上映作品:御用金(フジテレビ映画の原点、五社英雄監督を偲ぶ) 2004.08.24 The Movie Kingお台場映画王2004 OVER THE RAINBOW BRIDGE! フジテレビ映画の原点、五社英雄監督を偲ぶ特別上映会 仲代達矢×五社巴(監督令嬢)トークセッション 『御用金』(69年、日本映画、124分) 監督:五社英雄 脚本:五社英雄、田坂哲 出演:丹波哲朗、仲代達矢、中村錦之助 天保時代、越前鯖江藩領内である村で漁民が一人残らず姿を消してしまうという奇怪な「神隠し」事件が起きる。その背後に関わる佐渡の御用金をめぐり、様々思惑を持った男たちの闘いをダイナミックな映像で描く。当時、日本初のパナビジョン作品として話題となった。記念すべきフジテレビ第1回製作劇場用映画。 (フジテレビ主催、お台場冒険王事務局 パンフレット記載より) こんな触れ込みのパンフに目を通しながら「I 列14番」の座席に座っていた。 この座席指定と言うのがほんにまた面白くもない。 この映画が客席超満員になるわけがないだろうに。 「空いているお好きな席にどうぞ」などと期待する方が無理なのは分りきったことであるが、年寄りはひとこと言いたいものだ。言わせてくれ。もう既に言ってしまったが。 ここで更に気に入らなかったことは何の関係者かどうかは知らないけど顔パスみたいにどんどん入場して行く者がいたことだ。普段、映画と無縁そうな背広姿の親父が多かった。 若い劇場スタッフはそういった関係者にしきりと愛想良い。 修三が入場券を見せ入場しようとすると「一般の方の入場はもう暫らくお待ち下さい」ときた。おいおいだ。お金を払って映画鑑賞する"お客様"が一番じゃないのか。 少なくとも「お嬢さん、もうちぃーっと笑顔で応対したら」だった。あなたはこの施設の警備員ですか?と聞いて見たかったがそれはやめた。心境は、すっかり青島幸男の「いじわるばあさん」気分であった。しかし、最近のシネコンはどこも座席がゆったりしている。客席も傾斜になっておりスクリーンが見やすい。それは納得であった。 修三、特別に五社英雄監督作品に愛着があるわけでもない。 この『御用金』という作品を思い出すたび、どうしても三船敏郎降板のピンチヒッターとして急遽代役を出演した映画というイメージを拭い去ることはできない。 錦之助ファンとしては、当然に、ストーリーも錦之助が主役でなく彼のライフワークに数えられる作品である筈もなかった。しかし、この作品を映画館でほとんど観る機会もないだろう。急に思い立って観に行くこととなった。これまた"一期一会"である。 これが、もしかしたらこの作品最後の映画鑑賞かも知れない。 そう言うことであった。 仲代達矢のトークセッションは彼の律義そうな性格が伺われるようだった。 話も丁寧に好感の持てるものだった。かつて錦之助もこの仲代達矢と大喧嘩したと聞いた。しかし、その後この仲代達矢と映画で幾多の共演をしている。 錦之助の口から「仲代さんは本当にいい人だ」そう聞いた言葉を覚えている。 初めてお目にかかる生身の仲代達矢は本当にジェントルマンだった。 そう感じた。 仲代にとっての五社英雄は、例えて言うなら兄貴分のような間柄だったと語った。 仲代は東宝での黒澤明・小林正樹といった巨匠監督作品が続いたが、それに較べこの五社監督作品ではむしろ気兼ねのない間柄で仕事が出来たということだったようだ。(それは錦之助にとっての沢島忠監督のような間柄に相通じることかも知れない) 以下、仲代さんの話のあらましを少し述べておく。 舞踏のような流れの綺麗な殺陣の東映チャンバラ映画から、時代劇が大きく変わって行く狭間で黒澤作品はリアリティを前面に押し出した作品を創った。迫力と血飛沫が飛び出すような作品だ。自分の想像としては、五社監督は多分に黒澤映画に対抗するような映画を創りたいと思っていたのではなかろうか。そして『御用金』の作品について、上映前にネタばらしは良くないが、冬の下北半島のロケで海岸の断崖の岩場をよじ登るシーンをやってくれと言われ、もし足を踏み外したら命がないと正直なところ躊躇した。 すると監督自身が岩場に身を乗り出し撮影の意気込み、そこまで監督が命がけで身体を張るならと吹き替えなしで取り組んだことを披露。また、当時話題になった共演の三船敏郎と喧嘩をして三船さんがこの映画を途中降板してしまったことのエピソードも披露された。 もう時効でしょうからと言って、この件については自分の責任だった、折角出演して頂いた大先輩に大変申し訳ないことをしてしまったと述べた。 撮影中断となったらどう責任を取ろうかと思った心境を初め、翌日にマスコミが押しかけて来てこのことが話題となった当時の様子などを語った。会場からも当時の様子を知っている人が多いのだろう。含み笑いが起こった。