抱かれてる時、あいつはよく両腕を胸の前で組んでいる。
自分の腕を抱き寄せるみたいにして、胸の前で合わせている。
オレはそれを見ると何だか、あいつのことを、いいなと思って、好きだと感じたりする。




A seed in the ground




そんなこんなで夜中過ぎてもなかなか放してやんねえから、さすがのアイツも近頃朝起きが辛いらしい。
それでも絶対誰より早く起きて朝飯の支度してやがるところが、本当にアイツらしいなと思う。オレが目を覚ます頃には、朝飯は支度どころか後片付けまで終わってる。アイツは良くそれを怒る。
「どうして起きてこねェ」
言うと同時に蹴りが飛んでくる。
ケンカになる。
すぐ煩せェこと言いやがる、憎たらしい奴だ。
「煩せェな」
って思ったまんまのこと言ったら、今朝はナミの奴まで
「なぁに?その言い方!」
とかって加勢してきた。
「サンジ君はアンタのために、ずっとスープを温めて待っててくれたのよ、御礼言いなさい」
あー……
そうか。それは悪いことしたな。
悪かったよ、と言おうとしたら、アイツはオレのことなんか見ちゃいなくて、
「ナミさぁ〜ん、優しいね〜」
クソ、あんのラブコックが。
ああいうとこ、むかつく。
食卓についてメシを食い出したら(スープは本当に温かかった)「クソうめェだろ」ってあけはなしに笑顔になった。コイツのこういうとこ、うざったいなあ、とか思う。どうでもいいだろ、そんなこと。
まぁ、凄ェウマいんだけどよ。

今日はどっかの島についた。
島の名前はナントカってロビンが言ってたけど、忘れた。
チョッパーが薬草を探しに行きたいと言い出した。
比較的大きな街だったから、必要なモンを今のうちに揃えときたいんだと。
「じゃ、オレが付き合うぜ」
早速コックがそう請合って、二人して下船することになった。ウソップは船の修繕があるので見張りを兼ねて居残りで、船長も船を壊した張本人なので責任とって居残りになった。
ウソップは一人で居残りすんのが怖いんだろう。
ナミから夕方には出港するわよ、と念を押された。
ここでのログは比較的早く溜まるらしく、次の島も割と近くにあるらしいので、ここでゆっくりする必要は無いらしい。
コックはナミ達に買出しして欲しいものをあれこれメモして渡していた。
その他、自分の目で見て買いたいものはチョッパーの買い物のあとで探しに行くつもりらしい。
それじゃこの島ではあんま時間とれねェな、とオレは思った。
でもそんなふうに余計な手間かけてまでチョッパーの買い物に付き合わなくても、チョッパーは一人で行かせて、自分は自分で市場に行きゃあ簡単なのにな。
多分、チョッパーが知らない街で一人で買い物したりすんの嫌がるの、考えてのことだろうな。
まァ、アイツはトナカイだしな、トナカイが一人で買い物するわけねェ。
そんなこと考えて一人でちょっと笑ってたら
「てめェも来るんだよ、ボケ」
また蹴りが飛んできた。
いちいちテンション高い野郎だ。
「水も買うから、オレ一人じゃ持ちきれないだろ?ああ?この筋肉!」
「知るかよ、てか、筋肉ってのは悪口かよ、このエロコック!動物愛好家!」
ケンカになった。

オレとチョッパーが二人で薬草仕入れにいって、クソコックが市場に行くっていう提案もしたが却下された。てめェは道に迷う、しかもオレの荷物は結局軽くならねェ、と言われた。
それもその通りなので、結局三人で連れ立って薬草と食材を探しに行った。
途中の広場でナミ達とは分かれた。向こうは向こうで買いたいものやら見たいものやらあるらしい。
女どものやることには、口挟まないほうが無難だ。
「ナミさぁ〜ん、ロビンちゃぁ〜ん、気をつけてね〜!」
コックは相変わらず女好きだ。
オレにはクソとかアホとか嫌いだとかばっか言うくせしやがって。

