diary
   多次元直列日記 2013. 12 メニューに戻る
12月27日 (金)  ジョセフ・クーデルカ

昨年、写真家田中長徳のエッセイ集『屋根裏プラハ』(新潮社)を読んでいたところ、ジョセフ・クーデルカという名前が繰り返し登場していた。この東京とプラハに拠点を持つ通称チョートクさんの書き振りから、クーデルカという写真家を敬愛していることが良くわかり、気になっていた。
それまで、クーデルカの名前を聞いた事がなかったので、チョートクさんと個人的な接点のあるマイナーな写真家かと最初は思っていが、実はチェコを代表する写真家であることがわかる。しかも、数年前に東京都写真美術館にて、1968年のプラハ侵攻の展覧会も開かれていて、自分の無知に落胆。

そもそも、クーデルカの写真歴には、劇的なものがあって(すみませんがご自分でお調べください)、日本ではこれまでほとんど目にすることがなかったのも理由のあることであった。だが、なんと今年国立近代美術館で大規模な回顧展が開催となった。しかも、高齢のチョートクさんの回想に登場し、プラハ侵攻の目撃者であることより、すでに歴史上の人物かと思っていたのだが、クーデルカ氏はオープニングにも登場し、気さくに来場者と接していたそうだ。

さて、本日の夜訪れた展覧会は、期待に違わず充実していた。初期と近作は、構成の見事さが際立つ。プラハ侵攻では、ドラマチックな画面で見るものをひきつけ、またこうした極限状態にある人々の表情を捉えている。一方、ジプシーシリーズは、ごく普通の日々にある、どちらかといえば貧しい人々の、やはり顔の表情や佇まいを記録している。建築関係者であれば、その背景に写っているボロ小屋にも目が留まるだろう。これが住まいというものか。写真とは、つくづくふしぎなメディアである。カメラという装置を対象に向ければ、誰でも同じようなものが撮れそうなものなのに、ひどく惹きつける写真を撮れる人がいるのだ。

(イマム)


12月25日 (水)  工学院大学3年生合同講評会

工学院大学の非常勤講師も本日で最後。8年間、前期後期と設計製図を担当したので、どれだけ多くの学生の作品を見たのか、すぐには思い出せないほど。ブリティッシュ・コロンビア大学との合同スタジオを行ったり、ピーター・クックさんのレクチャーでは通訳をしたりと、いろいろありました。長い間本当にお世話になりました。あの、遠い八王子のキャンパスに行くことは、今後もうないでしょう。

さて、内容としては、火曜日のクラスは、三軒茶屋に図書館とホールの複合施設を作るという課題と新たなアーバンデザインを提案するという課題。水曜日のクラスは、荒木町に、集合住宅を含む複合機能の建物を提案するという課題。ともに、まずは時間をかけて都市のコンテクストを調査してから、建築の設計に進むというのが、この3年後期の設計製図の特徴。昨今は、社会や都市に関心を持つ学生が増えているが、学部生でここまで該当エリアをよく分析してというのは、他の大学ではあまり見ない。

今年は、最終的にいい提案がいくつか出たので、これで私も気持ちよく辞められます。学生さんは良くがんばりました。

最後に、ワインやらケーキなどで、軽くクリスマスパーティー。4年生二人に頼まれ、2時間ほど卒業設計の相談に乗っていたら、ケーキを食べ損ね、他の先生方はすでに全員帰られていました。

(イマム)


12月21日 (土)  Japanese Junction 展

知り合いの学生が留学から戻ると、会って、手がけたプロジェクトや留学先の建築学校の様子などを数時間聞くのが好きです。アドバイスするというよりも、ずっと聞き役になり、今海外の建築学校がどのようなことをしているかを教えてことはとても刺激になります。

Japanese Junction 展は、日本の学生が海外の建築学校で手がけた作品を集めた展覧会です。毎年楽しみにしていますが(昨年の古い木造家屋の中での展示は、とても良かった)、今年はレヴューのゲストとして呼んでいただきました。本日行われたレヴューの、他のゲストの方は、新居千秋さん、小渕祐介さん、長坂常さん。展示は13名ですが、発表は11名。一人は、シュトゥットゥガルトからスカイプでプレゼをし、東大への留学生は英語でプレゼをするなど、バラエティに富んでいました。ここでも、こちらがコメントを出すのは、おまけのようなもので、世界各地で行われている建築教育の発表を聞くのは、とても面白いものでした。明らかに、私の知識よりも先を行っているものもいくつもあり、教えてもらっている状態。また、世界の建築教育の潮流というものは、世界の社会情勢や技術の進歩をまさに反映していることが見て取れました。

