高田浩吉 瑳峨三智子 他
座談会:vs.田代百合子  東千代之介  北上弥太郎  瑳峨三智子  高田浩吉

東山三十六峰、草木も眠る丑三つ時、折りしもおこる剣戟の響き…チャンチャンバラバラ、チャンバララ…これは昔懐かしい無声活動大写真の名文句。その東山を望んで、ここは京都岡崎の料亭。珍談綺談に話が弾んで、それこそ草木も眠る丑三つ時まで楽しい一夜を語りあかしました。

★英語のサインはやめてくれ!


高田 やア、青年そろったネ。

錦之助 そういう高田さんは…

高田 いや、僕は大青年だよ、もちろん。青年の仲間に入れてくれなきゃ、帰っちゃうよ。(笑声)とにかく、青年を司会するんだから大青年だな。

千代之介 足の方は、もうすっかりいいんですか。

高田 だいじょうび(びに力を入れる。笑声)これ、アジャパーの伴淳(伴淳三郎)さんが、いいはじめたんだよ。だいじょうぶの“び”に変えてね。あぶなくない、だいじょうびっていうんだ。ところが、今度の伝七捕物帖では(註:『刺青女難』)あびない…という新語を使いはじめたんだよ、伴さんが…あぶないの“ぶ”を“び”にね、あびない、あびない…(笑)

一同 あびない、あびない…(笑)

高田 タネを割るとね、ハワイの二世コトバから、ヒントをつかんだらしい。

北上 そういえば、伴さん、またハワイへ行くから、なんかまた新しいネタ探してくるね。

錦之助 アチャコさんも行くね。…ああ、アチャコ(花菱アチャコ)さんで思い出したけど、もうお孫さんがいるお祖父ちゃんね、僕のうちのおやじさん(註:父・中村時蔵)も、孫がいるからお祖父ちゃんなんだけど、早く年をとったらいけないというので、大パパちゃんというんですよ。(笑声)

田代 それでお母さんのことは?

錦之助 大ママちゃん(笑声)

高田 そりゃ、いい発明だ(笑)

錦之助 ところがね、こないだ南禅寺へロケーションに行ったときにね、子供がおじさんサインしてくれ、サインしてくれって僕にいうんですよ。おじさんだなんてクサったよ、まだ若いのに…(爆笑)

北上 錦ちゃん、おじさん、サインしてくれは、まだいいんやで…僕なんか、まだひどいんだ。こないだ、横書きにサインして、渡したんだ。確か下呂温泉のロケだったかな。そうしたら、その人、変な顔して、サインブックを押し返すんだな、英語のサインじゃなくて、日本語で書いてくれって…わしゃ、クサったよ(大笑)

瑳峨 どんなふうに書くの、ちょっと書いて見せて…

北上 (書いて見せる)こうだよ。ね…

瑳峨 やっぱり、知らないと、読みにくいワ。

錦之助 英語じゃないよ。ギリシャ語…

千代之介 いや、アラビア語だ、それとも、エジプト語…(大笑)

北上 いやんなっちまうな。日本語だぞ、正真正銘の…(声を低めて)アメリカ人に見せたらね、これは絵である。それも横臥したる裸婦のデッサンだって…(笑)

錦之助 リーちゃんらしいネ(註:北上さんのこと。関西若手歌舞伎時代に鯉昇「りしょう」という芸名だったので)ええ、でも仮名書きだから、前とおんなじ。

高田 なるほど、そいつは名案だ。

千代之介 どうして替えたの。

瑳峨 それがね、月形(龍之介)さんの信頼している人に青木さんっていうある会社の重役さんがいるの。姓名学は趣味でやっているのよ、病気勝ちなのは姓名学上からいって当然なんですって…あたしの芸名をみて、前から改名してやろうと思っていてくれたんですって。それでね、すぐ改名してくれると簡単に思って座ったら、天地創造のことから説きはじめて、延々と3時間も姓名学のお講義。それが終わって今度、いい名を探してくれるというから、ヤレヤレと思ったら、それがまた熟考2時間以上…(笑声)

北上 よく足がシビレなかったネ。

瑳峨 シビレたわよ。しょうがないから、ちょっとご不浄に…といって、なかで一生懸命もみほぐし。2時ごろから、7時ごろまで座っていたわ。

北上 アア、シンド…(笑)それで、改名した効果はあったの?