幸いにも三船さんの役を萬屋錦之介さんに代役として出演して頂いたと述べた。錦之助について触れたのはそれだけだった。 実際は三船さんの酒癖に起因するのだろうが、仲代さんの先輩に対する配慮はさすがであった。このトークセッションが終わり仲代達矢が退場すると、その後を関係者がぞろぞろと退席していった。 五社英雄はフジテレビのディレクターで『三匹の侍』で話題となった。 何が注目されたかと申せば"殺陣(たて)"である。殺陣のリアリティと"斬る音"を入れたことである。実際の肉を斬ったり叩いたりして効果音を取り入れたようだった。 その後の時代劇では音や血飛沫など残酷過ぎるほどエスカレートして行った。(それまでのかつてのチャンバラ映画では、刀の音や身を切る音など音響として取り入れていなかったのは周知の通りである) フジテレビとして、この五社英雄を起用し『御用金』で劇場用映画製作の第一歩を踏み出したということだった。その後、五社英雄はフリーとなって数々の映画を残した。 今年は五社監督の十三回忌ということで彼の作品の特集があるようだ。 但し、正直なところ五社英雄作品は修三の好みではない。 これを機に当時の関係記事から少し拾って見よう。 <『御用金』錦之助らセット入り> <代打すっかり板に> <五社監督 語気激しく三船批判> 青森・下北半島ロケ中に"蒸発"した東宝・三船敏郎の代役、中村錦之助が15日、東京世田谷区砧の国際放映のセット撮影に入り仲代達矢、浅丘ルリ子とはじめて顔を合わせた。 錦之助は三船の代りに6日、下北半島へとび、3日間の強行ロケを終え、9日に帰京したばかり。「やはりこういうかたちの出演はいやですね。すっきりとこないんだ。最初からぼくに合わせた役柄ではないんだから当たり前なんです。三船さんとの友情だけでOKしたわけです」と錦之助はピンチ・ヒッターの感想をぽつりと語る。 錦之助と五社監督とのつき合いは3年前の東映『丹下左膳』以来二度目。西部劇調の五社演出には慣れている錦之助は「テンポの早いことは「丹下…」のときと変わらない。とにかく娯楽を散りばめたサービス満点の演出です」と感想を語っていた。 セットの中は和やかな雰囲気だが、五社監督の三船批評はやはり厳しい。 「仲代と三船が酒を飲んでどんなケンカをやったか、宿が違っていたので知らないが、翌朝"蒸発"するなんて許せない。…」語気は激しい。(読売新聞) <映画界の話題をさらった大作騒動> 『トラ・トラ・トラ!』『御用金』『超高層のあけぼの』製作舞台裏 ハリウッド映画二十世紀フォックス『トラ・トラ・トラ!』この映画の日本篇製作の黒澤明監督が突然"解任"された。黒澤監督が素人俳優を使って撮影するということに、異を唱えるフォックス側が待ったをかけた大騒動だった。「日本のクロサワ」がノイローゼだという理由だけでクビになったのだから日本映画界にとってショックは大きかった。 それに三船敏郎の爆弾発言が更に輪をかけ騒動が益々大きくなった。 三船は『御用金』ロケから無断で帰京した。原因は彼の酒乱がもとで起こったと言われている。ロケ地の旅館で「何が面白くないのか酔っ払ってわめいていた」「酔って仲代と喧嘩したらしい」(スタッフ)ほどの荒れ具合だったがロケ三日目の朝、病気を理由に突然帰京してしまった。 三船は"胃潰瘍ビラン"で入院し『御用金』を降板すると言い出した。 そのままおとなしくしていれば事は収まった筈だが、出演に耐えられない筈の"病人"が三船プロ製作の『風林火山』の特別試写会に姿を現わしパーティの途中で爆弾発言をしてしまった。それは、ちまたで噂に上っていた黒澤監督解任後の山本五十六役出演について、三船個人としての出演ではなく『トラ・トラ・トラ!』の日本側製作を三船プロで受ける意向があるといった発言だった。 この三船の発言はまさに台風の目となった。彼の行くところ、喋るところ大騒動となって、黒澤監督までとばっちりを受けるはめになったという。 一方の『御用金』関係者としても見過ごすわけにはいかなくなった。 つまり『御用金』を病気理由で降りた三船が『トラ・トラ・トラ!』製作を引きうけるとは何事かとフジテレビ・東京映画・東宝が怒ったり慌てたり。 結局、様々な経緯を経て三船の出演を断念、錦之助を代役に立てた。 一方の『トラ・トラ・トラ!』は黒澤監督の後を舛田利雄・深作欣二両監督の共同演出で再スタートすることになった。また『超高層のあけぼの』の監督交代劇も見逃せない。 この作品は日本初の超高層・霞ヶ関36階ビル建築に関わる『プロジェクトX』の元祖のような映画だったが、監督の意図する撮影方法が認められないのでは監督の良心が許さないとして工藤英一監督が辞任してしまった。これらの騒動は、これまで慣例となっていた日本映画界の"契約"に対する曖昧さ・甘えが大きな原因となっている。 