上映作品:待ち伏せ
2005.11.26
稲垣浩 東宝傑作選・チラシ
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会社に着いて9時半ごろだったか、突然、「よし六本木へ行こう」と思い立った。例によって、出たとこ勝負の思いつきである。
実際は、昨夜『待ち伏せ』明日から上映されることは知っていたが仕事が多忙で無理だと諦めていた。土曜日の本社での出勤者は少ない。修三の部署でも三人しかいなかった。
そんな中で修三が出勤しているのはよほど仕事が溜まっているのか業務に追われているということに他ならなかった。それもサービス残業ならぬサービス出勤である。

机の上のパソコンを閉じ書類もそのままにして本社を出た修三は、30分程で六本木に着いた。上映時間の5分前であった。
何とか滑り込みセーフだなと安心した途端、眼にしたのはチケット売り場の人の列。
しまった!何じゃこの順番待ちは・・。「ハリーポッターと炎のゴブレット」犯人はこれだった。
この日が初日だったのかどうか知らないがゆうに10人以上は並んでいた。
シネコンの欠点はこれだな。銀行ATMの順番待ちのようなものだった。
結構いらいらしたがやっとチケットを持って場内に入ったときは暗くなっていた。
席に着くや否や上映。暫くは額から吹き出る汗を何度もぬぐった。

この映画、かつて日誌で“オマージュ”と綴ったように思う。
錦之助、裕次郎、勝新太郎、三船敏郎。スタープロ主催盟主のそろい踏みに加えて、浅丘ルリ子が花を添えて鳴り物映画として登場したが興業的にヒットしなかったといういわく付きの作品である。

今回はスタープロのことに触れることはやめておこう。

『待ち伏せ』この映画、タイトルからして前半の出だしが何かを期待させる“わくわく感”があっただけに、後半の話がいささかつじつま合わせの腰砕けになってしまいとても残念な作品だ。
そういった作品のあれこれはさておき懐かしいスクリーンの出演者それぞれを思い出しながら観ていた。
まず裕次郎と浅丘ルリ子、この二人のやりとり。
日活ゴールデンコンビの頃を思い出した。
裕ちゃんの「赤いハンカチ」や「夜霧よ今夜もありがとう」などのヒット曲を口ずさんだものだった。
この裕ちゃん映画の共演は浅丘ルリ子が殆どだ。
やがて日活映画が倒産して日活スターそれぞれが他社映画やテレビに散ってしまった。
あの輝かしい日活ゴールデンコンビも解消していった。
錦之助も東映を離れTVに活動の軸を移したとき、『真田幸村』'66-'67TBSで共演したのが浅丘ルリ子である。その後『御用金』でも一緒だった。
浅丘ルリ子は、当時引く手あまたのモテモテだった頃である。

また、この映画に初出演の新人として北川美佳が初々しく出演している。
三船プロの新人だったと思うが、後に三船さんと一緒に暮らすことになった。
今は二人の間の娘(三船美佳)さんが女優になっている。
この北川美佳は、中村賀津雄の昼の帯ドラマにも出演したことがあった。
修三も何度かセットでお眼にかかったことがある。
あるとき、その撮影セットに突然三船さんが姿を現し何故か出番もないのに監督や賀津雄さんと雑談をしていたことを覚えている。
修三にとって、三船敏郎は国際スター“世界のミフネ”である。
そんな彼が撮影セットを訪ねきて談笑しているのは何とも妙な気分だった。
後で思い起こせば北川美佳を迎えにきて彼女の出番が終わるのを待っていたという訳だった。
国際スターらしからぬ庶民的な方だったというエピソードだ。
そんなことを思い出しながら観ていた。
三船、裕次郎が殴り合いするシーンがある。よくあるパターンである。
「大いなる西部」のグレゴリ−・ペックとチャールトン・へストンの二人のシーンを思い出してしまう。
これもファンサービスというのだろうがこうしたシーンはあまり面白くない。
茶番的な八百長試合を見ている気分というのは言い過ぎだろうか。
また勝新と三船が一瞬剣を交えるシーンでは「用心棒と座頭市」を思い出してしまう。
勝新も前半は不気味さで面白い役柄と思ったが最後で浮き足立ってしまい底が割れてしまった。
三船の素浪人も善人すぎて役柄としてあまり面白くない。
この中で錦之助だけが芝居をしている。後の三人はただ地のまま、その落差が大きい。
当時の記憶では「錦之助の計算高い演技が目に付いた」と評された。
それは必ずしも褒め言葉とは言えないだろう。小心者の横柄な木っ端役人という損な役柄だったし、このメンバーそれぞれの持ち味を生かそうというのはそもそも無理だった。
後半の四人の行動はすべて不可解な中途半端な設定になってしまった。
結局、最後はみんなの顔を立てすべて善人にするしかなかったという訳だ。


ご都合主義がこの作品をつまらないものにしたと言えなくもないが、今ではそれも懐かしいと感じた。結構、気楽に楽しめた。
自宅のビデオでそう何度も観たいと思わないが、たまにはこうしたスクリーンで観るのもいいと思った。思いつきで駆けつけたが損した気分にはならなかった。
でもやっぱり欲を言えば、錦ちゃん作品、どうせ腕っ節がないなら小心者威張りやの木っ端役人より、『股旅 三人やくざ』の風の久太郎の方が好きだ。
閑散とした場内から出た修三の目に、ロビーでは入場時より更に大勢の人ごみでごった返していた。「ハリー・ポッター」シリーズ。これは4作目だが、益々もって大人気だということが良く分かる。
人ごみの中で漂っているポップコーンの甘い匂いを嗅ぎながら劇場をあとにした。
その足で本社に戻り、何食わぬ顔して仕事に取り掛かった。
夕方になって昼食を食べていないことに気づいた。
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ルポライター:松木修三