美空ひばり対談:vs.美空ひばり
 一月号「平凡」誌上に「仲が悪いなんてデマです!」という錦ちゃんとひばりちゃんのグラビアを掲載したところ、たいへんな反響がおこり「ぜひ仲よし対談をしてください」という読者の投書が、ぞくぞく編集部に舞いこんできました。さて、そこで皆さまの希望におこたえして、錦ちゃんとひばりちゃんの、本誌上二度目の対談ということになったわけです。
 ここは、東京青山の中村時蔵丈宅。その一棟にある錦ちゃんの居間です。


★二人は仲がいいか? 悪いか?

中村 ひばりちゃんとこうしてゆっくり会うの、ずいぶん久しぶりだ。十ヶ月ぶりかな。

美空 そうね、ゆっくりお話するのは、ほんとうに久しぶりだわ。ふたりが忙しくってなかなか会えないもんだから、いろいろ云われたり、書かれたりしたわね。

中村 うん。

美空 錦之助さん、そういうこと気になる?

中村 前は気にしたけど、このごろは気にしないな。してもしょうがないもの。

美空 そうよ。そういうことは、まあいいでしょう。(笑)

中村 ひばりちゃんと仲が悪いなんて、変なデマだと思うな。

美空 私たち、本人同士は別にそんなことないんだけれど迷惑ね。この前、一昨年の夏かしら、「平凡」で対談したとき(註:1954/10「私のボーイフレンド」)は、仲がよすぎるなんて文句云われたし…(笑)

中村 カンタンなんだ。要するにふたりはなんでもない。(笑)

美空 そうなのよ。

中村 それを、いろいろ云ったり、書いたりして、みんながそうしちゃう。

美空 あんまり仲がいいとファンがやきもち焼くし、忙しくて会えないと仲たがいしたと云って大騒ぎになるし…やきもち焼かれるだけならいいけど、「一緒に映画に出たらいやです」とか「
『八百屋お七 ふり袖月夜』でおぶっちゃいやです」とか、お仕事のことまで云ってこられるとね。

中村 ふたりはなんでもないッ。(大きな声で、真っ向から唐竹割りにしたような気合だったので大笑い)この際、ファンも気にしないでください― とお願いしたいな。仲が悪いなんて全然うそです。それから、ファンが心配するような仲がよすぎるということもありません。

美空 いろいろ云われたり、書かれたりすると、たいへん迷惑です。

中村 同感だね。ファンの方々はあまり心配なさらないで、ますますご後援していただきたいな。

美空 私も同じだわ。

★錦ちゃんのお嫁さん

中村 ひばりちゃんッてサッパリしてるから、お姉さんみたいな気がする。

美空 あーら、いやだわ。(笑) 錦ちゃんはネ、大変短気で…

中村 なにおー。(錦ちゃんは怒ったふりをします)

美空 短気だから、もちろん怒るけど、でもネ、とても気がよくて…

中村 きたぞッ。(笑)

美空 ぜったい嘘をつかない。

中村 もうひと息。(笑)

美空 だから、好きです。

中村 どうもありがとう。(笑)

美空 錦ちゃんは短気でこわいから、お嫁さんになるひとは大へんだと思うワ。

中村 そうでもないさ。(笑)

美空 錦ちゃんのお嫁さんになる人は、私のところへ錦ちゃんのこと聞きにくるといいわ。いろいろと教えてあげるから…

中村 どうぞよろしくお願いいたします。(笑) ひばりちゃんは、はじめて会った人から誤解されて、ぶってるとか何とか云われるだろう?

美空 そうらしいわね。

中村 ぼくがそうだったんだ。(笑) ほら、はじめて歌舞伎のおやじさん(中村時蔵丈)の部屋でひばりちゃんに会ったとき、何だかぶってるし、ぼくも短気だから「なにおー」と思っちゃった。それで、白状するとネ、まだ時間があったけど、「もう、顔をしますから」と云って、顔をこしらえに立ったんだ。(笑)

美空 こっちはこっちで、「なんてまあ、この人は無愛想なんだろう」と思ったわ。(笑)

中村 ひばりちゃんはいい人だな。つきあうと好きになる。(笑)

美空 もうひと息。(笑)

中村 女に人はほめるとキャキャとなるからな。(笑)

美空 キャキャね。(笑)

中村 ぼくみたいにパーッと怒らない。人間ができているんでしょう。

美空 どうもありがとう。(笑)

中村 選ぶのは当人だけれど、ひばりちゃんのお婿さんは、こういう仕事に理解がないとダメだな。結婚してから仕事を続ける人と、続けない人とあるが、ひばりちゃんはやめるとか云ってたっけ…

美空 でもネ、思い切ってそうカンタンにやめられないだろうし、といって仕事と結婚とは両立しないと思うし…

中村 ぼくが仕事を持っている女の人と結婚するとしたら、すぐにやめてもらいたいな。

美空 まあ、横暴ネ。(笑)