発表している学生同士も、この日が唯一交流の機会のようで、学生の発表に対してわれわれ年輩者がコメントするだけではなく、学生同士が議論しあう場としてもいいのではないかと思いました。関係者の献身的な努力なしには成立しない企画ですが、まだもっと展開の可能性がありそうです。来年以降の展開に期待です。

(イマム)


12月18日 (水)  SFC訪問

中島直人さんに呼んでいただき、慶応SFCへ。大学院講義「都市デザイン論」のゲストレクチャーとして、commercial urbanism というタイトルで話をする。この、槇文彦さんがマスタープランとほとんどすべての建物を手がけたキャンパスには、これまで何度か来ているが、前回7,8年前に来たときとあまり変わっていない。ただ、やはり槙さんによる新しい建物が近々着工するのだそうだ。

中島さんや、松川昌平さんがいるのは、木立の中の木造の2階建ての建物で、前にはテニスコートもあって、ほとんどリゾート地のよう。あまりにも恵まれた環境だが、学生いわく「勉強する気が起きない」とか。と、この学生さんは、連さんといって、私がAAスクールでご一緒した連さんのお子さんとのことで、当時ロンドンで連さんのお宅に夕食に招いていただいたときにいた、あの小さなお子さんが、いまやドクターの学生で私の講義を聴きに来てくれていた。世界は狭い。

久しぶりにこのキャンパスの建物群を一折見て回ったが、槇さんの建物でも独特の造型。何とか理解しようとしても、取り掛かりがつかめない。田中浩也さんのラボの前も通ったが、人気(ひとけ)がないので不在かと思ったものの、後からfacebookで大学にいたことが判明。電話でも入れればよかった。本当はもっと丁寧に建物を見たかったのだけれども、眠気と寒さとで、ほどほどで退散。

(イマム)


12月13日 (金)  磯崎新:ソラリス展

 ICCにて、「磯崎新:都市ソラリス」オープニング。
 知り合いの若手建築家の方々に、久しぶりに多数会え、話が出来た。市川創太さんと砂山太一さん(永田康祐さんと協働)から、それぞれの今回のインスタレーションについて詳しく説明を伺う。やはりご本人から聞くとよくわかる。

 一昨年前、工学院大学にて、パラメトリックデザインのシンポジウムを企画し、その時登壇いただいたのは、田中浩也さん、木内俊克さん、市川さん、砂山さんであった。先月田中さんは講演会のため千葉工に来ていただきご活躍ぶりを聞き、木内さんは今月東大にてパヴィリオンを実現され、市川さんと砂山さんは、今回ICCにてインスタレーションと、そのときのメンバーがこのところ目覚しい活躍をしており、またその全員ときちんと話が出来たのは嬉しい。

 そのほかにも、会場では、南後由和さん、藤村龍至さん、柄沢祐輔さん、斉藤歩さんと話をし、しかし考えてみれば、みんな私より年下だなあ。こうした、今がんばっている若手が集まるというのは、これも磯崎エフェクトなのだろうか。

 さて、肝心の展覧会だが、磯崎さんは最初期から「都市はプロセス」であると宣言し、そして現在都市はソラリスのような状態であるという。そのような見立ての上で今回の展覧会が企画され、若手の建築家たちが、いくつかのインスタレーションやワークショップを手がける。磯崎さん自身の新しい作品はなく(自身がコーディネートされている中国の都市の巨大模型はある)、それよりも磯崎さんが用意したモチーフが、他者によっていかに変奏されるかを試すというもの。15年前にICCのオープニングで行われた「海市」の、2013年ヴァージョンともいえる。

 加えて、磯崎さんのこれまでの都市に関するプロジェクトが会場に展示され、それらの「お宝」を見れたのも、良かった。都庁の模型や海市の模型は、確か見たのは初めて。

 その後、ケン・タダシ・オオシマさんと、日埜直彦さんと、会食。たくさん話をした一夜であった。たまには、こうしたインプットをしなければ、ですね。

磯崎新:ソラリス http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2013/ISOZAKI_Arata_SOLARIS/index_j.html

(イマム)