はじまりの時
キーンコーンカーンコーン

あー、今日の授業も終了。
今日はこれからどうすっかな。
とか考えてると隣のカナ坊が声をかけてきた。
若菜「ねえねえ、靖臣くん。ホテル行こ、ホテル行こ」
……えーと、何を言いやがるですか、この小さい娘さんは?
……周りがざわめいてるし……
女生徒A「二人はそんな関係だったのね」
女生徒B「新沢くんってやっぱりロリでぺド……」
いや、あんたらと同い年ですが……カナ坊は。

初子「私も行くわよ」
忠介「僕も行くらしい」
初子、忠介……おまえら火に油を注ぐな……周りがもっと誤解してるぞ。
男生徒A「乱交……4Pだな」
男生徒B「新沢うらやましいぞ。尼子崎さんの大きな胸を揉んだり、楠さんの幼い身体を開発したりしてるなんて!」
女生徒C「新沢くんたら江ノ尾くんとも…」
女生徒D「新沢くんが攻かな…」
女生徒C「私は江ノ尾くん攻のほうが…」
もしもーし、どこからどう突っ込んだらいいものやら…。
てか、突っ込まないよ!

靖臣「つーか、どういうことだよ、カナ坊?」
あらかたの生徒が帰った後、ようやくカナ坊に俺は尋ねた。
若菜「えーとね、えーとね、ホテルの喫茶室に行くんだよ。いくんだよ」
靖臣「それだったら、最初からそう言え! みんな誤解しただろうに!」
若菜「怒られた〜、怒られた〜」
初子「こら、靖臣! カナ泣かしちゃダメでしょ!」
忠介「女性を泣かすなんてひどい奴だな。靖臣は」
怒られたですよ?
なんで俺が怒られるんだ……。
靖臣「つまりどういうことなのか、ちゃんと説明しろ」
初子「駅前のホテルの喫茶室で、デザートビュッフェをやってるのよ」
若菜「それでね、それでね、お父さんが仕事でよく使うから、招待券をもらったんだよ、もらったんだよ」
仕事で使うのか……ちっ、ブルジョアが。
忠介「それで、みんなで行こうという事になったんだが、キミはどうだい?」
デザートブッフェ?
靖臣「デザートブッフェって何だ?」
初子「ようはケーキバイキングよ」

涼香「行くっっっっっ」
靖臣「そう、行く……って、すずねえ!?」
振り返ると、なぜかそこにはすずねえがいて、がしっと俺の首をつかんだ。
涼香「オミくんも行くよねっっっっっっっっっっ」
そのまま、おもいっきりゆすられる!
息が…
出来…な…い…。
若菜「靖臣くん、死んじゃうんじゃないカナ、死んじゃうんじゃないカナ?」
初子「あの涼香先輩、靖臣死んじゃいますよ」
涼香「ああっっっっっっオミくん、死んじゃだめっっっっっっっっっっっっっっ」
いや、そのまま……ゆすらずに……
首を……離して……くれ……
初子「涼香先輩、手を離さないと……」
初子の言葉でようやくすずねえの手が外れる……。
靖臣「死ぬかと思った……」
いつか本当に、俺はすずねえに殺されるんじゃ……。

ところで、すずねえが来るんだったら、招待券って枚数足りるのか?
靖臣「カナ坊、タダ券は何枚あるんだ?」
若菜「大丈夫、大丈夫、靖臣くん。ちゃんと5枚あるよ」
涼香「若菜ちゃん、ありがとう。ごめんね」
初子「3時から5時までだったよね、カナ」
若菜「そうだよ、そうだよ」
忠介「では、そろそろ出発しようか」
若菜「靖臣くんも行くよね、行くよね」
靖臣「わかったよ、じゃあ行こうか」

