いつものことだから



「おい、どうした」と、ゾロは真顔でサンジに迫った。
うん……、とサンジは曖昧に返事する。
「今日なら食ってくれるんじゃなかったのか、それ」
ゾロは面白がるように、おら、と膝を揺すってサンジの肩へわざとぶつけた。クソ、と悔しそうに舌打ちして、サンジは顔を上げた。それからまたすぐに俯く。
深夜の食堂は静まりかえり、普段よりずっと広く感じられた。わざと斜めに構えた椅子に腰かけ、酒を飲みながら、ゾロは脚をひろげて、おら、とまた促すようにサンジの肩に膝頭をぶつけてくる。サンジはゾロのひろげられた両脚のあいだに座り込んで、ただひたすら顰め面をして気がすすまないことを表現する他の手立てがなかった。忌々しい。全くもって忌々しい事態だ。得意げにゾロがズボンのなかから引っ張り出したモノを、恨めし気に睨んで、舌打ちしては、また溜息を吐く。
これまでにも何度か、ゾロが「くちでしてくれ」とサンジに頼むことはあった。
だがそのたびにサンジは断って来た。男のモノを咥えるだなんて、とんでもない。その上ゾロの持ち物はほんの少しのかわいげもないくらいに、ご立派なのだ。色も濃いし、でかい。咥えてみたいという感情がまったく湧いてこない。
だが自分はしてもらっているのに、そのお返しは一切しない状態について、少しは悪いかな、という気持ちもあった。
そこでサンジは
「クリスマスプレゼントとしてなら」
と、提案したのだった。
その時はまだ夏だったし、冬のことなど真剣には考えていなかった。
だがいざ、クリスマスイブになってみると、でかい。本当にでかい。そしてかわいくない。咥えたくならない。
あまりの咥えたくなさに、サンジは先程から、にょっきりとそびえたつゾロを目の前に、溜息と舌打ちを繰り返すばかりなのであった。
「どうした……できねえかよ」
吐息混じりの熱っぽい声でゾロが言う。サンジの頭を軽く掴んで、嫌がらせのように頬に先端を押し当てる。そこは期待からかほんのりと熱を帯び、まだ何もしていないのに硬くなっていた。くちをへの字に曲げ、悔しさでいっぱいの顔で、サンジはゾロを睨んだ。歯噛みして悔しがっても、今日ならしてやると約束したのは自分だ。
このくらい大したことはない、ちょっとぱくっとしてやるだけだ、それなりに慣れ親しんだモノでもあるし、なんでもない、おれも男だ、約束は守る、このくらいのことは朝飯前だ、などとぐるぐる考えながらもどうしても身体は硬直したように動かず、ひたすらに震えるしかないサンジの髪をぎゅっと掴んで、笑って見せてから、しょうがねえコックだな、とゾロが言った。
「仕方ねえだろ」
ゾロを前に降参するだなんて、絶対に嫌だった。思わずサンジは言い返した。
「おまえの、全然かわいくねえんだから」
ゾロがまた、頭の上で笑った。と、思う間もなく、片腕を引っ張られ、それからぐいっと体重を乗せられてあっという間にダイニングの床の上へひっくり返されてしまった。無理やり口にねじ込まれるのかと思い、サンジが慌てて「おい」と叫ぶ。おいやめろ、と言いながら、ああ、ついにおれの唇のバージンまで奪われてしまう、と覚悟を決め、強く目を瞑った。すげえ変な味とかしたらどうしよう、そもそも風呂に入ったのかこいつは、コックの舌になんてことしやがんだ、神様!ひどい、ひどい男とつきあっちまった、神様助けて!
決めようと思っても決まりきらない決心がぐらついて、サンジはひたすら目を瞑ってその瞬間を待ちうけた。
だが床に背中が床について両脚に手がかかったと思うと同時ぐらいに、一瞬でズボンを引きずり降ろされた。
「ふあっ」
驚いて声をあげてしまった。
ゾロがサンジを見下ろして、にやりとした、嫌な顔をしている。
「おれのは、かわいくねえか」
そう言ってから、裸に剥かれたサンジの股間をちらりと見た。
「てめえはかわいいな」
言われた瞬間にどうしようもないくらいに頭のなかが、かっとなってサンジは飛び起きようと全力でもがいた。
「てめえ、ぶっとばすっ、クソエロ剣士!覚悟しやがれこの!ふざけんな!クソちんこ食いちぎるくらいしゃぶってやるクソが!」
じたばたと両脚を跳ね上げて本気でゾロの身体をふっとばす勢いで右足を構えたと同時ぐらいに左足を床の上へぐいと押し付けられ、一刻の猶予もなく、ぱっくりと、やられた。
サンジは言葉にならない叫びをあげた。
