「えな、狩りいくか?」
「ほぇ?」
あきしゃんのセリフにあたしはぽかんとした。
今日もあたしはGRDのGHのいつもの場所で、ぽけーっとしていたのだが。
あきしゃんのこの「狩りいくか?」の台詞ですっかり目が覚めてしまった。
「ええー、やだよー」
あたしは即答した。
だって、よく考えてみてよ。GRDは対モンスのエキスパートに対して、EFCはまったりギルド。
しかも、ギルマスのあたしときたら、ギルド内で一番弱いんじゃないかな・・・。
そんなあたしが一緒に狩りに行ったところで、足を引っ張るのは目に見えてるし、なにより自分の
へっぽこさを見られるのが恥ずかしい。
「いいじゃん、行こうよ」
「ヤダヤダヤダ!!」
「じゃあこうしよう。オレがお手本見せてやるからさ」
「・・・・」
あたしが言葉を失っていると、その場にいたさりー、Gさん、にあまでもあきしゃんの提案に大賛成。
「えな、だいじょぶだって」
優しくフォローしてくれるGさん。
「そうだよー。それにあきさんのお手本見たら勉強になるよー」
と、にあ。
「ま、オレはそれでもえなごろは死ぬに10kだけどな」
さりーは意地悪そうに笑ってあたしを見た。
くぅうううTT
「な?行ってみようよ?」
「・・・・・うぐ」
そんなこんなで、あたしはGRDメンと狩りに行くはめになってしまった。
はー、幸先不安なんですけど・・・。
各々狩りの準備を始めた。
あたしは出掛けに準備だけはしてあったので、その光景を見ていた。
「あれ?今日は漆黒装備じゃないの?」
そうなのだ。普段は漆黒装備で身を包むGRDメンが、今日は私服(?)っぽいラフな装備だ。
Gさんなんて・・・・赤ふん・・・・。
Gさんにしかできないよ、その装備・・・。
にあはファンシードレスの中に、女性用のプレートアーマー。
さりーはめんどうなのか、いつも通りの漆黒装備だったけどね。
そして、言い出しっぺのあきしゃんというと。
「どうだいえな。イカスだろ?」
みてびっくり。
全身フルボーン装備・・・。
頭まで。
「か、かっこいいね・・・」
思わず笑顔も引きつる。
あきしゃんは満足そうに笑って「じゃ、行こうか」と言った。
「ねーねー、狩りってなに狩るの??」
そう。これが一番不安・・・。
GRDのことだから、まず土エレなんてことはないだろうし。
すると四人全員声をそろえて
「ドラゴン」
とのお答え。
あたしは開いた口がふさがらなかった。
ドラゴン、ドラゴン、ドラゴン・・・。
この単語があたしの頭を支配する。
ドラゴンなんて、見たことはあるけど逃げた事しかないよ・・・。
しかも攻撃痛いよ、アレ・・・。
出発する前から、もうあたしは泣きそうだった。
「ぷっ。えなごろ泣きそうだな」
不安を隠しきれないあたしに対して、さりーは余裕の表情だ。
当たり前だけど。
「えなちゃん、大丈夫だよ」
そんなにあも、今日は遠くの人に見えるよ。
「えな、安心しろ。いざとなったらオレ達いるから、安心して逝け!」
「あきしゃん、フォローになってないよ、ソレ・・・」
ますます不安はつのるばかり。
大丈夫なんだろうか・・・。
あたし達が向かった場所はイルシェナの武勇の森。
イルシェナはブリタニアの第3世界と呼ばれている。
まぁ、その辺はまた詳しく書くとして。
うっそうとする森をかけぬける。
もちろんあたしは愛ラマに乗って。
ラマの名前?名前は付けてない。理由は簡単。
あたしはさっきも言った様にものすごく戦闘スキルが低くて、自分のラマすら守れない事が多い。
実に情けない話なのだが。
