おまけをひとつ


***


サンジのごたごたがあったせいで転居がギリギリになってしまった。引越しの荷物を受け取り、片付けもそこそこのまま入学手続きの書類を整えた。
書類のなかに、マークシートが一枚入っていた。通学時間等に関するアンケートのようだ。
ゾロはまだ未開封のダンボールの中から筆箱を発見すると、鉛筆を取り出し、マークシートに黒丸をつける。
 
通学方法は…徒歩。1番だな。
通学時間は…15分。1番か。
一人暮らし…だから4に丸。
あ、間違えた、4はあれか、寮とかの奴のことか…普通のアパート借りて一人暮らしなのは3にチェックか…
消しゴムどこだ、消しゴム、お、入ってた。
 
筆箱から転がり出て来た角が丸くなっているのにきちんとケースにはいったままの消しゴムに、ゾロは一瞬首を傾げ、ああ、あれか、と思い当たった。
普段ゾロは新品の消しゴムについている紙のケースなんて、すぐにはがして捨ててしまうほうだ。ましてある程度使って消しゴムが小さくなってくると、消すたびに紙ケースが引っ掛かって邪魔なので、絶対にとっておいたりしない。消しゴムはハダカで使う派だ。
ところが、今筆箱から転がり出て来た消しゴムは、きちんと紙ケースに入っていた。だから「おや」と感じたのであるが、すぐにその理由に思い当たった。
これは、ゾロの消しゴムではない。
サンジの持ち込んだ消しゴムだ。いつの間にかゾロの持ち物のなかに紛れ込んでしまったのだろう。
 
サンジが勝手にゾロの家へ出入りするようになったばかりのある日、ゾロが所用から帰宅すると、サンジが一心不乱に新聞紙を消しゴムで擦っていた。
(何してやがんだ)
ゾロは不審に思い覗き込んだ。すると、気配を察してサンジが慌てて手許を隠す。
「な…ッ、何見てやがんだ、見んなこのクソヤロウが!」
「あ?テメエ、ひとんちの台所ででひとんちの新聞紙使ってこそこそしやがって、その上クソヤロウとか言うか。アホが」
「うっせえ、このハゲ!」
「……」
(いくつだテメエは)
多少ムカついたが、面倒なので放置することにした。


これは、多分あのときの消しゴムなのだ。他に思い当たらない。
(あんときゃあ、まだ読んでねえ夕刊が一部やけに薄墨になっててオヤジが怒りくるってたが)
…一体サンジは何を消そうとしていたのだろう。
そんな疑問を抱きつつも、いつものクセで、ぽい、と消しゴムの紙ケースを外して放り投げて、そのとき気付いた。消しゴムの白い地肌には、緑のペンで何か書いてあった。

 ゾロ

と、読めた、下手くそな文字だった。
(そういや、ガキのころこういうの流行ったな)
ゾロは古い記憶を手繰り寄せた。
小学校へあがるころ、5つ年上の幼馴染の少女が教えてくれたことがあった。好きなひとの名前を緑のペンで消しゴムに書き、それを誰にも見られることなく最後まで使いきったら両思いになれるのだと。
「…ははは」
アホなことしやがる。
あいつはホンモノのアホだ。
わざわざそんなことのために消しゴム買ってきて、はやく使いきりたいから意味もなく新聞紙をこすって、しかも途中で飽きてそのへんに消しゴムを投げ出したんだ。


しょうがねえヤロウだ、と思いながら、ゾロはその消しゴムを筆箱に戻した。
ちなみにゾロが今はいているパンツはサンジのアパートに何故か保管されていたものである。あれこれいたしたあと風呂を借りて、風呂上りにきちんと洗濯されてあったそのパンツを取り返して穿いた。
一生懸命に、声を出さないようにこらえながら、このパンツを握りしめていたサンジの白い手の甲を思い出す。
(やべえな…)
アホだアホだと思いながらも、情がうつっていることを自覚した。



***

もうひとつおまけを
   


勢いでゾロとの初体験に及んでしまったサンジであったが、その後のハラの不調には多少悩まされた。夜中に何度か目を覚ましてしまったのは、そのせいでもあった。
(次はちゃんと用意しておかねえとな)
そう決意して、ゾロを追いかけてうっかり乗りこんだ空港からの帰り道、ドラッグストアへ立ち寄った。
ゴムを買うためだ。
ナカに出されると、ゾロの出したものの熱やら感触やらが伝わってきて、それはそれで満足というか嫌な気持ちはしないのだが、その後のあと始末が大変だ。いろいろな、不都合があった。
そういうわけなので、今後はセーフティセックスを心がけようと思っていた。
 
当然サンジはゴムを買ったことなどなかった。したがって薬局で非常に恥ずかしい思いをし、挙動不審になってしまったが、どうにか目的のものを手に入れることが出来た。種類や内容など確かめる余裕もなかった。ただ目についたものをひったくるように取ってレジまで持っていっただけである。
ゴムだけ買うのは露骨過ぎて恥ずかしいので、カモフラージュのためと思い、すぐ隣りにあった箱も正体の分からぬままに手にしてゴムの箱と重ねて両方買ったのだが、帰宅してから確かめたら、それは水虫の薬だった。すぐにでも薬局に戻って言い訳したかったが、どうにか思いとどまった。
ところで、普段使っているような店で知人に出会ってはいけないので、町外れにある、寂れきった、どうしてつぶれないのかが不思議なような店までサンジは行った。
それがいけなかったのだろうか。
帰宅してから
(こ、これがゴムか…)
とオトナになった自分を噛み締めながら、興味津々でパッケージなどを眺めまわして多少エロい感慨に浸ったりなどしていたところ、使用期限があることに気付いた。
外箱に、ほんの一ヶ月程先の日付。
いくらなんでも大急ぎで使いきらなくてはいけないシロモノを手にしてしまっていたのであった。
(あと一ヶ月以内にゾロとえっちする)
その日付を確認し、新たな決意を胸に抱くサンジだった。何しろ、もう一度恥ずかしい思いをしてゴムを買ったりする勇気は、当分湧いてきそうになかったのだ。
それからサンジは少しでもモノが長くもつように、買ったばかりのその箱を、大事に新品の冷蔵庫に仕舞い込んだ。




ゴムの話、2つ。ヤク○トのおまけの話でした。
「そのうちサイトにアップする」と言ったままになっていたので、遅くなりましたがこちらで公開させて頂きます。現在のところ、再販再録の予定はありません。サイト内で全文を読めるので、どうぞご容赦下さい。
い、今見ると恥ずかしくてしにそうです!