The flower will be a flower on a day
台所はコックの城だ。
ただしこの船の台所は食堂も会議室も談話室も更には操舵室も兼ねてやがるので、一人きりの城では無い。
クルーが入れ替わり立ち替わり、何か飲むモノねェかとか、何か喰うモノねェかとか、そんな具合に顔を出す、アットホームな城だ。
別にその点に全く異存は無い。
オレがスープをあっためるすぐ横で、野郎どもがガツガツ食べてたり、レディー達が「おいしいわよ」とか嬉しいこと言ってくれたり、ホント、守りがいのある城だ。
日中これといって用の無い時、オレは大抵この城に陣取ってたりする。
コックだからな。
仕込みとかあるし、煮込まなきゃいけねェ料理もあるし、仕入れたばかりの食材には保存用に手を加えたりするし、結構忙しいんだ、これが。
そうやってここにケツを構えてると、かえってここのクルー全体の行動が見えてくる。
「何か飲むモン無いか?」
って言ってやって来ては、何か一言二言、どうでも良い話をして行くからさ。
今、新しいパチンコ玉を開発中だとか、それがどうもうまく行かねェとか、気候のせいかミカンがしおれてきたとか、小さい時の思い出だとか。
筋肉マリモの生活は不規則だ。
無茶な鍛錬をしたり、倒れるように眠ったり、また無茶な鍛錬をしたり、眠ったり、鍛錬したりだ。「趣味の筋肉」って感じだ。
だから好き勝手な時ここに来て、何か喰う。
そんで、我らが船長の生活は、意外にも規則的だ。
朝はメシの時間になるとキッチリ起きてくる。
食い終わると直ぐに甲板に出る。
十時になると台所に戻ってくる。そんで目ェキラキラさせながら「おやつ!」って叫ぶ。
誰かがコイツに教えたんだな。十時はオヤツの時間だってよ。しょうがねぇなあ、可愛がられやがって。
今日も十時になったらルフィが来た。
「おやつ!」
って言った。
オレは冷蔵庫からケーキをホールごと取り出して「おらよ」とルフィの前へ置いてやる。
それからティーサーバーを持ってきて湯を注いだんだけど、オイ、茶が入る前に食いだしてるよ、ウチの船長ときたら。
仕方ねェなあ……
とか呆れるフリをしつつも、これで結構コック冥利につきてたりする。
「うめェ!」
がっつくルフィの前に茶を置いて、オレも椅子に腰掛けた。
今日も良く晴れてんなー。グランドラインの気候は不安定なのが普通らしいんだけど、ここんとこ天気が安定してるから、案外どっかの島に近づいたのか。
十時にオヤツ食べに来んのはルフィだけなんだよなァ、あとでナミさんたちには飲み物くらい持ってって差し上げようかなァ。
煙草に火をつけて、もぁーってやると、あらかた食い終えたルフィがちらっとこっちを見た。
「あのさァ」
もごもごと最後の一口を咀嚼しながら
「夕べ夢見てさァ」
ルフィは片手でカップを取る。
「ほーん」
「なぁ、おやつおかわり!」
「ねェよ!」
「ちぇ……そんでさ、ゾロ元気?」
「ゾロ?つい今さっき朝飯食ってったぜ」
「そっか、ならいい」
ゾロ。
またゾロか。
別にオレには関係無いけどさ。
「ゾロがどうしたよ」
「んや、何でもねぇけど」
ルフィのカップがカラになったので、またお茶を注いでやる。
「夕べ夢見てさぁ」
「ああ、そんで?」
「ゾロが病気になる夢でさぁ」
「元気だよ」
「うん、だったらいいや別に」
ぐいっとカップの残りを飲み干すと、ルフィはそそくさと席を立つ。
ハラがいっぱいになったから、今度は島でも見えないか見張りに行きたいんだろう。
「ゾロに直接聞きゃあいいだろ?どうせ甲板で筋肉鍛えてるぜ、筋肉マリモだから」
ルフィが開けたドアから、勢い良く外の海風が吹き込んでくる。
真昼間の陽光に、オレは少し目を眇めた。あんまり明るいのは苦手だ。他の連中と違って、オレは目ん中の色が薄いんだよ。
「別に!」
ルフィは風で飛ばないように片手で麦藁帽子を押さえた。
「別にどうでもいいさ、っつーか、元気過ぎだよなアイツはー!」
……ふうん、そうかい、どうでもいいのかい。
ゾロの夢見たとかゆうのもアレだが、それで不安になったりしたんじゃねェの?
