もにゃさんへ。
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「や、やだ」サンジは必死にゾロを押し戻した。「まだ駄目だ、今日は駄目だ」「往生際悪ィなてめえも、どんだけ待たせんだ」「まっ、まだつきあって二カ月じゃねえか…」「充分だろ」「嫌だ、もうちっと待て」「もうちょっともうちょっとって、どのくらいだ、好い加減にしろ」「く…クリスマスまで」小さな声で、いじらしくすがるような言い方だった。「クリスマスなら、良い」ゾロは思い切り舌打ちした。まだ夏の終わりだ。クリスマスまで三カ月もある。待てるわけがない。なんでイベントあわせに初エッチを持ってきたがるのか、その考えがゾロには全く理解できない。「…おい、なら、てめえの誕生日はいつだよ」「は?3月2日だけど」その答えを聞いてゾロはまた舌打ちした。「なんだ、そんじゃクリスマスの方が先じゃねえか、そんなに待てるか、ハロウィンにしろ」「ハロウィンとカップル関係ねえだろ」 カップル、という言い草に、ゾロはまた舌打ちした。処女の思考回路は、完全に理解不能である。サンジの顔をじろりと睨んでから、ようやくゾロは諦めて、押さえつける力を緩めた。素早くサンジは逃げだし、また今度な…クリスマス…と相変わらずアホのような念を押してから、キッチンを立ち去った。ゾロは残されて、両腕を組んで不機嫌丸出しで床に座り込んでいる。 外に出ると、夜はもう肌寒かった。見張り台のチョッパーに手を振ってから、寒いな、と肩を竦めて男部屋へ続くラッタルを下りる。自分のハンモックに潜り込むと、布団をかぶって、先ほどの出来ごとを反芻する。ちょっともじもじしてしまう。なんだあの野郎は、最近、ちょっと隙があるとすぐ変なことしようとしやがって…。まだキスしかしたことがない、その先は、さすがにハードルが高い、男同士だし、それを差し引いたとしても、こっちははじめてなのだ、なにもかも。黙っているのも男らしくないとゾロに未経験を打ち明けたのが先月。大事にしてくれるどころか、それ以来、余計しつこく迫って来るようになった。とんでもない話だ。
だいたいなんだ、クリスマスまで待てないとか。こっちはどんだけ初えっちに夢見てると思っているんだ。アホかあいつは。まあ別に誕生日でもいいけど、3月だしな。あいにくだったな、10月とかだったら喜んだんだろうけど、本当に残念だったな。
そこまで考えて、サンジは「おや」と気がついた。
ゾロの誕生日は11月なのである。サンジはそれを何かの拍子に本人から聞いたことがあった。
11月は、クリスマスより、はやい。
なのになぜ、それに気付かないのか。
まさかあいつ…、とサンジは考えた。
まさかゾロは、初めてのえっちを、サンジに対するプレゼントであると、考えているのではあるまいか。「クリスマスに初えっちしたい」とサンジが言うのを、クリスマスの特別な贈り物として楽しみにとっておきたいと言っているのだと勘違いしているのではないか、初えっちについて。
自分がいただくものだとは、思っていない。だから自分の誕生日のことを思い出さない。
「なんてやろうだ…」
サンジは茫然とした。
なんと自分に都合の良い発想をする男、それがサンジの彼氏なのである。
2011/09/30