bubble with a kiss
風船ガムオマケ
学校帰り。
サンジはゾロとウソップ、そしてクラスの友人数名と、河原に座って話し込んでいた。ちなみにゾロは全然誘ってない。勝手についてきた。
サンジはゾロを嫌いなので、本当は
「ついて来んなホモ!」
と言いたいところなのだが、ウソップが一緒なのでそうは言えない。ウソップとゾロは不思議なことに仲が良い。
だからせいぜい
(近寄んな、ホモ)
と心の中で罵るだけに止めている。
あと、座る位置は一番ゾロから離れた端っこにした。
一週間ほど前、サンジはゾロに唇を奪われた。
前々からホモなんじゃないかと疑っていた相手ではあったが、それ以来ホモに確定した。恐ろしいことだ。
そんなふうにゾロのホモに悩まされるサンジの気持ちを無視して、クラスメイト達はノンキな世間話に花を咲かせていた。
「おい、3年のエースっていんだろ、あの、そばかすの」
「おー、いたな」
「あいつ、新任の家庭科の先生とさあ、ちゅ、チュウ、してたってよ」
「えー!」
「すっげえ」
どっとその場が盛り上がる。
チュウ、という言葉にサンジの心臓が過剰に反応して跳ね上がった。
無理矢理顎を掴まれた時の感覚や、やけに真剣だったゾロの顔とかが記憶に蘇る。
「そ、そんなん、全然大したことねえよ」
何でオレがドキドキしてんだよ!と慌ててサンジは余裕ぶってみた。一体何に対する強がりなのか自分でも分からなかった。
「騒ぎやがって、てめえら、ガキだな、ガキ」
ふん、と鼻息を荒くしたサンジに、まわりの友人達が、おおお、と変な感嘆の声をあげる。
(そうだ、オレはオトナだし、あんなん全然大したことじゃねえ)
この間、走ってゾロから逃げてしまったことを、サンジはちょっと恥だと思っていた。
オレはキスぐらいでびびったりしねえぞ、とゾロに直接言ってやりたいが、あの時の話を蒸し返すのが非常にイヤなので、結局何も言えなくて、悔しくてたまらない。
「おい、あのさあ」
ウソップが言った。
「サンジおまえ、したこと、あんの?」
「…………」
サンジが息を詰める。
他のメンツも息を潜める。
「今時のコ」と言われる高校一年生にも、それはそれなりに興味津々の話題だった。
ウソップは勇者だ。
それを口にするのには相当の勇気がいっただろう。だってそんな質問の仕方では、まるで自分は経験がないと告白するのと同じだ。なんて勇者だ。なんて正直な勇者だ。サンジはウソップのそんなところを密かに尊敬している。まあナミと同じ委員会でやたら仲良くしてるところには密かに憤慨している。
「ま、ま、まあ、な」
口から心臓が出そうなくらいドキドキしながらも、サンジは答えた。ウソではなかった。断固としてウソではなかった。
何しろ、今ここに一緒に座ってる、あのウザいホモ男とついこないだ唇と唇をくっつけて、あまつさえ舌をべろべろしちゃったのだから。
おおお……と、また微妙な感嘆の声があがる。
「オレの友達だって、中学のときしたことあるんだぜ!」
何故か自分のことには触れずに強がる者あり。
皆本当は大した経験などないくせに、大人ぶってみたい年頃なのだ。
それはサンジも同じだ。
だが、こないだゾロとしたのが唯一のチュウ経験なので、あまり深くは突っ込まれたくない。
頼む、このままその話題は流れてくれ、そしてこのままオレをちょっと男前だと思っててくれ。
そう心から念じたが、キス経験者(1回だけ)のサンジより、更に男前な勇者ウソップが、正直な感慨を述べてきた。
「なあ、どんな感じだった?今も付き合ってんのかよ?」
(やべー!)
絶叫したい気分だった。
(やべー!)