瑳峨 それからあんまり病気しなくなったわね。まだいくらも経っていないけどね…

高田 この人は、だいたいが、食が偏って、その上、ものすごく少食だから、やせぽっちなんだよ。でも、今日のお昼は、よく食べましたって、撮影所で評判だったよ(笑)

瑳峨 あら…

千代之介 錦ちゃんは、鱈子と、納豆が大好きなんだってね。

錦之助 誰がいったの?

千代之介 うん、宿の人が、錦之助さんは毎朝、そうなんですって、いってたぜ。

錦之助 うむ、さては、バレたか…(笑)

千代之介 バラしついでに、もうひとつバラすか…

錦之助 おい、よせよ(笑声)そんな殺生な…(笑)

千代之介 ものすごい寝坊スケや。

高田 そうだ。錦ちゃんの寝坊スケは有名だよ。寝台車で寝ていてね、終着駅に着いたんだ。他のお客さんは、みんな降りてゆくんだね。ところが、錦ちゃんは、まだ起きてこない。お母さんが驚いてね、「錦之助や」って、揺り起こしたんだよ(爆笑)

★めばちこパンチ

高田 千代之介さんの名付け親は誰?

千代之介 マキノ光雄(東映の重役)さんです。

北上 東富士と千代ノ山の横綱二人分を一緒にしたんだとか、誰かがいってたけど…(笑)

千代之介 そうじゃないんです。踊りの方の名が坂東伊三郎(註:坂東蓑助の内弟子)でしょう。だから、はじめは坂東千代之介にしようと思ったのですが、マキノさんが、坂東の坂を省いて、東がいいだろうと決めてくれたのです。

高田 踊りをやっていると、立ち回りが割りに楽じゃない?

千代之介 ダメですね。手順は楽ですけど…千恵蔵さんに、いろいろ教示されたんですが、僕の殺陣は、斬っても、ほんとに人が斬れていない。斬られる方がうまいから、見ているお客さんは、案外わからないかもしれないんですけどね。(笑)現在、東映の時代劇の人たち25,6人が、「剣会」というのを作って、斬られ方なんかをよく研究し合っているんです。それで、僕のような新人には、こういう点、とても幸福だと思います。この他にまだまだ僕の欠点を指摘されまして、いちいちこうしたらいい、ああしたらいいと、例えば頚が長いから、着物のうしろ衿の腰を高くしたり、顎を引いて頚を短く見せる工夫をしたらいいだろうなどと…

高田 羨ましい話だね。そういう話を聞くのは…しかし、僕のスタートのころと現在のスタートと、いかに違うかということね、今のあんたたちは全然恵まれていますね。僕のスタート第一回主演というのは19の時だった(註:『仇討ち破れ袴』)それも、いきなり会社が、「あれに一本撮らせ」というんだ。準備もそこそこで、脚本なんぞありゃしない。

田代 脚本がないんですか?

高田 そう…監督の頭にだけあるんだ。とにかく、こっちはこの場面の後どうなるのか、筋もセリフも丸っきりわからないんだ。ずいぶん無茶な話だよ。とにかく立ち回りが多いんだよ。夢中で斬ったり投げたりしたんだけど、いや、それで困ったんだね。斬られたり、投げられたりする人が、昨日までは、先輩や同僚ばっかりだから、やりにくいよ。あっちを向いても、ハアッ、こっちを向いても、ハアッとお辞儀しなけりゃいけない人ばかりだからね(笑)

北上 ハッ(ペコリ)エイッ、ハッ(ペコリ)トウッ…(笑)

高田 今じゃ、昔話に笑っていえるけどね、前の日まで、こっちが斬られたり、投げられたりする練習を、その先輩たちにつけてもらっていたんだからね…一夜にして、主客が転倒しちゃったわけなんだ。

瑳峨 あたしは、デビューのとき(註:旗本退屈男八百八町罷り通る)舌がこわばって声が出なかったのよ、セリフがいえないの…あがっちゃって。

北上 あんたが…(笑)

瑳峨 失礼ね。ほんとよ。白粉のつけ方も知らなかったよ。

高田 誰に教えてもらったの?