何度も「ラマに名前付けてあげないの?」と言われているが、こういう理由があるからだ。
名前を付けたら、失った時の悲しみが大きいような気がするから。
だからといってラマに愛着がないと言うわけではない。
いつか、あたしがもっと強くなったらラマに名前をつけるんだ。
武勇の森を西に10分ほど行くと、だだっぴろい平地に出た。
一見すごく緑が多くて綺麗な所なのだが、ここがイルシェナと言う事を忘れてはならない。
綺麗な土地とは裏腹に、住みついてるモンスターは凶悪なものが多いのだ。
もちろん、ここに今日のメインモンスターのドラゴンがいる。
「ほんじゃ、ドラちゃんでも探してくっか」
そう言ってさりーは栗色の馬を走らせて森へ向かった。
あたしといえば、ドラゴンの名前を聞いただけで心臓がバクバク。
「えな、大丈夫か?」
Gさんが心配そうにあたしの顔を覗きこんだ。
「おなか痛いかも・・・」
極度の緊張で胃がキリキリする。
ほんとあたしって、こういうのに弱い。
「大丈夫だよ〜。別にタイマンするわけじゃないし。ね?あきさん」
「なに言ってるんだい、にあ。ここまで来たらえなもやるさ」
「聞いてないよぉ!!!」
「今言ったぞ」
ぐぅの根もでなかった。
さすがあきしゃんというか、恐るべしあきしゃんというか・・・。
あたしはあきしゃんの台詞にめまいがして、隣にいたGさんにしがみついた。
そこにドラゴンを引っ張ってきたさりーが戻ってきた。
「一名様ご案内〜」
あたしの気持ちなんてつゆ知らずのさりーは、なんだかとっても生き生きして見える。
「よぅし。えな、オレ様の勇姿をしっかり目に焼き付けるんだぞ」
そう言ってあきしゃんはドラゴンに向かっていった。
さっそくあきしゃんの一撃が決まる。
あきしゃんはドラゴンから少し離れると、クルっと振りかえって
「どうだい、えな。オレってかっこいいだろう?」
なんて言うではないか。
後ろには怒りで狂気むきだしのドラゴンがいるというのに。
「ああああああああああああきしゃん!後ろ後ろ!!!」
あたしは恐ろしくて悲鳴をあげた。
「ばぁーか。あきさんを誰だと思ってんだよ」
ぽかっとさりーに頭をたたかれた。
確かにさりーの言うとおりである。あれでもGRDのギルドマスターだった。
・・・あんなに変態で、装備もおかしいのに。
ドラゴンの吐くブレスも簡単によけ、ものの5分であのドラゴンを倒してしまった。
「ふぅ」
あきしゃんは、ボーンヘッドを脱いだ。
格好はとてもおかしいが、やっぱり顔は美形である。
「ほら、簡単だろ?」
にっこりと微笑むあきしゃん。
「それは・・・あきしゃんだから簡単であって・・・。ほ、ほら!あたしフェンサーだし!」
あたしはなんだかよくわからない言い訳をしてみた。
「えなごろ」
さりーがあたしの肩を叩いて、向こう側を指差した。
あたしは全身の血の気がさーっと引いていくのがわかった。
ドラゴンが元気良く、こちらに向かってきているではないか。
「だ、誰が連れてきたの!?まだ心の準備が・・・」
「誰も連れてきてないよね」
苦笑いのにあ。
「えなに会いに来たのかな?」
赤ふんをなびかせ、Gさんまでも楽しそうに笑っている。
「ほーら、いってこぉーい!」
あきしゃんに背中をどーんと押されて、強制的にあたしはドラゴンとタイマンするはめに・・・。
震える足で、あたしはラマに乗った。
あたしの不安がラマにもしっかり伝わっているようで、ラマも不安げに「きゅ〜」とあたしを見上げた。
「だ、だいじょぶだから・・・たぶん・・・」
そう言っている間にも、ドラゴンはどんどん近づいてくる。
こ、こわいよぉ〜〜〜〜〜!
