ネコと愛のはかり方
その日のカカシ班の任務は庭の水撒きだった。
イルカが受け付けをしたのだからそれは知っていた。
どうやら暇な任務だったらしい。何しろ水撒きなんて子供たちだけで出来るから、その間カカシはその広大な庭の主である老人の話し相手をして過ごしたのだと言う。彼の性分からすればそれは退屈なことであっただろう。
だが、温存してしまった余計な体力を有り余したまんまにイルカのアパートを訪れたカカシは、何故だか非常に生き生きとした表情をしていた。そして、こんな話を今日聞いたのだ、と語り始めた。
「昔話なんです、昔、あるところに若い男がいてね」
その男には好いた女があって、二人は夫婦になることが出来たのだと言う。ありきたりな昔話の出だしであった。
男には好いた女があって、二人は夫婦になることが出来た。男は妻となった女をそれは可愛がって大事にして過ごした。二人は幸せだった。けれど、ある朝男が目を覚ますと、寝所の中には妻が二人居た。それが二人が二人とも容姿から仕草の一つに至るまで瓜二つ。全く見分けがつかなかった。
医者、学者、家族、友人。
思いつく限りの人に見て貰ったがまるで見分けがつかない。けれど、二人のうちのどちらかはニセモノで、きっと化け物であるに違いないのだ。
「それで、その男はどうしたと思います?」
「え……?さあ。男にも見分けがつかなかったんですよね?何もかも同じで」
「そうですよ。だから仕方なく、男はしばらく二人の妻と暮らしたんです」
ところがそんなある日、村に芝居が立ってね、とカカシは続けた。
男は二人の奥さんを連れて芝居を観に行った。何しろ娯楽の少ない昔の話だ、男も妻達もそれを楽しみにしていた。
それが、余程楽しい芝居だったのだろう。身を乗り出して芝居を観る二人の妻の横顔を何の気なしに男がふと見ると、何と驚け、二人のうちの片方の妻の耳が観劇に夢中になるあまり、ひくひくとうごめいたのだそうだ。
「え、耳が」
「そう。そこで男はさてはと思い刀を抜いて」
「まさか」
「ばっさりと斬り捨てたのだそうで。そうしたらそこには歳経た化け猫の屍骸が……と言うお話でした」
へえ、とイルカが感心したのか何なのか気の抜けた相槌を打つ。
「執念ですよねえ、どうしても本当の奥さんを見分けたいっていう、男の……ねえ、イルカ先生?」
カカシが意味ありげにイルカに流し目をくれて口許を緩める。
「もしもですよ、ある朝目が覚めて、布団の中に二人のオレがいたら」
二人で過ごす夜が恒常的なものになってしまったことを知らせる発言に、イルカは、はあ、と困ったように返事した。
「そしたら、ねえ、イルカ先生?」
「はあ」
「見分けてくれますよね?どっちが本当のオレなのか」
「え、でも」
「それが愛のチカラってもんでしょ?ね、先生」
カカシは期待を滲ませて、イルカに飛びつかんばかりに身を乗り出しガタガタと卓袱台を揺すった。
「ねえ、イルカ先生っ」
中々望む甘い返事がかえされない。
「イルカ先生ってば」
うーん、と考えるように天井を向いて、イルカが鼻の頭を掻いた。
「でも、分からないんでしょう」
「え」
「姿も性格も声も仕草も全部一緒だってことなんですよね」
「そうですけど、でもどっちかはニセモノなんですよ!それを愛のチカラでね……っ」
「そうですねえ」
イルカは人の悪い笑みを浮かべる。
楽しまれてる!カカシは(ココロの中で)身悶えする。
「その話、分かりません、オレ」
ちょっと間を置いて、そう答えた中忍に、カカシは「なんで!」と食ってかかろうとした。
「だって、カカシ先生」
イルカは考えながら話す時のくせで、少し首を傾けながら言った。
「あなたとまるで同じ姿、同じ性格、同じ声、同じ仕草のひとがもう一人いたらね、あなたがもう一人居るのと同じようだったらね」
そしたらね。
「オレはきっと、そのひとのこと好きだから、斬り捨てたりなんか出来ないんですよ」
「…………」
正に今、不平を申し述べるために口を開こうとしていたカカシは思わずぽかんとする。
そしてイルカの胸倉を掴みかけた手に、誤魔化すように鼻先を寄せてみたりした。
「もう……もう、何言ってんの、そのうちかたっぽは化け物なのに」
駄目ですねえ、もう、イルカ先生は、等と言いながらもいそいそと彼の着衣を解きだす年上の恋人。
すっかりノせられてあとはもうノられるばかり、と言うお話でした。
end
論点が摩り替わってるのに気づかぬカカシ・・・。
ヒカ碁サイトのほうのアレと同じネタでした。というか、これってもともとイルカカのネタだったものをクリスマスのネタが無いということで急遽ヒカ碁キャラに置き換えたものだったのです(笑)。むこうのお話を読んでしまっていた方はごめんなさいです〜。