Lowtension Lotion Rotation






もっと早くに思いつけばよかった、とゾロは思った。
だがなかなかその可能性には思い当たらなかった。なにしろ、あのコックはやたらとかわいくて細っこい。ちなみにその感慨をうっかり口に出したら
「脳が腐ってるわ」
と、日ごろ魔女のようだと思って近づかないようにしている航海士に心の底からの侮蔑をくらった。
それはさておき、思い立ったら即実行派のゾロは、早速その思いつきを実行に移すことにした。
クルー全員でさんざんに大騒ぎをしたあとの、3月2日の夜更けのことだった。



サンジとゾロが初めてそういう関係になってそういう行為に及ぼうとしたとき、サンジは困ったように目を伏せて言った。
「あんな……オレ、初めてなんだ」
夜目にも分かるほどその白い首筋は赤く染まっていた。
その様子から、その「初めて」の度合いが「男とするのは初めて」とかではなく「セックスするのは初めて」であることを察することが出来た。
ゾロは嬉しかった。思う相手に初めてと言われて嬉しくない男がいるだろうか。
精一杯の意思の力で荒ぐ鼻息を押しとどめて
「オレに任せとけよ」
と頼もしく告げたつもりのゾロをアホなものでも見るような目つきで見遣り、
「おまえ、顔が親父になってるぞ…19とは思えねえ」
腕の中の可愛い恋人は可愛くない口調で答えたのだった。



あれから数ヶ月。
今ではサンジもすっかりあれやこれやそれに馴染み、最初のころは連続2晩は嫌だとか昼間は嫌だとか挿入は嫌だとかゾロの顔が嫌だとか色々ワガママを言っていたサンジも、ゾロの愛情表現に諦観の表情で同意を返してくれるようになっていた。
ゾロはそれが嬉しかった。
嬉しかったが、ある晩、いつも通りのどんちゃん騒ぎのさなかに、その喧騒やサンジの楽しそうな表情とはあまり関係なく、ふと思いついた。
あれ、ひょっとしてこのコックはいまだに童貞のままってことになんじゃないか、と。
処女はゾロが頂いたが、あの可愛いアレはまだどこにもお邪魔したことのないアレであるわけなのだ。
それは気の毒だ、と素直に思った。
可愛くてアホくてたまらないコックではあるが、ああ見えて19歳の普通の男。オトナになりたい盛りではないだろうか。
もし、何かで知り合った相手に性経験の有無を尋ねられたら、あいつはなんて答えればいいんだ。微妙じゃねえか。
仲間内で猥談にでもなって、挿入についてみんなが会話しだしたら、孤独になっちまうんじゃねえか。
かわいそうすぎる。
うし、ここはひとつオレが男を見せてやっか。
ゾロはそう心に誓い、翌日たまたま寄港した島で下準備のための買い物に出た。そして己のそういった行動を間近に迫ったその期日に結びつけ「誕生日プレゼントのようなものだ」と心の中で位置づけた。
したがって決行が今日のこの良き日の夜更けとなった。



