■原告側意見書(社会保険労務士 前原成美)■
意見書/前原成美(社会保険労務士)
私は、社会保険労務士として社会保険・労働保険関係各法、労働関係各法に基づく法律実務を取り扱うことを業とするものでありますが、今般の、池田幸司を原告とし国を被告とする地位確認等請求事件につき、国側の主張する採用・退職手続き等に、看過しがたい疑義がありますので、以下に意見を申し述べます。
(1)非常勤職員採用時の社会保険各法上の取扱いについての疑義
健康保険法、厚生年金保険法によれば、国又は法人は強制適用事業であるとされ、そこに雇用されるものはこれら法律の適用を受け、被保険者となることとなっている。もっとも正規職員については公務員共済等により、これに代わっている。一方、非常勤職員は健康保険法、厚生年金法の適用を受けている。
ところで、健康保険法、厚生年金保険法では、この適用を除外する者が規定されており、臨時に使用される者のうち、@2ヶ月以内の期間を定めて使用される者、A日々雇い入れられる者は適用除外されるとある。ただし、@においては所定の(2ヶ月)期間を超えて引き続き使用されるとき、Aにおいては1ヶ月を超えて引き続き使用されるようになったときは適用されるとある。そして、@、Aに該当する者は日雇い特例被保険者として取り扱うこととされている。
被告国の主張は、原告らは日々雇用であり、予定雇用期間はあくまで便宜的なものとして1ヶ月とか2ヶ月以内の定めをしているというようなことである。その主張に従えば、原告らは日々雇用として日雇い特例被保険者とされるのが適法であるが、被告は原告はじめ非常勤職員に、ある時点から健康保険、厚生年金の加入手続きを行っている。原告についてみれば、最初の採用における契約期間は平成9年10月27日から同年11月29日であり、この期間は日雇い特例にも、健康保険にも加入していない。引き続きの契約は同年12月1日から翌平成10年1月24日。3回目は同年1月26日から2月28日となっている。給与明細を見ると、2月18日支給の給与から健康保険料および厚生年金保険料の徴収が開始され、以降も引き続いている。健康保険法・厚生年金保険法上、前月分の保険料を翌月支給の給与から徴収するものとされているので、被告は平成10年1月26日の3回目の採用時点から原告の健康保険・厚生年金保険加入の手続きをしたとみられる。
当初の採用から3ヶ月近く無保険状態で放置したことは無責任きわまりないが、この時点にいたって日雇い特例ではなく健康保険、厚生年金の加入手続きをしたことの意味するものは、被告の主張するように当初は日々雇用として雇い入れたものであったと仮定しても、この時点以降は引き続き2ヶ月を超えて雇用し続けることが自明であることからなされた手続きであると考える以外に説明はつかない。これらは、日々雇用といい、2ヶ月の予定雇用期間といいながらも、本人の退職申し出がない限り、さらに長期となることを国側も前提とした採用をしていると見られ、採用された原告らが、契約が更新されることを期待するのは当然である。
このような被告の社会保険各法に則らない杜撰な手続きは、岡山に限らず全国的なものであり、郵政非常勤職員全体の社会保障を危うくしている。また、その杜撰さゆえに、健康保険料・厚生年金保険料が適法に徴収・納入されず、多額の未納を会計検査院に指摘される事態となっているのである。
会計検査院は当然にも、非常勤職員を常態雇用とみなし、当初の採用時にさかのぼって保険料を納入することを命じ、郵政省はこれに応じている。
(2) 非常勤職員退職時の社会保険各法上の取扱いについての疑義