と指摘されるに至った。(近代映画記事より一部抜粋させて頂いた) 『御用金』について、実際はとっくにネタバレなのに建前通りの「三船敏郎が病気で途中降板、錦之助が代役となったのが話題になった・・」といった記事もあり笑ってしまった。 さてこういった騒動と話題を巻き起こしながら公開の運びとなった『御用金』だが、当時の映画評について一部記載しておく <ロマンの香気欠く> 娯楽映画としては水準以上の出来映えだが、同じ五社英雄演出のテレビ映画『三匹の侍』のイメージをぬぐいきれない。(中略)孫兵衛と幕府隠密左門の人間関係が余りに出来過ぎていて左門の正体などすぐに見え透いてしまう。脚本の発想が平凡だ。左門は最初三船敏郎の予定が途中で錦之助に代った。そのせいか仲代と錦之助の演技性格がうまくかみ合わないところにも問題がある…お色気場面、アクション場面と見せ場には事欠かない面白さはあるが、新しいロマンの香気は乏しい。(滝沢一評) <精力的な五社演出> <荒いシナリオ構成> なによりも五社英雄監督の精力的な演出に注目したい。ときにはぎこちないカットの切り返しも目に付くが、総じて気迫のこもったタッチであり、特に殺陣場面の演出は優れている。チャンバラ時代劇の楽しさを再現しようとする五社監督の意欲は大いに買われていい。 (中略)漁民を守る髭面の剣豪(仲代)の人物の描き方は型どおり過ぎて案外面白みはうすく、彼に協力する謎の浪人(錦之助)の設定も少々ありきたりといえる。 中心人物三人の中で最も興味深いのは家老の扱い方。… 娯楽時代劇としては水準以上の出来映えだがシナリオ構成は相当荒っぽい。それがこの映画の弱点といえるだろう。(深沢哲也評) 公開上映されたのが69年だから、既に35年も経過していることになる。 案外単純な物語構成だがスピードとテンポの歯切れよいストーリーとなっているため、改めて観ても違和感もなく楽しめる作品である。 この映画作品について今更あれこれ感想を述べることはやめておきたい。 とは言うものの、ただ関連記事を抜粋して記すだけでは面白くない。 改めてこの『御用金』を観て気付いた点を少しだけ触れてみよう。 新たな発見その1 越前鯖井藩領黒崎村の漁民二十数名、一夜のうちに消失す。領民どもこれを神隠しと称して恐怖す。奇ッ怪なる出来事なり。(古記録) これは当時の特別試写会の招待券にある記載文である。冒頭のパンフ記載とどこか違っている。お分かり頂けたであろうか。そう、修三もはじめて気付いた。 そこで当時の新聞記事を読み漁って見た。ある記事では鯖江藩、ある記事では鯖井藩となっている。どちらが正しいのか。「鯖江藩」と「鯖井藩」 時間と興味のある方は調べてみるのも如何かな。(映画と当時のパンフレットは鯖井藩である) 発見その2 二人の水戸黄門さん出演 東野英治郎と西村晃さんのお二人 この窮乏の藩財政も葵のご紋で解決と言う訳には行かないものだね。 発見その3 丹波哲郎扮する家老帯刀の、藩財政建て直しのためには領民の皆殺しもやむ得ないという為政者側の論理とその行動・決断にこの物語の存在感を示している。 むしろ主役の仲代や錦之助の「動」のダイナミックな役柄より、敵役丹波の「静」の存在感の方が光っているように改めて感じた。 「大の虫を生かすためには小の虫を抹殺せねばならぬ」 「藩を救うためならお主と交わしたこんな約束何度でも破ってみせる」 それは過去から現在に至るまで"体制側の声"として現実に脈打ってきた事実がその重みを醸し出すからである。その力は薄っぺらな"ヒロイズム"をいとも簡単に撥ね返す。 修三が面白いと思うのは夏八木勲扮する帯刀の腹心である高力九内である。一見ありきたりの役柄設定のように思えるが、上司に取り立てて貰った恩義と忠誠、そして藩のため上司のためには、自分の手を汚すことは厭わない。そして孫兵衛の暗殺に血なまこになる姿。そこには、上司の妹で孫兵衛の妻しのへの密かな恋慕の情があったのではと思わせる死に際の一言「しの殿・・」。このワンシーンは妙に印象に残っていたことを思い出した。 こういった為政者の命を受けた現場指揮官が手を汚し血を流しかつまた泥を被って「歴史」を作ってきたということを連想させられた。 いわば政府高官が歴史の暗部を墓場まで持ち込んでいくようなことをである。 幕府と藩が、中央政府と地方に変わっても、同様の出来事は枚挙にいとまがない。 現代にもこんな帯刀や九内のような人物に思い当たる出来事がここそこにある。 この作品は娯楽として楽しめばと思いながら、現代社会の現況とオーバーラップして思うはどうしたことか。 “大の虫生かすための小の虫殺し”これは決してドラマの中の絵空事ではない。 そんな感じがした。 |
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