中村 好きな人ができて、結婚したいと思ったら、ぼくはすぐしちゃうな。しょうがないもの。その人、その人に考え方が違うだろうが、ぼくだったらお嫁さんはチャンと家のことしてくれてさ、ぼくが帰ったら「お帰りなさい」と傅いてくれてさ、そういった赤ちゃんゴッコしたいな。(笑)

★私の顔と僕の顔

美空 私の顔ネ、整形手術してなおしたと云われるの不思議でしょうがない。(笑) どうせなおすなら、中途ハンパでなく、鼻も高くしたいし、二重は似合わないから目は一重でいいけれど、眉毛はもっと濃くなりたいし、ともかく私の顔、みんな不満だわ。

中村 眉毛なんて薄くたって描きゃいいんだもの、そんなのいいさ。「嫌いでよく映画俳優をやれますね」と云われたけれど、自分で「ぼくの顔好きですよ」とは云われないもの。(笑)

美空 「よく役者やってますね」というのは失礼だわ。

中村 ぼくは目がいいと云われますが、メーキャップで一番苦心するのは目張りなんだ。ぼかあ、目と目の間が離れているからネ。

美空 あら、そうかしら。(ひばりちゃんは錦ちゃんの顔をのぞきこみます)

中村 鼻もひくいし…

美空 錦ちゃん、とにかくあなたはヅラ(かつら)をつけると違っちゃう。撮影所の入口で会ったりして、別々に自分たちの部屋に入るでしょう。そのあとメーキャップしてセットで会うと「アッ」と思うの。ヅラをかぶると、ヅラが顔にあうのね。

中村 もうひと息。(笑)

美空 画面に出ているのは、普段の錦ちゃんそのままなのね。気取ってないわ。そこがファンにとっていいのじゃないかしら。気取るようになると魅力なくなるんじゃない?それに甘いのよ、錦ちゃんは。

中村 どうもありがとう。(笑) しかし、アップ(大写し)の撮影のときは、確かにある程度自信を持ってなくちゃできない。「芝居は照れたら絶対できないよ」と、おやじさんに云われたけど、ぼくは普段、照れ性もいいところ、全然ダメなんだ。(笑) でも、仕事ではそういう自信はあります。

美空 私は前は地毛で結っていたけど、最近はヅラで時代劇に出るの。「太っていていい」なんて慰めの言葉か何だか云ってくださいますが、(笑) もう少し痩せたいわ。顔が太ってるのよ。

中村 とにかく、ひばりちゃんと仕事をすると楽しいね。

美空 私は錦ちゃんと『鶴八鶴次郎』やりたいわ。このあいだテレビで伊志井寛、水谷八重子先生の『婦(おんな)系図』をみたけれど、泣いちゃった。

中村 その目から出る涙は、さぞ大きいだろうネ。(笑)

★仲よしラリルレロ

中村 生意気いうようだけど、なんといっても頭に一番きてるのは仕事のことだな。

美空 それはそうね。錦ちゃんの今年の仕事はじめは何ですか?

中村 
『続々獅子丸一平』(獅子丸一平 第三部)なんだ。目つぶしをくって盲(めくら)になるんだけど、盲になってからが面白いと思うな。「目が見えなくても心でなんでも見える」なんて、文学青年みたいなことを云うんですがね。

美空 私は長谷川(一夫)先生と『銭形平次捕物控 死美人風呂』を撮るの。

中村 そうすると、今度は京都で一緒だ。

美空 京都で錦ちゃんとお酒の飲みくらべをしましょうか。錦ちゃんには負けないわ。(笑)

中村 恐れ入りました。(笑) 去年、忘年会で月形(龍之介)先生にいい話を聞いてさ、すっかり喜んで酔っぱらっちゃって、千代(東千代之介)さんと男同士で俄然踊りましたネ。

美空 錦ちゃんと踊ってると下ばかりむいて「こう?」「こう?」ってステップの踏み方きいてばかりいるんだもん。(笑)

中村 酔えばうまいぞオ。(笑)

美空 錦ちゃんの苦手はダンスとラ行の発音ね。(笑) 私も錦ちゃんと同じでラリルレロのラ行が云えないのよ。

中村 こデ(れ)食べダデ(られ)る?(笑)

美空 お酒のんでほんのディ(り)とデ(れ)ンガ色になっちゃった。(笑)

中村 おデ(れ)が写真撮ってやド(ろ)うか。

美空 錦ちゃんったらニコンのカメラ持ってニコニコしてるわ。(笑)

中村 冗談はやめにして、今年もうんと張りきろう。

美空 私も若さと熱で大いに張りきります。そしていい歌を、うんと歌いたいと思います。

中村 がんばデ(れ)!がんばデ(れ)!(笑)


平凡・昭和31年4月発行(C)平凡社 上へまいります▲PAGE TOP