チョッパーの買い物は、当初考えていたより随分簡単に済んだらしい。
「きちんと一箇所で全部揃うなんて、この街の薬局は優秀だな」
ちっさな船医は嬉しそうだった。
ついでにコックも嬉しそうだった。
コイツはほんと、トナカイを可愛がってる。
「良かったな」
ってニコニコしてんのは、多分、必要なもんが首尾良く買えたからじゃなくて、ここの店の連中がチョッパーを見てもちっとも驚かなかったことを、喜んでるんだろう。
チョッパーに対する反応は、島によってまちまちだ。
別にそんなのどうだっていいことだ。
チョッパーは、誰が何て言おうとオレたちの仲間だし、別にバケモンならバケモンでいいさ、どうでも。
オレは、なんか、コックのそういう細かいとことか、良く分からねェ。

買出しが順調にいったので、昼過ぎには船に戻れた。
「悪かったなぁー、ナミさんとロビンちゃんに、余計な買い物頼んじゃって。こんな早く帰れんならオレが自分で行ったのに」
船から港を見下ろしながら、コックは煙草をふかしていた。
例の変なマユゲがハの字に下がってる。
面倒だったのでオレはコメントしなかった。
船全体の必要物資なんだから、別にてめェが一人で背負い込むことないだろ。
煙を吸い込んで吐き出すコックの背中は、なんだかしょぼくれて見えた。
それ見ると、ちょっと、うまく言えない気持ちになる。
イヤな感じじゃねェ。
まあ、あれだ、ヤりたいとか、そういう感じだ。

チョッパーは甲板でルフィとウソップの手伝いをしている。
アイツも同じだ。
アイツも、このクソコックと同じで、一生懸命だ。
ルフィが大声で笑い出した。
それにウソップがツッコミを入れている。チョッパーは「凄ェ!凄ェ!」って感心してる。
ナミたちはまだ帰ってこない。

外が眩しい分、船室に入ると一瞬暗く感じる。
暫くして目が慣れると、何てことない、普段通りのラウンジだ。
コックがグラスに何かを盛り付けている。
暑いから、水分補給を兼ねたおやつを作ってくれてるんだろ。それくらいは分かる。
「てめェの分は無いぞ」
キッチンに近づいたオレに、コックがまた憎たらしい口をひらきやがる。
「ああ、要らない」
オレの分には、多分、甘くないお茶とかが、冷蔵庫に用意されてあるんだろ。いい匂いのするやつが。
背後から抱き込むと、ふぅ、と奴は息をついて、
「……少し待てよ、これだけ今、皆に出してくるから」
トレイにグラスを三つ並べると、コックは姿勢良いウェイターとなって、ラウンジのドアを開けて出て行く。
外から嬌声が聞こえる。
それから「てめェら、残さず食えよ」って言う、嬉しそうなコックの声が。
ああいうとこは、別になんとも感じねェ。
でも、残すはずも無いのに、残すなって言うところは、何か、いいなと思う。

カラになったトレイだけ持って戻ってきたコックを、オレはすぐに引寄せた。
コックは困ったように顔を逸らす。
「ここじゃ誰か来るだろ」
カタン、とトレイがシンクの横に置かれる。
「格納庫行こうぜ?」
面倒臭ェな、と乱暴に腕を引っ張って首とか耳とか舐めると、奴はひくっと身を竦めて、
「あ……あぁ……はぁ……」
って高くて弱弱しい声を出す。
「や……ろ、よ、……んん……ここじゃ、嫌だッつって……んん……」
煩い、と思って耳朶をちゅうと吸ったら「あー、あー」ってでかい声出して必死に頭を振った。首まで真っ赤になって、目を閉じてる。
ぎゅうって目を閉じて、歯を食いしばってる。
前はここで蹴りとか飛んできたんだろうけど、最近、こういう時にケンカになることは少ない。ただコイツは、ぎゅうって目を閉じて、歯を食いしばってるんだ。
そういうとこ見ると、何でか、いいな、と思うみてェな気持ちになる。
「ここじゃ……」
往生際悪く、また文句言ってくる。
仕方ない、とオレは奴の身体を放してやる。
背中向けてさっさと歩き出すと、アイツは情けねェツラしてこっち見てる。
オレは腹の底がぎゅってなって、何かイイって思う。
分かんねぇ。
上手く言えねェけど、ああいうとこ見ると、ぎゅってなる。
「行くんだろ?格納庫」
別にハラ立てたわけでも嫌んなったわけでもないってことを、そう言って知らせてやると、
「へへ」
笑ってコックは、付いて来る。
「てめェ、こら、野獣、もっとマナーってもんを学べよ!」
とか調子づいてオレの後ろ頭をどついてくる。
こういうとこは、気にいらねェ。むしろ嫌いだ。