あたしは無我夢中でドラゴンにかかっていった・・・・。
ここから先、あたしがどんな風にドラゴンと戦ったのかわからない。
攻撃するよりも逃げるのに必死だったのは確かだけれど。
遠くでみんなの声援が聞こえる。
聞こえるだけで、誰が何を言ってるかまでは余裕がないからさっぱり。
たぶん、アドバイスをしてくれているのだろう。
あたしが何度目かの攻撃を与えたとき、事件は起こった。
ドラゴンから距離を置くのに、向きを変えてラマを走らせたときにラマが大きく姿勢を崩したのだ。
突然の事で、あたしは当然ラマから落ちた。
パニック。
ラマはそのまま自分の向かった方向へたったか走っていく。
「うぎゃあああ!!らまああああああ!!!」
さすがあたしのラマだけに、天然だ。
しばらーく走った後に、背中にあたしがいないことに気がついたらしい。
ぴたっと止まって首を傾げている。
「こっちだってばああああ!!」
その時、地の底から響くドラゴンの雄叫びが聞こえた。
条件反射で振りかえると、ドラゴンがすぐそばに。
あたしは腰が抜けて動けなかった。
ドラゴンは目をぎらつかせ、口をかぱっと開けた・・・・・・・ブレスがくる。
「きゃあああああああ!!」
あたしはぎゅっと目をつぶった。
あたし、死んじゃうんだ。
なんて情けない死に方だろう。自分の愛ラマの背中から振り落とされて、腰が抜けて動けなくなって。
ドラゴンのブレスって熱いんだろうな・・・。
いや、あまりの熱さにきっと一瞬かな。苦しまずに済むのかも。
でもなぁ、どうせ死ぬならもっと綺麗に死にたいよ・・・。
「えな!えな!」
ふと顔をあげると、Gさんがいた。
「あ・・・れ?」
「大丈夫か?」
「ど、ドラゴンは・・・?」
「倒したよ」
Gさんは優しく微笑み、あたしの後ろを指さした。
見ると、先ほどまでピンピンしていたドラゴンが地に横たわっていた。
その周りには、あきしゃん、さりー、にあがいた。
「えなごろー、生きてるか?」
「えなちゃん、だいじょぶ!?」
「間一髪だったな」
皆、口々にあたしを心配した。
あたし、まだ生きてる。よかったぁ。
安堵のため息をつくと、あたしの意識は遠のいていった。
「きゃあ!えなちゃん!?えなちゃん!!」
「おいおい!」
完全に意識を失う前に、あたしは思った。
(ラマのばか・・・・)
*****
おいしそうな臭いがして、あたしは目を覚ました。
見なれない天井がそこにあった。
あれ。どこだ、ここ。
なんであたし、こんな所で眠っているんだっけ?
「お。気がついたか?」
ふと見ると、さりーがいた。
「えっと、なんでさりーがいるの??」
「なんでって、GRDのGHだからだよ」
お前、頭だいじょぶ?って顔のさりー。
「なんであたしココで眠ってるの?」
「お前、覚えてないの?」
「えーっと・・・」
はて、なんでだっけ?
しばらくあたしは考え込んで、そして思い出した。
「ああああああああああああああ!!」
「いきなりでけぇ声だすんじゃねぇ!」
あたしは恥ずかしくなり、布団をかぶった。
「やだああああ、さりー出てってよぉ!!」
「なんでだよ!ここはうちのGHじゃねぇか!出てくならお前が出てけ!」
・・・・確かにその通りだ。
でも、自分があんな風にドラゴンに負けたのが恥ずかしくて、布団から顔を出せない。
「えな、気がついたんか?」
ドアの開く音がして、Gさんの声がした。
「多少頭がおかしくなっちまったみてーだけど、ぴんぴんしてるよ」
呆れた口調でさりーはそう言うと、部屋を出ていった。
「えな、お腹すいたろ?下でにあと食事作ったから食べよう?」
Gさんの台詞と、おいしそうな臭いにあたしのお腹が反応して、ぎゅるるるっと鳴った。
あたしは恥ずかしそうに布団から顔を出した。
Gさんがにっこり笑っていた。
肩を落して下に下りると、すでに料理がテーブルの上に並んでいて、みんな席についていた。
「あ、えなちゃん!だいじょぶ?」
料理を運び終えたにあが優しい笑顔で迎えてくれた。
「えな、残念だったなぁ」
と、あきしゃんはなんだか楽しそう。
あたしは返す言葉もなく、黙って席についた。
目の前に並ぶ料理はどれもこれもおいしそう。
「これ、にあが一人で作ったの?」
「んーん、Gさんと一緒に作ったよ」
すごいなぁ、あたしなんて料理はからっきしダメなのに。
「じゃ、食うか!」
「いただきまーす!」
まずあたしはスープを飲んだ。
「おいしー!」
さっきまでの落ちこみもどこかへ吹っ飛び、あたしは幸せでいっぱいになった。
「そのスープ、Gさんが作ったんだよ」
にあがそう言うと、Gさんは照れくさそうに笑った。
「えなごろは料理なんてからっきしダメそうだけどな」
憎たらしい口調のさりー。
むか。
あったまきた〜〜。
えなちゃんの恐ろしさ見せてやる!
