ゾロとサンジはいい感じの恋人同士だった。
あんな事件があるまでは。





ウソゾゾロ





ゾロの身をその不運が襲ったのは、まだグランドラインに入って間もない頃だった。
その頃のサンジは、出会ったばかりのゾロにときめきをおさえきれない程度には、恋に落ちていた。
何しろ出会いのインパクトが凄かった。
まあその辺りは割愛する。
そんなこんなで二人の仲はいがみあい怒鳴りあいどつきあいながらも急接近していったのだが、どんなふうにしておつきあいが始まったのかは二人だけの秘密である。
とにかく、その頃二人は非常にいい感じの仲であり、時折夜中に二人で格納庫あたりにしけこむような関係にまで発展していたのだった。



ところが、ある日メリーが怪しげな島にたどり着いた。
一見何の変哲もない島のようであったが、どことなくどこかで見たような風景の島でもあった。
その島でゾロは泉に落ちた。
泳ぎは得意のはずであったが、咄嗟のことに対応が遅れ、もがくうちにいくらか水を飲んだ。
そして泉から顔を出したときには、なんとゾロはゾゾロになっていた。
以来、ゾロは水をかぶるとゾゾロになり、お湯をかけるとゾロにもどるような感じの体質になってしまった。
初めてゾロのその姿を見た時、サンジはそれがゾロだと分からなかった。
それもそのはずである。
ゾロは緑の毛皮のもさもさ生えた、人相の険しさにゾロの名残を残すだけの著作権ギリギリの姿に変わり果てていた。
森の中へずんずん入っていったきり船に戻って来ないゾロを心配してサンジはゾロを探し回った。散々探して発見したのはそんな感じの化け物だったものだがら、サンジはきょとんと化け物を眺めた。化け物はサンジと出会うと当たり前のように後についてきた。
「てめえ……一体なんなんだ」
「ゾー…ゾー…ローォ…」
化け物は低い声で唸った。
「ゾゾロ……てめえ、ゾゾロってのか!」
サンジは単純であった。
(不思議な化け物と出会っちまったぜ!)
と得意満面だった。非常に心が綺麗であると言える。
だが船に帰るなりその夢は壊れた。
ゾゾロは風呂でシャワーを浴びてゾロになって戻ってきた。
ゾロはゾロで
「変な泉におちてすげーたくさんの水草がからまった。おかげで歩きにくかった」
くらいに感じていたようであった。
想像以上の自らの外見の変化には暫く気付かなかった。



それからまた色々あった。
ゾゾロに木の実をプレゼントされたり月夜の晩にオカリナを吹いたり色々あって、サンジはゾロがゾゾロであることを受け入れていった。
仕方がない。
だって、ゾロのことが好きなのだ。



ところで、ゾロがゾゾロになることはなんとなく二人の秘密であった。
理由は特に無い。
だが、なかなか進んで皆に知られたいと思えるような状況ではない。
そんなわけでゾロがうっかり水をかぶってゾゾロに変身してしまうと、サンジが苦心してそれを隠そうとする生活が続いていた。
長い航海の間には、時折船上でゾゾロの姿を仲間に見られることはあったが、そのたびに
「どっから乗り込んできやがったこの化け物!」
と苦しい言いがかりをつけてサンジがゾゾロを次の島あたりで下ろすフリをしてからお湯をかけてゾロに戻して連れ帰ったり、また次にゾゾロが発見された時には
「ちゃんと前の島でおろしたと思ったのについてきやがったのかこの化け物!」
とまた次の港でおろしたフリをしてお湯をかけてゾロに戻して連れて帰ったり、ゴム船長に
「なァ、あいつ飼おうよ、あいつアレに似てねえか、トコロザワっていうところに住んでるっていうお化け……」
と強請られ
「うちは動物はチョッパーだけです」
とピシャリと返したり、あの手この手で乗り切ってきた。
まさに愛のなせるワザであった。



「あ……ッ、ん……んん……あ、あ、あ」
浴槽の縁に踵を上げて仰向けに寝かされ、あられもない格好でサンジはゾロに喘がされていた。
いつものようにゾゾロになってしまったゾロをあわてて風呂場に押し込んで湯をかぶらせたまでは良かったが、そのままセックスになだれこんでしまった。
何しろゾロがゾゾロになると、その体積の膨張に伴い衣服は破けてしまうので、ゾゾロからゾロに戻ったゾロは全裸なのだ。
全裸のゾロと風呂場に二人きりで何もないわけがない。ゾゾロに変身していなくとも、ゾロは魔獣だ。太い指先がきゅっと閉じられた襞の上をなぞり、擽るように小刻みに押してくる。その感触にサンジは目を瞑る。昼日中の公共の場だというのに、変な声がどうしても漏れる。
(あー…オレこんなになっても)
ひくん、と揺れてしまう膝をサンジは恨めしく眺めた。
(こんな無茶な化け物になっても、ゾロが好きだ)
それどころか、近頃ではゾゾロに変身したゾロの毛むくじゃらの胸を温かいと思ったり、大きな身体を頼もしいと感じたり、ぱかっと開く口がかわいくて堪らなかったりする。
「おい、余所見してんな、何考えてる」
はあ、と荒い息を吐いてゾロがサンジの膝を押し上げる。
「んあっ」
不意打ちで先のほうだけ潜り込んできた指に、サンジが背を反らす。
焦らすように、そんな浅い場所ばかり弄られたのでは耐えられない。
眩しいくらいの天井のランプは、サンジの身体が興奮しきり、はやく続きをして欲しいと強請るように腰を揺らすのを、照らし出しているだろうに。
ゾロはちょっとセックスに時間をかけ過ぎるのではないだろうかとサンジは思っている。おかげでいつも途中からわけが分からなくなってしまう。
でもまあ、それもまんざらでもない。