そして、俺たちは5人で連れ立って歩き出した。
涼香「昔〜近所に〜ケーキの大好きな〜スーパーお姉ちゃんが〜♪」
またすずねえが、変な歌歌ってるよ……。

涼香「ところでオミくん。自転車は?」
門を出たとこで、すずねえに突っ込まれた。
靖臣「うおっ忘れてた!」
俺は急いでオミクロン号を回収して合流。

どさどさどさ…
靖臣「で、なんでみんなしてカバンをオミクロン号に載せる? 」
初子「どうせ、靖臣が押すんだからいいでしょ」
忠介「それとも誰か乗せるかい? なんなら全員で乗ろうか?」
で、また川に突っ込むのか…勘弁してくれ…
靖臣「どうする、すずねえ。乗ってくか?」
涼香「私はいいわよ。若菜ちゃん、乗せてもらったらどう?」
若菜「えっ……いいですよ、いいですよ。靖臣くん大変ですし」
靖臣「いや、こんなバランスの悪い状態よりは、カナ坊乗せたほうがまだましだ」
カバンで今にもコケそうだし。
靖臣「タダ券はカナ坊の提供だしな。おら、全員カバンを持ちやがれ」
まず、初子にカバンを投げつける。
初子「なにするのよ、靖臣! あぶないじゃない!」
靖臣「へーへー。次は忠介のだ」
忠介のカバンを持って振りかぶる。
忠介「投げてもいいが、爆発するから気をつけたまえ」
え?
振りかぶった腕が硬直する……。
靖臣「爆発ってどういうことだ、忠介。なに入ってんだこのカバン?」
忠介「知りたいかい?」
いや、知りたくない気がする……。
忠介「実は実験用の試薬が2種類入っていてね。混ぜると爆発するんだよ」
靖臣「何でそんなもんを一緒にカバンに入れてるんだよ!」
忠介「いや、家で実験しようと思ってね。では、カバンは預かろうか」
つーか、載せんでくれ。

すずねえのカバンはすずねえに手渡し。
涼香「ありがとう、オミくん」
ようやくそれぞれのカバンをオミクロン号から降ろす。
若菜「いいのカナ、いいのカナ?」
涼香「大丈夫よ若菜ちゃん。オミくんが頑張ってくれるわ」
靖臣「へーへー。じゃあカナ坊、ちゃんと乗れよ」
こわごわと後ろに乗ったカナ坊に気をつけながら、ゆっくりとペダルを踏む。

……
………
若菜「到着〜到着〜。ありがとう靖臣くん」
靖臣「おう、気にするな」
カナ坊をホテル前で降ろして、オミクロン号を脇の駐輪場に置いてくる。
戻って来たら、全員ホテル前に揃っていた。
初子「靖臣、遅い!」
靖臣「まて、一緒に来たんだからしょうがないだろう」
涼香「そんなことより早く行こっっっっっっっっ!」
いや、すずねえ……そんなことって……
ああ、ケーキしか見えてないな…すずねえ。

そんなわけでみんなでホテルの中へ。
ロビーを通り抜けて、カナ坊を先頭にコーヒーハウス『リトルバスケット』とかいう店に向かう。
ウェイター「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
若菜「5人です、5人です。それでこれを……」
店の入り口でカナ坊がウェイターにタダ券を渡す。
ウェイター「はい、デザートブッフェ5名様ですね。どうぞこちらへ」
きびきびと案内される。
初子「さすがにちゃんとしてるわね〜」
靖臣「そらそうだろ、仮にもホテルだし」
などとバカ話をしながら、案内された席に着く。
ウェイター「デザートブッフェのお飲み物ですが、コーヒーか紅茶が付きます」
靖臣「俺はミルクティでいいや」
それぞれ、口々に注文をする。
ウェイター「おかわりはあちらのテーブルにございます。また、ウーロン茶、オレンジジュース、などもございます」
若菜「わかりました、わかりました」
ウェイター「ケーキの取り皿はご自由にお使いくださいませ。それでは、ごゆっくりどうぞ」
ウェイターは一礼して立ち去った。

靖臣「よし、それじゃあ取りに行くか……」
立ち上がると、目の前には初子と忠介しかいなかった……。
靖臣「てか、はやっ!」
初子「そうね。カナはともかく、涼香先輩も早いわね……」
忠介「では、われわれも行こうか」
靖臣「そうだな」
止まっていてもしょうがない。時間も限られてるしな。

ケーキの置き場に行く途中で、皿2枚にめいっぱいケーキを載せたすずねえにすれ違う。
本当にこの姉ちゃんはケーキが好きだなあ。
涼香「オミくんもちゃんと食べるんだぞっっっっっっっっっっ!」
靖臣「ああ。でもすずねえ、あんまり食べたら太るぞ」
涼香「何を言うのっっっっっっ、オミくんっっっっっっっっっっ!」
うわ、やばっ。
涼香「お姉ちゃんは太らないぞっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!」
靖臣「そうです、すずねえは太りません。いっぱいケーキ食べてください」
涼香「もう、オミくんたらっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!」
靖臣「早く食べないと時間無くなるよ、すずねえ」
涼香「あ、そうね」
すずねえは席に戻っていった……あーよかった。
俺も早く取りに行こう。

