シュガーハイ
近頃ゾロは以前にも増してモノグサになった。
甘やかしすぎたんじゃないかと思う。
てゆうか、アイツ、調子に乗りすぎだと思う。
ここ数日、あのヤロウは皆が食卓にそろう食事の時刻に顔を出さなくなった。すっかり奴の寝床と化したあの格納庫で寝腐れてやがんだ。そんでオレが食事を持って行くのを待ってる。滅茶苦茶図々しいってんだよ、あのマリモめ。何でオレがアイツにそんなサービスしてやんなきゃなんねェんだ。
と、思いながらもついついオレは奴の分の食事を取り分けて、トレイにのせて、飲み物も添えて、うっかり酒まで添えたりして、あまつさえ奴の好物を一品作り足しちゃったりなんかしていそいそと運んでッたりしちまうんだ。
どうかしてんじゃねえか、あんなクソヤロウ相手に。
人がいいにもホドってもんがあるぜ、オレ。大概にしとけ、オレ。
ぎい、と相変わらず大仰に軋む扉を開けると、
「よお」
いつも通り、偉そうにソファにふんぞり返った奴がいる。
骨折した腿は動かさないように、普段よりは若干小さいオモリ持って、腕だけ鍛えてた。
本当はもっとこうメイッパイ筋肉鍛えたいんだろうけど、生憎だ。
チョッパーの許可がまだ下りていなかった。
「あとちょっとなんだから、絶対負担かけるなよ!折角ここまで治ったのが無駄になっちゃうんだからな!」
まんまるな目を吊り上げて、今朝も船医はしつこいくらいゾロに説教してた。
……退屈してんだろうな。
もしオレが料理すんなって言われたら、きっと毎日すげェ張り合いがねえだろうと思う。
コイツは世界一なんか目指してるアホなヤロウだから、修行とか出来ねえと、内心焦ったりすることだってあるんだろう。
オレがわざわざ持ち運んできてやった食事を、恩知らずにもウマイの一言も無しに黙々と喰ってる剣士に、ちょこっとだけ同情した。
「ごっそーさん」
ぐいっと偉そうに押し付けられた食器に、オレは我に返る。
ゾロは行儀悪くソースとかで汚れた口許をぐいっと手で拭うと、どっさりソファーに横たわる。
クソ、たまにはテメエで使った食器くらい洗いやがれ、と心の中だけで文句を言う。
勿論実際にはそんなとんでもねえこと頼まねえ。
コイツなんかに皿の運命を任せたら、何枚皿があっても足りやしない。
「……んだよ」
持ち運びやすいようにトレイの上の皿を重ねてたオレを、ゾロが頭の上で腕を組んだ姿勢でニヤニヤしながら、見ていた。
「いや……」
言葉を濁しながらも、奴の視線は憎ッたらしいことに確信に満ちて、こっちの動きを待っている。
頭に血が上って、すっげえェムカついてきた。
「クソッ」
がちゃん、と乱暴にトレイを床に置く。
何なんだよ、コイツのこの余裕の表情は!
何でオレがテメエの思い通りになんなきゃならない。
「おらァ!」
腹いせにそのへんに積んであるロープとかウキワとかを蹴り散らして、それでもこれが習慣の力というものなのか、オレは抗えず膝をついて、ゾロの肩口をぎゅっと握った。
どうかしてる。
面白そうに細めた目でオレを見て、ゾロがゆっくり身体を近くする。
そして、唇が重なる。
ここんとこずっと、こうだ。
こうやって食事を運ぶことを口実にしてはこの部屋に二人きりになり、キスしてる。
おいおいそりゃマズイだろ、正気の沙汰とは思えねえ、などとめまぐるしく思考は巡るが、
「……んッ」
ちゅく、と合わさった唇の間から水っぽい音が漏れてきて、その気持ち良さに負けてしまう。
このオレがあの筋肉マリモと、まいにち、チュウ。
自分の姿を傍から見ることは出来ないが、ヤロウとヤロウがくっつきあってんのなんか、想像するだけで眩暈モンだぜ。おえ。気色悪ィ。
気持ちイイ、と、気色悪ィ、が交互にやってきて頭ん中で混ざって複雑な気分だ。
漸く離れたゾロの顔を見ながら、
(あー、でもマジ気持ちイイ……)
と、オレは暫くぼんやりしていた。
ここんとこ、ちっともセックスしてねえし、たまってるから余計感じるのかな。
こないだチョッパーが言っていたところによると、ゾロの足は、もうあとちょっとで完治するところらしい。
次の島に着いたら
と言っていた。
「次の島に着いたら、普通に歩いていいぞ」
そうやって分かりやすい期限を設けたのは、このケダモノ並みの男をじっとさせるウマい作戦なんだろう。ウチのトナカイはほんとに利口だ。次の島まで、なんてゆう、目に見えやすい期限なら、筋トレ馬鹿のゾロも我慢する。
次の島か。
次の島、次の島、と考えるとオレも結構気分が良かった。
次の島につくころには、ゾロも今まで通りのゾロになるし、オレも別にキスだけで我慢したりしなくて良くなる。
欲求不満からの解放を前に、オレは寛容な気持ちになった。
島についたら、こいつは思い切り好きなこと出来るといい。
筋肉鍛えたり、そのへんのチンピラとケンカしたり、酒場に行ったり、綺麗なお姉さんと楽しんだり。
船の中じゃオレしか相手もいないだろうが、陸にあがったら、処理とか、そんなふうに考えなくていい。いくらでも人間は居るんだから。
……ああ、オレも楽しみになってきた。
綺麗なおねェさん、居るんだろうな。
「へへ」
楽しい想像に浸ってたら、ゾロの奴が、ニヤニヤすんじゃねえよ、とか言ってきた。
うっせえな、と思ったが、非常に心の広くなっているオレは機嫌良く応えた。
「あー、大きな街とかあんのかなあ、次の島。どんな素敵なレディと巡りあえるのかなー」
「商売のな」
「ア?プロのおねェさんナメてんじゃねえよ、愛をささやくエキスパートだぞ」
「愛〜?」
憎たらしく語尾を上げてゾロがそんなこと言ってくる。
……が、とにかくオレは上機嫌だ。
ゾロの態度が悪いのなんか今に始まったことじゃねえし、気にしねえ。
「テメエもせいぜい楽しんだらいいさ、きっとテメエみたいな武骨なマリモでも、おねェさんは優しくしてくれるぜ?」
「別にいらねえよ」
「何でだよ」
「テメエがいんだろ?」
「は?」
何言ってんのか一瞬分からなかった。
「心配すんな、陸についたってどっこも行かねえよ、テメエとするし」
重ねて言われてやっとゾロの言わんとすることの内容が理解出来て、理解は出来たんだけど、それはそれでやっぱし意味わかんねえ、とか思って、呆気にとられてるオレに、今度は何故かマリモのほうが上機嫌になってきた。
がはは、とかオッサンみてえに笑ってやがる。
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