「何のつもりだ……」
「あ?だから、言ったまんまだろ」
「言ったまんまって」
「今日はてめえがオレにつっこめって話だ」
「………」
真夜中の格納庫。
男らしく宣言するゾロに、サンジは明らかにヒき気味の視線を投げて寄越した。失礼な話である。
「てめ…ホモだホモだとは思っちゃいたが…やっぱホモだったんだな…正直どんびきだぜ」
「アア?!おれァホモじゃねえ、男はてめえだけだって言っただろうが」
「どうだか……。んじゃなんでいきなりそんな、突っ込まれたいなんて思ったわけ。突っ込まれたい願望があったとしか思えねえ」
「ふざけんな!誰が好き好んでケツ掘られたがるんだよ、それともてめえは掘られた時嬉しかったのかよ」
「……嫌がってんのが分かってやってたんだと今知ったよ」
二人の間にわりと冷たい風が吹いた。
サンジの視線はその空気よりさらに冷たい。
まずい、これは弁明しなくてはいかん場面だ、とゾロは悟った。
そこでかくかくしかじかだと説明した。
つまり、サンジの童貞ぶりを不憫に思って、という話だ。
その話を聞いてから、サンジの態度はころっと変わった。
「ゾロ……そこまでオレのことを大事に思ってくれてたなんて」
感動に目を潤ませるサンジにゾロは胸をはって答えた。
「おう。てめえがどんなへたくそだってオレは気にしねえ!どんと突っ込め!」
さすがのサンジもそこまで言われると微妙な気持ちになった。
だがその微妙な気持ちになっているサンジをよそに、ゾロはいそいそとファンシーなプリント柄の紙袋の中から、あやしげな小瓶を取り出した。
薄桃色の、とろみのある液体が入っている。
ビンの蓋をあけると、いかにも人工的な甘ったるい匂いが漂った。
いわゆる、こういうときのためのローションだった。
「今日のために、ちゃんと買ってきておいた」
自慢げにゾロが言った。  
「え……普段オレとするとき、こんなもん使わねえじゃん、せいぜいキッチンの油使うくらいで」
「なんか痛そうだからだ」
「……どこからつっこんでいいのか分からねェよ大剣豪」
「じゃあオマエ、オレのケツに指つっこんで、こう、ヨくなるまで探ってほぐしてくれたりすんのかよ」
ゾロは卑猥な指の動きのジェスチャーをしながら抗議する。
「や、面倒くせェし、おまけにキモいし」
「……言われると思っててもいざ言われるとこたえる台詞だな」
「そりゃすまねえ。まあいいや……これつかって……てめえのケツにつっこみゃいいわけだな」
「おう。来い」
にっかりと、ゾロは笑った。
歯並びの良い口許に、おぼえず、胸が高鳴った。
思わず
(抱いてっ)
とか思ってしまったアヒルであったが、今日は自分が抱く立場だったな、とかろうじて思い出した。
小瓶の中身を早速、手のひらにとった。
まだひんやりとしていて、そして、随分ぬるぬるぬとぬとしていた。こりゃ具合良さそうだ、とサンジは唾を飲み込んだ。
だが、ローションを手にとったからといって、すぐさま後ろに指を突っ込んで良いものか分からず、分からずというか、それじゃ前戯無しってことかよそりゃまずいよな、と思い直し、ひとまずゾロのムキムキした下腹部あたりに曖昧な感じで手のひらにすくった液体を塗り広げてみた。何しろ初めての経験である。
「……っ、冷てェな」
一瞬息を飲んでゾロが眉をひそめる。
「あ、悪ィ」
一応謝りつつ、腿のあたりにもぬりぬりと液体を広める。続いて指先を移動させて乳首にも塗ってみた。
「うっ」
ゾロの険しい顔がますます険しくなる。
きゅっと肩をすくめたその様子から、ひょっとして感じてるんじゃないかと思ったら、筋肉ムキムキのこのむさくるしい男が可愛く見えてきた。
(そうかー、こんなピクピク動かせそうな胸筋してる奴でも乳首は感じたりするんだなー)
そう思いながら、サンジはおもむろにゾロの股間に手を伸ばし、肝心の場所をきゅっと握った。
「おあっ」
ゾロがびくりとして、ついでにゾロの肝心の場所もびくりとする。
それを案外冷静に
(おー、うまくいった)
などと思いつつ、さらに煽るために握りこんだ手を上下させる。
ぬるぬると手がすべり、いつもとはまったく違う握り心地だった。
と、言うことは、いつもとまったく違う握られ心地をこの男は味わっているわけか、と分析しながら視線をあげた。
ゾロは目を閉じて、相変わらず険しい顔をしている。
だがおそらく、きもち良いのだろう。
ふっ、ふっ、と短い呼吸を繰り返している。
その瞼がゆっくりとあがり、鳶色の目が、サンジを捉えた。
「……っ」
目が合うとサンジの大好きな、歯並びの良い、大きな口で、ゾロはにやりと笑った。
「おい、すげぇいいぞ、これ」
低い声に、背筋がぞくぞくと痺れた。
「あとでてめえにもやってやるからな」
言われただけで、腰の力が抜け、手が震えた。
「……ん……、ゾロ……」
向かい合うような姿勢でサンジはゾロに凭れた。
背中に太い腕がまわされて抱き寄せられる。
ぴったりと合わさったゾロの身体はローションで濡れていて、ぬるぬるとサンジの身体もその上で滑る。
(あー…気持ちいい)
ぎゅっぎゅっとその身体の上に腹部を押し付けるようにしながらサンジは目を細める。