「あ、さりー、あれなに?!」
あたしはそういって窓の向こうを指差した。
さりーが「ん?」と言って、その方向を見た瞬間、あたしは今まさにさりーが手をつけようとしていた
チキンをさっと横取りして口に入れた。
「なんもねーじゃん・・・って、お前!オレのチキン!!!」
「もぐもぐ、ごひそうさまw」
あたしは極上の笑顔をさりーにお返しした。
「あ・・・。そういえば、えなちゃん」
食事の手を止め、にあが深刻そうな顔で口を開いた。
「ん?にあ、どうかした?」
「えなちゃんのらま・・・」
にあはそれだけ言うと、目を伏せた。
「?!まさか、死んじゃった?!」
あたしは驚いて立ち上がった。
「あいつ、いいやつだったな・・・」
あきしゃんまでも、うっすら目に涙を浮かべてらまの事を語りだした。
Gさんもうんうんと頷いている。
「え?!え?!どうして?!だって、あいつ一人で逃げたじゃん!!」
みんな口を開かなかった。
あたし、また守れなかった。
サイアク・・・。
今回なんて、最後に気絶して死に目も見れなかっただなんて。
「え、えなちゃん?」
「うぅ〜〜・・・」
悔しくて、悲しくて、情けなくて、あたしは泣いてしまった。
「えな、泣くな。出会いがあれば別れもあるさ」
あきしゃんがそう言って、あたしの肩にぽんっと手を乗せた時「ぷっ」っと笑い声がした。
「ぎゃははは!!!ごめん、オレもう無理!」
見るとさりーが目に涙を浮かべて笑っている。
「こら、サリオン。我慢が足りないぞ」
「あきさん、わりぃ」
「えなちゃん、ごめんね?」
「え?!なに?!」
さっぱり状況が理解できないんですけど・・・。
「えな、ごめん。らまはちゃんと生きてるよ」
Gさんが申し訳なさそうにあたしに言った。
だ、騙された・・・。
「くっくっく・・・。泣くかぁ?普通!」
次の瞬間、さりーの顔に顔面パンチが入ったのは言うまでもない。
あたしの愛ラマはちゃんと外の厩舎で大人しくしていた。
というか、落ちこんでいた。
「らまぁ〜〜〜」
あたしはラマの顔をぐいっと掴み、視線を合わせようとした。
ラマは合わす顔がないという感じ。
そりゃそうだよね。まさかご主人様を振り落とすラマなんて普通はいないもんね。
「きゅ、きゅぅ〜?」
たぶんこれ、人間だったら口笛吹いて誤魔化してる感じだろう。
「さすが、えなのラマって感じだな」
感心した面持ちのGさん。
「今回の事は・・・あたしのラマって事で水に流すよ」
一同これには激しく同意したようだ。
ラマもこれで安心したようで、きゅーっと鳴いて、あたしに顔をなすりつけた。
ああ、やっぱラマは最高だよ。
ラマの無事を確認して、ほっと一息ついたところで、またしてもあきしゃんが恐ろしい提案をした。
「ほんじゃ、えな。次は血エレでもいっとくか!!」
「?!」
こ、この人らは・・・!
「いいえ、結構でっす!ごちそうさまでした!!!」
あたしは慌ててラマに飛び乗り迷うことなくリコールの呪文を唱えた。
「えなごろ、卑怯だぞ!!」
リコールする瞬間にさりーの声が聞こえたけれど。
あたしはまったりするのが好きなんだぃ!!
<今日の教訓>
えなごろう
そこ退けそこ退け
GRDが通る・・・