あー……痒い……
あのハラマキ剣士とゴム船長がかよ。
オレ、そういうの駄目だ。
照れくせェよ何か。
いや、オレが照れてどうする。
何でか知らないが、そういうパターンなのか、ゴム船長が出てったすぐ後にゾロがキッチンに来た。
「喉渇いた」
どかっと椅子に腰掛けながらエラそうに言いやがる。
仕方ねェなあ。
オレは冷蔵庫を開けると、冷やしておいた特製ドリンクをグラスに注いだ。
上にミントの葉とかのせて綺麗にな。
ああ、無駄だなあ。無駄な努力だなあ。
「オラよ」
ドンッとグラスを奴の前へ放る。
「あァ?オマエいちいちガンくれてんじゃねぇよクソコック」
「煩せェよ、オレは今無駄に命を散らしたミントの若葉を悼んでんだ」
新しい煙草に火を点けて、ぷかー、とふかした。
「わけ分かんねえ!」
剣豪はがしがし頭を掻きながら、殆ど一口でガバリとグラスの中身を飲み干した。
ホラね。無駄なんだ……
ゴリゴリ氷まで噛んでやがる。
コイツ、いっつも魚の骨まで食うもんなあ。
こんな頑丈な奴が病気になんかなるかよ。
でもさあ、アレだよ。
あの船長がさ、「オマエが病気になる夢見ちゃってさ」とか言ったとしたら、「心配かけて悪かったな」とか思ったりしちゃうんだよ、きっと。
くぁ〜!
痒いなぁ!
これから段々お互いを意識しちゃったりして、好きだとか何だとか言い合っちゃって、付き合おうとか言って、ちゅうすんだよー!ちゅう!
「若いなぁ!剣豪!」
オレは思わず妄想が暴走しちまって、バンバン奴の背中を叩いた。
「何だてめェ、さっきからワケ分かんねェぞ」
マリモはおもくそ不機嫌になった。
もともと人相が悪い奴だが、こうなると、ほんと悪人みたいだ。さすが魔獣。
こんなのがあんな、小学生みたいな恋愛に参加しようとしてるだなんて、驚きだ。
ま、相手が相手だしな。
例えばオレだったら、あんなしょうもねェやりかた、しない。
もっとこう、エレガントに大人のムードでだな……
そんなこと考えてたら、それがもうこの部屋の宿命の展開なのか、ガチャンとドアが開いて、ルフィが再登場した。
また、強い日の光が射し込む。
早くドア閉めろよ、目ェ開いてらんないだろ。
逆光の中に立って、ルフィはオレらを見ていた。
「何だ、オマエら二人揃って」
扉を開け放したままに、ルフィは中に入って来て、冷蔵庫から冷やしてあるお茶を出して、いっつもオレが駄目だッつってるのに、直接クチをつけてビンから飲んだ。
そんでスタスタと、また船室から出て行く。
開かれたままの戸口に立って一言「ケンカするほど仲良しなんだなあ、オマエらは」。
ゾロは嫌そうに、鼻を鳴らしただけだった。
バタンと戸が閉められると、漸くまともな視力が戻ってくる。
ああ、眩しかった。
ムカつくなあ、何だよ。
仲良くなりてェのは自分だろ。
あんな、あんな気の引き方があるかよ。
それとも自分は好きじゃないって思おうとしてんのか。ゾロを好きなのは自分じゃないってさ。
いやぁ……そんなん、この筋肉マリモだって気付いてると思うぜェ?