瑳峨 千秋みつるさんなの。千秋さんに板刷毛とぼたん刷毛を頂いて、衿白粉の塗り方を教えてもらったの。その刷毛は今でも大切にしまってあるわ。

錦之助 ふーん、感心だな。でも、いきなり時代劇で、辛かったろう?

瑳峨 三本目の『赤穂浪士』のときね、御殿女中の役で、高い階段を、長い裾を引きずってのぼる所があったでしょう。あのシーンのとき、ほんとに辛くて、ベソをかいたわ。だって裾が足にまつわりついて、のぼりにくいのなんのって…馬鹿正直というのか、融通がきかないっていうのか、とのかく新米の悲しさ…今なら、ちょいと裾をつまんで、チョッチョッと軽くのぼっちゃうんだけどね。カメラは背後からだけ、前はわかりゃしない…(笑)

錦之助 カメラは背中で前はわからないけど、えてして、そういうときに、失敗があるという…

千代之介 背中の失敗?

錦之助 そら、あれだよ…

千代之介 え?…ああ、あれ…

田代 あたしのことでしょ、だって、背中に眼がないんですもの…

錦之助 あれは、蛙だ(笑)

瑳峨 いったい、何のお話?

田代 
『里見八犬傳』の第二部でね、あたしが薄絹をかぶって、だんだん後ろ向きになるんですよ。その時、左のうしろ肩に黒いシミのような点が写るんですが、だんだんアップ(大写し)になってくるにつれて、その点が右下の方へ移動しはじめて、ぐっとアップになると、それが、大きな蝿なのよ(笑)

瑳峨 あたしも、ずいぶん失敗があるのよ。ラッシュ(部分試写)を見たら、上唇の口紅が飛んじゃっているじゃないの。ヒヤッとしたわ。それでよく考えてみたら、本番の前にアメをしゃぶっていて、それで口紅もなめてしまったのね(笑)

高田 赤ん坊みたいだね(笑)

瑳峨 まだ、あるのよ。これもラッシュのとき、びっくりしたんだけど、眼がパンチをくらったみたいに、黒く腫れ上がっているの。それはね、そのとき、めばちこが出来てね、その上にマツゲをつけたもんだから…(笑)

記者 めばちこって何?

高田 関東では、“ものもらい”という、あれだよ。鹿児島では、犬の目。

★唄う時代劇スタア

高田 北上君と錦之助君は、同じ舞台に立ったことがあるんだろう?

北上 ええ、ありました。大阪で、若手歌舞伎のころ、17か、18ぐらいのとき。

高田 今度、二人とも(北上と錦之助)コロムビアで、歌を吹き込むんだろう?

北上・錦之助 ええ。

高田 歌っていえば、鶴田君(浩二)にはじめて唄わしたのは、僕が映画界にカムバックしない前、浩吉劇団を組織して、地方巡業をしていた頃さ。あれは、倉敷だったかな。出し物は弥次喜多のオペレッタ。僕が弥次で、喜多が玉城健吉(たまきけんきち)といって、鶴田君の先輩だったんだが、急にその健坊が眼を悪くして、見えなくなったんだ。それで、一座の中から代役を立てたくちゃならない羽目に追い込まれたんだけど、軽い歌が唄えて、芝居が出来る人っていうのが、いないんだよね。そのころ鶴田君は、劇団事務をやったり僕の弟子だったり、番頭さんだったり、芝居の方は重い役をやっていなかったんだ。しかし、どうしても代役に適当な人がいないんで、少し荷重だと思ったんだが、白羽の矢を鶴田君に立て、その晩、ほとんど徹夜で歌と芝居の稽古を二人でして、翌日、海を渡って、四国高松の劇場の蓋をあけた。それが、どうやらうまくやれたんだね。そのころ鶴田栄一という芸名だったが、栄ちゃんが(今の鶴田浩二)唄いはじめた、そもそもの時だったよ。

