Pitch-dark
(後編)
こんなんで良いんだろうか、と湯につかり張り付くサンジのシャツのボタンを外しながら、ゾロは思った。
最初のデートで深夜の自宅だし、ムードもへったくれもなく、電気が消えるなり風呂場でヤろうとしてる。しかも電気が消えたのは気分の高揚とは関係なく、単に事故だ。
(男同士だとこんなもんなのか……?)
ゾロはこれまで男同士のおつきあいの経験がなかったので、よく分からなかった。
暗闇の中で濡れたシャツの表面を撫でると、胸のあたりに小さな突起があった。
布地の上からでも分かるほど、ぷっくりと膨らんでいるのが面白くて何度も指を行き来させた。
サンジが「あっ」と声をあげる。気持ちイイのだろうか。
「おい、イイのか?ここ」
「分かんね……はぁ、でも、変……んん……」
ふうん、と言いながら、ゾロは今度は口でそこを吸う。
濡れたシャツからは、湯の味しかしない。
シャツの裾の下、何も身に付けていない腿からゆっくりと手のひらを這わせると、サンジの身体が期待に、ひくり、と震えた。ゾロの額辺りへ押し付けられている瞼が、薄く、開かれ、伏せられて、瞬きするのを感じた。
「……つッ!」
びくッ、と腕の中の痩身が跳ねた。
「急に、握んな、アホッ……」
「急じゃねえだろ、別に」
股間へ伸ばした手はそのままに、ゾロはサンジのシャツの胸をしつこく舐る。
向かい合わせに跨るようにゾロの上へ座らされたサンジは、ひたすらゾロにしがみついて小刻みに震えている。
その腰を引き寄せて、わざと自分の股間がサンジの尻の間にあたるようにしてやった。
固くなったゾロの性器を感じて、サンジが薄く目を開く。目を開いた、というのは、額に触れる睫毛の動きで分かった。
まっくらだった。
何も見えないから、よりはっきりとした反応が欲しくて、サンジのモノを、先端ばかりを重点的に刺激した。
「んッ……んん……ッ」
次第に、喘ぐというよりは高く、泣き声のような声ばかりが浴室へ響くようになった。
「あッ……ゾ……」
「……なんだ」
はあ、とゾロも興奮に息を乱しながら答えた。
「こ、このまま……イッても……いいの、か、よ」
「駄目だな」
「あッ」
背中に腕をまわされて、抱き直された。
ますます、ゾロの股間の昂ぶりが強く押し付けられるような位置へ誘導され、腰を落とされる。
「折角だから本当はイれたいところだが」
ゾロの低い声はちょっとワイルドな笑いを含んでいた。
かっこいい!と思いながらも
(え……っ、オレ、いきなりホられる側決定なのか。い、痛くねえかな、処女なんだけど)
カラダ目当てのくせに処女だった為、一抹の不安が胸を過ぎらなくもないサンジなのだった。
「まあ、最初からイれんのは無理だろうから、今日は」
ぎゅっ、とゾロはサンジに自分のモノを握らせた。
「一緒にイくぞ」
(で、でかい……)
どくどくと、手の中のモノは脈打っていた。
サンジはゆっくりとそれを扱きはじめた。
はやく、一緒にイきたかった。
一生懸命揉んだり擦ったり扱いたりしたのに、ゾロはなかなかイッてくれなかった。
サンジがゾロへ奉仕しだしてからというもの、ゾロは乳首ばっかり弄っている。しかもシャツの上から。いくらなんでも、乳首じゃイけない。
あまりにもマニアックな刺激に、サンジは焦れてどうにかなりそうだった。
「ん……ん……ッ」
握りこんだゾロの股間へ、自分の身体の固くなった部分を押し付けてアピールしてみた。
ゾロが笑った。
「イきてえのかよ」
(ったりめえだろ!)
サンジは内心叫ぶ寸前だった。
(最初っから焦らしやがって……どこまでオヤジ並みなんだ!この上級者め!)