国は「採用で明示された予定雇用期間の満了をもって当然に退職し、再採用により、新たな労働条件で新たに雇用されたものである。」という。となれば、当然、退職時においては健康保険・厚生年金の資格を喪失する手続き、すなわち、事業主は退職日の翌日から5日以内に社会保険事務所へ資格喪失届を健康保険証を添えて提出する、が行われているはずであるが、そのようにはなっていない。民間事業所においても期間契約についての解釈は上記と同様であるが、新契約に労働者が同意し、反復更新すれば、常時雇用とみなす見解の定着からこの手続きは省略されているのが通例である。しかし、国があくまで、更新は前提としていないと言うならば、法定の手続きが行われていなければ整合性がない。さらに、予定雇用期間が満了し(国の解釈からすると退職して)、その後数日をあけて再採用しているが、その場合、その空白期間に私傷病が生じたとき、健康保険証を使用すれば明らかに不正であり、刑事罰の対象となってしまう。そのような重大な取扱いについて何ら非常勤職員に説明がないのであるから、予定雇用期間なるものが、いかに法的に意味のないものであるか、また、満了、再採用の手続きも形式だけで、実態は常時長期の雇用であることは明らかであり、原告の契約更新の期待も当然である。
(3) 非常勤職員採用時の雇用保険法上の取扱いについての疑義
原告ら非常勤職員は採用と同時に雇用保険の被保険者となっている。この雇用保険被保険者たる資格は、適用事業において雇用期間が1ヶ月以内または日々雇いである者、65歳以上である者、週20時間未満の労働時間である者等を除いてすべての労働者にある。原告らが被保険者である以上、ここにおいても、原告らは日々雇用であるとする国の主張は整合性がない。日々雇用であるなら、日雇労働被保険者として別途の取扱いでなければならない。
(4) 非常勤職員退職時の雇用保険法上の取扱いについての疑義
上記(2)と同様に、「採用で明示された予定雇用期間の満了をもって当然に退職し、・・」というのであれば、当然、予定雇用期間満了・退職の都度、契約更新の有無にかかわらず、その翌日から10日以内に公共職業安定所に雇用保険被保険者資格喪失届、雇用保険被保険者離職証明書を提出し、賃金台帳を提示し、離職票を受け取り、これを退職者に交付しなければならないが、このような取扱いは行われていない。上記2と同様民間事業所においては、反復更新は常時雇用とみなす解釈によって通例これは行われていないが、国がそうではないと主張する以上、この手続きの省略はあってはならないはずである。
以上述べてきましたとおり、国の主張は社会保険・労働保険各法に照らしてまったく整合性がなく、原告ら非常勤職員の身分を軽んじ、不安定のままにしながら、業務上の責任だけを負わせようとしているといわざるを得ません。
さらに言えば、公務員はその業務の公的責任ゆえに、身分的優遇を与えられ、上記社会保険・労働保険制度による保障以上の保障を公務員共済等から受けています。原告ら非常勤職員も日々雇用国家公務員として責任において同じであれば当然、その保障にあずからなければならないはずです。しかし、そこからは除外しておいて、郵政省の都合で契約を思いのままにし、退職となった場合は、民間事業所と労働者が賃金に応じて保険料を負担して成り立っている雇用保険財政によりかからんとする姿勢は、社会的公正の見地からも疑問が生じます。
また、もう一点。被告は、原告の雇い止めの理由としては任期満了である、契約を更新するか否かは郵政省の専権事項であると主張しています。しかし、行政は法に則ってすべてを取り扱うべきところである以上、すべての職員に対して法の下に平等の取扱いをすべき義務があります。何らの理由なしに、また、人員削減の必要もないにもかかわらず、ある者は更新し、ある者は更新せずというのは、行政の決定としてきわめて不明瞭であり、不公正なのではないでしょうか。
雇用情勢がきわめて厳しく、多くの人々が失業に瀕している折、国は自ら率先して雇用拡大と安定に努めなければならないはずですし、そのための施策も施行されています。しかるに本件では、そのような国の努めは一顧だにされず、民間事業所でさえおこない得ない一方的かつ理由なき雇い止めを当然のごとくおこなって恥じない郵政省の体質が如実に表されています。
法に則り、不公正を排し、労使の健全な関係を築くことをもって事業と社会発展に資することを業として法律実務に携わる者としては、本件のような郵政省の独善的姿勢は、民間事業所の健全運営のために日夜尽力している幾多の事業者に対して礼を失し、社会的公正を実現する妨げとなるものと断ぜざるを得ません。
裁判官におかれましては、これまでの判例にとどまらず、法的整合性、社会的公正、労働者の生活権、勤労の権利と義務の見地から、一点の曇りもない判断を下されますことを切に願うものであります。