何か新しいモノ
何か古いモノ
何か借りたモノ
何か青いモノ




サムシング・フォー




おれァ男だが、嫁ぐみたいな気持ちでこの船にやって来た。
今まで育ててくれたオヤみたいな連中と別れてさ。
幸せになるんだ、なんてトキメキながら。
だから、まあ、さしずめオレはこの船のお母さんだな。あとの連中はダンナだ。子供でもいいけどさ、殆ど同い歳だろ、オレら。
チョッパーは子供でもいいかな。
いや、ペットか?
いいか、どっちでも。動物だけど仲間だしな。
ここにいる奴らは飛び切り世話のかかるダンナばっかりだ。
朝から晩までオレは追い立てられて台所でクルクル働く。
クソ忙しい。
「サンジ、腹減った」
キャプテンの情けねェ声を聞けば
「はいはいはい」
体も自然に動く。
「サンジ君、何か飲むものなぁい?」
ありますとも、アナタのその呼びかけのように甘いスペシャルドリンクが。
てきぱき
手が動く
ああ、おれって、ほんと、こんなことに向いてるなあ、何て言うかな、人の世話やくのがさ、好きなんだ。
美しいだろ、献身愛だ。
コックだからまず料理はするし、ゴシャゴシャになった部屋を見れば仕込みの合間に片付けるし、片付けついでに洗濯もしてやる時だってあるさ。天気が良けりゃあな。
食器もちゃんと洗う。
料理は後片付けまでがオサンドンだ。なんか違うな。いいけどさ、そんな感じなわけさ。
オレの大事なメシを盛り付ける皿達だ。
割られてたまるかってえの。
そんで食器を洗ってるとさ、せっせと働くオレの後ろで、船員たちが寛いでいる。
紅茶の匂いがする。
オマエら人にばっか仕事させて寛ぎやがって……とも思うけれど、そうやって紅茶の匂いのする時間を、守ってるのがオレなんだと思うと、自慢に思う。
どうだ、この船は最高だろう。
より香りがひきたつように、最高の状態で淹れられた紅茶だぜ。
そこいらの船じゃ巡り会えまいよ。
そんでその紅茶を、馬鹿みてえに、ただの水と同じように飲んじまうんだろ、オマエら。
それはとても幸せなことだ。
何よりオレにとって。
気がつかないほどの良いことを、あげられるんだって。



飲み残しの酒を倉庫の棚に仕舞ってたら(隠さないとあっというまに全部なくなっちまう)、ゾロが来た。
こいつはいつ見ても同じ腹巻まいてんな。
別にどうでもいいけど。
最近、オマエ、オレにキスするな。時々。
なんも言わないで、ただ口をくっつけて、唇を吸って、舌を絡める。
いいよ、別に。
悪くない。
でもどうして何も言わないんだよ。
オマエが何も言わないと、調子狂うから、オレも黙りこんじまって、妙な空気になるだろ。
「なぁ、腹減った」
ぼそっと呟いたゾロは、別段空腹なふうでもなく、オレを背後から抱きしめて、あちこち撫でまくる。
腹減った、か。
オレにとっては、せつなくなるような言葉だ。
胸がキュンとしやがる。
誰かが腹減らしてんのは、辛い。
だけど、誰かに食わせられるってことが幸せだ。
何か自分があげられるようなものを欲しがる相手、以上に愛しさとか感じさせるものがあるだろうか。
食べ物とか、庇護とか(これはこのマリモには必要無いモンだろう)、ま、溢れんばかりのこの愛とかもね。
あげられるものを持っているなら。



サムシング・フォーって言うのがある。
花嫁が身に付ける、四つのもの。
幸せになれるらしい。
自分で言うのもなんだがオレはロマンチストさんだ。
花言葉とか、マメに覚えとくほうだ。
雑誌の星占いのコーナーは必ず読む。
だから、オレが花嫁の身に付けるモンなんて知ってるってのァ、その流れだ。

何か新しいもの
何か古いもの
何か借りたもの
何か青いもの

ああ、オレは、全て身に付けて来た。
新しい意志と、古い思い出と、借りた命を引っ提げて、青いこの眼で、見たことのない、海を探しに。
ロマンチックだなぁ。
この身を投げ出す気持ちは、嫁ぐって感じに似てる。
だからオレはこの船のお母さんだ。
カッコいいだろ、そういうのも。