なにか得体の知れないものに呪われた人間のような叫びをあげ、床の上でのたうった。ゾロはなんのためらいもなかった。深く咥えて吸い付き、サンジの抵抗を奪ってから、軽くちゅっ、ちゅっ、と吸うことを繰り返して、舌を這わせ、喉まで誘い込んでから、また何度か強く吸う。びくっ、びくっ、と形の良い膝からその下が、宙を蹴るように跳ねた。
「あ……、ああ……」
情けないくらいに身体から力が抜けていく。それから、あらぬ力がこもる。両手を差し出して、ゾロを払いのけようとしたが、すぐにシャツの肩のあたりを掴んで必死とひっぱり上げようと努め、ただ引き寄せて、せめてゾロの胸の下に顔も悲鳴も隠そうと、背中をまるめた。だがゾロはサンジの腿の間あたりに顔を埋めたまま、どれほど引っ張られても、背を叩かれても体勢を変えなかった。
吸い付かれるたびに身体が震えて、わけがわからなくなりそうだった。快感より苦しさが勝る寸前あたりでゾロは強くすることをやめて、今度はなだめるように舌をつかう。むずむずとくすぐったく、たまらなくなって腰を捩ってしまう。
「やめ……」
止めようと振り上げた手を、逆に握られた。温かい手のひらで、宥めるように手首を擦られた。その擦り方さえどうにもエロティックで、見ているとイきそうで、目を閉じた。
「吸ってほしいか、舐めるほうがいいか、言えよ」
ふいに口を離してゾロが訊ねた。もはや、逃げ出す気にはなれなかった。呼吸が乱れすぎて返事もできないサンジにゾロは
「かわいいじゃねえか」
と、言った。
悔しさと、ろれつのまわらなさで、ほとんと言語と言い難い、ただの雄叫びのような叫びをあげたところでゾロは再びサンジの股間に顔を下ろして、またためらいもなく、ぱっくりと咥えた。
馬鹿野郎、やめろ、クソ、腐れ腹巻、などと回らぬ頭で思いつく限りの悪口を並べ立ててから
「もっと」
と、はずみで口からぽろりと出てしまった。
それから「イく……」と呟いた。全身がしびれて熱かった。
「いいか」
ゾロに訊かれて
「くちんなか、あったけえ」
と答えてしまった。
あったかくて、溶けそう……クソ野郎変態ぶっころす……。
とうとう両手で顔を覆って、呟くように言うと、うっとりとした顔でゾロを見て、
「クソやろ」
と言った。何度か瞬きしてから目を瞑り、急にビクッ、と全身を震わせたのをゾロはしっかりと見ていた。細く、かろうじて開けた目はうるみ、どこか遠くを見ている。
最後まで吸ってやってから、ゾロはようやくサンジの身体を離した。もう抵抗する気もないのか、ゾロを見上げている。涙と鼻水とよだれで、ぐしゃぐしゃの顔をしていた。
なんでもないようにゾロの喉仏が、ごくん、と嚥下する動きをすると、気まずそうに目を逸らした。実際気まずいのだろう。
椅子とテーブルの脚の下で、覆い被さるようにゾロが顔を寄せた。サンジはまた、顰め面をする。
「もうしねえでいい」
宥める口調でゾロが言った。
「手でしてくれ」
「手かよ!入れねえの?」
「それじゃいつもと同じだろ、それはそれでまたあとでする、握れって」
ほら、と促してサンジの手をとるゾロの必死さに、ようやくサンジは笑った。
「何がなんでもなんか新しいことしてほしいのな」
「いいだろ、ほら」
「馬鹿……」
ぎゅっと握ったそこがはちきれそうになっているのを感じてサンジは思わずゾロを抱き寄せ目を閉じた。
ぎい、とドアが開いた。

「うるせえよおまえら」

完全な迷惑顔で、そこには船のマスコット的扱いの、可愛らしい船医が立っていた。
「何時だと思ってんだ」
「ちょ、チョッパー……」
「なんで台所に……」
身動きとれない二人を横目に見ながら、可愛いチョッパーはコップに水を汲んで、ごくごくと飲み干した。
「男部屋で寝てたら、ウソップとフランキーのいびきがうるさくてねむれなくて……仕方なく下のアクアリウムで寝てたんだ。魚見ながら寝ると海のなかにいるみたいで、おれ、好きなんだ、よく眠れるし……けど今度はおまえらがうるせえから、起きたぞ」
コップをシンクに置いて、よたよたとチョッパーは食堂から出て行った。
「もう寝ろよ、風邪ひくぞ」
ドアを閉める前に、そう言い残して。
再びサンジの、言葉にならない叫びが夜のしじまを引き裂いた。






書いたことに意義が…あるんです…
ここ最近連続して「ゾロサンにゃんにゃんしてたら誰か仲間が通りすがる」オチですみません。
す、好きなんです!!!!
今年もこの日をお祝い出来てうれしいです。

20151225