全身が徐々に熱くなり、押し付けるようにして滑らせている部分が硬く、濡れてきているのを感じた。それは自分ばかりのことでなく、ゾロも同じだった。
背中にまわされているのとは反対の腕が腰にまわされ、腿の付け根あたりをぬめる手のひらで撫ぜられる。
ひくっ、と反射で足が上がった。
折さえあれば求められ、すっかり慣らされた場所が刺激を求めて疼いた。
太い、武骨な指がその場所に触れることを期待して鼻から甘い声がぬけたが、なかなかゾロはそうしてくれない。
焦れて、不満げに腰を揺らすが、それでもゾロは次の行動に移ってくれない。
(あ、そっか)
膝頭がひくひく震え出した。
(今日はオレが突っ込む側なんだっけ)
いつもゾロはやたらとサンジの中に入りたがるが、それはどんな感覚なのだろう。
未知の快楽に興味がわかないでもない。
どうにか意思の力で体勢をたてなおすと、サンジは再度小瓶に手を伸ばし、薄桃色の液体をすくった。そしてそろそろとゾロの腰に手をまわす。固い。ゾロの尻はやたらと固い。もりあがった双丘の間あたりに手を這わせてみるが、とにかくムキムキしていた。
(いや……ひいてる場合じゃねえだろオレ。とにかくケツの穴に指突っ込んで慣らして……)
そう思いながらジリジリ指先を這わせていくが、どうしてもそれ以上目的の場所へ近寄れない。怖い。
しばらくそうやって曖昧な動きで尻を撫ぜていたら、ゾロにぐっと腕を掴まれた。
「おい、やる気あんのかてめえ」
「あ、あるに決まってんだろ」
力強く宣言したが、わりと嘘だった。
「おら、こうすんだよ」
つぷっ、といとも簡単にローションのぬめりを使ってゾロの手がサンジの内部に入り込んだ。まるで当たり前のような容易さだった。
「ん、ふぁ……っ」
サンジは背を反らせた。
ゾロの指はさらに奥を探り、かき回すようにゆるく円を描く。
「てめえも、やってみろ」
低い声でささやかれる。
その声に勇気をふりしぼり、サンジの手はそろそろとゾロの足の間へと伸びてゆき……
(やべー…夢オチとかならねえかな……頼むから)
手を止めて悩んでみたりするが事態は膠着状態だ。
ゾロが仰向けになってサンジを待っている。
(うおー、マジやべえ)
サンジは額から流れる汗をぬぐった。
もうここはひとつ穏便に(?)逃げ出そうかと思ったがゾロにまたも腰を抱かれ、引き寄せられてしまう。
「てめえ、おら、ちゃんとしろっつってんだろ」
「あっ!」
おしおきだ、とばかりに乳首を摘まれた。そこをそうされるとサンジはもう身をよじらせるしかなくなる。いやいやをするように頭を振り、精一杯腕を突っ張ってゾロから逃れようとする。
「あっ、あ、ゾロっ、あ、ん、んっ、…こ、どけ……てっ、やッ」
ぎゅっと瞑った目尻に涙がにじみ、日頃白い頬も首筋も、夜目に分かるほど紅潮している。
ゾロはサンジの腰を抱いていた手からそっと力を抜き、また先刻のように後ろに指を入れた。
二箇所同時の刺激に、身体の間にはさまれた欲望もローションのせいばかりでなくぬるぬると濡れて今にもはじけそうに思えた。
「あっ、あっ」
もがくように足摺りしてゾロの上で腰を揺らす。
(も……入れて欲しい)
そのことばかりが思考を占めていた。
指でほぐされるだけで足りるわけがなかった。
だが今は入れなくてはいけない立場なのは自分だった。段々、ゾロに意地悪をされているような気分になってきた。
しかし、その気持ちを素直に表現したところで、純粋にサンジの童貞を心配してるゾロに伝わるかどうか。
より効果的なおねだりの台詞回しをサンジは考えた。
色々考えた結果、
「もう……意地悪しないでェ……入れて……っ」
ためしにエロ漫画風に発言してみた。
(おっ)
腹の下に挟まっている、ゾロの持ち物がグッと硬度を増した。
どうやら効果覿面だった。
「どっちが上でも下でも……関係ねえだろ……オレは相手がてめえなら」
ちょっとせつないムードの台詞も混ぜてみた。
ゾロが真顔になっている。
後一押しだ、とサンジは思った。
「てめえのじゃねえと……イけねえんだよ……」
刺激的なことも言ってみた。
ぐわっとゾロの気分が盛り上がるのを、気配で感じ取った。
面白くなってきた。
誘いのテクがあがったような気がした。
「お……」
さすがに、これは言っちゃなんねえだろ、と思いつつもその効果のほどが気になって、口にしてみずにいられなかった。
「おっきいの、頂戴」



気がついたら上下が入れ替わって、めちゃくちゃに抱かれていた。



散々イかされて、しかも何度も中に出されてしまい、ぐちゃぐちゃの状態で夜が明けた。
(やべー。すげー良かった)
高いびきで寝こける男を眺めながら、呆然とサンジは思った。
クセになりそうだった。
奥まで何度も力ずくでねじ込むように突かれ、意識が飛びそうになった。
腹の奥が痛むほどイかされた。



童貞は保持しているが、新しいスキルがあがって大人になった気がするサンジだった。



06/03/23


サン誕リクエスト企画。サンゾロ未遂とローションプレイのご依頼でした。遅くなってすみませんでした、しかもこんなオチ・・・・。