小説

ズート、バレーボールに明け暮れていた私は、高三の終わりにやっと特待生と言う枠から自由になった。何を思ったのか、学校の図書館で生まれて初めて本を借りた。授業で唯一記憶にあるのが、宮沢賢治の「よだかの星」だったから、たぶんそれがキーワードになっていたのかも知れない。
手にしたのは山本有三の「あすなろ」だった。何だか面白くて一気に読めた。その頃、気に入った作家の本をすべて読み漁ると、その作家と「さよなら」するみたいで少し淋しかった。だから好きな作家を見つけた時は嬉しいのだが「この人ともお別れが来るんだわ」なんて読み終わる前から、シュンとしていた。
次にハマったのは武者小路実篤。その次が太宰治。太宰治はハマりにハマった。その当時太宰治の小説を読んで、自殺者が出るなど彼の作品は暗いイメージがあった。しかし私は太宰治の小説を読むと「よくもまあこんな風に考えられるわ」とお腹を抱えて笑っていた。主人公のプライドの高さと、それを保とうとする見っともないぐらい極端な行動が、妙にアンバランスでめちゃめちゃ面白い。私は本気で太宰治は、日本初文学界の喜劇作家だと思っていた。太宰治の凄いところは心の感情を「これ以外にこの表現はない」と言う文章にするところだ。一つの文章を生み出すのに「命を掛けていた」と人に思わせる。読むたび「ムムムスゴイ」と唸っていた。
はじめちゃんと付き合っていた時、私は似顔絵の
仕事で、温泉旅館に1か月出張していたこと
がある。仕事は夜からなので昼間はものすごく
暇だった。まだ付き合い始めのはじめちゃんに、
毎日手紙を書いていた。彼からは漫画入りの
手紙が送られてきた。その中に江戸川乱歩
の本が入っていた。その頃私は太宰治の大
ファンだったので出張の前の日彼に太宰治の本を
貸していた。多分その本は、そのお返しだったと思う。
推理小説なのに文学の匂いのする江戸川乱歩
に私はすぐハマった。はじめちゃんはどんな
に忙しくても、机の横には本が開いていた。
彼の読む本は摩訶不思議な難しい本が多く、
読んでみようと努力はしたが難解すぎて止めた。
しかし本好きのはじめちゃんの影響で色々と
分野を広げるぐらい本にハマった。
彼の本好きは病気になっても変わらなかったが、
私は人形を作りだしたころから本を読むのをやめた。
老眼と白内障がひどくなったせいもあるかも。
私は、記憶力が全くないのでその時に感じた
記憶はウッスラあるが、内容がサッパリ思い出せない。
読んでいる先から忘れて行く。
けど本を読んでいる姿って何か素敵。

今でもはじめちゃんは天国で
本を読んでいるのかしら。
「これ面白かったよ」と私に
もう教えてはくれないのかしら。

明日、図書館に行ってみようかなー。
 
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