ところで、クソ剣士はまだしつこくオレの髪とか掻い繰って、背骨んトコに鼻面を埋めてくる。
「オイ」
「なんだ」
「オイ、馬鹿コック」
「うるせえ、クソマリモ」
武骨な手が、無理矢理オレを埃っぽい壁に押し付ける。
シャツの上から撫で回されてさ、それが、乳首の上とか掠ると変な気分になってきた。
ひょっとして、ヤるのか?
散々キスしてきてたもんなあ、コイツ、オレのこと好きなんだろうな。
そうか。
そうかそうか。
優しいしハンサムだし、良く働く、いいお母さんだろ?オレ。
惚れないわけないよな。
オマエの気持ちは分かるよ、と首を捻ってキスしてやったら、なんつーか、エロい顔してんなオマエ。オレまで勃ってきそうだぜオイ。
ズボンの中に手を突っ込まれて、揉まれた。
もうヘナヘナになった。
変な声出ないだろうな、と危ぶんでたら
「……んぁ……」
ほんとに出た。
背中を壁に預けて上体を支える。
キスされる。
自慢の足がへなちょこに崩れそうで弱った。
「あふ」
またそんな声か、オレ。しっかりしろオレ。
早くも濡れてるし。
イッちまいそうだ、もう。
たまらなくなって、腰をおかしな具合に動かし始めたら、
「…………」
ぐいっと肛門に指を入れられた。
まてよ、早いだろ、いや、ついさっきまでイきそうだとか思ってたけどさ、でも早いって、まだ駄目だろ無理無理。
……とも言えず、オレは
「クソッ」
と、弄られている場所がら微妙に聞こえそうなセリフだけ吐いて、そこを掻きまわされたり押し込まれたりパカパカ開かれたりする。
クソマリモはやけに息が荒い。変態かオマエ。
何も言わない。
オレら普段からあんま話さないもんな。
ようやく口を開いたと思ったら、質問だった。
「なあ、はじめてか」
何でそんなこと聞くんだろ。
どうして知りたいんだ、そんなこと。
はじめてじゃないって言ったらがっかりすんのかな。
誰とだって聞くのか、嫉妬してくれんのか。
はじめてだって言ったら、どうすんだ。
大切にしてくれんのか、優しくしてくれんのか、満足か、自分が最初のオトコだったら。
愛してくれんのか。
オレは、お母さんだからな、答えない。
自分で答えをみつけなさいって、なんかそれじゃ、コイツ、子供みたいじゃないか、ダンナじゃなかったっけ、まあいいさ、子供でもさ。
目を閉じて
ああ、何か言えよ
何か言え
好きなんだろう?
オレのこと、好きだろ。
だって毎日、キスしてくるもんな、好きなんだろ、なあ、ゾロ……



新しい意志と、古い思い出と、借りた命を引っ提げて、青いこの眼で、見たことのない、海を探しに。
オレは全て身に付けて来た。
幸せな船出だ。
何も問題無い。
嫁ぐみたいなまっさらな気持ちだけで、ここに来たんだ、他にも色々大事にしてるモンはあったけど。



何か言えよ、オマエ。
どうしてオレを抱くんだよオマエ。
好きなんだろう、好きなんだろう、オレのこと、好きだろ
「オイ」
「なんだよ」
「おい、馬鹿コック」
「……あ、あッ」
変な声出るなあ、オレ。
「オマエさ……」
言うんだろ
今度こそ言うんだろ
分かってる、言わなくても分かってるんだ
何か四つのものをオレは引っ提げてきた。オマエは一つしか持っていなかった。足りないヤロウだ。オレたちは船の上で出会った。そして恋に落ちた。
そうだろう?
泣きそうだ、口塞ぐなよ、オレの声はそんなにでかいかよ、なあ、何か言えよ
……何か。




何か新しいモノ
何か古いモノ
何か借りたモノ
何か青いモノ



それは恵まれた幸福な船出なんだ。

end







瀬戸の花嫁みたいな話が書きたいなぁとか思って・・・
せとは〜ひぐれて〜♪
ワンピサイト開設前に書いたものでしたが、思えばこの頃既に「サンジは喘ぎ声がうるさい」というしょうもないこだわり設定が芽生えてました。