後半は若干まんざらでもなさそうな心の叫びになった。
「あとちっとだ、頑張れよ」
そう言ってゾロはぴったりと身体を密着させ、サンジのゾコと自分のソコに、まとめて手を添えた。
「おら、動け」
言いながら、ゾロはゆっくり腰を揺すってくる。
湯船の中で、大きく水面が揺れた。
「ふぁ……」
じわりと腹の奥のほうから、熱っぽい感覚が湧いてきた。
「あ、ゾ……」
「まだ、あとちょっと待て」
「あッ、んあ、は、早くしろよッ……」
ぐりぐりとゾロのペニスの先端が、サンジの先っぽのところを突付く。ゾロの腰の動きと一緒にサンジの体も揺さぶられる。腿にぎゅっと力をいれて、先にイッてしまわないようにサンジは堪えた。
(こんにゃろ……)
震えてしまう手を伸ばして、やっぱいくらゾロでもここは感じやすいだろう、と思う亀頭の部分や裏スジを懸命に弄ってやった。
(とっととイかしてやる……ッ)
「く……」
ゾロの眉間にシワがより、お、そろそろか、とサンジが期待に胸を膨らませたその時。
間抜けなことに、玄関のチャイムが鳴った。
「ちょっとー!ゾロ、居るんでしょ、足音したわよ、開けなさいよ!」
どんどんどん、とドアが叩かれ、外から若い女の声がする。
ちゃぷ、と水音をさせ、二人は顔を見合わせた。
「ゾロー!この自堕落男ッ!寝てんじゃないわよ!開けろーッ!!」
物凄いヒステリックな叫びだった。
どう考えても放ってはおけなかった。
「何だ」
素っ裸、しかもずぶ濡れのまま、ゾロは玄関の扉越しに声をかけた。
「何だじゃないわよ、なによ、こんな時間から電気消しちゃって!寝過ぎよアンタ!とにかく、ドア開けなさいよ!」
こそっと、タオルだけ体に巻いてゾロの背後に付き添ったサンジは、アパートの通路に面した曇りガラスから漏れてくる明かりで、ゾロの逞しい体が照らされているのを眺めた。
やっぱりかっこよかった。
はやく抱いて!とか思った。
「……今日ァ、駄目だ。帰れよ。どうせまたルフィと喧嘩でもしやがったんだろ」
ゾロが玄関の向こうの女に話し掛ける。
キィッ、と外にいる女が怒りを強くしたのを感じた。
「何よォ!ちょっとくらい話聞いてくれたっていいでしょ!このむっつりスケベ!女たらしの変態!おまわりさん、ここに住んでるひと、痴漢です!痴漢です!強姦魔です!おかされるー!」
「アホかッ!」
「うるさいわねッ!黙って欲しかったらドア開けなさいよ!あたしだって散々あんたのノロケとかグチとか聞いてやったでしょ!たまにはあたしの話も聞けーッ」
「たまにじゃねえだろ!大抵てめえが一人でくっちゃべってんじゃねえか!サンジのことだっててめえが無理矢理聞きたが……ッ」
はっ、とゾロは口をつぐんだ。
が、もう既に遅かった。
「ゾ……ゾロ……」
サンジはやけにキラキラした瞳でゾロを見上げていた。
「お、オレのこと……なんか話したのかよ……?」
「いや、その……」
(か……かわいい、とかか?!愛してるとかか?!)
鼻息荒くサンジは思った。
自分はカラダ目当てのくせに、相手の愛は信じきっていた。
「ちょっと、ごめん」
サンジはゾロを押しのけて、こっそり玄関のドアについている小さな覗き穴から廊下を覗いた。ゾロがサンジへの愛を語った(憶測)という女性を、一目見てみたかったのだ。
アパートの廊下の明かりの下に、オレンジ色の髪をした、細身の女性が立っていた。かなり美人だった。
「…………。」
いきなりサンジは不機嫌になって、むっつりとゾロと場所を入れ替わった。
(やべえ……)
ゾロは本能的に危険を察知した。
「おい、ナミ、今日は帰れ」
ナミを追い返す手立ては正直な告白しかなかった。
「今、サンジが来てんだよ!」
「え……あ、あらヤダ、ごめんなさい」
効果覿面だった。
急にドアの向こうの声はうろたえ、しおらしくなった。
ゾロはほっとした。
これでナミはおっぱらえる。
後日根掘り葉掘り聞きたがるに決まっているが、とりあえず今は目先のサンジの機嫌取りが大事だ。
「ごめんねー邪魔しちゃって、ええと、『サンジ』君、そこで聞いてる?お気になさらず、ちゃんと続きしてねー!」
とんでもない捨て台詞を残し、煩い女はアパートの階下へ帰っていった。
ちなみにナミはゾロの部屋の真下に住んでいる。
今ごろ絶対聞き耳をたてている。
恐ろしい女だ。
「どういう関係だよ、今のひとと」
サンジはバスタオルをすっぽりかぶり、玄関のあがりぐちに体育座りして、いじけていた。
「どうって、どうもねえよ、下の部屋に住んでる女だよ」
「ふうん……」
サンジは不機嫌なままだ。ナミの台詞からも、二人が何ともないということは判断出来ただろうに、まだ誤解しているのだろうか。そんなわけはないだろう。
じゃあなんだ、ヤキモチかよ、とゾロは思った。
