が原告を「雇止め」したのは理解しがたい。これには次のような郵便局と市役所との事情があった。当時岡山市役所の中に郵便局の支所を開設する予定があって、岡山市役所の苦情であれば、郵便局側にさしたる責任が無くとも、一方的に受け入れるとの姿勢をとらざるを得なかった。ユニオンとの団体交渉の中でその旨の話もあった。しかし、これは郵便局と市役所の事情であり、原告には全く関係のないことである。市役所との関係を維持せんがために原告に不利益を転嫁するのは不当といわざるを得ない。
第三者による理不尽な業務妨害行為を排除し、業務を遂行しようとした原告がなぜ「雇止め」されなければならないのか。
本件は、これまで堆積された郵政非常勤職員の「雇止め」事件と同様の論点があることはもちろん、被告が広範な裁量権を有するとしても、本件のように第三者により理不尽な行為を受け、本人にはさほど責任が認められなくとも「雇止め」ができるのか、フリーハンドともいえる裁量を裁判所は認めるのか、法的保護から疎外された非常勤職員の無権利状態とも評さるべき状況に歯止めをかけないのか、との重大な論点を提起するものである。
八 結論
よって、原告は被告に対し、主位的に、請求の趣旨一項の地位確認の、予備的に(右の請求が認容されることを解除条件として)、請求の趣旨二項の地位確認の、更に予備的に(右の請求が認容されることを解除条件として)、金一〇〇万円の損害賠償請求の、更に予備的に(右の請求が認容されることを解除条件として)、金三〇万円の損害賠償請求の各判決を求める。
証拠方法
甲第一号証 退職予告通知書(平成一二年六月五日付)
甲第二号証 退職予告通知書(平成一二年六月一三日付)(写し)
甲第三号証の一、二 通知文、同配達証明書
甲第四号証 雑誌記事の一部
附属書類
一 訴状副本 一通
二 甲号各証写し 各二通
三 訴訟委任状 一通
平成一二年一一月三〇日
右原告訴訟代理人
弁護士 佐 々 木 浩 史
岡 山 地 方 裁 判 所 御中
原告 池 田 幸 司
被告 国
地位確認等請求事件
訴訟物の価格 金一〇〇万〇、〇〇〇円
貼用印紙額 金 八、六〇〇円
予納郵券額 金 六、九〇〇円