【 後・聞かせて! 又市さん! 】






邪心、野心は闇に散り
残るは巷の、妖しい噂

妖怪、人の心の闇、魔物の数だけ悲しみがある
だから私は書き綴る、妖かし達の哀しい闇を……



それは、始まりだったのか
それは、終わりだったのか
あの人達と出会い、あの人達と過ごし、私の中で何かが終わり、何かが変わった
だから…、だから私は行かなければならない、又市さん達の居る北林へ
例えその先に、恐ろしい事が待っていようとも

そう意を決して北林の城へ行き、そこでこの世の地獄とも思える光景を見てしまい、恐ろしい目にも遭ってきた
なぜ助かったのか、よくわからない
怪我や火傷は負っていたものの、命に別状は無く、すぐに歩けるまでになった
でも………
江戸へ戻ってきてから京極亭を探したが、あるはずの場所には何も無く、そこはただの草むらだった

やがて、私は念願の百物語を開板し、妖しきものを筆で書く日々を過ごしていた
けれど、又市さん達と過ごしてきた時の、それ以上は書ける訳もなく…

私はもっと又市さん達と旅を続けたかった
何も、百物語を書きたいが為では無い
あの人達と…又市さんと、もっと一緒にいたかったのだ……

又市さん達とは、あれ以来、会っていない
元気でいるのか
どこで何をしているのか
こことは違う世界で、また誰かを仕掛けているのだろうか

あの人に会って、私の世界が変わった
知らないままで過ごしてきた闇の部分
そこに少しだけ足を突っ込んで、様々な人間の裏の面を見てきた
そして改めて感じたのは、表の世界の眩しさや力強さ
あの人は、私が今まで逃げてきた “生きる” ということそのものについて、正面から向き合わせてくれたのだ

だから……

だから、私は書き綴る
又市さん達との出会い
様々な仕掛けや御行されるに至った人の心の闇
そして、別れを……

書いていると、あの日々のことが鮮明に脳裏に浮かび上がってくる
怖い目に遭い、死にかけたこともあった
辛く、苦しい思いもたくさんした
けれど真っ先に思い浮かぶのは、口の端を上げただけのちょっと笑っているような又市さんの顔
何もかも見通している目は頭巾に隠れていることが多かったのに、見守られているのをいつも感じていた
普段は飄々としているのに、御行する瞬間はがらりと変わる
激しかったり、恐ろしかったり、達観したように無表情だったり
かと思えば、嬉しそうに甘味をつついているという意外な一面もあった

あの日々が、やけに輝いて見える
何も起こらない平和な今というものも、それなりに馴染んで過ごせているのだが
とにかく私は、あの人と一緒にいられることが、楽しかったのだ

少しくらい、昔日に浸っていてもいいだろう
こうやって、又市さんのことをひとつでも多く思い出そう
素っ気無い態度でいながら、いつも私を思っていてくれた、あの人のことを

結局、又市さんについては何も知らないまま別れてしまった
素性を知りたいと思わないことも無かった
でも、知っても知らなくても、私の思いは変わらない
大事なことを教えてくれた又市さん
私に、生きる意味を見出させてくれた、大切な人

あんなに一緒にいたのに、人物像を訊かれても、煙草を呑んで甘味好きだというくらいしか知らない
どんな本が好きなのか、嬉しいことは何なのか
そんなことを教えてもらえたなら、会話だってもっと弾んだかもしれないのに
…と、時折ふと、そう思ってしまうこともある

あの人は、私を思い出したりすることなどあるのだろうか
私が書いた本を、読んでもらえる機会はやってくるだろうか

もっと話をしたかった
もっともっと、一緒に居たかった……

叶うことは無いかもしれないと、心のどこかで思ってしまう
けれど、願い続けるのは辞めない
万が一にも、あなたの声が聞こえたならば、私はすぐにでも飛んで行きたいのだから

そして、もしも再び逢えた時は、少しでいいですから、あなたのことを…
あなたのことを、聞かせて、又市さん……







切ない百介の気持ちをありがとうございました//
百介サイドからの気持ち…アニメシリーズでは皆の別れがやはりとても
哀しかったです(T◇T)。こんなに百介は又さんのことが大好きでしたのに…
昔日の思い出にひたる百介が切なくて色っぽい人になってゆくのは
又さんへの想いがきっと…

このシリーズ終わってしまうのが辛くてアップを引き延ばしまくりました(^^;
4コマの更新とリンクしようとしていたらズルズルと
でも巷説はいつまでも大好きな作品なので、ゆっくりこれからも更新して参りたいですv




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