脊髄小脳変性症
 脊髄小脳変性症とは、運動失調(歩行でいえばお酒たくさん飲み過ぎてふらふら歩いて
いるような状態)を主症状として、小脳系の神経細胞の変性を主体としている病気です。
一つの病気を指しているいるのではなく、同じ種類の病気すべての総称です。
 遺伝性があるもの、遺伝性のないもの、遺伝性でも常染色体優性遺伝をしめすもの、常
染色体劣性遺伝を示すものなどいろいろな病気があります。
  また、パーキンソン病に似た症状、自律神経の障害、不随意運動など、運動失調以外の
症状を伴ってくるときもあります。
 人口10万人あたり4ないし5人くらいの脊髄小脳変性症の患者さんがいらっしゃると
いわれています。

脊髄小脳変性症にはどんな病気があるの?

  脊髄小脳変性症の遺伝子などの研究が世界中で盛んに行われており、従来の脊髄小脳
変性症の分類では非常に解りにくくなっています。少々羅列気味になると思いますが下の
表に示してみました。これらの病気のどれが自分の病気なのかを知ることは、その病気の
だいたいの予後や出現してくる症状などが推察できること、また、遺伝性で検査ができる
ものであれば家族の方の遺伝子検査が可能です。ややこしい名前ばかりですが、神経内科
の病名はどうしても脳や脊髄の障害される場所を病名にするのが比較的理解されやすいた
めなのです。
 ここでは発症年令と遺伝性の有る無しで分類してみました。この表で、以前にはメンツ
エル型脊髄小脳変性症と診断されていた方で遺伝子検査をするとSCA1とかSCA2という病
気であることが、以前はホルムス型脊髄小脳変性症と診断されていた方が遺伝子検査をする
とSCA6という病気であることなどが解ってきました。

発症年令  遺伝性のないもの  遺伝性のあるもの
若年発症 孤発性脊髄小脳変性症
フリードリッヒ病
マリネスコ・シェグレン症候群
ルイ・バー症候群
成人発症 多系統萎縮症
 (オリーブ橋小脳萎縮症   (OPCA)、
  線条体黒質変性症
  (SND)、
  シャイ・ドレーガー症候
  群(SDS))
皮質性小脳萎縮症(CCA)
  (晩発性小脳皮質萎縮症
   (LCCA))

脊髄小脳萎縮症1(SCA1)
脊髄小脳萎縮症2(SCA2)
脊髄小脳萎縮症3(SCA3)
(マチャド・ジョセフ病)
脊髄小脳萎縮症4(SCA4)
脊髄小脳萎縮症5(SCA5)
脊髄小脳萎縮症6(SCA6)
脊髄小脳萎縮症7(SCA7)
脊髄小脳萎縮症8(SCA8)
脊髄小脳萎縮症10(SCA10)
脊髄小脳萎縮症11(SCA11)
脊髄小脳萎縮症12(SCA12)
脊髄小脳萎縮症17(SCA17)
歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)
遺伝性痙性脊髄麻痺
マリー病
メンツエル型
ホルムス型

 遺伝性のある病気のなかで、現在遺伝子検査ができるものを下の表にあげてみました。
これらの病気はCAG反復が正常より長くなっています。そのためこれを検出するとその病
気の遺伝子があることが解るわけです。CAGとはシトシン(C)、アデニン(A)、グアニン(G)
のことで、これらが集まってアミノ酸となり、アミノ酸がたくさん集まって蛋白質がつく
られます。
 下の図に示しましたが、正常では赤い線の長さくらいのものが黄緑の線の長さに延長し
てしまうため、病気が発症してくると考えられています。

 

  

  発症年令 失調以外の特徴的な症状 遺伝子のある染色体 CAG反復数
(正常)
CAG反復数
(延長)
SCA1 小児ー成人 反射が高い
6
6-36
39-83
SCA2 小児−成人

眼球運動障害、時に痴呆

12
15-31
34-220
SCA3 小児−成人 筋萎縮、筋力低下
14
12-40
55-86
SCA6 成人 進行が緩やか
19
4-18
21-33
SCA7 成人 視力障害
3
4-19
37-300
SCA8 成人 反射が高い、感覚障害
13
16-34
(CTG)
100-250
(CTG)
SCA12 小児−成人 ふるえ、時に痴呆
5
7-28
66-78
DRPLA 小児ー成人 不随意運動、痴呆
12
8-35
54-79

 遺伝性のない病気の中に、多系統萎縮症というのがありましたが、これは脳や脊髄の
小脳系、線条体黒質系そして自律神経系の神経が障害されるため、多系統というわけで
す。この中にオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)、線条体黒質変性症 (SND)、シャイ・ドレ
ーガー症候群(SDS)が含まれます。同じ病気と考えられていますが、臨床症状は異なっ
ていて違う病気のように見えます。これをわかりやすく表にまとめてみました。

  小脳症状 パーキンソン症状 自律神経症状
オリーブ橋小脳萎縮症 非常に強い  出現あり  出現あり
線条体黒質変性症  出現あり  非常に強い  出現あり
シャイ・ドレーガー症候群  出現あり  出現あり 非常に強い

 下の写真は多系統萎縮症の患者さんのMRI所見です。小脳と脳幹部といわれる部分が
萎縮しています。

診断はどのようにするの?

1、まず、病気がいつ頃、どんな症状が、どのように出現してきて、その後どうなって
  きたか、そして、他の症状も伴っているのか、などということをお聞きします。ま
  た、今までのかかった病気のこと、ご家族に同じような症状の方がおられるかなど
  もお聞きします。
   失調症状というのは歩行時のふらつき、めまい感、酔っぱらったようなしゃべり
  方などですが、このような症状は脊髄小脳変性症だけに出現してくるわけではあり
  ません。例えば、小脳の梗塞とか出血、ビタミンEの欠乏、小脳の腫瘍などいろい
  ろな病気で出現してきます。したがって、ほんとうに脊髄小脳変性症なのかどうか
  をはっきりさせることから始めねばなりません。また、脊髄小脳変性症なのにまっ
  たく失調症状がなくパーキンソン病と同じ症状が出現してくることもあります。
2、次に、内科的、神経内科的に詳しく診察させて頂きます。その結果考えられる病気
  を鑑別するため、あるいは考えた病気に間違い無いことを確かめるために、
3、種々の検査を行います。血液、尿、心電図、胸や頭のレントゲン検査、脳波、随液
  検査、CT検査、MRI検査などを必要に応じて行い確定診断します。

治療法にはどのようなものがあるの?

 根本的な治療法、すなわち病気の進行をとめたり、病気をすっかり治してしまう治療法
は残念ながら現時点ではありません。
 しかし、失調症状を少し良くするお薬として、
       ヒルトニン(筋肉注射あるいは静脈注射で)
       セレジスト(経口的)
また、リハビリテーションが非常に大切です。
 失調症状以外に、パーキンソン症状や自律神経症状や不随意運動などがありますが、
それぞれの症状を軽くさせたり無くしたりするお薬があります。

脊髄小脳変性症の患者さんや家族の方々が集まって、情報の収集や伝達、公的支援の方法、精神的支援などさまざまな活動をなさっています。まだご存知ない方は、どうぞ脊髄小脳変性症友の会に一度連絡してみて下さい。

170-0004 東京都豊島区北大塚2ー16ー10ー10001
  全国脊髄小脳変性症友の会
     電話  03-3949-4036