でも絶叫しても何も解決しなさそうだったので堪えた。
「つ、付き合うとか、そんなんじゃねえよ」
ゾロがこっちを見てるような気がする。
でも怖くて確認出来ない。
オマエとのことじゃねえ!と怒鳴りつけてやりたいが、そんなこと他の連中の前でカミングアウトしてる場合じゃないし、そもそも、本当にゾロとのことを話しているのだからどうしようもない。
「そ、そ、そんなの全然大したことじゃねえからな、か、かわいいと思ってた子だったけど、ええと」
オマエのことじゃねえ!と、とにかくゾロに主張したい。
サンジはあたふたしながら、何でもねえよ、大したことねえよ、と繰り返した。
「柔らかかったか〜?」
調子にのって誰かが野次を飛ばす。
むに、と触れた、あの時のゾロの唇を思い出した。
どうだっただろう。
柔らかかっただろうか。
熱くて、濡れていて、サンジの口内をぬるりと舐めた。
「や……」
頬がどんどん熱くなっていくのが分かる。
「知らねえよ、忘れた!」
「覚えてねえのかよ」
「知らねえ!大したことじゃねえっつったろ!」
首を傾げた友人に、いちーち覚えてねえんだよ、とサンジは答えた。
顔が火照っている。そのことに自分でムカつく。
何故かそっぽを向いて不機嫌になってしまったサンジに、友人達は
「なんだよ」
と口を尖らせ、
「ゾロは?あんの?ねえの?」
この数名の中、一番経験ありげな面構えの男に話題の続きをふった。
何気なく話をふったふうを装いながらも、そこにはかなり本気の興味が含まれている。
何と言うかゾロは「こいつは経験者なんじゃないか?」という疑惑を抱かせるに足る男だ。初々しさとか全く無い。自分達の良く知らないエロいワザとか知ってそうだ。「人妻調教」とかいうタイトルのエロビデオを見てもびびらなそうだ。港、港に女が居そうだ。いっそ子供が3人居るとか言われても信じそうだ。
皆が、彼が何と答えるものやら、待っている。
(やッべー!!)
サンジは最早絶叫寸前だった。
「あー……」
ゾロがニヤリ、としたのが、見なくても分かるような気がした。
その場に居る全員が、ごくり、と固唾を飲む。
ある意味サンジも唾を飲む。
緊張で発狂しそうだ。
今すぐどっかそのへんの神社でもお寺でも教会でもいいから駆け込んで、「ゾロが余計なこと言いませんように!」とお願いしまくりたい。
「オレは……」
口を開きかけたゾロと、真っ赤になって歯を食いしばってるサンジの、目が合った。
(こ、こいつ……!)
くい、と片方の眉だけをあげて、ゾロがニヤリとする。
「ゾ……ッ、こんにゃろ……ッ……!」
殆ど腰を浮かせかけ、半ばゾロに飛び掛りかけて手を伸ばしたままの、サンジの耳に、続く言葉が流れ込んでくる。
「オレは、まあ、好きな奴としか、しねえからな」
サンジは、ゾロに向かって手を伸ばしたまま、唖然として中腰で立ち尽くす。
「……そうだよな〜」
急に、和やかな空気が帰ってきた。
なんかあの、凶悪面して、女とか両腕にぶらさげてそうな高校生離れした風貌の、多分チンコがでかそうな、ロロノア・ゾロでさえも、そう言うのだから。
皆が皆、ホッとした顔をして、実は何組のあのコが可愛い、最近良く話す、とか、身の丈にあった会話に流れていったのであった。
皆は騙されている、とサンジは思った。
ゾロは「したことがない」とは一言も言っていないのだ。
現にサンジはされたのだ。
口をぱくぱくさせながら
「な、おまッ……な……な……」
顔を耳まで紅潮させたサンジに、ゾロはまたニヤリと笑んで見せた。とても男前だった。
そして結局どうなったのかというと、好きな奴としかしない、と言ったゾロの言葉にほだされて、サンジはころりと落ちたらしい。
とっぺんぱらりのぷう。
end
04/11/13
ころっと落ちるサンジ、というご要望に添えましたでしょうか?うむむむ・・・。