パーキンソン病とはどんな病気ですか。
パーキンソン症候群とは違うのですか
パーキンソン病はジェームズ・パーキンソンが1817年に初めて報告した病気で、報告
者の名にちなんでパーキンソン病と呼ばれるようになりました。パーキンソン症状を示す病気
は種々あり、これらの病気のなかで特徴的な所見があり、他の病気と区別可能な病気としてパ
ーキンソン症状を示す種々の病気(パーキンソニズム、パーキンソン症候群)とパーキンソン
病を区別するようになりました。
パーキンソン病は40歳以後、特に50〜60歳代に症状が出始め、典型的な症例では、振戦
(ふるえ)、筋固縮、動作緩慢、姿勢反応障害(倒れやすい)などの症状がみられます。これ
らの症状はパーキンソン病に使用されるお薬(抗パーキンソン病薬)によく反応して、症状が
消失したり改善します。
この病気は伝染性はなく、また、通常直接お子さんに遺伝する病気ではありません。
病理学的には、主として、中脳の黒質とよばれる部分や大脳の脳基底核とよばれる部分の神
経細胞に変性が認められ、神経細胞の数の減少と、残った神経細胞の中にレヴィー小体といわ
れる異常な物質が見られます。
どのような症状がでるのですか
パーキンソン病の中核をなす4つの症状は、1振戦、2筋固縮、3動作緩慢、4姿勢反応障
害 です。この他にも種々の症状がでますが、これらが診断するために重要な症状です。しか
し、すべての患者さんにこれらの症状がすべてあるというわけではありません。また、これら
の症状は左右のどちらかから出現してきて、両側にあったとしても、右か左かどちらかの側に
症状が強いというのが一般的です。また、病気の初期では、上にあげたような症状がはっきり
と自覚されずに、疲労しやすい、力が入らない、脱力感などとして自覚されることもあります
。また、パーキンソン病では病気の進行とは無関係に、身体的、精神的ストレスで症状が増悪
します
振戦(しんせん):
手、足、頭、上下肢、体全体などにおこるふるえのことです。左右どちらかに強いのが普通
です。ふるえをおこす病気はいろいろありますが、パ-キンソン病のふるえは、動作をしていな
い時(安静時)に強くふるえ、動作をする時には消失したり、軽くなったりするのが特徴です
。1秒間に4〜5回くらいのふるえで、手指におこるふるえで典型的な症状は丸薬を指で丸め
る仕草に似ています。
筋固縮(きんこしゅく):
これは患者さん自身が気付く症状ではありません。例えば、お医者さんが患者さんの前腕を
肘のところで伸ばしたり、曲げたりした時に、お医者さんが自分の腕に感じる症状で、パーキ
ンソン病の患者さんでは、お医者さんに屈伸時に抵抗を感じます。この抵抗を固縮といいます
。筋固縮とは筋肉の緊張が高まっている状態のひとつです。固縮はパーキンソン病以外の病気
でもありますが、パーキンソン病の固縮で典型的な場合は、ギコギコとちょうど歯車のように
感じます。そのためこのような固縮を歯車様固縮と呼んでいます。パーキンソン病を他の病気
とくにパーキンソン症候群といはれる種々の病気と区別する時に重要な症状せす。
動作緩慢(どうさかんまん):
動作が遅くなる、のろくなるという症状です。パーキンソン病ではすべての動作にあてはま
り、歩行がおそくなり、歩幅が小さくなります(小刻み歩行)。着脱衣、寝返り、食事動作な
ど日常生活すべてに支障をきたします。
姿勢異常:
体幹や頚部が前屈姿勢となり、肘や膝が屈曲した姿勢になり、手や指の変形が見られること
もあります。
突進現象(とっしんげんしょう):
前方でも後方にでもちょっと押されただけで、踏みとどまることができずに、押された方向
にとんとんと突進していく現象をいいます。ひどい場合には倒れてしまいます。
歩行障害:
歩行が遅く、足をひきずり、歩幅がせまく(小刻み歩行)、自然な上肢の振りがみられない
。また、最初の一歩がなかなか踏み出せない(すくみ足)、歩きだすと早足となってしまい止
まることができない(加速歩行)といった歩行障害が認められます。狭い場所や方向転換時に
特に症状が強くでやすい。
しかし、平地ではちょうど歩幅にあった横線などが床にあると、それを上手にまたぎながら
歩行ができる、また、階段なども比較的上手に歩行できるといった特徴があります。
姿勢反応障害(しせいはんのうしょうがい):
人間の体は倒れそうになると姿勢を反射的に直して倒れないようにする反応が備わっていま
す。しかし、パーキンソン病の患者さんでは、立っている時、歩いている時、椅子から立ち上
がろうとする時などに、この反応が障害されているために、立ち直りができずに倒れてしまい
ます。こうした症状のことを言います。倒れはじめると、止めることができず、また動作緩慢
もあり腕などで保護することができないため、おおけがをすることが多いようです。
忘れてはならない症状
自律神経症状
便秘、起立性低血圧、発汗、脂顔など
精神症状
抑うつ、消極的など
自律神経障害(じりつしんけいしょうがい):
副交感神経の緊張と交感神経の部分的な緊張からいろいろな自律神経症状が出現します。便
秘が最も多い症状ですが、発汗過多、流涎(よだれ)、あぶら顔、起立性低血圧(立ちあがる