おー、いろんなケーキと…ケーキ以外もあるな。
抹茶ゼリー、シュークリーム、チョコケーキ。
とりあえず、こんなところでいいか。

席に戻ると、全員もう食ってやがる。
初子「遅かったわね、靖臣。先にいただいてるわよ」
忠介「どうしたんだい、靖臣。何を取るか迷っていたのかい?」
若菜「モンブラ〜ン、モンブラ〜ン」
涼香「このケーキおいしっ。こっちのケーキもおいしっ!」
…まあ、いいや。俺も食おう。
まずは、シュークリーム。おっ、うまい。
けど、これ……
靖臣「栗の味がする」
若菜「えっ、栗カナ、栗カナ?」
靖臣「おう、なんかクリームが栗の味だぞ」
カナ坊が飛んできて、俺の食べかけのシュークリームを覗き込む。
若菜「これは、モンブランシュークリームだよ。取ってこなきゃ、取ってこなきゃ」
カナ坊は空いた皿を持って駆け出していった。
はやっ!
靖臣「……ところで、カナ坊はモンブランいくつ食べてた?」
初子「4つだと思うわ。カナは栗だとよく食べるわね」
靖臣「そうだなあ、他の物ももうちょっと食べられたらもうちょっと育つんじゃないか」
子供体型だしな。

まあ、それはいいや。
さて、俺も次を食べよう。
お、チョコケーキもうまいや。
あれ……
顔を上げると忠介がなんか変な事してる気がするが……
気にせずに次の抹茶ゼリーを食おう。
忠介「どうした、靖臣。僕の顔に何かついているかい?」
靖臣「いや、何かついてるとかではなく…何でそこにビーカーがあるんだ?」
忠介「知りたいかい?」
靖臣「知りたくないし、しまっておけよ」
忠介「それは残念」

などと馬鹿な会話をしているとカナ坊が戻ってきた。
若菜「取ってきたよ〜、取ってきたよ〜」
初子「じゃあ、私も何か取ってこよっと」
涼香「それじゃあ、お姉ちゃんも取ってくるねっっっっっっっっっ!」
……すずねえ。あれだけのケーキ、もう食べちゃったのか……。
本気で太るぞ……。
涼香「オミくんっっっっっっ、何か言いたいことあるの?」
靖臣「あー、なにもありません。お姉様」
怖い……。つーか、心の中読まれた?
涼香「それならいいけど…」
すずねえはそのまま皿を持ってケーキのところへ……
ふう。マジで怖かった。

すずねえが戻ってきた。
…さすがに一皿分だった。
俺も取りに行こう。

「くしゅ〜〜」
…ケーキが置いてあるテーブルの前についたら変な音が聞こえた。
くしゅ?
音のした方を見ると女子大生ぐらいの女性が4人座っていた。
正確には一人突っ伏していたが……
女性A「ねえ、しっかりしなよひより。すぐに教育実習なんでしょ?」
女性B「そうだよ。だからあたし達が壮行会やったげてるんだから」
女性C「そうそう。落ち込んでばかりじゃダメだよ」
ひより「くしゅ〜〜。ありがとうみんな〜頑張るよ〜」
ガツン!
ひより「くしゅ〜〜」
突っ伏していた女性が、立ち上がった拍子に足をテーブルに打ちつけた。
…どんくさい人のようだ。

さて、気を取り直してケーキを取ろう。
おや、新しいケーキがあるぞ。
栗のケーキ……か。わりとおいしそうだし、これを二切れ取って行こう。

みんなが黙々と食べている席に戻る。
一切れの先っぽ三分の一ぐらいをちょっと切って食べてみる。
靖臣「うま−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−っ!!!!」
うわっ、めちゃくちゃうまい!
涼香「オミくん、どうしたの」
靖臣「すずねえ、ちょっとこれ食べてみて」
切った残りを半分にしてすずねえに食べさせる。
涼香「もぐもぐ……何これ? 美味しっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
涼香「栗のタルトだよね……渋皮付きの栗とカスタードがすごくっっっっっっっっっっマッチして、このむき栗とビュスキュイもすごく美味しい……なんでこんな美味しいの?」
若菜「栗のタルト〜。欲しいカナ、欲しいカナ」
靖臣「じゃあ、すずねえの残り食べな。ほらカナ坊」
若菜「ありがとう、ありがとう、靖臣くん」
靖臣「おう、気にするな」
若菜「ぱくっ。……お、美味しいカナ、美味しいカナ」
涼香「オミくん。お姉ちゃん、このマロンタルト取りに行ってくるねっっっっっ!」
若菜「私も〜私も〜」
二人とも、急いで走っていく。