甲板に出て階段を降りる間コックはやけに無口で、そそくさと格納庫の扉を開けて中へ滑り込む。
二人で居るとこ見られるのが嫌なんだろ。
ルフィ達はさっきまで居た見張り台の下あたりには居なくて、船首のほうから賑やかな話し声が聞こえてくる。
コックは薄暗い船室に入り、小さな窓から外の海を見て、怯えるように詰めていた呼吸を吐き出した。
何が怖いのかって思ったら、また、ぎゅってなった。
真上から、ルフィ達の声が僅かに聞こえてくる。ドタドタいう足音も少しだけ。
知られることの何が怖いのか、多分、分かる。
「だって気ぃ遣われんのヤだろー」
って時々冗談めかして言うコイツは、今のことを言ってるんじゃなくて、ずっと先に、気を遣われるのが嫌だッつってんだ、多分。
そのずっと先っていうのは、オレとコイツの関係が今みたいじゃなくなってることを、コイツは考えているんだ。
「その頃オレはステキなレディーとラブラブになってるわけさ」ってはしゃいで言うけど、ちっとも楽しそうじゃねェ。
アホだ。
先のことはそん時考えりゃいい。
だけどオレは、そうやって先々のこと考えて、いつもと違って暗い顔しやがるコイツを見ると、いつもみたいに憎たらしいとか思わなくなる。

キスしながらシャツの中に手を入れたら、コックは飛び跳ねた。
押し倒してズボンの上から触ったら、もう勃ってた。
「力抜け、脱がせっから」
言い聞かせるように言っても、コックは目をぎゅうって閉じて、歯を食いしばってる。
腕を開け、と強く促がすと漸く、辛そうにしながら握り締めてた手のひらと両腕を緩めて、ぴったり閉じてた足からも力が抜けて、服が脱げるようになる。
服を脱がせてアチコチ弄り出すと、またしっかり両腕を胸の前で抱き合わせる。
「クソ、てめェ、でけェなあ」とか不平垂れて、「もっとゆっくりしろ」とか「がっつくなケダモノ」とか煩いこと言って、ニヤニヤ笑ったり、怒ったり、ぎゃあぎゃあ喚いたりする。
慣れたふうに、腰の動きを合わせてくるときも、腕は胸の前だ。
アホだ。
安定悪いから頭ガンガン打ち付けてやがる。
こんな、こういう、アホみたいなとこ見ると、何だかイイと思って、コイツのことを好きだと感じたりする。
目ェ閉じちまうところとか、腕を伸ばせないところとか見ると、腹の底が、ぎゅってなる。
あと、オレがコイツの名前呼ばないから、コイツもムキになってこんなときにはオレの名前を呼ばないんだとかも思う。

何か、ぎゅってなる。
ああいうところを見たいと思ってる。
自分の腕をがっちり抱いてたり、目ェ閉じたり、必死に役に立ちたがったり、オレのこと窺うように見てるとこが、気になる。
でもそれは、コイツ自身が辛いとか苦しいとか思ってるところだろうから、だからコイツは、オレのことを嫌いだと言うんだろう。

窓から外が夕方っぽくなってるのが見える。
コックは疲れて這いつくばってる。
船の上で、航海士の名前を呼ぶ船長の声がした。
きっとコックはすぐさま飛び起きて服を着る。そんでオレのほうを見向きもしないで駆け出ていく。
航海士たちが船へあがって、そこへタイミング良く作り置きの飲み物とか出して、そんで嬉しそうな礼でも言われたら、心底幸せそうに笑うんだ。楽しそうにするんだ。
そんなとこには、あんまり興味ねェ。
そんでアイツも、オレのこと嫌いだって、いつもみたいに言いやがんだろう。




end
03/08/18




air plantの口直しのつもりで考えた話でしたが、air plantより先に出来ちゃった・・・・。
なんか当初予定してたムードとは全然違う感じになりました。
てかゾロまでもが私の手にかかればこんな乙女チックラブポエマー・・・。恐ろしいことです。


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