「てめェらなにひとの留守中にあがりこんでやがる」
金髪から受け取った湯呑みを手に、堂々とくつろぐ3人を睨みつけると
「だってサンジがはいれって言うから」
とエースのヤロウが何食わぬ顔で答えた。
なんでこいつの名前まで知ってんだと思ったが、多分本人に尋ねたのだろう。
「てめえも勝手にオレの留守中に、部屋に他人あげてんじゃねえよ」
「だって知り合いだって言うから」
「そーだ、知り合いだ」
「知り合いだろー」
「ゾロ、サンジとケンカすんなよー」
「泣かすなよー」
調子にのって口々にエースとルフィが言う。
昔っからそうだが、この兄弟は煩い。
二人が騒ぎ立てるなか、一人だけいいとししたオッサンのシャンクスは黙ってる。黙ってちょっと笑顔でこっち見てるが、普段はオッサンのくせしてこいつが一番手におえねえのに、何だこの大人しさは。いっそ不気味だ。
オレはシャンクスに警戒しながら卓袱台の席についた。
普段オレが座るテレビのよく見える席には勝手にエースが座ってやがるから、部屋の入り口に近い席に座るが、座布団までエースに使われてるのがまたムカつく。エースの隣り、窓側の席にルフィが座っていて、そのすぐヨコに並んでシャンクスが座っている。昔からルフィはオヤジのシャンクスにべったりだ。
「お、すげえ仏頂面だな」
エースがニヤつきながら言う。
「うっせ……」
そっぽ向いて鞄をそのへんに投げ出すと、金髪が目の前にオレの分の茶を置いてくれた。
「へー、かいがいしいじゃん」
やけに意味ありげにエースが視線を送ってくる。
何なんだ、一体。
「言っとくが、こいつはパソコンだぞ」
部屋に居着いて接客までこなす金髪を、何と思われたものか分からないので、念のためそう教えてやった。
「見りゃわかるさ、そいつの耳、パソコンの耳じゃねえか」
エースは卓袱台越しに手を伸ばして、金髪の耳をぐりぐり触った。
途端に金髪のツラがすげえ凶悪になる。
「触んな、このクソヤロウが!」
低い声で唸りながら、歯ァむいて威嚇してる。
ちょっとだけ、ザマぁみろ、と思った。
そしたらそんなふうに思ってるのが顔にでも出てたのか、エースが
「嬉しそうにしてんな」
と唇を突き出してみせた。オレより年上のヤロウがソバカス面で拗ねたところで、鬱陶しいだけだ。
それにしてもエースが金髪のことをじろじろ観察するみてえに見てるのが気になる。
シャンクスが大人しいのも気になる。
そもそも、こいつらはひとんちに何の用事で来たんだ、と考えてたら、丁度良いタイミングでお茶を飲み干したルフィが口を開いた。
「あ、そうだ、ゾロ、今日来たのはな、引越して来たからだ」
「引越し?」
そうだ。
ルフィ達はオレの実家の近所の仲間で、つまり、奴らの自宅はここまで来るには相当遠い。
「引越しって……家をか?」
「家以外になにを引越しすんだ」
「……どこに?」
「ここに」
「はァ?」
「まあ正確には、ここの3階にだな」
「3階……?」
3階つーと、3階には部屋は二つしかねえから……
「ウソップんちの隣りか!」
「……ウソップ?」
首を傾げたルフィに、この日初めてシャンクスが口を開いた。
「ほら、隣りに住んでた鼻の長い男ですよ。アイサツしたでしょう」
「あ、あいつかー」
「そうか、彼はゾロと知り合いなのですね、それなら安心だ」
「あ、安心ていうか、てめェ、何だその話し方は気持ち悪いだろうが、てか引越しって、ここにかよ、何でだよ」
もう何もかもがわけ分かんねえ。
エースとルフィが顔を見合わせ、ししし、と笑った。



