アニバーサリー





「たんじょうび?」
金髪が不思議そうに小首を傾げた。
思えば、不思議そうなその態度こそが不審だった。
だがそん時は大して気にしなかった。パソコンなんだから知らないこともあるだろうと単純に受け止めた。
「誕生日ってのは、あれだ、まあ、つまり今日はルフィが生まれた日だってことだ」
「へえ」
「それで、あいつがどうしてもウチに来たいって言うもんだから」
ここからが本題だった。
「すまねえが、メシとか作れるか?」
「メシ?」
「そう。誕生日にはごちそう作ってお祝いするもんだ」
「お祝いか、いいぜ任せとけ!」
金髪はえらくはしゃいで腕まくりをし、細ッこい腕を見せてニヤリと笑った。
金髪は本当にクルクルよく働く。
部屋も片付けといてくれるし洗濯とかもしてくれるし、とにかく料理が上手い。
最近は惣菜屋でバイトしてるので、惣菜屋らしいレシピとかも仕入れてきて披露してくれたりする。
パソコンてのは、大変だな、と思う。



夕方、すっかり食事の準備が整った頃合を、まるで見計らったかのように玄関の扉が開かれた。ルフィとシャンクス(パソコン)だ。
そこからはまるで嵐のようだったので、筆舌には尽くし難いものがある。
とにかくルフィは料理を喰いまくり、金髪のことを誉めまくり、誕生日なのかなんなのか、ワケの分からないままに大騒ぎは終了した。
後には大量の汚れた皿だけが残った。
金髪がそれを当然のように流しへ運び、洗いはじめる。
ルフィを呼んだことはオレが言い出したことだし、悪いなって思ったから手伝おうとしたが
「いい、てめえがやるとかえって散らかんだよあっち行ってろ」
と追い払われてしまった。
かわいくないパソコンだ。
だが、一人であの洗い物を片付けて、そんで明日もバイトに行くのかと思ったら。

「パソコンてのは、大変だな」

思わず、考えていたことが口から出た。
たまたま最後まで居残っていたウソップが、それを聞きとがめた。
微妙に笑ってる。ああいう表情を苦笑と言うのだろう。
「『便利だな』、じゃなくて、『大変だな』、とはね」
「んだよ」
……なんか、おかしいのか?



ウソップも居なくなり、後はいつも通り、金髪とオレだけになった。
せっせと働く丸い後頭部を見ていたら、何だかやっぱり申し訳ないような気分になって、オレは台所へ立った。
「ありがとな」
「へ?」
「料理してくれて」
「ああ……」
「ルフィも喜んでたな」
「たんじょうび、だもんな」
「ああ……」
「1、あなたの誕生日はいつ?2、最高の誕生日だったよ。3、一緒にお風呂にはいろうよ」
「……は?」
やけに淡々とした棒読みのセリフを突然金髪が投げかけてきたので面食らった。しかも選択肢の全てが女言葉なので気持ち悪い。
「どれだよ」
黙々と皿洗いの動作を続けながら金髪が言うので、ちょっとぞっとした。
一体どうしたんだ。故障か?
「おい、1、2、3のどれか選べつってんだろ」
「大丈夫かてめえ」
「選べ」
「……1」
オレはひとまず適当な答えをかえした。
それよりも金髪のヤロウが故障したんじゃねえかって考えに捕らわれていた。
「1……」
金髪は無表情で復唱した。
カリカリカリ、とパソコンぽい音がした。
そして今度は突然せつなそうな表情にかわった。
「誕生日……生まれた日のことか……オレ、パソコンだからそういうのねえんだ」
「あー、そうか……」
そりゃそうか、と思っていたら、また金髪が無表情で停止して
「1、それじゃあ二人でサンジの誕生日を決めよう。2、無いならないでいいよ。3、今日がサンジの誕生日だよ」
「一体なんだってん……」
「選べ」
「……1」
投げやりな気持ちになってとりあえずまた答える。
「それはいつですか?1、サンジだから3月2日。2、ゾロの誕生日と一緒にしよう。3、本日5月5日。4、その他。4番を選択した場合入力の必要があります」
無表情の金髪からカリカリカリカリ音がする。
怖ェ……。
「……1」
抗えないなにかを感じ、また適当に答えた。
「3月2日か……」
金髪は呟くと、少しだけ長い時間カリカリ言ってからにっこり笑った。
「誕生日を決めてくれてありがとう」
金髪は胸に手をあて
「生きている、気がする」
と言った。
何故だかギクリとした。
そっと手を握られた。
金髪がやたら優しい目ェしてこっちを見てる。
危険を察知して逃れようと思ったが、恐ろしいほどの馬鹿力で両手を握り締められて、振りほどけない。
金髪の目が伏せられた。
どんどん顔が近付いてくる。
「ちゅっ」
可愛い音がした。
柔らかい、唇が重なっている。
な……なんだァ?一体全体。



翌日、この恐ろしい出来事の顛末を(キスのことだけはハショッて)ウソップに話したところ
「へー、イベント発生だな」
と言われた。
なんのことだかさっぱり理解出来ない。



06/03/02


パソコンサンジの誕生日、とのリクでした。
諸事情あって3月の(というか未来の)話がかけないので、5月の話にしてしまいました…。(連載中の作中では現在6月下旬くらいのつもりです)
どういう話にしようか悩みながらたきさんと電話していたら、「キスシーンいれてよ」と言うのでそれも織り交ぜてみました。舌が入ってない。ごめんね。(そんな要求はなかった)