『耳掃除』




「おい、動くなよ。鼓膜破れても知らねーぞ?」
「…るせぇ」
低く唸るように答え、むず痒い脇腹を必死に抑えた。
耳かきで遠慮がちに耳の穴をカリカリされてイラついてくる。喚きたいのを堪えるため、立てた爪が畳に食い込んだ。
そもそも何でこんな事になったのか。

***

「なぁ、耳掃除してやろうか?」
アパートに帰ると、金髪が耳かき棒を持って待っていた。
やろうか?と聞きながら、すでにやる気満々で待ち構えてる金髪に嫌な予感がした。
「いい。遠慮する」
「何だよ。遠慮すんな。今日さ、カヤ2号ちゃんに耳かきの仕方教えてもらったんだ。人間って他人に耳掃除されるの好きなんだって?ウソップがいつも凄く気持ち良さそうにしてるって聞いたら、オレもやっぱさ…な?」
正座した金髪が自分の太ももをパンパン叩く。
「オレはいい」
「何でだよ?」
金髪が不満そうに口を尖らせた。
「どうしても、だ」
言い切ると、金髪が無言で人の顔を覗き込んできた。
「…何だよ?」
「もしかして、おれに耳掃除されんの恐いのか?」
「ああ?…恐いわけねーだろ」
「じゃあ、もしかして。今まで彼女にしてもらった事ないとか?」
「悪いか?」
「あー、そうか、分かったぞ。…最初は彼女にしてもらった方がいいもんな。そうか、そうか。お初は彼女にしてもらうって決めてんのか。案外ロマンチストなのな?」
ビキリと額に青筋が浮いた。
「そんなアホな事、決めてるわけねーだろ!」
「ふーん。じゃあ、いいよな?」
金髪がしてやったりと言う顔で太ももをもう一度叩いた。
「逃げるなよ?」

***

(だるまさんがころんだ!だるまさんがころんだ!だるまさんがころんだ!だるまさんが…)
念仏のように頭の中で唱えながら、この拷問が一秒でも早く終るように願った。
コリコリと小刻みに掻かれる度、ゾワゾワと鳥肌が立つ。
少しぐらい血が出ても良いから、ガリッとやって、さっさと終らせて欲しい。

「なぁ、もうちょっとリラックス出来ねーの?」
「無理」
短く答える。油断していると変なうめき声が出そうだ。
「気持ちよくない?」
「よくない」
「なんだよ。じゃあ、痒いとこねーの?」
痒いところはないが、頭の後ろの辺と脇腹と尾てい骨の辺がムズムズする。
だがそれは、耳かきをされてるせいだ。
「もしかして…くすぐったいのか?」
「……」
「変わってるな〜」
「ああ?」
「あ、動くなって!」
「さっさと終らせろ!おれは暇じゃねーんだよ!」
「へいへい」
金髪は適当に返事をして、相変わらず同じ調子で耳かきを動かす。
仕方なく、黙って耐えた。

しばらくして、ようやく金髪の手が頭から離れた。

やっと終わりかっ!と起き上がろうとしたら、あろう事か金髪が耳にフッと息を吹き込んだ。
そういえば、耳かきの仕上げはそんな風だったと思ったがもう遅い。
「ぅあ!!」
変な声が出た。
「…てめぇ…!!何しやがる!!」
耳を押さえて飛び退った。
金髪はビックリした顔で固まっていた。ムカつく事に、微妙に笑顔だ。
「お前…」
何か言いかけた金髪を無視し、財布を掴んだ。
「バイト!」
一言告げて、部屋を出た。

後ろで金髪の笑い声を聞きながら、2度と耳掃除させるものかと固く誓った。




<おしまい>


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