Grass grow by itself
まるでそれ自体の内側から湧き出るみたいに育つんだろう。
夏の草みてぇに。
この頃ルフィはゾロの奴が気になるらしい。
もともと最初っからの仲間だそうだが、そこにナミさんが増えたり(全く勿体ないくらいの良縁だ)ウソップが増えたりオレが増えたりチョッパーが増えたりビビちゃんが増えたり減ったりしているうちに、奴らには奴らなりの時間経過があったわけか。
「なあ、サンジ、ゾロってガキくせぇんだ」
突然キッチンに押しかけて来てウロついてた船長が、自分こそガキ丸出しのくせに、そんなクチをきいた。
「んあ?何でだよ」
オレは晩の仕込みをする手を休めず、会話につきあってやる。
「どっちかっつーと、オヤジくせえってほうじゃねえの?」
「おう、オヤジだ。そうだ、オヤジみたいだよな、それもそうだけどよ」
ししし、といつものコイツらしい笑いかたで笑う。だけどその様子は何だか上っ調子な印象がある。
ああ。
と、オレは思い当たる。
馬鹿じゃねぇの、コイツらさ。
トントントン、と野菜を刻む。夕飯は和食にしようと思ってた。ここんとこコッテリした料理が続いてるからな。野郎どもは構わねぇだろうが、ナミさんやロビンちゃんに悪い。
「で?」
ルフィが背後に突っ立ったままオレが何か言うのを待ってるから、続きを聞いてやることにした。
「何でガキっぽいって?」
焦げ付かないように鍋の中身を掻き回す。
「オヤジだけどな、ガキなんだ」
いかにも呆れた、というジェスチャーでルフィが肩を竦めた。そんで、やれやれ、といった感じの溜め息交じりに話を続ける。
「アイツ、人参食べれねぇんだぜ」
はぁ?人参?
ああ、そうね、人参ね。あんま好きじゃねぇみたいだったよ、気付いてたさ。オレはコックだからな。それをいかにも自分だけが気付いたみたいに言うんだな、コイツは。ちょっと、可愛いな。そういうとこさ。分かってるんだよ、オレには全部さ。
「さっき、昼飯んとき、残してたろ?」
「そうだった。ホントにクソ無礼な奴だよな、このオレの料理を残しやがるとは!」
……本当は、残すだろうと思ってた。だってグラッセだったし。アイツ甘いモン食わないしよ。
でも残したって問題無いだろ?
どうせオマエとかウソップとかが横から喰うじゃねぇか。
盛り付けの彩りが綺麗なほうがいいだろって思って、皿の上にのっけるだけのっけといたんだよ。それだけのことだ。
「アイツってそうなんだよ!」
まるで非難するみたいな口調と、浮かれた所作。
「そっか……」
トントントントントン、とオレは野菜をみじん切りにする。
鍋はコトコト噴いている。
「さすが船長は皆のこと良く見てるな」
そんなふうに言うと、ルフィは「ああ、アイツはガキなんだ」と力強くまた繰り返して、オレが晩にはキンピラ出してやるよ、人参たくさん入れてみようかなとニヤニヤしながら教えてやったら、「でもさ、辛いモンなら喰うかもな。サンジはゾロに優しいな」って言って、キッチンを立ち去った。
サンジはゾロに優しいな、か。
自分はアイツに優しくしてないぞって言いたいか。
可愛いね、まだまだコイツこそガキだぁね。
ルフィが居なくなって暫くしてからクソ剣士が来やがった。
オレはようやくみじん切りに刻んだ野菜をボウルに入れて交ぜてるとこだった。
ガタガタとシンクの上でボウルが鳴る。
「ルフィならいねぇぞ」
「あ?別にアイツになんか用事ねぇよ」
「そうかい」
「なんでルフィのことなんか言うんだよ」
オレは冷蔵庫を開け、寝かせておいた挽肉をボウルにあける。
「別に」
腕に力をこめて捏ねるとゴトゴトゴトゴトと、さっきより重たい音でボウルが鳴る。挽肉が野菜の色彩と混ざってく。我ながら見事な手際だ。オレの料理には無駄も遠回りもすれ違いも無いわけよ。
「クルーがキャプテンに用事があったっておかしくねぇだろ」
「…………何か飲みモン」
「あいよ」
水のペットボトルを放り投げる。
弧を描いたそれを、奴は見事に掴まえる。
「サンキュ」
「……言ってやれよ」
「あ?」
「言ってやれよ、ルフィに」
「何を」
「何かそういう、サンキュとかそういう、良いことをさ」
最近憎まれ口か無口なんだ、コイツは、アイツの前で。
は?と、まるで理由がわからないとでも言いたげに、それなのにそれ以上オレの言う意味を追求せずに、ゾロもキッチンから立ち去った。
オレはボウルの中身に軽く下味をつけた。
ここは軽くでいいんだよ。そんであんまり馴染ませねぇ。それがコツなんだな。
小学生みたいな恋愛しやがって。
ささがきにした牛蒡はアクを抜く。
人参をたくさん入れよう。
可愛いもんだね、アイツらさ。
オレなんかもう全然…………
全然、オトナだからな、そんな可愛いトコなんかねぇさ。
たくさん、セックスの経験とかだってあるしさ。アイツらとは違う。
ホントに全然。
あんな、小学生みたいな恋愛、知らない。
昔からオトナだったんだよ、それだけだ、馬鹿だよアイツらはさ、アイツらは、あんな、可愛いからさ、そんなんで、幸せそうにさ。
まるで、ドコか自分でも分からない内側から、湧き出るように育つんだろう。
あんなふうな、善良な、繋がりは。
アイツら、いつかチュウとかしちゃうのかな。
それで、「好きだ!」「オレも!」とか言い合っちゃうんだろう。
幸せそうに。
オレとは関係無い。
オレとは全然関係無い。
あんな小学生みたいにチンタラ生きてられっか。
手許のボウルには次から次と、まるで降り積もるように人参をささがきにしてゆく。真っ赤に。
ルフィがはしゃぐだろう。
おいゾロオマエ人参嫌いだろうって、アイツをからかうだろう。
アイツは「うるせぇな」って優しいツラして言いやがんだろう。
チンタラ、育ちやがる。
まるでそれ自体の内側から湧き出るみたいに育つんだろう。
とめどなく。
夏の草みたいに。
end
すずおとさんへ、せいいっぱいのゾロル・・・。そしてYさんへお餞別・・・にもならない・・・。
書きたいときが書きどきかと思って書いてしまいました。
他にも書きかけの話がたくさんあるというのに。ぶるぶる。