ことり、と入り口付近から物音がしたような気がして、サンジはハッと顔をあげた。
(鍵……!)
そうだ、鍵を、ちゃんとかけたかどうか覚えていない、というか、多分かけてない。
先刻は突然のスコールでゾゾロになってしまったゾロを引き摺って慌てて風呂場に隠れたものだから……その先のことまでは考えていなかったのだ。
「やべ……ッ」
服、服、と慌ててサンジはゾロに脱がされた自分の服を探したが、風呂場の床でそれは水浸しになっていた。
(これじゃ着れねえ!)
パニックしながらサンジはとりあえずゾロだけでも服を着せようとした。混乱した思考で、とにかくどちらか片方だけでも着衣であれば言い逃れできるような気がしたのだ。
だがゾロの服はなかった。
そう言えばゾゾロになった時点で破けてしまったのである。
ちなみにゾゾロになったゾロの服が破けてしまうので、そのことを隠すためにサンジは日頃からゾロのいつものジジシャツ、腹巻、汚いズボンの3点セットを買いだめしてある。ゾゾロになったゾロをゾロに戻して元通りの服を着せ、何事もなかったかのように甲板に転がしておくのだ。
本当に苦労している。
さておき、風呂場の扉の向こうでは、確かに人の気配がしたようだった。
ノブに手がかけられ、カチャリと軽い音がして、そのあと思いとどまったようにおずおずと声が掛けられた。
「誰かいるのか」
(……ウソップ!)
サンジは叫びそうだった。
それでも務めて平静な声を出そうと半ば金切り声のように
「おおおおおおおおおれだ、今風呂はいってるから!」
と叫んだ。
「おう、なんだサンジか、ナミだったらどうしようかと思った。……ちょっと邪魔していいか、そこにあるカミソリとるだけだから」
(無理だ!)
サンジは思ったが、適当な言い訳も制止の声も間に合わぬほどあっさりと、扉は開けられた。
サンジの上に覆い被さったままなのは全裸のゾロ。サンジも全裸。しかもエロいムード。
絶対絶命のピンチ。
半開きになった扉の隙間からウソップの長い鼻の先が見えるか見えないかのうちに、サンジは決断した。
シャワーを全開にする。
お湯ではなく、水を出した。



「おい、サン……おおおおおおおおおおおおおお!!!なんだ、こいつァー!」



ウソップの叫びが響き渡る。
そこにはドンッと体積を増して風呂桶にぎゅうぎゅうにつまったゾゾロの姿があった。
その背後に押しつぶされるようにして、サンジの姿はウソップからは殆ど見えない。
エロっぽい空気もこの突然のコミカルな展開に霧散。
「いやァ、こいつまた倉庫にもぐりこんでやがったから、次の島でいつも通りおろそうと思うが、その前についでに洗ってやろうと思って」
「え……またか?」
「ああ、まただ」
「でもまたなんで洗っ……」
「カミソリは後でオレが持っていくから」
「は?」
「後でオレが持っていくから!今はオレが風呂場を使ってるから!い、い、な!」
「あ……ああ……」
有無を言わさぬサンジの圧力に、ウソップはなんとなく圧されて風呂場を出た。
ぱたりと扉が閉じられる。
熱いままの身体をもてあましながら、サンジは溜め息をついた。ゾロはゾゾロになると性欲が減退するらしく、とぼけた顔で目をぱちくりさせている。
(いつまでこんな苦労が続くんだ)
それもこれも、ゾロがうっかりあの時あの島であの変な泉に落ちたせいである。
それでもサンジは何も文句が言えない。
だってあの前の晩、サンジはゾロと大喧嘩をしたのだ。あの時ゾロがあの泉に落ちるほどぼんやりしていたのは、もしかしたらそのせいではないかとサンジは考えている。
だから、何も言えない。
ただ、近頃はゾゾロもかわいく思えてきたと、そんなことを思うばかりである。
あんな事件があった今では、サンジとゾロは熱々の恋人同士なのである。



06/03/06


ゾゾロとちびなす、とのリクでした。ちびなすどこにも出てない。ごめん。
「ゾゾロって何?」と思われた方は チーパー へどうぞ。
私はゾゾロがものすごーく大好きで寝ても覚めてもゾゾロのことばかり考えている毎日です。
たきさん、書かせてくれてありがとう。
ちなみにこのゾゾロの設定(水とかお湯とか)は言うまでもなく、本家本元の設定とは異なります。
リンクページのチーパーの紹介文を「ゾゾロサン中心」としてしまいたい今日この頃です。