分かるだろ、普通。
いや、感受性まで筋肉で出来てるこいつには、ホントに分かってないってことも有り得るが。
エレガントじゃねぇなあ。
ラブってのは、もっとこう、スマートにしてほしい。
あんなさ、あんな気の引き方で、そんな、アレコレ考えたりトキメいたりしてんのかよ。ガキみてェに幸せそうに。
なんか、無性にハラがたって、もどかしくて、悔しくて寂しかった。
夜、皆が寝静まってから、オレはこそっとゾロを倉庫に連れ出した。
「なんか用かよ」
不貞腐れる剣士に、「いいから」って言って、オレはさっさと上着を脱ぐ。
「なァ」
ぐいっと顔を近づけて「ヤろうぜ」と誘った。
勿論「アア?」と剣呑な声音が返ってくる。だが直ぐに断られはしなかった。そりゃそうだ、だって仲間だっていう人間関係があらかじめあるわけだし、それに長い船旅だしな、お互い同い年なので色々分かってる。
だからすぐに無下にはしねェが、まあ、乗り気というわけもなく、多分どうやって断るか考えてるくらいなモンだろう。
ここで考える時間を与えてはいけない。
オレは奴の襟首を掴んで、強引にキスした。
「んむッ」
舌で唇をなぞって、吸って、ゆっくりその舌をクチん中に押し込む、ディープなヤツだ。
ああ、混乱してる。混乱してるんだろう。
オレは執拗に生暖かい口内を舐めまわした。
合間に奴の背骨を探って、上下になぞった。
そのうち仕方ないな、というふうに、ゾロの腕が、オレの背中に回された。
こうやって誘うもんだ、自分のモンにしてェなら。
「あ……はぁ……」
ちょっと変な声出た。
即物的な筋肉マリモは、ろくすっぽ服も脱がせないまんまで、いきなりズボンの中に手ェ突っ込んできた。ビックリして、喘いじまっただろ、クソ。
でもすぐ勃起した。
コイツの手、暖かいな。
それに結構上手いや、意外なことに。
他でもこんなことしてんのかな、いや、してるんだろうな、この分じゃ。
ルフィとはまだだよな。
そうだ、ルフィとはまだだ、絶対。
「…………」
ぐりぐりとオレはゾロの胸んとこに額を押し付けた。
ふ、と呼吸だけで笑われた気配がした。
それから擽るみたいに動いてた奴の手が、先端の剥き出しになってるトコをゴシゴシ擦ってきた。
「おあッ、ヤメ……あッ、あッ、このッ……クソッ」
ピリピリした刺激が背中を這い上がってきて、無意識に仰け反っちまう。みっともねェ。
てかこのまんまじゃ、あっという間に出ちまうよ。
実際じわっと濡れてきた。
それを玩ぶみたいにいじくってた指が、今度は背後から尻の割れ目に入ってきた。
「なあ、入れても平気か、てめェ」
くぅ!小憎らしいこと言いやがんなァ。
そうだよ、どっちかっつーと、入れられても平気なほうだよオレは。
仕方無しに頷くと、今まで遠慮がちにそのヘンを触ってたのが、遠慮無くケツの穴ん中に指突っ込まれた。
いってェ。
きちっと濡らせよ、先に。
あ、でも何か、入った、指。
「くッ……ふぅ……」
なるべく力を抜くようにしてたら、奥のほうまで捩じ込まれて、微妙に気持ち良かった。
「キツイな」とゾロが言う。
ああ、もう、早くしてくれ。
放置された前のほうが、熱くってどうしようもねェ。
抱き合って背中に手ぇ回してるゾロの股間も、なんか固くなってオレの下腹にアタッてきて、ドキドキする。
「ケツの……」
「あ?もう入れてんぞ、指だけ」
「アホ、違ェよ、ケツのポケットにちっせえビンが入ってんだろ、それ使え、油だから」
「へえ、用意周到だな」
ウン、オレって周到だ。だってコックだから。
それから暫く時間をかけて、ぬるぬるに解されたそこに突っ込まれて、「アアン」「イヤッ」とか可愛い声出してイかされちまったよ、オレは。
ああ……何やってんだろうな。
翌日も職務に忠実なオレは早起きして皆のメシを作った。
台所に陣取ってると、ルフィはいつも通りぴったりメシの時刻に来て、それからウソップたちと騒ぎながら甲板に出ていって、今度は十時になったら来るんだろう。
剣士はいつも通り寝坊だ。
目が覚めたら、筋肉鍛えるんだろ。
朝日が眩しいなあ。
「なぁ、サンジ、夕べゾロがさ」
おやつを探しに来た船長がいきなりそう言いだすから、内心ヒヤリとしたが、話題は夕べの風呂の時間のことだった。
夕べ、ゾロがチョッパーと風呂に入ってたって。
「アイツ、結構動物好きな!」
からかうみたいに笑うけど、そんなとこが好きなのかなって、思ったりしてんじゃないのか。
それから、探るようにそっとオレを見る。
不思議と、そんなときの視線のようにも思えず優しかったり澄んでたりとかする。さすがウチの船長だよ。ちょっと感動した。
オレがクソ剣士をどう思ってるのか、知りたいんだろ。
何もねえよ。
イロイロあったけど、実際何もねえよ。
弱った。
何でだよ。
コイツらさ、これからちょっとずつ仲良くなってさ、好きだ!オレも!って言い合うんだ。
こッ恥ずかしいねぇ。
そんであのクソ剣士が、そんな空騒ぎに参加予定なんだとか思うと、オレはたまんなくムズムズして、今夜もアイツとヤりたいなあとか、脈絡の無いことを考えたりしたりしなかったりだった。
end
03/08/11
もはやゾロサン。
あともう一話続く予定です。多分・・・
ところで英語のタイトルつけるときってドキドキハラハラ。
間違ってないだろうか、私。ま、ドンマイ!☆
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