時は通常血管が収縮して血圧がさがらないように自律神経が働きますが、自律神経に障害があ
ると血圧が下がってしまい、ひどい時には失神します。)、排尿障害、陰萎などの症状があり
ます。
精神症状:
抑うつ的で、なににでも億劫がり依頼心が強くなる場合が多いようです。時には抑うつ症状
が病気の初期から強く、他の症状を自覚できないため、精神科を最初に訪れることもあります
。不眠の訴えも多い症状です。
この他に、まばたきが少なく、表情がなくなり仮面をかぶった顔つき(仮面様顔貌)、単調
で小声(構音障害)、食事の咀嚼や飲み込みが遅く下手になる(咀嚼、嚥下障害)、字に力が
なく小さく、書くにしたがって益々小さくなる(小字症)などの症状が認められます。
診断はどのようにするのですか。似たような病気はあるのですか
パーキンソン病だけを特異的に診断できる方法はありません。また、パーキンソン病と類似
した病気は数多くあり、神経内科専門医でも診断に苦慮する例がしばしばあります。したがっ
て、診断には患者さんの協力も必要です。
パーキンソン病の診断は、
1、病歴、他の項で述べた臨床症状、そして、
2、脳のCTスキャンやMRIあるいはSPECT、PETなどの画像解析検査、電気生理学的検査、
血液・尿・血清検査、髄液検査などが必要な場合があり、これらの検査で他の疾患が否定され
ること、すまわち、パーキンソン病ではSPECTやPETを除くこれらの検査に特異な異常所見は
ありません。さらに、
3、抗パーキンソン病薬といわれるお薬に効果があること、
などを参考に診断を確定します。しかし、どうしても少し経過を観なければ診断がつかない場
合もあります。
どのような治療法があるのですか
以下のような治療法があります。抗精神薬、抗うつ薬、高血圧薬、吐き気どめ、その他い
ろいろなお薬が、パーキンソン病の治療に悪影響を及ぼす可能性があります。もし、現在服用
している薬があれば、必ず神経内科の先生に伝えてください。
薬物療法 |
ドーパミンの補充 |
Lードーパ剤(単剤)
Lードーパ剤(合剤) |
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アセチルコリン受容体の遮断 |
抗コリン剤 |
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ドーパミンの放出促進 |
塩酸アマンタジン |
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ドーパミン受容体の刺激 |
麦角アルカロイド
非麦角アルカロイド |
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ノルエピネフリンの補充 |
Lードプス(ドロキシドーパ) |
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ドーパミン分解の阻害 |
MAO-B阻害剤 |
手術療法、その他 |
定位脳手術による脳深部破壊療法 |
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定位脳手術による脳深部刺激療法 |
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ドーパミン産生組織の移植 |
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脳磁気刺激療法 |
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修正電気痙攣療法 |
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リハビリテーション |
身体的リハビリテーション |
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精神的リハビリテーション |
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低蛋白食療法 |
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L-ドーパ
パーキンソン病で不足しているドーパミンの補充として使われます。ドーパミン自体を服薬
すれば良いのではないかと思われるかもしれませんが、残念ながら、脳には脳に有害となる物
質を脳内にいれないようにする関門があり、ドーパミンはこの関門のために脳内に入れません
。ところが、ドーパは関門を通過できます。そのためにドーパを服薬します。この系統の薬剤
は抗パーキンソン病薬の中では最も効果の強いお薬です。
L-ドーパは服薬すると小腸で吸収され、血管の中に入ります。血管の中には、L-ドーパを分
解する酵素があり、脳内に入る前に分解されその効力を失ってしまうものもあります。このた
め、血管内のドーパを分解する酵素を阻害する物質をドーパといっしょに服用すると、分解さ
れるドーパの量を少なくできます。このように、L-ドーパとドーパを分解する酵素を阻害する