男のくせにヤキモチ、と思わなくもなかったが、サンジが自分のことでそんなふうにやきもきしてくれてるのだと思うと、悪い気はしなかった。むしろ非常にいい気分だった。
何しろゾロはサンジに惚れているのだ。
「…………」
むう、とふくれながらサンジは思っていた。
ちきしょ、あんな可愛いコと仲良しかよゾロのヤロウ、許せねえ、と。
カラダ目当てで男とつきあうことにしたくせに、サンジは女好きだった。
「おら」
しゃがみこんだままの背中を、ぽん、とゾロは叩く。
「続き、すっぞ」
そして風呂場へ向かおうとした。
何もわざわざ風呂場に戻らなくても良さそうなものだが、軽く行動が混乱していた。股間に血が集まったままの男なんて、冷静そうな顔していても案外判断力の無いものである。
機嫌良く自分の横を通り過ぎようとした男の足首を、サンジががしりと掴んだ。
「おあッ」
全裸のまま、ゾロが躓きそうになる。
「んだよ、てめえ」
「なあ、ゾロ……」
サンジは立ち上がり、ぎゅっとゾロへ抱きついた。
玄関の上がり口へ足をかけてたゾロが、またタタキへ押し戻される。
がたん、とドアに背が付いた。
裸足のままの足の下に、靴箱に入れず出しっぱなしのスニーカーやらサンダルやらが踏まれて、ぐしゃぐしゃになる。
「オレ、もう我慢できねえよ……」
熱い、サンジの身体が押し付けられた。
「このまま、しようぜ、どうせ、どこ行ってもまっくらだ」
本当はちょっとのぼせたので風呂には帰りたくなかったサンジだった。
俄然萎えかけていたゾロの股間ががちがちに復活したので、おお、オレってすげえな、とサンジは思った。
「てめ……覚悟しろ」
野獣のような勢いで、ゾロはべろべろサンジの首とか耳とかを舐めまわした。
「あッちゅう間にイかせてやっからな」
「あ……んあ」
ゾロの指が密着した二人の股の間に絡められたかと思うと、あとは本当に凄いことになった。
もともと身体は熱くなったままだった。
執拗且つ的確なゾロの動きに、然程の時間も必要とせず、上り詰めてゆく。
がくがくと折れそうになる足を必死で踏ん張りながら、サンジはゾロの首にしがみつき、ギリギリで立ったまま、快楽が頂点になるのを感じた。
「あ、ああ、あ、ちょっ、も、駄目、も……」
二人分の先走りでぬめる手の動きを速め、よし、これなら同時くらいか?と考えてゾロは
「いいぜ……イけよ」
と低い声で促がした。
折角の決め台詞だったが、いいぜ、と言い終わる前にサンジががくがくと震えながら射精してしまったので、今ひとつしまらなかった。
「あ……はぁ……んぁ……」
崩れそうになるサンジを支えながら、サンジの精液の滴る手の中へ、ゾロもたっぷりと濁った体液を放出した。
驚くほど気持ちが良く、暫くは何も考えられずに、ただどうにか玄関口に立ったままでいるだけで精一杯だった。
ぽたぽたと、手許から、精液が零れる。
二人分の荒い呼吸が暗闇のなか、響いていた。
「ところでな……」
放心状態のサンジへ、先に呼吸の整ったゾロが話し掛けた。
「なんで、外の電気はついてんだ?」
それを聞いて、ぼんやりしていたサンジが、あ、と言って正気づいた。
「あ!ほんとだ」
あー、ここじゃん、と言いながら、サンジは玄関の扉の真上にあるブレーカーを見つけ、落ちていたツマミの一つを上へあげた。
かち、と音がして、辺りは一瞬にして元通りの明るい部屋になった。
「いやあ……そういや、オレ、オーブン点けようとしたからなあ」
眩しさに目を眇めながら、気がつけば、マッパの男が狭い玄関に二人。
この上もなく、どうしようもない光景だった。
その上、明るい中で惨状もまた露わになっていた。
「あ!靴!」
二人の立っていた足許にあった靴は、すっかりねばついた精液で汚れてしまっていた。
玄関の扉にも少しだけ飛んでいた。
あとでコンビニに持っていかなくてはならないケータイ料金の請求書なんかも玄関に投げたままになっていたので被害を受けていた。
二人分なので、単純に計算して、通常の二倍の被害が出たわけか。
「アホだなー、オレはちゃんと自分の靴よけといたぜー」
得意げにサンジが言う。
「いつだよ」
「さっき。ヤりながら。あぶねえなって思ってさー、オレ今日は革靴はいてきたから、つま先で触った感じでどれが自分の靴か分かったもん」
「…………」
あまりにもちゃっかり、あまりにもマイペースな恋人に、ゾロは言葉もないのだった。
それでもまあ、二人はそれからも仲良く交際を続け、ちょっとずつ愛を育んでいくのだ。
end
04/11/19
うちのサンジって・・・
ええと・・・
多分ゾロに一目ぼれだったんだと思います。
ええと・・・
そのうちこれは真実の愛だとか言い出すと思います。