上映作品:源氏九郎颯爽記 秘剣揚羽の蝶
2003.12.06-12
12月6日(土) 暫く振りで中野武蔵野ホールの錦ちゃん映画を観てきた。
『秘剣揚羽の蝶』は錦之助の源氏九郎シリーズ3作品の中で、私が最も気に入っている作品である。『濡れ髪二刀流』『白弧二刀流』の2作品は加藤泰監督であるが、この作品は伊藤大輔監督となっている。

この原作は柴田錬三郎である。柴錬物(シバレンもの)といえば、直ぐ市川雷蔵の『眠狂四郎』シリーズを思い起こしてしまうが、錦之助も幾つか柴錬作品に出ている。
■ 源氏九郎颯爽記 濡れ髪二刀流(昭和32年)
■ 源氏九郎颯爽記 白弧二刀流(昭和33年)
■ 剣は知っていた 紅顔無双流(昭和33年)
■ 美男城(昭和34年)
■ 源氏九郎颯爽記 秘剣揚羽の蝶(昭和37年)

私は柴田錬三郎の本を幾つか読んだことがあるが特に好みではない。
彼の作品の特徴はどういったら良いのだろうか。
時代劇小説として、エキゾチックな香りを漂わせるとでもいっておこうか。
阿片、媚薬、阿蘭陀、南蛮銃、ギャマン、バテレン、その時代としては一般には馴染みのない「異文化的な要素」をちりばめた話が多いと思う。
私の勝手な解釈で全くの的外れかも知れないがご容赦である。
主人公はどこかニヒルで世を拗ねて時代の潮流から一歩はみ出している。そしておよそ生活感がなく一体何して食っているんだいと言いたいぐらいである。そして更には、およそキザな気恥ずかしいセリフを述べて格好付けしているが、何故か高貴な血筋の日陰者?とか屈折した生い立ちといった具合である。
共通しているのは、中々の男前で女達がほって置かないということか。いささか羨ましい限りである。役者の演じ方によってはキザな嫌味が目立ったり、また歯の浮くようなセリフが似合わず浮き上がってしまうこともある。
流石に錦ちゃんは、それに流されずこなしているのはお見事といえる。
しかし、錦ちゃんにとって柴錬作品はどうかな…ちょっと違うような。そんな気がする。

さて、『秘剣揚羽の蝶』この作品はどう斬ったらよいだろうか。
話は源氏九郎よりむしろ彼を取り巻く女性達が興味深い。
共演女優陣の中でも一番の儲け役は北沢典子だ。彼女はこの頃、若手として売出中だった筈だ。北沢典子は錦之助作品、一心太助(『家光と彦左と一心太助』)の二代目・女房“お仲”を演じている。
同時にまたこの映画を初めて観たとき長谷川裕見子がこんな役(悪女)をやるようになったのかと驚いたことを覚えている。
彼女の錦ちゃんとのコンビで印象に残っているのは『恋風道中』だ。
この作品では大川恵子や桜町弘子を脇に従えて、長谷川裕見子が一番の“華”だった。東映チャンバラ王国のお姫様達も世代交代の波が押し寄せて来ているんだなと感じた瞬間だった。
この話のテーマを強いて一言で述べるとすれば、それは「女の操」とでも言おうか。
大川恵子扮する人身御供として将軍家に献上される公卿のお姫様が「我が純潔をそなたに」と迫る。
桜町弘子扮する家老の娘が、肌身を見られた(辱めを受けた)からには結婚するか自害するかしか生きる術はないと迫る。
現在の「女性の貞操観」とは隔世の感がある。
何れにせよ、いつも女性から迫られる源氏九郎である。
「この果報者!」そんな映画だ。

いずれにせよ、好い男がモテモテなのはいつの時代でも変らない普遍の道理である。
またこの作品で田中春夫と多々良純の競演も面白い。多々良純の方が役柄として得したかな。
この映画館に、とてもユニークなコスチュームの観客がおられた。派手な衣装と顔に仮面を付けていた。そのまま映画を見るのかと興味があったが、流石に上映中は仮面を外していた。また最後部の席に女性三人が観ておられた。多分に熱心な錦ちゃんファンの方だと思う。
そういった方と目が合うと自然に頭が下がった。

でんでん虫さまの感想
やっぱり映画は映画館の大きな画面で観ないと駄目だなあと今回ほど強く感じた事はありません。
ビデオでみた時は折角のタイトルバックの映像が暗くてよく見えませんでした。
それに大げさな台詞(女性陣の)や九郎のきざな台詞、伊藤大輔監督の大上段にかぶった演出も茶の間で観るとシラケテしまってあんまりいい映画とは思えませんでした。
だから中野に行くのも迷いました。
それにビデオはシネマスコープをテレビ用にカットしてあるのですね。
二枚目錦之助を見せる為に作られた映画だけあって綺麗でしたよ。
撮影が三木滋人、脚本、監督が伊藤大輔さんだけあって錦之助さんのいいところを知り尽くして撮っていった、という感じです。
お顔の綺麗なのは当たり前ですが薄暗がりの中、着流しの白い着物を着た錦之助さんの姿の美しさ、特に着流しは体の線がもろに出るのでごまかしがききません。眼の奥にその姿が焼きついています。茶の間では白けてしまう気障な台詞も気になりませんでした。
映画館の暗がりの中でどっぷりと映画の世界に浸る幸せを感じました。

錦之助さんの亡くなられた今、映画館で観られる映画が制限されてしまいますが、若い方や地方にお住まいの方達が少しでもスクリーンの錦之助さんに接する機会が増えますよう切に願っています。 
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2003.12.7・15ボードより ルポライター:松木修三/でんでん虫さま