物質をいっしょにしたお薬が合剤とよばれるもので、単剤に比べ効果は数倍に達します。
(副作用) 悪心、嘔吐、食欲不振、などの消化器系副作用
めまい、起立性低血圧、不整脈などの循環器系副作用
興奮、幻覚、妄想、抑うつ、不眠などの精神症状
ねむけ
抗コリン剤
パーキンソン病で相対的に活動が高まっているアセチルコリンを使う神経細胞を抑えるため
に使用します。パーキンソン症状の内特に振戦(ふるえ)に効果があります。
(副作用) 口渇、便秘、悪心、食欲低下
頻脈、動悸
排尿障害
視調節障害、緑内障、
幻覚、妄想、注意力低下、記銘力障害
(禁忌) 緑内障、重症筋無力症、妊婦
塩酸アマンタジン
抗ウイルス剤として開発されたものですが、ドーパミンを使う神経細胞からドーパミンを放
出させる作用があります。
(副作用) めまい、立ちくらみ、
悪心、嘔気、嘔吐、食欲不振
不安、幻覚、妄想
下腿浮腫、網状青斑
麦角・非麦角アルカロイド
これらの薬剤はドーパミン受容体に付着し、ドーパミンと同じように刺激を伝達できる作用
があります。
(副作用) 悪心、食欲不振
起立性低血圧、不整脈
皮疹
幻覚、不眠、興奮
L-ドプス
パーキンソン病で不足しているノルエピネフリンを補充する薬剤です。
(副作用) 悪心、嘔吐、食欲不振、便秘
血圧上昇、不整脈、動悸、四肢冷感
まぶしい
排尿障害
幻覚、妄想
不随意運動、パーキンソン症状の悪化
MAO-B阻害剤
ドーパミンはMAO-BやCOMTと呼ばれる酵素によって他の物質に分解されます。そうすると
ドーパミンの効力が無くなります。そこで、MAO-BやCOMTと呼ばれる酵素を働かせないよう
に、これを阻害する薬(MAO-B阻害剤)を服用して、ドーパミンの効力を長く保てるようにす
る薬です。
(副作用) 幻覚、妄想、せん妄
狭心症
不随意運動
悪心、嘔吐、食欲不振
上記以外に、抑うつ症状には抗うつ薬、抗精神薬が、不随意運動にグラマリール、吐き気にナ
ウゼリン、振戦が強い場合にアルファー ブロッカーやクロナゼパムなどが使用されます。
リハビリテーション
リハビリテーションはパーキンソン病の患者さんにとって非常に大事な治療法です。身体的
なリハビリテーションと精神的なリハビリテーションの二つがあり、どちらもおろそかにして
はなりません。
身体的なリハビリテーションは基本的に自分に最もふさわしい運動を徐々に開始し、毎日行
い、少しづつ増やしていくいくことが大事です。
身体的なリハビリテーションも、手足を動かすことだけではなく、発語練習や編ものなどの
手作業まであります。それぞれ、理学療法士、言語療法士、作業療法士と呼ばれる人達が指導
してくれます。
精神的なリハビリテーション
現在これを専門的に施行しているわけではありませんが、実際的には以下の如く行われるの
が良いと考えます。
1、パーキンソン病の患者さんは、パーキンソン病と診断された時、一般的に、“自分は治ら
ない病気にかかり、しかも病気は進行し、結局全く動けなくなくなり、全面的に人の世話にな
るようになってしまう”と思います。それでなくとも、パーキンソン病の症状には抑うつ症状
があるため、悲愴感、不安感、失望感が助長されます。たとえお薬で症状が改善されても、根
底にこのような精神的ストレスがあると、お薬の効果が半減し必要以上のお薬を服用する傾向
になります。これは後にいろいろな弊害をきたしてきます。したがって、精神的なリハビリテ
ーションが重要な治療法となります。
2、そのためには、まず、パーキンソン病という病気を自分でよく理解することが大事です。
そして次に自分の状態をよく理解する必要があります。お薬は症状を改善してくれますが、万
能ではありません。薬の効果がとても良い時間と効き目が悪い時間帯があるかもしれません。
前日不眠であれば、薬の効果が悪いこともあります。寒くなると、あるいは暑すぎると調子が
悪くなります。要するに、気温やお天気、湿度などの環境因子や、心の状態でパーキンソン症
状は非常に悪くなります。これらも含めてパーキンソン病を良く理解するようにしましょう。
そして、ほんとうに注意しなくてはいけないこと、悩む必要のないことを自覚していく必要が
あります。
3、さて、患者さんだけが病気のことを理解するだけではまだ足りません。もし、家族の方が
おいでになる場合は、家族の方にもパーキンソン病を良く知って頂き、患者さんの介護にあた
る必要があります。一般的な病気と異なった特徴がパーキンソン病にはあり、精神的な介護も
含め、どのような場合に援助し、どのような場合は動作がおそくても患者さん自身の行動を暖
かく見守るべきかなどを理解することがとても大事です。
パーキンソン病の患者さんは、その症状に複雑なところがあるため、また、お薬の副作用が
いろいろあるため、病気や治療について自分で良く理解することがとても大切に思います。も
っともっと、知って頂きたいいことがたくさんありますが、ここには書ききれません。そこで
、本を作りましたので、興味のある方は私の医院にお問い合わせ下さい。
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