さて、じゃあ食べるか……
涼香「オミくん……」
おっ戻ってきた。
若菜「靖臣くん。1個しかなかったカナ、1個しかなかったカナ」
カナ坊の皿にだけマロンタルトが載っている……。
と、いうことは……。
涼香「お姉ちゃんに、マロンタルト頂戴っっっっっっっっっっ!!」
靖臣「あー、わかりました。お姉様」
そんなわけで、俺が食べようとしたマロンタルトはすずねえの元へ……
しくしく。
結局、三分の一しか食べてない……。

忠介「さて、そろそろ時間だな」
初子「そうね。カナは堪能した?」
若菜「うん。おいしかったカナ、おいしかったカナ」
靖臣「それじゃあ……すずねえ、帰るか」
涼香「そうだね、オミくん。今日は若菜ちゃん、ありがとうね」
若菜「いえいえ。気にしないで下さい、気にしないで下さい」
などと話しながら、店を出る。

ロビーに出ると、カナ坊が誰かを見つけたようだ。
若菜「あ、お母さんカナ、お母さんカナ」
走っていって、二言三言交わすと戻ってきた。
若菜「わたしお母さんと一緒に帰るから、ここでさよならカナ、さよならカナ」
向こうでカナ坊のお母さんがぺこりと頭を下げた。
涼香「それじゃあね。若菜ちゃん」
初子「カナ、また明日ね」
忠介「それではまた」
靖臣「じゃあな、カナ坊」
若菜「うん、また明日カナ、明日カナ」
そして、4人でホテルに玄関を出る。
靖臣「じゃあ、俺はオミクロン号を出すから、ここで分かれるか」
初子「そうね。じゃあまた明日」
忠介「では、これで失礼するよ」
涼香「みんなまたね……それじゃあオミくん、帰ろっっっ!」
靖臣「おうっ!!」

俺は、オミクロン号を自転車置き場から出すと、すずねえを後ろに乗せた。
靖臣「じゃあ、帰るか」
鞠音「あれ、オミ先輩……すず先輩も」
涼香「あら、鞠音ちゃん。今帰り?」
靖臣「おっ、鞠音じゃないか。どうした?」
鞠音「今日はクラブの先輩達とハンバーガー食べに来ました」
あー、後ろにうちの制服を着たちょっとぼーっとした女の子と、目つきのきつい女の子がいるな……いや、目つきがきついんじゃなくて、にらまれてるような気がするぞ……
鞠音「先輩達はどこに行ってらっしゃったんですか?」
靖臣「ホテル」
鞠音「……えっ……えっ?」
涼香「……オミくんっっっっっ!」
怒られたですよ?
本当のことなのに……

涼香「あのね鞠音ちゃん、オミくんの友達達とデザートバイキングに行ってたのよ」
鞠音「……あ、そう……そうですよね。ボクびっくりしちゃいました」
涼香「いろんなケーキがあって、美味しかっっっっっったよ、鞠音ちゃん」
靖臣「プリンもあったぞ。バケツぐらいの」
鞠音「バケツぐらいのプリン……いいなあ、プリン。こんどボクも連れてってくださいね」
靖臣「おう、そうだな……ところで鞠音、先輩待たせてるんじゃないのか……」
なんか、俺、にらまれてるみたいだし。
鞠音「あ、そうでした。すず先輩、オミ先輩、それでは失礼します」
涼香「またね、鞠音ちゃん」
靖臣「またな、鞠音」
鞠音はぺこりと一礼すると、まっている女の子達のところへ駆け出していった。

靖臣「それじゃあ、帰るか、すずねえ」
涼香「そうだね、オミくん」
すずねえを後ろに乗せて、家に向かう……
涼香「……あのね、オミくん」
靖臣「なんだ、すずねえ?」
涼香「……いつまでも、こんな風にいられたらいいね……」
靖臣「そうだな……」
いつまでもこんな日常が続けばいい……。
でもそれは、俺は求めてはいけないものなのかも知れない……

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