<<キスの日にTLが盛り上がってたのでつられて書いたものです>>
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「だっておまえのガキの頃から知ってんだよ、おれは。今更大人に見えるわけねえだろ」サンジは煩そうにゾロを追い払う。負けじと腰に手を回し、強引に引き寄せようとする。目が合うと一瞬、困ったような顔をした。「ガキと違っておれは忙しいの!」「どこがガキだよ」「大人にゃ見えねえよ、八つも年下で…まだ十代なんだろ!十代!ありえねえ!」「関係ねえよ」「ああもう」お手上げというように、サンジは少し乱暴に手にした布巾を置いて、振り向いた。閉店後のレストランには二人だけしかいない。がらんどうの空間は、変に間が抜けている。「わーった、キスね、キスだけだ」ほら、と擦りぬけざまに、軽く、ちゅっ、とやる。「おい、なんだよ今の!」「キスだよ」「ふざけんな、馬鹿にしてんのか」「なんだね、キスの仕方ひとつで怒るのか、キスはキスだし、なんでもねえよ、ガキが」にやにや余裕ぶっているのが憎たらしい。わざと怒らせようとしているのかも知れない。飼い猫みたいに、ひとをからかって怒らせることが大好きなのだ、彼は。「キスの仕方ひとつ気に食わないからって怒ってるようじゃ、おまえなんかまだガキだ」ふんっ、と澄まして仕事の続きに戻ろうとする。まっすぐな背中にはまるみがなくて、悔しいが確かに年上の男らしく見える。アホのくせに。「まあてめえ、おれが初めてみたいだったし、夢中になるのも分かるけどさ」ぐるぐる巻いた眉を片方だけ上げて、皮肉たらしくゾロの腕を振り払った。「今のまだ、てめえの人生で二十六回目のキスだもんな、ま、そうムキになるな…」そこまで得意げにクワクワまくしたてた年上の男に、ゾロはようやくつけいる隙を見つけて、笑った。
「おまえ、おれとのキス、全部数えていたんだな」
(おしまい。年下攻め設定。)
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もう1こ書いたのでこちらも載せます。
上のSSとは無関係です。
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サンジはずっと、何度もごしごしと顔を擦っている。目許まで強く指で擦り、袖で唇を拭うように擦る。
「おい、赤くなるぞ」
「うるせえ」
「別にどうもなってねえから」
「うるせえな」
不機嫌にまだ顔を擦る。
先ほど、物陰でキスされたのが気になるらしい。唇が濡れていないかとか、吸われて赤くなっていないか、目がうるんでいるのがばれやしないかと…。
二人で港の近くのマーケットに出かける途中、なじみの花屋に立ち寄った。ばあちゃんがぎっくり腰だって言うんだよ、心配だし、パン焼いたから持ってってやろうぜ、と威勢良く店先のドアを開けるまでは、上機嫌だった。
偶々タイミングが悪かったのだ。ドアを開けたら、キャッ、とまるで少女のような声をあげて、花屋のばあさんが、じいさんと握り合っていた手を離した。じいさんは、照れたように笑って、すまないねえ、と言ってくれたが、ばあさんの方は怒ってしまったようだ。ゾロとサンジに背を向けて、今の若い人たちは失礼だ、ノックもしないなんて、と愚痴を言っていた。
「ノックして花屋に入る客がいるかよ」
じいさんは笑っていたが、サンジは物凄く恐縮して、小さくなってしまった。
「恥ずかしがってるだけなんだ、可愛いとこもあるよ、あんなばあさんになってもさ」
花屋のじいさんは、笑っていた。
それから二人で港の方へ歩いたが、すっかり大人しくなってしまったサンジを見ていたら、つい、そんな気になった。路地裏に引っ張り込んで、無理やりキスしてやった。
「こんな外で!」
サンジは暴れたが、嫌がるところがまた良い。最近二人きりになれる時間がないので、さらにもうちょっと、と顎を押さえて口を開かせたところで、本気で蹴飛ばされた。泣きそうな、真っ赤な顔をしていた。
それからずっと、サンジは顔をごしごし擦っている。
明るい空の下を歩くのが後ろめたいのだ。
自分でも分かっているんだろう、どんな顔をしているか。
港では客船が出航の準備をしていた。多くの人が別れを惜しみ、大きな荷物を抱え込んで右往左往している。
海風が気持ち良いのか、サンジはとぼとぼと、船の脇を通って、人の少ない方を目指す。
「おい、買い物の続きは」
ゾロが尋ねると、
「こんな顔で行けるか!」
と怒鳴り返された。やはり、分かっているらしい。
辺りは賑やかだった。二人のすぐ目の前で、別れを惜しむ男女が突然抱き合い、熱烈なキスを交わし合う。
サンジが飛びあがらんばかりに仰天する。
反対側では夫を見送るらしい妻が、日に焼けた男の顔に優しく口づけしている。
向こう側で青年が母親や妹に別れのキスを軽くしている。それにさえ、サンジは見るからに挙動不審に映るほどぎくしゃくした。
これはどうも、海風で頭を冷やす必要が、本当にあるようだ。
「おい」
ゾロはサンジの手首を掴んだ。
「そのツラ、なおしてやるからこっち来い」
「なに言って」
「来い」
港の端には、物置小屋があって、そこにはいつもたくさんの荷物が積まれていて、人目がない。
ゾロは木箱が積まれた影で、ようやく二人きりになってサンジの顔をじっくり眺めた。
目のふちの赤みや、細められた瞼や、寂しそうな目の色を見た。
両方の手首を掴んで万歳させる姿勢で壁に押し付けたが、サンジは文句も言わなかった。
キスをした。
唇を軽く重ねてから、下唇だけを噛み、噛んだあとを舐めてあやした。押し付けるように深くして、そのあと軽く吸った。
「おまえの顔な」
ゾロは感慨深そうに、サンジの顔を見る。
何か言いたげな表情が、キスして欲しい時の顔だと分かるようになった。
ずっと昔から、それこそ子供の頃からお互いを知っているのに、この顔が分かるようになったのは本当につい最近だ。
「顔が、なんだよ」
不貞腐れて、唇を尖らせている。
「さっきよりちったァましになったけどな」
ゾロはもう一度じっくり、あのアヒルみたいなくちに吸いついてやろうと顎に指をかける。またサンジがせつなそうに目を細める。
「おまえの顔、すっげえ、エロいな」
もちろんゾロは、こっぴどく叱られた。
(こっちはピースオブフラワーの二人…)