あちこち脱線するあいつらの話をまとめると、こうだった。
・二人の父親であるシャンクスが急遽海外に赴任することになった。
・エースは現在職場の寮に入っていてルフィとの同居は難しい。
・ルフィを一人でおいていくのは心配(同感だ)。
・ゾロが一人暮らししてる
・ゾロと同じアパートに住ませればいいや
以上のような流れだったらしい。
全くもって軽率を絵に描いたような一族だ。
「だいたい、ルフィ、てめえ、高校はどうすんだよ」
「あ、それならもう転校のテストしたし」
「は?」
「もう、テストとかして、学校、決まった」
「……そうかよ」
がくりとオレは項垂れた。シャンクスの転勤がいつまでの期限のものかは知らないが、とにかくルフィは完璧にここのアパートに住む気らしい。
不意打ちみたいなやり方にムカムカしたので、オレはシャンクスを
「てめえ、ふらふらしすぎなんだよ昔っから!」
と罵った。
この男はほんとにちゃらんぽらんな男で、オレはガキのころから迷惑かけられっぱなしだ。
だが不思議と逆らえない。オレはシャンクスが苦手なのだ。
ところが、いつもなら、ひとこと言えばわけのわからん行動で10倍返してくるはずのシャンクスが、今日はほんのすこし困ったように微笑んだままの表情で、大人しくしている。
(どうしたんだ……?)
疑問に思っているのが、というか、警戒しているのが伝わったのか、ルフィが
「そのシャンクスはパソコンだぞ」
と、何故か得意げな顔をした。
「え、こいつが、パソコン?!」
オレは驚いた。
だってこいつには、パソコン特有の猫とか犬みてえな三角の耳がついてねえ。
パソコンってのは、あの耳んとこになんかコードみたいのがたくさんついてるもんなんじゃねえのか。
「ま、うちのパソコンは特別だからな」
エースが胸を張る。
「おら、シャンクス、見せてやれ」
「はい」
エースに促がされてシャンクス(のパソコン)がやおらズボンのジッパーに手をかけた。
まさか。
「……私の場合、ケーブルの類いはここに」
真顔でズボンを脱ごうとするシャンクスを、ルフィが大喜びではやしたてる。金髪まで同じパソコンとして興味でもあるのか「おお」とか言いながら普通に見物してやがるから、「いちいち見せんな」とオレはエースを一発小突いた。
「いってェなー、ゾロー、何でオレだよ」
「てめえがやらせてんだろうが」
だが、これがホンモノのシャンクスではないことは分かった。
本物のシャンクスなら、あんな真顔でズボンを脱いだりしない。
もっと、こう……嬉しくてたまらない、という顔をして脱ぐだろう。
あいつは本物の変態だ。
「何でこんなツラに作ったんだ」
うんざりしながら呟くと、
「ルフィが寂しくないように」
大真面目にエースが答えた。
アホか。
こいつが大人しく寂しがったりするものか。
今も早速金髪にちょっかいかけてるルフィを眺め、オレはこれから始まる騒々しい生活を思い、うんざりした。
「ゾロ、こいつ、うまそうな匂いすんぞ」
ほら見ろ、早速ひとんちのパソコン拘束して嗅ぎまわしてんじゃねえか、このガキは。
金髪は男に触られたもんだから歯をむいて暴れだした。だがびくともしない。ルフィはチビのくせに驚くほど腕っ節が強い。
「てめえのパソコンはあっちだろーが、おら、離せ」
金髪の腕を引っ張ったら、何故か楽しそうな表情のエースと目が合った。
「ふうん……ばっちり馴染んで使ってんじゃん、そのパソコン」
「…………」
すっかり忘れていたが、エースはパソコンに詳しい。
このシャンクスそっくりのパソコンも自作とかいうやつだろう。
(何か知ってんじゃねえだろうな)
クソ、こいつは安いから買ったんだ、それだけだ、と言ってやろうかと思ったが、そんなことを言ってはいけない、という気がして言えなかった。
別に気を使う必要なんてないはずだが、金髪はやたら表情豊かで、傷つけるようなこと言うとほんとに悲しそうな顔しやがるから、言えねえ。
ひとの気も知らずに金髪はルフィの腕の中でじたばたしている。



ようやくルフィ達が自分達の部屋へ引き上げたあと、オレは金髪に
「オレの留守中にあいつらを部屋に入れるな」
と教えた。
この部屋から引き上げたあと、今度はウソップの部屋が被災したらしいが、関係無いので無視することにした。







05/09/09
back  next

間があいてしまってすみません!!