北上 初耳ですよ、この話…

高田 ところで、北上君は、どういう歌を唄うの…

北上 あんまり自信がないんですがね『月夜旅笠』というのと、『若様やくざ』、それに、『ないしょ節』というんです。

千代之介 『ないしょ節』なんて、いいね。どうして唄うようになったの?

北上 それがね、『ないしょ節』というのを長唄の杵屋花雙(きねやかそう)さんが作ってね、それを祇園で唄ったんだよ。そしたら、祇園で流行ってまた浅草で唄ったら、浅草でも流行ったんだな。で、たまたま、コロムビアの伊藤文芸部長が、祇園で聴いて、これはいけるとノートして帰ったんだそうだ。そして、偶然、ディレクター(レコード企画者)からも、ないしょ節の提案があって合致したってわけなんだそうだ。

田代 それで、北上さんにっていうのね。

北上 うん、まあ、そうなんだ。米山正夫先生に推薦されてね…

高田 日本調だね。ないしょ節の歌詞は、どんなの?

北上 ♪〜内しょ内しょで 内しょ文もらい もらった手紙がネェあなた アイラブユー テナコトシー 内しょ…

高田 流行しそうだね。錦ちゃんのは…

錦之助 『投げ節弥之』と
『いろは小唄』

高田 二人ともコロムビアだし、時代劇畑だし、どちらもの先輩として、二人の歌が、広くファンの皆さんに愛唱されるよう祈りましょう。

北上・錦之助 ありがとうございます。

★演りたい役は何でしょう?

高田 もう12時近くなったね。司会者としては、そろそろ結論へと導かなくてはいかん時刻だな。

錦之助 どうせ、こんなに遅くなったんだから、五十歩、百歩ですよ。

高田 そんなこといって、寝坊スケの錦ちゃん、明日の朝はだいじょうびか…
何時なの、迎えの車が来るのは?

錦之助 6時です。

高田 そりゃ大変だ。五十歩百歩だなんてとんでもない。じゃ、最後にどんな役を演りたいかを話してもらってオール・チョンにしましょう。

錦之助 森蘭丸をやりたいですね。(註:織田信長の小姓・明智光秀 本能寺の乱で討死)

千代之介 僕は三尺ものをやりたいですね。

北上 僕もやっぱり、やくざをやってみたいですね。やくざものには人情があるし、現代の人間の匂いがするっていうのか…感覚的に、現代につながるような気がするんです。そして、時代劇そのものには夢があるでしょう…

田代 あたしは、時代劇にも、現代劇にも、両方出るでしょう…現代劇だと、いつも純情型ばかりだから、同じ型にはまっちゃって、なんか、もっとパーッとしたのをやりたいですね。

高田 そりゃ良いですね。この女優さんでは無理じゃないかと思っていた女優さんにやってもらったところが、案外、新鮮な逆効果があって、プラスになったこともありましたよ。瑳峨さんは、どう…

瑳峨 あたしは、明るいホーム・ドラマがやりたいの。だから、田中絹代さんと一緒にお仕事できる予定の『母の初恋』というのを、とっても楽しみにしています。

高田 どうも、女優さんの方は、時代劇より現代劇の方がお好きなようだね。ま、いずれにしても、若い人には、勉強、勉強と、勉強してもらうことだよ。いくら強いから、美しいから、といったって、それだけじゃダメなんだから…いや、どうも、お説教じみちゃったね。では、この辺で、お開きということにしましょう。
平凡・昭和29年9月発行(C)凡人社 上へまいります▲PAGE TOP